2022.01.01お知らせ

年頭所感

 2022年の新春を迎えるに当たり、我が国の金融業界が経験している大きな業界構造転換について、私の所感を申し述べ、年頭のご挨拶に代えさせていただきます。

 弊社・日本資産運用基盤グループは、「金融ビジネスの最適化」をミッションに掲げ、金融業界な構造的な非効率性を解決するための事業プラットフォームの運営を行っていますが、昨年は様々な業態の金融機関がその構造的な非効率性に腰を据えて取り組むため、従来の事業モデルや慣行等をゼロベースで見直し、新たな展開へ舵を切る具体的な行動に出た1年であったように感じています。

 まず、証券・資産運用業界においては、事業利潤の消失という未曽有のパラダイムシフトを受け、従来型のリテール金融事業モデルを脱却しようとする動きが各所で見られました。若年層がオンライン証券会社で低コスト投信を用いた積立て投資を積極的に行う等の流れが強まってはいることは社会的意義としては高く評価されるべきであるものの、それを資産運用ビジネスとしてとらえた場合、中長期的な利益率の低下は避けられず、従来型事業モデルに依存したままでは持続的な事業拡大が見込めないという危機感がコンセンサスとして共有されつつあります。

 結果、投資信託の運用・販売に注力してきたリテール金融機関がより総合的なサービス付加価値工程に踏み込むよう、投資一任スキームを基軸とした新たな事業モデルの構築に乗り出す動きが多くみられました。この動きは、自らを投資一任機能提供プラットフォームと定義し、顧客への資産運用計画の提案やアフターフォロー等のアドバイス工程を外部の地域銀行や保険代理店、IFA等に委託するというプラットフォーム競争に転じ、この競争は更に激化していくことは間違いありません。10年後に振り返った時、リテール金融業界の勢力図が大きく変化したのは2022年だったと位置づけられる大きな転換の1年になるように予想しています。

 また、地域銀行を巡っても、合併・経営統合等による「再編A」によって現状からの脱却を図る動きも見られるものの、それに留まらず、より能動的に「地域銀行とは何なのか」という存在意義(パーパス)を定義し直し、それに基づいて行動に移すという動きも顕在化してきたように感じています。例えば、地域銀行が持ち株会社を通じたグループ会社経営に移行し、そのグループ内に銀行のみならず、他業態の金融機関や非金融事業会社までも保有し、自らが当該地域でこれまで培ってきた実績や強み等を武器に、新たな付加価値を創出しようとする取り組みが見られます。明治時代初期に見られた「武士の商法」と揶揄する見方もあることは承知していますが、地域経済・金融を活性化する基盤として、地域銀行の新たな展開に個人的には大きな期待を持っています。

 一方、地域銀行が自行グループ内で付加価値機能を持つことに加え、他業態の金融機関や非金融事業会社と連携し、新たな付加価値を創出する「再編B」の動きも加速していくと予想しています。新生銀行のTOBを成功させたSBIホールディングスによる地域銀行連合構想をはじめ、上述の通り、リテール金融領域での証券・資産運用会社と地域銀行との提携はプラットフォームによる「陣取り合戦」の様相を呈しつつ、更に激化していくでしょう。非金融事業への取組みについても、地域銀行は当該地域での顧客基盤や信頼等の優位性は有するものの、事業そのものには知見が無い場合には、外部の事業会社と連携し、効率的な事業構築・運営を目指すことが望ましいと思われ、こうした外部連携も進んでいくことを予想しています。

 「国際金融都市構想」の実現を目指す各種取り組みも、金融業界の非効率性を解消し、我が国の金融業界が産業として経済成長をけん引するために、引き続き重要と考えます。海外金融機関の日本進出や新興資産運用会社の創業支援等、金融庁や地方公共団体等の施策が動き出し、少しずつ実績として表れつつあることは着実な進捗として評価されるべきだと考えます。この動きが東京においてのみならず、大阪や福岡等、他の大都市にも広がっていることも日本の金融業界の活性化という視点では素晴らしいことだと思います。それぞれの都市が独自の強みや特徴を活かし、互いに切磋琢磨しつつ、将来的に日本が複数の国際金融都市を有する状況になるというビジョンを描く新たな段階に入ったように感じています。

 個人的には、「国際金融都市構想」の文脈で東京証券取引所の株式市場運営の効率化が結び付けられて議論されることに違和感はありますが、そこでの議論や取組みが我が国の金融機能の高度化につながることは間違いなく、市場区分の再編や取引時間延長、SPAC(特別買収目的会社)制度導入の検討、IPO時の公募価格決定プロセスに係る議論等、従来の慣行もゼロベースで見直し、金融機能の効率化・高度化に取り組もうとする前向きな動きは心強く感じます。2022年はこれら取組みや議論が具体的になっていく年であり、その進捗を興味深く観察したいと考えています。

 今年2022年は、様々な業態の金融機関がこのように従来型事業モデルや慣行からの脱却を進める動きが様々な場面でさらに具体化し、業界全体を飲み込んでいくことを予想しています。既存の金融機関の事業提携や統廃合等を通じた再編も進み、今後10‐20年の金融業界の勢力図を決定づける重要な1年となることは間違いないように思われます。そこでの鍵は「ビジョン」と「スピード」となります。丁寧な検討・議論で安定性を担保してきた金融機関の多くにとって、これら競争要素を前面に出した経営のかじ取りは容易ではないかもしれませんが、それができなければ生き残りすら叶わない環境です。いまほど金融機関の経営陣の手腕が試される厳しい局面はこれまでなかったように思います。

 弊社は、引き続き金融業界の事業プラットフォームとして、非効率性を克服し、事業モデルの改革に取り組む金融機関に対して、ソリューションを提供してまいりたいと存じます。

 本年も何卒一層のご支援、ご指導を賜りますようお願い申し上げます。

2022年1月1日

株式会社日本資産運用基盤グループ 

代表取締役社長   大原啓一