2019.12.26インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達】「兜町・茅場町地区を中心に進む国際金融都市・東京構想」中尾友治氏(平和不動産株式会社執行役員)

中尾友治氏(平和不動産株式会社執行役員 一般社団法人国際資産運用センター推進機構(JIAM)代表理事)

聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ代表取締役社長)

兜町が大きく変わろうとしています。かつては証券の街として、証券会社の看板が所狭し、とばかりに並んでいましたが、今やその看板はほとんど撤去され、ここが証券の街であることを想起させる風景は見られなくなりつつあります。
でも、徐々にではありますが、新しい動きも出てきました。新興資産運用会社やフィンテックスタートアップ企業等の金融系ベンチャー企業が拠点を構え、再開発も進められています。証券の街とは言えなくなった兜町・茅場町地区は、これからどのように変わっていくのでしょうか。平和不動産株式会社の執行役員で、一般社団法人国際資産運用センター推進機構の代表理事も務めていらっしゃる中尾友治さんに、お話を伺いました。

投資と成長が生まれる街づくり

今回、対談をさせていただく中尾友治さんは、一般社団法人国際資産運用センター推進機構の代表理事であるのと共に、平和不動産の執行役員を務められています。平和不動産は東京証券取引所の大家さんとして知られていますが、なぜ国際資産運用センター推進機構の設立・運営を主導されたり、東京国際金融機構に正会員として加盟されたりなど、「国際金融都市・東京」構想の実現に尽力されているのでしょうか。現在の取り組みなども含めてお話しいただけますでしょうか。

中尾   兜町・茅場町地区といえば証券の街として知られていましたが、証券取引の電子化が進んだのと同時に、証券会社のサービスもインターネット化が進んだため、必ずしも兜町に拠点を持つ必要が無くなりました。その結果、兜町で働く人の数はこの20年で大幅に減り、街に活気が無くなってしまいました。

私たちとしては、何とかして再びこの街に活気を取り戻してもらいたいと思っています。

実際に街を歩くとわかりますが、兜町・茅場町地区は都心にしては珍しく小さな建物が多く、その大半が築50年を超えており、良く言えば「味がある」のですが、金融ビジネスの中核機能を担うには、どうしても脆弱感が拭えなかったのも事実です。

そこで2014年から街の再開発に着手しました。コンセプトは「投資と成長が生まれる街づくり」です。ご存じの方も多いと思いますが、この街は日本資本主義の父と言われた渋沢栄一翁が、日本初の銀行である第一国立銀行の拠点を置き、証券取引所をつくるなど、日本の高度経済成長を金融面から支えてきた歴史を持っています。

だからこそ前出のコンセプトが生まれたわけですが、ひとえに「投資」といってもさまざまな分野があります。私たちは未来に向けて、特に伸びしろが期待できるものとして、資産運用ビジネスに注目し、そこに貢献しようと考えました。

日本の資産運用ビジネスがグローバルで競争力を持つためには、イノベーションが必要不可欠です。そこで兜町・茅場町地区を、金融系ベンチャー企業の集積地にすることで、こうした企業の成長・発展に貢献するとともに、イノベーションの加速を促したいと考えています。

FinGATE(フィンゲート)が持つ価値

この対談は、兜町にある「FinGATE KABUTO」で行っているわけですが、兜町・茅場町地区には、ここ以外に「FinGATE KAYABA」、「FinGATE BASE」があり、いずれも金融系ベンチャー企業が入居しています。弊社(日本資産運用基盤)は現在、FinGATE BASEに入っているのですが、入居から1年が経過して、コミュニティが持つ価値を実感しています。ともに金融の未来を創る仲間がいるのはとても心強いですし、情報交換もできます。今後、FinGATEを中心にして、兜町・茅場町地区でどのような施設展開を考えていらっしゃるのですか。

中尾  これから新しく4つ目の施設をオープンさせようと考えているところです。兜町再開発の目玉は、2021年7月に新築開業予定の「KBUTO ONE(カブトワン)」という地上15階、地下2階のオフィスビルで、ここにはオフィスや店舗のほかに、カンファレンスホールも入ります。IRミーティングやネットワーキングセミナーなどに使ってもらえればと考えていますが、新しくオープンさせる予定の4つの目のFinGATEは、兜町・茅場町地区にある既存のビルの中に今年度中にもつくる予定です。賃料を安く抑えられるので、スタートアップ企業にとっては事業コストを抑えられるというメリットがあります。

既存のFinGATEについては、このFinGATE KABUTOが2018年4月オープンで、正直なところ全くテナントが入らなかったらどうしようと思っていましたが、今は全部屋が埋まっています。

FinGATE KABUTOには、独立系の運用会社方々が入居しています。資産運用ビジネスは場所を問わないビジネスなので、兜町に集まる必然性はないとおっしゃる方もいるのですが、今、大原さんがおっしゃったように、情報交換をしたり、困ったことがあった時はお互いに助け合ったり、あるいは懇親会を共同で開催したりするなど、いろいろな動きが出始めています。まさにコミュニティですね。この地でスタートアップを立ち上げれば、そこには必ず仲間がいるという雰囲気が広がりつつあります。

街をつくるのも、エコシステムをつくるのも、結局のところは人です。デベロッパーがいくら頑張ったとしても、両方ともつくることは出来ないでしょう。やはり最後は人なのです。そして、私たちはその黒子として活動を展開していきます。それは今までも、そしてこれからも変わりません。

