2019.08.02インタビュー

資産運用業界の新たな事業プラットフォーム──本邦初「総合型ファンドアドミサービス」が常識を覆す

みずほ信託銀行と業務提携を行い、日本初の総合型ファンドアドミニストレーションサービスの提供を発表した日本資産運用基盤グループ。本サービスの企画・開発を担当してきたディレクターの村上俊と小松正宏が考える、背景にある問題意識や金融業界に与える影響とは何なのでしょう。

「国際金融都市・東京」構想を阻む非効率な事業モデル

▲ファンドアドミニストレーション事業責任者の村上(右)とディレクターの小松(左)

東京がニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界三大金融市場といわれたのは、だいぶ昔の話になりました。「失われた20年」といわれたバブル経済の崩壊とデフレの長期化という苦しい時代を経ているうちに、香港やシンガポールの後塵を拝することになってしまったのです。

2019年3月に発表された世界金融センター指数によると、1位のニューヨークからロンドン、香港、シンガポール、上海と続き、日本は第6位。「国際金融都市・東京」構想は、そんな現状を受け、世界の金融センターへの復権を目指して東京都が取り組んでいる一大プロジェクトです。

村上   「現在、東京都は『国際金融都市・東京』構想のなかで、とくに資産運用ビジネスを活性化させることを目指しています。海外のヘッジファンドが日本に進出しやすくする、あるいは日本国内で独立系資産運用会社を立ち上げやすくするための基盤ができれば、資産運用ビジネスが日本でも盛り上がる可能性があります」

しかし、資産運用会社の代表的な形態である投資信託運用会社に関して言えば、最近の新規参入は年間5社程度。これは東京の経済規模で考えると、あまりにも少な過ぎます。では、どうして資産運用ビジネスの新規参入が少ないのでしょうか。

小松   「資産運用ビジネスの新規参入が少ないのは、事業モデルそのものが重いからです。コンプライアンスやミドルバックオフィス業務を担う専門人材を確保しなければならず、投資信託の基準価額を計算するシステムを導入するにしても数億円という資金が必要になります。

これでは、すばらしい投資運用の専門性を持っていて、それをサービスとして提供するために新たに資産運用会社を立ち上げようとしても、参入障壁が高く、それを乗り越えるのは極めて困難です。いくら『国際金融都市・東京』構想の旗を振り回しても、ただの画に描いた餅で終わってしまいます」

見えてきた課題は、ビジネスを醸成していくのに十分な土台づくりでした。

資産運用ビジネス基盤としての革新性

▲みずほ信託銀行や東京都とのパートナーシップを通じ、効率的・効果的なサービス提供を行う

日本資産運用基盤が今回発表した「総合型ファンドアドミニストレーションサービス」は、資産運用会社がこれまで自社で対応しなければならなかった金融商品取引業者としての当局登録から、コンプライアンス・リスク管理、投資信託の基準価額の算出、目論見書や運用報告書の作成などの事務を、一括で引き受けるというものです。

このサービスがスタートしたことによって、資産運用会社を立ち上げるためのハードルが、一気に下がりました。

村上   「資産運用会社を立ち上げるためには、最初に事業計画を練り、専門人材の確保、オフィス探し、金融商品取引業の登録を経て事業をスタートさせ、その事業を拡大していかなければなりません。とくに、金融商品取引業の登録を行うまでに、コンプライアンス担当者を中心として人材を確保するのが非常に困難という問題があります」

専門人材が確保できなければ、人的構成要件が充足できないという理由で金融商品取引業の登録ができません。どうにかそのハードルを乗り越えて登録ができたとしても、運用事業を継続していくためには、ミドルバックオフィスの人件費負担や内部管理体制の確立、各種システム投資などに莫大な資金が必要になります。

小松   「私たちがみずほ信託銀行と組んで提供するサービスは、コンプライアンス対応やその他のミドルバックオフィス業務について、これまで資産運用会社が自前で対応しなければならなかった部分を一括して受託するという、国内初の取り組みになります」

