2019.01.08インタビュー

新興資産運用会社の支援子会社の設立 ヒトとモノの最適化を通じた投資信託業界の改革

金融専門人材(ヒト)やその他事業運営リソース(モノ)の最適配置を通じ、金融業界の構造的問題の解決を目指す日本資産運用基盤。今回は投資信託業界で長年にわたって金融バックオフィス業務に携わってきたディレクターの村上俊が、資産運用業界の構造的問題とそれを克服するための取り組みについて語ります。

「国際金融都市・東京」構想の実現に向けて

▲毎日、オフィス近辺で違う店のランチを食べ歩き、インスタグラム(@mlog_lunch)にアップするのが日課

かつて「世界三大金融都市」といえばニューヨーク、ロンドン、東京を指しましたが、近年では東京の地盤沈下が進み、香港やシンガポールが台頭してきました。

その証拠に、多くの外資系金融機関が、アジアの拠点を東京から香港、あるいはシンガポールへと移転させています。

東京都は2017年、地盤沈下が著しい東京を「アジアナンバーワンの国際金融都市」に復権させるべく、国や民間と連携しながら、金融市場の活性化策を検討しはじめました。これが「国際金融都市・東京」構想です。

外資系金融機関を誘致しやすい環境整備を進め、東京市場に参加するプレイヤーを育成し、金融による社会的課題解決に貢献するための施策が、これから次々に打ち出されてくるでしょう。

金融プロフェッショナルの知見を提供する日本資産運用基盤株式会社もまた、「国際金融都市・東京」構想の実現に向けて、さまざまな施策を検討しています。

そのひとつが、新興投資信託委託会社のミドル・バック業務等全般を外部受託する事業子会社JAMP Fund Process Innovationの設立です。

企画・管理部ディレクターの村上は、長年の投信業界における経験や強い問題意識を元に、JAMP Fund Process Innovationの設立企画・具体化を主導しています。

村上    「金融庁が『貯蓄から投資へ』というスローガンを掲げたのが 2000年。

『貯蓄から資産形成へ』と文言が変えられて現在に至っていますが、個人金融資産に占める現預金の比率を見ると、 2000年が 53.9%。 2018年 9月末時点で 52.1%ですから、貯蓄から投資の流れはほとんど進んでいません。

なぜでしょうか。理由はいろいろ考えられますが、ひとつは金融業界の閉鎖性にあると思います。

『国際金融都市・東京』構想は、その閉鎖性を打破するための施策を講じていくものですが、そのためには海外の運用会社も含め、もっと日本の資産運用マーケットに新規参入してくる EM( Emerging Manager:新興運用会社)が増えなければなりません」

EMの参入を妨げるヒトとモノの問題

米国では年金基金をはじめとして、EMを運用先のひとつに選ぶケースが増えています。この背景には、米国の資産運用業界において、90年代の前半からEMプログラムが実施されていることがひとつの動きとしてあります。

具体的にはアフリカン・アメリカン、ラテン・アメリカンなど民族的マイノリティや、女性の運用者、資金調達面などで不安を抱えているスタートアップの運用会社を支援するのが目的で、白人男性社会の傾向が強い米国資産運用業界に多様性を導入することにより、従来と異なるアルファを実現できるという期待もありました。

日本においても、資金調達面などで不安を抱えているスタートアップの運用会社を支援する目的で、EMプログラムを推進する動きが少しずつ出てきています。

とはいえ、日本におけるEMの新規参入は、まだまだ鈍いと言わざるを得ません。なぜでしょうか。

村上    「まず、ヒトの問題があります。コンプライアンスをはじめとして、金融プロフェッショナルの知識を持つ人材が極めて不足しているだけでなく、少ない人材の大半が国内大手金融機関に所属しているため、 EMにはなかなかこの手の人材が回ってこないのです」

この問題を解決するためのソリューションを提供するのが、日本資産運用基盤のミッションですが、もうひとつ、EMの参入を妨げる大きな要因があります。それがモノの問題です。

村上    「なぜ資産運用業界の新規参入が進まないのかというと、たとえば金融商品取引業の登録に相当期間の時間と労力が必要であることはもちろんですが、欧米の資産運用会社のように投資運用業務に特化できず、ミドル・バック業務も含めた大きな組織が必要になるからです。

