2020.12.23インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達 No.15】 マネーブレイン株式会社 代表取締役 白石定之氏 「投資運用付加価値の提供に特化した金融事業者としての矜持」

白石定之氏(マネーブレイン株式会社 代表取締役)

聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)

資産運用アドバイスに対する関心が高まりつつあるなか、その担い手のひとつであるIFA事業者の多くは、どこに自社の独自性を打ち出すかで苦労しているように見受けられます。今回お話をお聞きしたマネーブレイン株式会社は、その独自性を「投資運用」付加価値の提供に求めました。マネーブレイン株式会社代表取締役の白石定之氏に、なぜ「投資運用」付加価値の提供に特化したのか、どのようなビジネスモデルを考えているのかなどについて伺いました。

中学3年生から個人投資家に

大原  マネーブレイン株式会社は、IFA事業者(金融商品仲介業者)として、また、投資助言業者として、個人のお客様向けのアドバイスの提供を事業とされていますが、白石さんご自身は個人投資家としてのキャリアも長いと伺っております。その辺も含めて、これまでのキャリアや、なぜIFAの道を選ばれたのかなどについて教えて下さい。

白石  株式投資は中学生の頃から始めました。父親から「300万円の資金を用意するから自分で運用して大学に行くか、親のすねをかじって大学に行くか決めろ」と言われて始めたのがきっかけです。中学3年生から投資を始めて高校の3年間は、ずっと日経新聞を読み、ラジオ日経を聴いていました。最初に投資したのは富士通、島津製作所、大倉電気の3銘柄です。

大学が理系だったので、就職先は大企業で安定しているからという理由で日立製作所に入りました。ただ、日立に入って何がしたいのかというのが特に無くて、当時の感覚としては、このまま定年まで勤めても大して出世はしないな、と思うようになりました。

日立に入って5年目の時、たまたまベンチャー企業の社員の人と話す機会があったのですが、話している相手の目が本当に輝いているのです。彼が、自身の勤めている会社の素晴らしさや、社長の魅力を滔々と語っていたのを見て、このまま勤め続けて定年を迎えた時、果たして自分は何も後悔しないだろうかと自問したのです。日立製作所に入りながらも、やはり証券会社で働きたいという気持ちが強かったので、野村證券のファイナンシャルアドバイザー採用試験を受けました。その時は、野村證券から内定をいただく前に日立製作所を辞めて、不退転の決意で臨みました。

大原  念願の証券会社に入社することができたのに、そこを辞めた理由は何だったのですか。

白石  正直なところを申し上げますと、証券会社の収益目標の立て方が、私の営業スタイルに合わなかったということですね。私はタイミングの良いところでお客様にご提案を差し上げるというスタイルなのですが、やはり組織である以上、年間の収益目標を定めた後、半期目標、四半期目標、月次目標というように設定していきますから、常にいつでもコンスタントに収益目標を達成することが求められます。

でも、私のスタイルだとタイミングが合えば収益が上がるのですが、そうでない時は収益があまり上がらない状態になります。

しかも、ファイナンシャルアドバイザー職で入社していたため、個々人が自分の自己裁量で自由度高く働けるものと思っていたのですが、実際には違いました。やはり組織である以上、ファイナンシャルアドバイザー職といえども好き勝手に動くことは許されなかったのです。今にして思えば当然のことでしたが、私は、お客様のために自分が本当に良いと思うものをご提案したいという思いが強すぎるくらいありましたから、仕事に就いて3年目には、上司から会社を辞めた方が良いと言われるようになってしまいました。

資産運用がうまくいく人といかない人の違い

大原  白石さんは株式投資に関してはかなり長い経験をお持ちでしたが、それは実際の営業の現場で生かされましたか?

