2018.12.04インタビュー

チームラボと挑む金融サービス改革――地域金融機関の本領発揮はこれからだ

金融専門性の遍在や硬直的な事業運営構造という、金融業界の構造的問題を解決し、金融ビジネス・サービスの活性化を目指す日本資産運用基盤株式会社。2018年11月22日に発表したウルトラテクノロジスト集団・チームラボとの協業の狙いについて、代表の大原啓一が語ります。

チームラボとの協業のきっかけ

▲様々なデジタルアートプロジェクトで注目を集めているチームラボは金融向けソリューションにも力を入れてはじめている

日本という枠を飛び越え、世界的にも爆発的な人気と注目を集めている異能集団「チームラボ」。デジタルアートというイメージが強いせいか、今回の日本資産運用基盤との協業については、金融業界内外から大きな反響を呼んでいます。実は今回の協業のきっかけは、1990年代後半にまでさかのぼります。

大原    「チームラボの創業メンバーの何人かが、私が学生時代に所属していた阿波踊りサークルの1年上の先輩で、みんなで徳島の阿波踊りに泊まりがけで参加しに行くなど、仲良くさせていただいていたんです。

ですので、在学中にチームラボが設立されたときも、『へー、格好いいな。イケイケだな』とか思っていた記憶があります。ただ、当時は自分とは関係ない理系の世界の話だと感じていたんです」

2007年に大原が仕事で英国に転居してからチームラボのメンバーとの交流もいったん途絶えましたが、日本に帰国してから再びサークルのOB会などで顔を合わせるようになったのです。そして、2017年ごろからは金融サービス関係のプロジェクトに関係して、色々と意見交換をするような関係にもなってきました。

大原    「 2015年にロンドンから帰国した時はビックリしました。すごく有名になってるし、社長の猪子寿之さんはテレビに出てるし。なんだこりゃ、みたいな(笑)。

そこからまたプライベートでの付き合いがゆるーく復活したのですが、最近になってお互いの金融サービス関係のプロジェクトについて情報交換をするようになったんです。

チームラボは、2018年春にリリースした大手銀行のスマホアプリが非常に好評で、様々な金融機関から問い合わせが殺到している状況にあります。

そんなこともあって、ユーザー目線で、徹底的に使いやすさを追求したユーザー・インターフェイス(UI)とユーザー・エクスペリエンス(UX)であれば、金融という世界でも彼らの付加価値を提供できるという手ごたえを感じはじめています。

一方、私たち日本資産運用基盤の側でも、地域金融機関がこれから個人向け資産運用ビジネスを大きく成長させるためには、顧客接点での高品質なUI・UXが欠かせないと考えています」

こうして、私たちは地域金融機関が個人向け資産運用ビジネスにおいて大きな飛躍ができるよう、協業することに至ったのです。

今回のチームラボとの協業に当たって、私たちはそもそも地域金融機関にどのような成長ポテンシャルを感じ、どのようなアプローチをしていけばいいと考えているのかをお伝えします。

地域金融機関が持つポテンシャルに注目

▲日本資産運用基盤代表の大原。チームラボの創業メンバーとは大学の阿波踊りサークル時代から約20年の付き合いになる

日本資産運用基盤は、首都圏の大手金融機関に遍在している高度金融専門性を、コンサルティングや人材派遣の形で地域金融機関に提供することを通じ、地域金融機関が持っている成長ポテンシャルを高めることを目指しています。

大原    「私は、地方銀行や信用金庫、信用組合といった地域金融機関が持っているポテンシャルに、かねてから注目してきました。

地域金融機関を取り巻く経営環境を見ると、超低金利が長期化していることなどを背景に、これまでメインだった貸出事業の収益性が悪化しており、多くの金融機関にとって個人役務事業が、自らのビジネスを維持し、成長させていくうえで重要になると考えています。

では、個人役務分野の事業環境はどうか。まず、一般生活者の将来のための資産計画において、公的制度に期待できる割合が減っていくなか、民間サービスの役割が増大していくことが予想されています。

一方、投資信託や預金、保険、ローンなどの金融商品そのものが持つ付加価値はどんどん低下しており、極端な話、どれを選んだとしても、得られる価値に大差がなくなりつつあります。

つまり、これからの資産運用サービスなどの提供する付加価値は、資産計画の策定やフォローアップといったコミュニケーション、さらに言えば関係性に求められるようになっていきます」

これからの個人役務事業で勝負を分けるのは、ほかの金融機関にはない独自のプロダクトの開発や提供への注力ではなく、いかに密な関係性をお客様とのあいだに構築できるかにかかってくると、私たちは考えています。

