2020.02.27インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達】株式会社Japan Asset Management代表取締役 堀江智生氏「日本で一番大きな金融機関をつくります」

FinTechを活用した新しい金融サービスがどんどん誕生する一方、株式等売買委託手数料の無料化や大手証券会社と地銀の連携等、金融ビジネスが根本から大きく変わろうとしています。

そんな金融業界のパラダイムシフトの最前線でイノベーターとして活躍する経営者やプロフェッショナルにお話を伺う「金融ビジネス 最前線の変革者達」の第3回となる今回は、新興のIFA(独立系フィナンシャルアドバイザー)事業者として注目を集める株式会社Japan Asset Management(JAM)の堀江智生代表取締役にインタビューをさせて頂きました。

個人向け資産運用サービスの新たな担い手として期待が高まるIFAですが、その最前線ではいったいどんなサービスが提供されており、どんなビジョンの達成が目指されているのか等、じっくりお話をお聞きしました。

堀江智生氏(株式会社Japan Asset Management 代表取締役)

聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)

資産運用のワンストップサービスを提供する

大原   こんにちは。堀江さんの会社はJapan Asset Managementで、略称がJAM。私たちは日本資産運用基盤でJAMPと称していて、結構似ています。勝手に親近感を持っているのですが(笑)、まずどんなお仕事をしていらっしゃるのか、簡単に教えて下さい。

堀江   会社を立ち上げたのが2年前で、自社がライセンスを得て行っている業務はIFA(金融商品仲介業)と保険代理店、不動産仲介業の3つです。それ以外にはM&A仲介、海外不動産、タックスプランニング、節税を目的とした航空機リースまで手を広げていますが、基本的にこれらは外部の専門家たちと協業しています。目指すところは資産運用のワンストップサービスをご提供することです。お金に関する悩みを抱えた方が私どもを訪ねて下さったら、必ず何かしらのソリューションをご提供できる、そんなアドバイザーを育てていきたいですね。

大原   私から見るに、JAMさんはIFAの新興勢力として今、一番大きく伸びている会社だと思います。御社のターゲットは富裕層がメインになるということですか。

堀江   そうですね。今、お客様になっていただいている方で申しますと、1人あたりの平均お預かり資産額は3,000万円程度です。もちろん皆さま、弊社だけとお付き合いされているわけではなくて、銀行や証券会社など他の金融機関とのお付き合いもあるでしょうから、お客様一人当たりの総資産額はもっと大きいはずです。その点では比較的資産をお持ちの方とのお取引がメインになっていますし、ご職業も事業オーナー様が大勢いらっしゃいます。

外貨建て社債の取り扱いが全体の8割

大原   堀江さんがいらっしゃった野村證券の営業担当者は、プライベートバンキング業務だけでなく投資銀行業務も出来るのが強みだということを以前、ある人から伺ったことがあるのですが、堀江さんは今のIFAビジネスにおいてもやはりそういう強みは活かしているのですか。

堀江   そうですね。資産運用のワンストップサービスを提供するのに加えて、やはりお客様の多くが事業オーナーですから、事業オーナーが抱えている事業のお悩みもワンストップで解決できるようなサービスを提供したいと考えています。たとえば、設立から100周年を迎える企業を経営されているお客様がいらっしゃるのですが、弊社が提携しているデザイン会社に100周年のノベルティやイベントの企画を考えてもらっています。こうして事業オーナーが抱えているお悩みについて、財務面だけでなく事業面でもお応えできるようなサービスを提供していきたいと考えています。

大原   面白いですね。そこまで行くと、もはやIFAではないような気がします(笑)。

堀江   そうですね。ゆくゆくは経営コンサルタントのような立場でお客様とお話できるようになりたいなと考えています。

大原   それは、会社の設立当初から考えていたのですか。

   そうです。

大原   野村證券といえば業界最大手じゃないですか。入社して4年目に社内選抜でサンフランシスコに派遣され、シリコンバレーでスタートアップの立ち上げに参画した後、香港の現地法人勤務も経験しています。しかもその間、CEO表彰も受賞されるなど、申し分のないキャリアを積んでいらっしゃいますけど、なぜ辞めたのですか(笑)。

堀江   よりお客様のお役に立てる仕事がしたいと思ったからです。たとえば野村證券も生命保険のご提案は出来たのですが、取り扱っている保険商品が少なかったりするわけですよ。今は医療保険から学資保険に至るまでさまざまな保険商品を扱っていますし、もちろんIFAとして株式や債券など有価証券の取り扱いも出来ます。でも証券会社にいると、基本的には有価証券のご提案が主たる業務ですから、お客様が金融の専門家に対して求めているすべてのニーズに対応し切れないケースが、どうしても出てきてしまいます。その点、今の立場であれば、お客様のお金の悩みについてはほぼ解決できますし、先ほども申し上げましたように、事業面のお悩みにも対応できます。