白石  日立製作所に勤務していた時も株式投資をしていたので、野村證券に転職した時にはすでに10年を超える投資経験を持っていたわけですが、その経験があったので自分なりの相場観を話しながら営業するというスタイルでした。

ファイナンシャルアドバイザー職の前身は証券ミディと呼ばれていた女性の営業組織で、その人たちもファイナンシャルアドバイザーとなって一緒に活動していたのですが、私は元証券ミディの人たちに知識では負けないという思いを持っていました。そうであるにも関わらず、元証券ミディの人たちは、お客様と世間話をして、全体のうちの1割程度で投資運用の話をするだけで約定が決まります。その時は、自分の方が知識はあるはずなのになどと、内心忸怩たる思いもあったのですが、当時28歳だった私が自分の相場観を語ると、恐らく親と同じような年齢のお客様からすれば生意気に映ったのだと思います。

そういうこともあり、入社して3年半が経過した頃には、自分の相場観は一旦横に置いといて、とにかくお客様の声を聞くようにしました。この切り替えによって自分自身のステージが大きく変わった気がしました。

ただ、2011年にマーケットがどん底だった時、会社の収益が厳しくなり、営業の現場に対する圧力が強まりました。でも、収益のために働いているのではない、この状態のなかで定年まで働くことは考えられないという思いから、思い切って辞めることにしたのです。

大原  今はIFA事業者の経営者兼アドバイザーとして活躍していらっしゃいますが、投資運用のアドバイスをするにあたってどのような点に留意していますか。

白石  自分が個人投資家として株式投資をするようになって34年目なのですが、その経験と、さまざまなお客様を見て思うのは、投資運用がうまくいく人といかない人では、決定的な違いがあることに気付きました。

それは、状況に一喜一憂しない人ほど投資運用が上手くいくということです。これはノウハウやテクニック以前の問題で、儲かった、損したで一喜一憂する人は、どのようなやり方をしてもなかなか投資運用では成功しません。

今は日経平均株価に連動するETFを用いた投資運用アドバイスを行っているのですが、2つの要素でポジションを決めるようにしています。それは業績面から見て今が割高なのか割安なのか、投資家心理が楽観的か悲観的かということです。業績面が割安、投資家心理が悲観的なら絶好の買いポジションですし、業績面が割高、投資家心理が楽観的ならキャッシュポジションを引き上げていきます。

また買い始めたところでさらに下がっていく時は、段階的に買っていきます。買っても下がるので投資家としては苦しい局面ですが、その恐怖と向き合って一歩踏み込んだ先に成果があると考えています。

基本的な仕組みとしては、安くなったら段階的に買う、高くなったら段階的に売るということを繰り返していくので、中長期的には資産を持ち上げていくことができると考えています。

「金融商品仲介業+投資助言業」で新たなビジネスを切り開く

大原  今、アドバイザーは何名いらっしゃって、その人たちも皆、白石さんと同じロジックで投資運用アドバイスを行っているのですか。

白石  現在、6名のアドバイザーが所属しているのですが、うち3名は業務委託契約で、この3名については情報共有こそしているものの、お客様へのアドバイスの方法などについては一切、強制していません。各人が自由に活動しています。ただ社員として弊社と雇用契約を結んでいる2名は、私も含めて今、申し上げた方法を基本に投資運用アドバイスを行っています。

大原  金融商品仲介業者であるのと同時に、投資助言業のライセンスも取っていらっしゃいますが、それはなぜですか。

白石  私は中学3年生の時からの経験で個別株投資が好きで、特にバリュー投資を推していて、バリュー投資を世の中に広めたいと思っていました。

ただ、金融商品仲介業のライセンスだけだと、たとえばバリュー投資のセミナーを開きたいと思っても、ライセンスの関係で無料セミナーしか開催できません。そこもしっかりビジネスとして成立させたいので、投資助言業の登録も行いました。

投資助言業の登録をしておけば、個別銘柄や売買タイミングについても話せるようになります。2017年に登録して、実際にバリュー投資セミナーをスタートさせたのはその翌年、2018年からになります。

