2023.01.01お知らせ

年頭のご挨拶

 

 2023年の新春を迎えるに当たり、我が国の金融業界が経験している大きな業界構造転換について、私の所感を申し述べ、年頭のご挨拶に代えさせていただきます。

 弊社・日本資産運用基盤グループは、「金融ビジネスの最適化」をミッションに掲げ、金融業界の構造的な非効率性を解決するための資産運用事業支援プラットフォームの運営を行っていますが、過去数年の業界構造転換のなか、昨年も様々な業態の金融機関が従来の事業モデルや慣行等をゼロベースで見直し、新たな事業モデルの構築・運営に向けて具体的なアクションを進めた1年であったように感じています。

 証券・資産運用業界においては、仕組債の販売や投資信託の設定等を繰り返す従来型事業モデルの行き詰まりを認識し、個人生活者をはじめとする顧客投資家に商品・サービス便益を享受して頂くために各関係金融機関が何をミッションとすべきなのか、そのミッションはそれぞれのパーパス(企業の存在意義)に整合的なのかということを整理し直し、その結果として新たな事業モデルの構築と移行等をする動きが進みつつあります。例えば、一部の証券会社や資産運用会社が、ゴールベースアプローチ型の資産運用アドバイスを新たなサービス及び事業として構築すべく、ゴールベースアプローチ型ファンドラップ事業の立上げを行ない、地域銀行や信用金庫、保険代理店、IFA等の外部アドバイザー機関と連携する動きが見られます。このような動きはまだ端緒についたばかりですが、2023年に大きく広がるであろうエネルギーを強く感じます。

 地域銀行業界においても、預貸業務を基盤とする従来型の銀行事業モデル運営が限界であるというコンセンサスのもと、これまでの地域銀行業界の流れの延長線上では考えられないようなアクションが進んでいます。例えば、大手地域銀行が単独で持ち株会社構造に転換し、そのグループ内に銀行以外の金融・非金融事業会社を持ち、地域に根差した事業の多角化に打って出たり、これまではタブーとされてきた同一県内の地域銀行同士の合併が実現したり、勘定系システムの共同運営の勢力図が大きく動く決定がなされたり等、「地域銀行は横並びで意思決定が遅い」という見方を覆すような抜本的な意思決定がスピード感を持って行われていることは、今後の中期的な金融業界の動きを予想するうえで、確固たるひとつの流れとしてとらえるべきだと考えます。我が国の金融業界の構造改革は地域銀行が動き出してからが本番だと弊社は考えておりますが、いよいよその動きが本格的になってきたように思います。

 また、金融庁や日本銀行等の政策当局も同様に、従来の流れを断ち切るような新たな政策を打ち出し、それが金融・資産運用業界を大いに驚かせるとともに、金融機関の事業モデルの転換の動きを後押しするような道すじが整えられたように思われることも、2022年を振り返るにあたっては特筆すべきことであると考えます。

 2022年に金融庁が行なった各種アクションは、証券・資産運用業界や地域銀行業界を揺るがし、そこでの今後の事業モデルのあり方に対して大きな影響を及ぼしたように感じています。例えば、地域銀行グループ等が個人顧客に販売する仕組債等の金融商品について、これまででは考えられないほど強いトーンで販売の再考を求めたり、ESG投信の設定・運用・販売を始めとし、資産運用会社等の事業モデルにおける各種ガバナンスのあり方にも警鐘を鳴らしたり、顧客本位の業務運営のあり方についても、従来のプリンシプルベースを基本とする姿勢を転じ、一部をルール化するとするなど、従来に比べてもかなり踏み込んだものとなりました。こうした金融庁の強いアクションについては賛否両論が聞かれますが、多くの地域銀行グループが個人顧客向けの仕組債販売を取りやめる等、事業戦略に対して直接的な影響を及ぼし、事業モデルの転換を加速させていることは間違いないように思います。

 金融庁よりも高いレベルでの政策判断としても、岸田政権が「資産所得倍増計画」を打ち出し、その政策のひとつとしてNISAの拡充と恒久化を決定したことも、我が国の今後の金融業界のあり方にポジティブな効果をもたらすと予想されます。数年前の「老後2,000万円問題」やその後のコロナ禍、今年に入ってからの株式相場の下落や為替相場の変動、インフレ懸念等もあり、家計が将来に不安を感じ、資産形成・運用に取り組まなければならないという問題意識が高まっているように感じますが、今回のNISAの拡充や恒久化、それ以外の金融教育の充実等の諸政策は、いよいよ資産運用ビジネスが日本でも本格的に離陸することを予感させるものであるように感じます。

 一方、日本銀行が年末ギリギリになって行った「金融緩和政策の転換」の判断も、今後の金融業界の動向に新たな方向を指し示すものとなるでしょう。これまで長らくにわたって金利が存在しなかった日本では、地域銀行や信用金庫等の預貸業務を基盤とする事業モデルが成り立たなくさせたのみならず、その有価証券運用事業を高度化に振り向けざるを得ない状況をつくり、また、証券会社が株式等売買委託手数料を無料化するなか、他の収益源の可能性を小さくする等の様々な副作用が生じてきました。2023年からすぐに金利が復活する世界になることまでは予想しづらいですが、その方向へ向かう転換期に差し掛かっていると整理することは可能でしょう。

 今年2023年は、このような政策当局のアクションを受け、より流動的になる予測困難な事業環境のもと、従来型事業モデルや慣行からの脱却を進める動きが様々な場面でさらに具体化し、業界全体を飲み込んでいくことを予想しています。ここ数年は毎年同じことを申し上げており恐縮ですが、既存の金融機関の事業提携や統廃合等を通じた再編も進み、今後10‐20年の金融業界の勢力図を決定づける重要な1年となることは間違いないように思われます。そこでの鍵は「ビジョン」と「スピード」となります。丁寧な検討・議論で安定性を担保してきた金融機関の多くにとって、これら競争要素を前面に出した経営のかじ取りは容易ではないかもしれませんが、それができなければ生き残りすら叶わない環境です。いまほど金融機関の経営陣の手腕が試される厳しい局面はこれまでなかったように思います。

 弊社は、引き続き金融業界の資産運用事業支援プラットフォームとして、業界の非効率性を克服し、事業モデルの改革と成長に取り組む金融機関に対して、ソリューションを提供してまいります。

 本年も何卒一層のご支援、ご指導を賜りますようお願い申し上げます。

2023年1月1日

株式会社日本資産運用基盤グループ 

代表取締役社長   大原啓一