大原   2年前に野村證券をお辞めになったわけですが、堀江さん本人としては、その部分に対する問題意識がかなりあったということですか。

堀江   それはもう間違いなくありましたね。富裕層の方にアプローチする場合、外資系のプライベートバンクと競合になることがありましたが、たとえば債券を提案するときにこちらで出せる精一杯の条件を提示しても、外資系には敵わないというケースがありました。しかし、今のIFAという業態であれば、こちらで複数の証券会社から条件を提示してもらい、証券会社間で競争させて、お客様には一番良い条件をお出しすることができます。残念ながら特定の金融機関に所属する営業担当者である限り、それは叶いません。

大原   でも、他のIFAにもいろいろお話を聞くのですが、今、堀江さんがおっしゃったようなことをしているIFAって、ほとんどいないんじゃないですか。

堀江   いませんね。そもそも商品戦略が違うのだと思います。当社は債券、とりわけ外貨建て社債が、お客様のお預かり資産の7割から8割になります。しかし、他のIFA会社だと一任勘定取引、株式売買の仲介、あるいは投資信託の販売がメインだと思います。だから、そこは商品戦略が違うということでしょうね。

長期的な視点で新卒採用に踏み切る

大原   今、社員数は何名ですか。

堀江   全部で12名です。10名が営業で、あとの2人がバックオフィスになります。

大原   これからもどんどん人を入れていく予定ですか。

堀江   はい。これからは新卒採用も積極的にやっていこうと考えていて、全国を回りながら新卒採用イベントに出展しています。

大原   それはなかなか珍しいパターンですね。一般的なIFA会社の採用って、すでにお客様を持っている営業担当者を、そのまま引き抜いてくるのが多いので、恐らく堀江さんのように新卒を採用するのは、唯一といってもよろしいのではないかと思うのですが。

堀江   中途採用でも育成可能だと思うのですが、今後規模を拡大していくことを考えると、前職の習慣が抜けない人よりも、新卒の方が効率良く育てられるのではないかと考えたのです。中途社員に比べて、新卒社員の方が「売上や利益よりも世の中を良くしたい」という弊社の理念がより浸透しやすいと思っています。

大原   会社が立ち上がってまだ2年ですよね。スタートアップの段階で新卒を採用して、リソースを育成に回すというのは、かなりの決断だと思いますが、いかがですか。

堀江   おっしゃる通りです。実は最初はいろいろな方から止められました。ただ、IFA業界における私たちの強みは、社員の年齢が若いことだと思っています。1年、2年で結果を出さなければならない組織ではありませんし、現時点では私がオーナーシップを持っているので、黒字を出し続ける必要もありません。5年後、10年後の弊社、あるいは業界のことを考えると、新卒を育てて、彼らが2年後、3年後に会社の中核に育っていくことの方が、意義があると考えました。

大原   御社のセールスポイントのひとつは「生涯担当制」ですから、その点でも長期目線で人材を育成していく必要があるということですね。

堀江   はい。社員の育成も、お客様との関係性も、長い目で見た方がより当社の掲げる理想に近づけると考えています。

理想の金融機関をつくる

大原   この2年弱で預りが100億円を突破しました。ここまでスピード感を持って成長してきた秘訣は何ですか。

堀江   お客様が負担する手数料に敏感になろうと思っています。運用リターンのコントロールは不可能ですから、出来るとしたらリスクと手数料のコントロールだけです。この2つをお客様にとって最適化することを考えています。なので、弊社は管理手数料が発生しない商品でお客様のポートフォリオを構築します。具体的には株、債券、ETFを活用しています。それらを私たちがファンドマネジャーになったつもりで、お客様にとって最適なポートフォリオを組めるよう努力しています。

大原   でも、生株と生債券だけでは継続的なフィーが入ってこないという悩みも出てくるのではありませんか。

堀江   そうです。同じお客様から何度もフィーをもらい続けるのではなく、新しいお客様を増やして新規の資金を入れ続けることに専念しています。だから会社全体の預り資産が増えたのだと思います。

大原   継続的なアドバイスを行ってもフィーは発生しない?