このサービスを用いることで、新興の投資信託運用会社は、専門人材を自前ですべて採用したり、投資信託管理のシステムを購入したりする必要がなく、その事業モデルや投資運用戦略、利用サービスオプション等に応じ、月額課金ベースでそれらの機能を利用することが可能になるのです。

同サービスの利用にかかる費用は、運用額が一定額に達するまでは定額で使い放題にするサブスクリプション形式になっています。

新興の資産運用会社にとって、ミドルバックの要員確保、投信計理システムの購入や保守・運用は大きな参入障壁になっていただけに、このサービスの登場によって、新興の運用会社参入が活性化されることが期待されます。

IFA事業プラットフォームとしての展開・拡大も

▲総合型サービスの一部として金商業登録やコンプライアンス業務支援等を担うコンプライアンスチーム

投資信託運用会社の立上げや事業運営のハードルが下がることによって、これまでにない革新的な資産運用サービスが誕生することも期待されます。その一例が、IFA(独立系金融アドバイザー)による新たなサービスの提供。

単に投資信託という資産運用商品を開発・運用する資産運用会社と異なり、IFA等のアドバイザー事業者は、個人のお客様に対し、資産計画の策定や運用商品の提案、目標達成までのフォローなど、総合的な資産運用サービスを行っています。

ですが、現在の法律的な枠組みにおいては、IFA事業者は売買手数料を基礎とした事業モデルに偏りがちになり、お客様とIFA事業者の双方にメリットのある残高に応じた手数料体系の事業モデルでの経営が難しいという問題があるのです。

小松    「本来であれば、手数料が残高に応じた体系となるような事業プラットフォームの利用を通じ、中小規模の IFA事業者も無理なく事業モデルの転換ができるのが理想なのですが、残念ながら日本では現在そのような事業プラットフォームはほとんどありません。それを変えなくてはならないなと感じたのです」

村上   「今回の『総合型ファンドアドミニストレーションサービス』を活用していただくことで、 IFA事業者が投資信託運用会社となり、すべてのアドバイザーサービスの対価を投資信託の運用報酬という形で徴収するスキームが可能となります。すなわち、総合的な資産運用サービスの提供を、投資信託というビークルを通じ、お客様と IFA事業者の双方にとってメリットがある形で行うことができるようになります」

このサービスに対する反響はすでに現れています。複数の中堅IFA事業者から利用希望のお問合わせがあり、今後この総合型ファンドアドミニストレーションサービスが、日本の個人向けIFA事業者の事業プラットフォームとしても展開、普及していくのではないかという手応えを、ふたりは感じているのです。

「基準価額計算の一元化」も視野に

日本資産運用基盤は、現在のサービス内容に満足することなく、資産運用ビジネスの更なる効率化を目指し、今後も継続的なサービス改善・拡充を行っていく方針です。

村上   「私たちが目指す目標のひとつに、『投資信託の基準価額計算の一元化』があります。投資信託運用会社と受託銀行の 2カ所で基準価額の計算作業を重複して行うという数十年にわたる不思議な慣行を打破し、受託銀行のみでの計算に集約するというロードマップを策定しているのです。

これが達成されれば、これまで二重に発生していた事務部門の人件費やシステム関連費などが大きく削減でき、資産運用会社の利益率の向上や、ひいては投資家の負担するコストの更なる低減が期待されます。目立たないことですが、非常に重要なことであり、みずほ信託銀行と連携し、必ず達成する決意です」

小松   「また、今回のサービスは主に国内籍の投資信託ビークルに焦点をあてたものですが、資産運用会社によっては、外国籍の投資信託ビークルを活用したいという希望や、投資家に直接販売するための機能やシステムも持ちたいという意向もあります。そのようなミドルバックオフィス事務等の外部受託にも対応できるよう、今後も引き続き様々なパートナー金融機関と連携し、サービスの拡充を図ってまいります」

日本資産運用基盤株式会社は、金融事業支援プラットフォームとして、これから新たな展開が期待される個人向け資産運用ビジネス事業立ち上げや運営を支援することを通じ、様々な金融事業者が効率的に質の高いサービスを提供できるような態勢を整備したい。

そして最終的には顧客である一般生活者の長期的利益に資するような環境構築をサポートする存在でありたいと考えています。