2020.01.27インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達】「FinCity.Tokyoの役割」有友圭一氏(一般社団法人東京国際金融機構専務理事 FinCity.Tokyo)

有友圭一氏(一般社団法人東京国際金融機構専務理事 FinCity.Tokyo)

聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ代表取締役社長)

21世紀の日本経済は、少子高齢化と人口減少の影響を受けて、長期的に衰退すると見られています。こうしたなか、東京都が打ち出している「国際金融都市・東京」構想は、1800兆円にも達している個人金融資産を有効活用することによって、日本に新たな豊かさをもたらすきっかけになる可能性を秘めています。まだ道半ばですが、東京が真の国際金融都市になった時、どのような未来像が描けるのでしょうか。一般社団法人東京国際金融機構(略称:FinCity.Tokyo)の専務理事、有友圭一さんに話を伺いました。

発足から1年間の振り返り

対談シリーズの第2回目は、一般社団法人東京国際金融機構(略称:FinCity.Tokyo)専務理事を務めていらっしゃる有友圭一さんにお話を伺います。東京国際金融機構は、「東京の金融市場としての魅力を高め、世界トップクラスの国際金融都市にすること」をミッションに掲げて、昨年4月に立ち上げられました。約1年が経過したなかで、これまでの活動状況をどのように評価していらっしゃいますか。

有友   まず申し上げたいのは、私たちの組織は、特定の業界の意見集約・政策提言を目的にするような業界団体では決してありません。すなわち、金融機関のために活動しているのではなく、私たちの目線の先にあるのは常に国民です。

金融は経済の血流です。その血流を促進するためには、血液を送り出す心臓を強化しなければなりません。心臓を強化することによって、国内外にどんどん血液が回り、経済を活性化させ、最終的に国民の生活レベル向上につながっていく。そういうイメージを描いています。

では、肝心の心臓を強化するためにはどうすれば良いのか、ということですが、そのために投資家や投資対象を含む資産運用のバリューチェーンを強化した金融エコシステムを確立できればと考えています。

これまでも幾度となく東京を国際金融都市にしようという掛け声のもと、業界の有識者が議論を繰り返してきました。しかし、その議論を具体的なアクションに落とし込み、世の中に何がしかのインパクトを与えたかというと、残念なことにそこまでは辿り着けませんでした。大事なことは議論を尽くすだけでなく、それをアクションにつなげていくことです。

ミッションオリエンテッドな組織を志向

約1年の活動を通じて、東京国際金融機構の認知度は上がりましたか。また「国際金融都市・東京」構想を進めていくにあたり、東京都と東京国際金融機構との役割分担をどのように考えていらっしゃいますか。

有友   東京国際金融機構が発足してから、海外でのプロモーション活動を積極的に行っています。パリ、香港、アブダビ、ニューヨークを回りました。ちなみに香港は動きがいろいろあるので、3回行っています。そして今年の1月にはロンドン、3月にはシンガポール、バンコクにも行く予定です。

このように、海外で積極的に情報を発信し、そのフィードバックをもらって政策提言していくのが、私たちのミッションのひとつになりますが、残念ながら国内での認知度はまだ十分とは言い切れません。また、組織そのもの、また、活動に対して、少し誤解も生じているようです。

第一の誤解は、私たちの活動が東京一極集中に拍車をかけるのではないかということです。そのせいか、地方都市に行くと、警戒心を抱かれることがあります。実際には、このプロジェクトは、東京への一極集中を意図するものではありません。東京に投資のプロを集約させて、お金という血流を日本全国に行き渡らせるための心臓にするというものです。地方都市にはブルーチップ企業が眠っていますから、投資を通じてこうした企業に資金を還流させると共に、世界におけるこのような企業の認知度向上を図ります。また、地方に眠っている資金も循環させる必要があります。

第二の誤解は、前述したように金融業界の業界団体と思われていることですが、私たちの取組は金融業界の利害を代弁するものではなく、最終的には国民の生活レベルを引き上げることにあります。また、金融エコシステムの中で、事業会社の位置づけも重要です。

第三の誤解は、外資系資産運用会社の利害を代弁する組織と見られていることです。FinCity.Tokyoは外資優遇策支援を実施しているわけでもなく、また資産運用会社だけではなく、全金融セクターを対象にしています。

そして第四の誤解は、小池東京都知事の政策目標を実現するためにある組織とみられる点になります。確かに小池都知事のリーダーシップの元立ち上がったという経緯こそありますが、重要なのは、この組織は今後日本を発展させていくうえで、必要であるということです。知事が誰であるということは関係ありません。

今後私たちとしては、国内において、現状あるこのような誤解を解くための情報発信を行っていく必要があると考えています。

また、東京都との役割分担ですが、東京国際金融機構は「国際金融都市・東京」構想を推進するための事業推進部隊を持ち合わせていませんし、今後においても持つべきではないと考えています。私たちの役割はあくまでも情報を発信し、ニーズをくみ上げ、政策提言につなげることであり、ミッションオリエンテッドな組織であるべきだと考えています。極端な話、目標を達成できたら、解散しても良い組織なのかも知れません。言い換えれば、インベストメント・バリューチェーンが自発的に回転するようになり、イノベーションが創造できるようになれば、FinCity.Tokyoの役割は終えられると言えますが、その日はかなり先かも知れません。