かつて証券取引所に数千人の立会場従業員があふれていた頃、この街には、様々に個性的な飲食店が軒を連ねていました。FinGATEの入居会社は現在約30社まで増えてきました。KABUTO ONEやその周辺に評判の良い飲食店がたくさん開店して、街に活気が生まれることを期待しています。

「国際金融都市・東京」構想は今までと何が違うのか

「国際金融都市・東京」構想は今始まった話ではなく、過去においても似たような取り組みが幾度となく繰り返されました。しかし大きな進展はなく、いつの間にかマスコミでも取り上げられなくなり、人々の記憶から忘れ去られたという流れがあったように思えます。今回の「国際金融都市・東京」構想は、こうした一連の流れとは何が違うのでしょうか。

中尾  確かに、これまでも東京を国際金融センターにしようという掛け声は何度かありました。古くは1998年、橋本元首相の掛け声でスタートした「金融ビッグバン」による規制緩和がそうでしたし、2000年のETF市場の創設も、やはり東京を国際金融センターにしようという政策の一環で行われたものといえます。

以前の国際金融都市の取組みは失敗だったという見方もありますが、一つ一つの施策には意義があったと思います。ただ、恐らく金融業界にいない人たちからすれば、これらの政策と国際金融センター化が結び付くものなのかどうかは分かりにくかっただろうと思います。

今回の「国際金融都市・東京」構想がスタートしたのは2017年からですが、東京都がリーダーシップを発揮し、金融業界の方々も賛同し、一般社団法人東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)が設立され、JIAMの活動を引き継ぐ流れで官民連携での海外へのロードショーも活発化しています。

足許での優先的な課題は、資産運用ビジネスの活性化を通じて、東京という都市の国際競争力を高めていくことにあるわけですが、単なる掛け声や一つ一つの規制緩和だけでなく、具体的な組織づくりも含めて国際金融都市・東京をつくり上げていこうとする人々の輪が広がり、外国人も含めた多様性の動きが出てきた点は、評価できると思います。

資産運用ビジネスの発展に必要なこと

資産運用ビジネスの本場であるイギリスでは、育ちが悪くて頭の良い人は証券会社に入り、育ちは良いけれども頭が悪い人は保険会社に入り、両方の良い人は資産運用ビジネスに入るという小咄があるくらい、資産運用ビジネスがリスペクトされています。私は2003年に資産運用ビジネスの世界に入ったのですが、当時、このビジネスに従事している人の数は1万人で、今もそう大きくは変わりません。この業界を発展させていくためには何が必要でしょうか。

中尾  日本における資産運用ビジネスは、独立した存在ではなく、証券会社や銀行など大金融資本の下部組織というイメージが強いですね。

昔、こんな話がありました。資産運用関連の業界団体にいらっしゃる方が、日本経済新聞の人事欄を見て、なぜ資産運用会社の人事が証券会社の項目に入っているのかと指摘し、「資産運用」という欄を新たに作って欲しいとお願いしました。

そのお願いが叶い、投資信託会社など資産運用ビジネス関連企業の人事については現在、「資産運用」という欄で報じられるようになりましたが、これこそ資産運用ビジネスがいかにマイナーな存在であるかを示す好例だと思います。その証拠に、日本の大学生や高校生を相手にして資産運用ビジネスについて説明しても、ほとんど彼らには響きません。

平成バブルが崩壊した後も、コツコツとリターンを出し続けている日本人ファンドマネジャーがいます。彼らのおかげで、海外から「日本人の運用担当者は凄い」という声も聞こえてくるのですが、一方で日本はまだモノづくりに価値を見出そうとするところがあり、メーカーや町工場がもてはやされる傾向が強く見受けられます。

「国際金融都市・東京」構想は、こうしたメーカーや中小企業だけでなく、資産運用ビジネス業界も皆で応援し、そのイノベーションを加速させることによって、日本経済の活路を切り開くという狙いがあるのです。

日本資産運用基盤への期待

資産運用会社をはじめとする金融機関の事業支援基盤を行なう日本資産運用基盤グループの役割について、今後どのようなことに期待していらっしゃいますか。

中尾  日本の資産運用ビジネスが抱える問題は、やはり新規に開業する資産運用会社が少ないことだと思います。アジアの拠点は東京から香港、シンガポールに移ってしまいました。あるいは東京で資産運用ビジネスを立ち上げるのはハードルが高いという理由で、端から諦めている人たちもいました。

国内外の資産運用ビジネスに関わっている人たちは、日本のマーケットに対してどのような問題意識を持っているのか。それを聞いて回っているなかで、ミドルバックの業務コストが高いこと、税率が高いことなどの問題点が浮上してきました。税率を見直すのは高度に政治的な問題なので、まずは出来るところから改善しようということで、国際資産運用センター推機構構としても、ミドルバックの業務コストを削減できるプラットフォームを提供できないかと考えました。

しかし、ミドルバックの業務を外注するようなモデルは、現実的にはなかなか難しいだろうという意見も多く、そこから先に進めずにいました。まさにそのような時に、日本資産運用基盤が立ち上がり、ミドルバックオフィス業務やコンプライアンス業務等を一括して引き受けるサービスを発表したのです。非常に驚きました。

国際金融都市の実現に向けてまだ多くの課題はありますが、それを解決しつつ日本国内に資産運用会社を増やし、国民経済的な問題も解決していく。そのサポートを、日本資産運用基盤グループに期待しています。

(了)

新興・外資系金融事業者支援における平和不動産との業務提携