堀江   はい。最初にお取引いただく際に、お客様との間でルール設定を行います。お客様にご負担いただく手数料が安い分、毎週はお伺いできませんとお伝えして、そのうえで3カ月に1回訪問すれば良いとか、1カ月に1回は来て欲しいとか、お客様に合わせて約束をします。

大原   では、たとえば3カ月に1度訪問した時に、お客様のポートフォリオを見て組み換えをするとか。

堀江   弊社では最初のポートフォリオ構築時に長期的な視点で提案をしていますので、組み換えはほとんどしません。債券の組み入れが多いので、そこから発生する利金を使って、何か他の金融商品を買うというくらいですね。一度ポートフォリオを組成して頂いたお客様からは、ほぼ収益は得られないのですが、お客様の満足度が上がっていれば他のお客様をご紹介いただけたりするので、それによって新しい収益を得るという流れになります。

   経営的にはいかがですか。

堀江   今のところ毎月資金が入ってきているのですが、月次で見ると赤字の月もあります。年次で見ればなんとか黒字で回っている状況です。

大原   金融商品仲介業の委託元として付き合っている証券会社が今、確か5社だったと思います。これは今後も増やしていく予定なのですか。

堀江   あと2社ほど増やす方向で進めています。そのうちの1社は、たとえばブロックトレードが出来るといったことでお付き合いしようと考えています。現時点では、前職で出来た取引が出来ないこともありますが、より多くのお客様にお役立てできるよう、証券会社を増やそうと考えています。

大原   証券会社の現場で働いていた時、何か疑問のようなものはありましたか。

堀江   2つあります。ひとつは転勤。通常3年くらいで転勤させられるのですが、そうすると多くの営業担当者は、自分が担当している期間での収益化を優先し、短期視点での提案になりがちです。それはよろしくありません。もう一点は営業現場でのノルマです。かつては手数料の総額だけが決められていて、それを達成するためには株式を販売しても、投資信託を販売しても良かったのですが、近年は保険やファンドラップなどの商品ごとに達成ノルマが細分化されているように感じます。過剰なノルマ主義が横行すると、お客様のニーズに関係なく、とにかくノルマを達成できていない商品を提案する、ということが現場で行われています。このような状況では、日本のリテール金融が発展するはずがありません。そこで、転勤もノルマもない理想の金融機関を創ろうと考えました。

大原   私たちJAMPは金融機関のプラットフォームになりたいと思っています。米国だと結構、私たちのようなプラットフォーム会社があるのですが、堀江さんたちIFAの方から見て、プラットフォーム会社って必要ですか。忖度なしで教えてください(笑)。

堀江   必要だと思います。IFA会社を設立して、それを経営していくうえでのノウハウがどこかで共有できれば、これから新規で参入しようとしている人たちには心強いですよね。あとは内部管理体制についても、自前ではなかなか人が割けずに手薄になるケースがあるので、それをカバーしてくれるプラットフォームがあれば、とても助かります。

大原   今後のIFA業界において目指すビジョンは何ですか。

堀江   日本の金融業界は、様々な産業の中で一番遅れている業界だと考えています。今は、金融機関とお客様の情報格差が大きく、お客様が不利な商品を購入させられているケースが非常に多くあると思います。これをまっとうな産業にしたいと思っています。金融業界を変革し、日本経済の発展に貢献したい。そのゴールとして、日本で一番大きな金融機関をつくる。それが私たちにとっての一番の目標です。

大原   最後に、これから注力していきたいと考えていることがあったらお話下さい。

堀江   今年は「寄付」のアドバイスに力を入れていこうと考えています。資産運用で得た利益の一部を、当社が推奨する団体に寄付する「フィランソロピー・アドバイザー」としての活動を去年から開始しました。

大原   ニーズって結構あるものなんですか?

   まだそれほど顕在化はしていませんが、潜在的ニーズはあると思います。私たちのお客様は富裕層が大勢いらっしゃいますが、単にお金を殖やすだけでなく、殖やしたお金を社会に還元していくという使い方も含めて提案できればと思い、この制度を導入しました。寄付先の団体と一緒にイベントなどを行っていて、興味を持って下さる方も大勢いらっしゃいます。寄付先も今はWWF(世界自然保護基金)とか国境なき医師団といった比較的大きな団体ですが、これからは地元の、たとえば少年院から出てきた子供たちの採用支援を行っている団体なども、寄付先の対象にしたいと考えています。このように顔が見える寄付先を増やしていけば、これまでとは違ったお金の流れが出来ると考えています。

大原   単なるIFAではない、新しい金融機関像を見せていただいた気がします。今日はありがとうございました。