ところが、事業を抱え込むと、正規に従業員を採用しなければならなくなります。そのためには、人事部の機能も求められ、また、採用した従業員のキャリアパスを考える必要も当然でてきます。そうなると、組織がどんどん肥大化し、組織を存続させることが自己目的化してしまいます。東京国際金融機構はあくまでもミッションを推進するために政策提言を行っていく組織であり、「国際金融都市・東京」構想の事業推進に関しては、東京都の組織力を最大限に活用すべきであると考えています。

国際金融都市の将来イメージ

国際金融都市について、恐らく多くの人はイメージできないのではないかと思います。国民がどういう状況をエンジョイできた時、国際金融都市を堂々と名乗れるようになるのでしょうか。

有友   多くの国民は、日々生きるために仕事をして、収入を得ています。

学生の頃はキャッシュフローベースです。つまりアルバイトなどで自分が働き、得た収入を右から左へ消費して終わりです。

これが社会人になるとインカムベースに変わります。つまり自分自身が稼働することで、月給というフィックス・インカム収入を得ていくという形です。そして、フィックス・インカム収入の一部を少しずつ蓄積していき、それがやがて金融資産というアセットを形成するようになります。

収入の源泉がアセットベースになると、いかにして資産残高を有効に運用するかとの点に配慮するようになり、アセットから発生するインカム収入が、給与所得よりも重要な意味を持つようになります。そこまで到達できた人の関心は恐らく自らが稼働することではなく、自分のアセットクラスを最適に配分するか、これからのマクロ環境に応じて、資産配分をどのように調整するか、または、生きがいをどこに求めるか、どのように自らの時間を社会貢献に費やすかなどを考える余裕ができます。

例えば、ノルウェーでは、ソブリン・ウェルス・ファンドの運用によってもたらされている富が、人口1人あたり200万円程度あります。それだけの安定した富があれば、国民一人ひとりが日々の生活に振り回されずに、豊かさを自由に享受できるような心の余裕が生まれてくるでしょう。

そのような状況においては、東京でも、きっと街中のカフェに幼い子供から、ビジネスマン、老齢の夫婦まで、老若男女を問わず様々な人が集まるでしょう。そのカフェでは、人々は、壁に飾ってある絵画を見ては、鑑賞して愛でるにとどまらず、その投資冥利について議論するようになるでしょう。また、ミュージシャンが音楽を奏でれば、その演奏に聞き入るだけではなく、このミュージシャンをどう成長、売り出していけるか戦略を練るようになるかもしれません。また、イノベーションを生み出すための案を議論していることでしょう。

そしてここが大事なのですが、そこにいる人々の多くは、自分が所属する企業や団体のKPIから解き放たれている。つまりフィナンシャル・インデペンデントを実現している人たちであるということです。

あくまでも一例ですが、これが豊かな状況であり、私たち東京国際金融機構が描いている、国際金融都市の世界観です。

これからの取組と日本資産運用基盤への期待

「国際金融都市・東京」構想を推進していくうえでの課題は何でしょうか。また、東京国際金融機構として今後、どのような取組を考えていらっしゃるのでしょうか。また私ども日本資産運用基盤に期待することがあれば教えてください。

有友   これから中期事業計画を策定するのですが、中には東京都から移管される事業もいくつかあります。

第一にエマージングマネジャープログラム(新興資産運用者育成プログラム)です。運用会社の新規参入を促進するためのプログラムで、運用の高度化には必要不可欠です。ただ現状、新規参入者に対して肝心なシードマネーを供給する人が現れず、先に進めない状況なので、その立て直しを図ります。

第二が金融ネットワーキング事業です。現状だと外資系運用会社の国内誘致とその後のサポートが分断されています。誘致した後、いかにしてサポート、そして既存のエコシステムに融合し、イノベーションを促進していくかをしっかり考える必要があります。今は誘致すること自体が目的化している傾向がありますが、本当に大切なことは誘致した後に、エコシステムに融合でき、価値を創造できるかどうかです。

第三がメディア対応事業です。ジャーナリストとの継続的な対話を通じて、正確かつ効果的な情報発信を実施していく必要があります。現時点では、東京金融都市に関するメディアのカバレッジはまだ限定的であり、開催されている記事の内容も、必ずしも正確ではありません。

また、税制に係る課題ついては、避けて通れません。日本の税制は不人気であることは周知の事実ですが、香港やシンガポールのみならず、OECD諸国などとの比較において、本当に日本の税制は果たして、何が不利をしっかり確認する必要があります。あいにく、過去の税制の議論は、表面税率が中心に語られており、税制の多面的な考慮が不十分であったようにも見受けられます。

こうした事業を進めながら日本の金融エコシステムを育てていくわけですが、新規参入者がお互いに切磋琢磨できるようなコミュニティを創る必要があります。ただ、コミュニティは自然発生だと無秩序になる恐れがあるので、誰かが手綱を引く必要があります。その役割を、日本資産運用基盤にも期待しています。