当然、組織が大きくなればなるほど、設立初期にかかるコスト負担が重くなります。

あるいは、ミドル・バックの業務を遂行するためには多数の業務サポートシステムが必要になりますが、そのシステムを維持するためには、これまた多額のコストがかかります。

ヒトの問題もさることながら、システムの構築・維持に莫大なコストがかかる等のモノの問題は、 EMの新規参入を阻む最大の要因といってもいいでしょう」

モノ問題の解決に向けたJAMPのEM支援

▲金融事務コンサルタントとしてだけでなく、代表の大原啓一とともにグループ経営管理の柱として幅広い役割も担う

日本資産運用基盤は、地方の金融機関やこれから金融ビジネスに新規参入しようとしている非金融事業者が、持ちたいと思いながらなかなか持てずにいる「高度な金融専門性」を提供することを目的に設立されました。

これに加え、日本資産運用基盤がこれから取り組むもうひとつの柱は、前述のEM支援を目的とした子会社JAMP Fund Process Innovationの設立です。

村上    「前述したように、日本で投資信託委託会社の設立をしようとすると、さまざまな問題を乗り越えなければなりません。

金融商品取引業登録に時間と労力がかかるだけでなく、運用からミドル・バック業務を含めた組織体制の構築、ミドル・バック業務の人材確保難、業務システムの多大な費用負担、賃借料の安価な都心でのオフィススペースの確保が急務になってきます」

これらヒト・モノの壁を乗り越えられずに新規参入が進まなくなっているのが現状だと村上は言います。

村上    「日本資産運用基盤としては、 JAMP Fund Process Innovationを通じ、知見ノウハウを持つ人材の活用、業務に精通した人材の集中化、システムの共有化を提案し、東京証券取引所周辺でオフィススペースを紹介することで、これらの問題点に対処していきますが、それはあくまでも目先の対処療法です」

大事なのは、長期的解決策として、EMが常に日本の資産運用マーケットに参入しやすい環境を整備すること。そのためには、どんな施策が必要になってくるのでしょうか。

村上    「投資信託委託会社が持っているミドル・バック業務と受託業務を統合させることや、現在は受益権の管理を行っている証券保管振替機構の役割を拡大させること、コンプライアンス関係を中心にして外部モニタリング機能を強化することなどがポイントになります。

それを実現することによって、投資信託委託会社、受託銀行、販売金融機関、証券保管振替機構の業務フローをよりシンプルなものにして、全体のコストを下げることまでも目指したいと考えています」

目指すビジョンは「受益者のために」

日本におけるEMといえば、直接販売をうたった独立系投資信託会社として1996年に設立された「さわかみ投信」が先駆けで、その後、複数社が立ち上がったものの、爆発的に増えたという感じはなく、どちらかというと停滞ぎみです。

上記の役割を担うEM支援会社が設立されれば、新たに投資信託会社を設立するハードルが一気に低下するだけに、新規参入が加速する可能性があります。

EM支援子会社であるJAMP Fund Process Innovationが本格稼働すれば、EMの新規参入が進む一助を担うことになりますが、その先にどのような未来を見ているのでしょうか。

村上    「資産運用、とりわけ投資信託に対する不信感の源泉は、“わかりにくさ ”にあるのだと思います。そのわかりにくさを解消するためには、役割や責任の明確化が必要です。

具体的には、投資信託委託会社は投資運用、受託銀行は基準価額などの計算、レポーティング等に特化することです。

加えて受託銀行が、基準価額を計算するに際して必要な有価証券の価格データをすべて取れるようになれば、投資信託の基準価額が受託銀行によって的確にモニタリングされるようになります。

それが最終的に、投資家の投資信託に対する信頼を高めることにもつながるはずです」

また村上は、今後展開される投資信託事業に向けて、自分の経験を活かしたいと語ります。

村上    「これまで 14年にわたって積み上げてきた投資信託事務のノウハウを、資産運用業界全体のために活かしていきたいと考えています。自分の利益のためでなく、投資信託を購入している受益者のために仕事をしていきたい。

まだ時間は掛かるかも知れませんが、その積み上げによって、受益者が安心して投資信託を買える環境が築かれると信じています」

日本資産運用基盤株式会社は、金融事業支援プラットフォームとして、新興資産運用会社の事業立ち上げや運営を支援するとともに、投資信託業界の非効率性を解消することを通じ、革新的な金融サービス・ビジネスの開発と安定的な運営をサポートする存在でありたいと考えています。