大原    「このように個人向け金融サービス事業の勝負の鍵はモノからコト、つまりプロダクトそのものからお客様のフィナンシャルアドバイザーとしての関係性に移りつつあります。

そういった状況で、地元に根差したブランドや信頼関係、対面チャネルを持った地域金融機関は、ほかのオンライン金融機関等には真似のできない強力な戦略資産を有しており、地域金融機関こそがこれからの個人向け金融サービス・ビジネスを主導していくと確信しています」

事業課題を克服するためのタテ・ヨコの視点

とはいえ地域金融機関の現状は、「優位」と言えるほどの事業環境にあるようには見えません。地方からは人口が流出しており、経済力は徐々に低下しています。

また、地域金融機関は、顧客との信頼関係、地域におけるブランド力、地域密着の対面チャネルという圧倒的な戦略資産を持っているのですが、残念なことに、それを生かしきれていません。投資信託の短期回転売買を繰り返してきたことなどによって、むしろこれらの戦略資産は毀損しているのではないかとも懸念されています。

大原    「地域金融機関が個人向け資産運用ビジネスの成長を主導し、そしてみずからも再び地域金融・経済の要としての力強さを取り戻すためには、いくつかの課題をクリアする必要があるでしょう。

私たちは、それらの課題を①『顧客接点の最適化』、②『事業インフラの整備』、③『提案ノウハウの強化』、④『戦略資産の補強』の4カテゴリーに整理をしています」

これら4つの課題は、単に現在直面するそれぞれにひとつずつ対応すれば良いというものではなく、タテ・ヨコの視点からなる複雑な連立方程式を満たす形で克服する必要があると私たちは考えています。

大原 「タテというのは、これら4つの課題に対応するために、どのようにメリハリをつけたリソース配賦を行なうべきかという視点です。

課題①や②は、お客様との関係性を構築するにあたってのハコやインフラのようなものであり、言ってしまえばここにいかに注力して独自性を出したとしても、お客様に提供する付加価値の差別化や競争力にはつながりません。

これら①や②に対しては、効率性や費用対効果を重視し、差別化につながる課題③や④にいかにより多くのリソースを効率的に配賦するかということが重要になります。

一方、ヨコというのは、時間軸に関する視点です。地域金融機関の担当者からよく聞かれる意見として、『うちはほとんどどのお客様が60代以上のシニアだから』などがあります。ただ、戦略策定で必要なのは、ゴールを現在(As is)の顧客基盤に置くのではなく、5〜10年後といった将来ありたい顧客基盤(To be)に置くという考えです。

こうしたタテ・ヨコの視点から成る連立方程式を解くのは簡単ではありません。私たちは金融専門家集団として、各金融機関の経営方針や状況に応じて、最適な戦略を策定するのをお手伝いいたします」

チームラボと挑むのは課題①の解決

▲今回のチームラボとの協業では赤点線枠の課題①「顧客接点の最適化」に対するソリューション提供を目指す

日本資産運用基盤は、地域金融機関の個人役務事業の戦略策定のサポートのみならず、前述した4つの課題それぞれに対する具体的なソリューションも提供したいと考えています。今回のチームラボとの協業は、課題①の解決に向けたものになります。

大原    「チームラボは、デジタル社会のさまざまな分野のスペシャリストから構成された、ウルトラテクノロジスト集団であり、最新のテクノロジーを活用したシステムやデジタルコンテンツの開発を強みにしています。対してわれわれは、金融ビジネスに精通した金融専門家集団です。

今回の協業では、課題①について、その解決を目指した適切な戦略策定、およびそれに基づくデジタルソリューションを共同で開発・提供していきます。その中には、Web・モバイルアプリケーションの開発も含まれますし、営業拠点の戦略的な再構築なども展開していきます。

支店戦略を例にあげると、ATMしか置かない店舗、営業担当者しかいない空中店舗、逆にお客様との応対をメインに行なう店舗など、経営方針や地域の特性に応じて、戦略的に店舗の形を変えて支店網を構築することが求められています。こうした支店戦略の構築を、私たち日本資産運用基盤がサポートさせていただきます。

一方、それぞれの店舗における具体的施策も必要となり、そういった部分でチームラボの持つデジタルアートを活用した空間設計や店舗デザインのノウハウなどを活用していきたいと考えています」

日本資産運用基盤は、今後も様々なパートナー企業と連携し、ほかの課題についてもソリューションを開発・提供することで、地域金融機関の個人役務事業運営を総合的にサポートしてまいります。