現在、弊社に所属する1人は、私が開いたバリュー投資セミナーを聞きにきていた人です。

大原  金融商品仲介業と投資助言業という2つのライセンスを取得するのはハードルが高くありませんでしたか。

白石  そうですね。金融商品仲介業と投資助言業とで利益相反が生じないようにするために、部屋を分けてネットワークもつながない形で申請をしましたが、関東財務局から「でも、あなたは一緒で分けられないでしょ」と言われたときは、正直困りました。

実際、部屋やネットワークを分けるとしても、私が両方のビジネスを見る形になるので、財務局としては、助言業で買いを勧めておきながら、仲介業で売りを勧めるといったことを懸念していたようです。

この懸念を払しょくしてもらうため、最終的には両者をきっちり分けて業務を行っていることを、第三者にチェックしてもらえば良いと考え、顧問弁護士を雇って、金融商品仲介業と投資助言業とで利益相反にならないよう監視してもらう体制を作りました。

こうして財務局の了承を得られたのですが、ここまでくるのに10か月くらいかかりました。

「投資運用」付加価値の抵抗に特化した金融事業者を目指す

大原  現在は投資助言業のライセンスを用いてどのようなビジネスを展開しているのですか。

白石  当初考えたバリュー投資セミナーは思ったよりも集客が難しくて、結局はビジネス化できずに今日に至っているのですが、投資助言業のライセンスを活用することによって、自分たちが考える日経平均ETFのモデルポートフォリオを、弊社のサイトを通じて公開できます。

大原  お客様に投資運用付加価値を提供するのであれば、投資助言業以外に投資一任業や投資信託といったスキームも考えられますが、そこはどうですか。

白石  将来的には投資一任や投資信託の機能を持ちたいと考えています。

投資助言業の場合、お客様に銘柄や売買タイミングを伝えることは出来ても、最終的な売買判断はお客様に委ねられます。売買の指示をメールで出すのですが、お客様がそれに沿って実際に売買するかどうかは、弊社ではわかりません。

あるいは弊社で情報だけを取って、実際には他の証券会社などで注文を出すケースも考えられます。そういった点をすっきりさせるためにも、投資一任業や投資信託でスキームを組めるようにしたいという気持ちはあります。

大原  当初、バリュー株投資を広めようとしていたのが、今は日経平均ETFを用いた運用を勧めていらっしゃいます。この間にはどのような変遷があったのでしょうか。

白石  バリュー株投資でピックアップしていた銘柄は大半が中小型株でした。この手の銘柄は市場での流動性が低いため、お客様が増えると、お客様の注文で株価が大きく上下に動く恐れがあります。マーケットインパクトが大きすぎるのです。お客様が増えると身動きが取れないというのでは、そもそもビジネスになりません。そこで発想を変えて、日経平均株価という流動性の高い投資対象を用いて、さまざまなシミュレーションを行ったところ、先ほど私が申し上げたような売買手法で、ブレを抑えながら十分なリターンが実現することが分かりました。日経平均株価を対象にしたETFなら、それこそ運用資産が1,000億円になったとしても、マーケットインパクトは最小限で済みます。そういうことで、日経平均ETFを軸にした投資助言をメインにしているのです。

大原  投資運用に関するアドバイスはあくまでも一部であって、他に事業承継や保険など幅広く取り扱うIFA事業者が多いと思うのですが、御社はあくまでも投資運用に特化しているのですか。

白石  そうですね。基本的に投資運用に関するアドバイスに特化しています。保険業などを兼業したとしても、やはり餅屋は餅屋で、私たちが保険のプロに敵うとは思いません。浅く広くよりも、やはり得意分野について深く理解している方がお客様のためだと思います。そういう観点で、私たちは投資運用に特化した金融事業者を目指していきますし、もしお客様が保険のお悩みを持っていて、その相談を受けた場合は、私たちが信頼できる保険のプロフェッショナルにつないで対応していきたいと思います。

大原  ありがとうございました。

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