2020.03.12インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達 No.4】GAIA株式会社代表取締役社長 中桐啓貴氏「IFAの認知度を高めて業界発展に寄与する」

中桐啓貴氏(GAIA株式会社 代表取締役社長)

聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)

最近でこそ金融業界内で「IFA(独立系金融アドバイザー)」という言葉を聞かない日はないくらい話題に上っているIFA事業者ですが、今回インタビューしたGAIA株式会社の中桐啓貴代表は、まさにIFAの草分け的な存在です。まだIFAという言葉が、業界内にさえほとんど浸透していなかった時期にIFA会社を立ち上げ、現在は350億円の預り資産と、30人の社員を抱える会社に育て上げました。これから中桐代表が目指すところは何なのか。お話を聞いてまいりました。

15年間で預かり資産350億円に成長

大原   中桐さんはIFAの先駆けのような方で、現在はIFA法人GAIAを経営されています。また、弊社が設立事務局として立上げをお手伝いしている「一般社団法人 ファイナンシャル・アドバイザー協会 」の代表理事も務めていらっしゃいますが、改めてGAIA株式会社の紹介からお願いできますか。

中桐   会社を設立したのが2006年ですから、今は15期目ですね。社員数は役員3名、正社員27名、派遣社員と嘱託社員が3名で、合計30名となっています。

大原   IFA会社としては、結構規模が大きい方ですよね。

中桐   そうですね。IFA会社は社員型と業務委託型に分かれるわけですが、うちのような社員型のIFA会社で社員数が30名というところは少ないと思います。預かり資産は現在350億円です。

大原   中桐さんは大手証券会社のご出身ですが、お客様のサポート体制に関して、大手証券会社と比べてここが違うというのは何でしょうか。

中桐    うちは1人のIFAが受け持つ顧客数に上限を設けていて、それが100世帯です。したがって各IFAは自分が担当する100世帯のお客様と、末永くお付き合いをさせていただくという形を取っています。うちは複数の部署を持っていて、今申し上げたのがIFA事業部の仕事です。つまりお客様と直接お会いしてコンサルティングを行う部署ですね。そして、IFA事業部以外ではマーケティング部と運用企画部、そして管理部等があり、それぞれ役割分担を明確にしながら、日々の業務にあたっています。

大原   2019年12月末時点で、GAIAの顧客別運用損益は97%がプラスだったという数字が出ています。これはかなり優れた数字ですが、なぜここまで高い数字を上げることが出来たのですか。

中桐   役割分担をしっかり行っているからだと思います。資産運用で常にプラスの運用成績をお客様に提供するためにはどうすれば良いのかを考えているのですが、それを実現するためには、やはり長期的な視野でお付き合いいただくしかありません。ですので、そのための体制を構築しています。先ほども申し上げたように、IFAは1人につき最大で100世帯のお客様しか担当しませんし、新規開拓はいっさい行わず、お客様のコンサルティングに専念してもらっています。順序としてはお客様にヒアリングをし、プランニングしてアフターフォローすると言う流れです。そして、新規のお客様開拓はもっぱらマーケティング部が担当するというように、お客様のコンサルティングと新規開拓は完全に分業しています。それから、お客様にご提案する運用プランは、長期分散投資のポートフォリオに特化しています。

大原   マーケティング部は何人いるのですか。

中桐   現在は4名体制です。

大原   やはり、お客様へのコンサルティングと新規開拓を中心とする営業は分業にした方が良いのですか。

中桐   一概にそれが正しいとは申しません。今の金融業界で生きていくためには、やはり見込みのお客様を顧客化する力と共に、お客様に適宜ご提案できるコミュニケーション能力も必要です。ただ、お客様の価値観を伺い資産内容についてコンサルティングするのと、お客様開拓をするのとは、違うスキルなので、弊社では分業という形を取っています。

FPではなくIFAを選んだ理由

大原   中桐さんは大手証券会社を辞めた後、IFA法人GAIAを立ち上げたわけですが、そこにはどのような想いがあったのでしょうか。

中桐   最初に勤めたのが山一證券で、そこからメリルリンチ日本証券に転籍して、富裕層向けの資産運用コンサルタントに従事しました。今のGAIAは、メリルリンチ日本証券の時に行っていた資産運用コンサルタントの手法を参考にしています。コンサルタントとお客様が、長期のお付き合いをしていくなかで、さまざまな相談が出来るという仕組みを具現化していました。ただ山一證券の破綻によって1300人の社員がメリルリンチ日本証券に転籍したわけですが、なかなかこのコンセプトが伝わらなかったのでしょうね。私は米国に留学していて、そこで学びながら現地のファイナンシャルアドバイザーの活躍ぶりを見て、メリルリンチ日本証券が日本で広めようとしていたコンセプトの正しさを再確認し、帰国した2006年にGAIAを立ち上げたのです。

大原   個人の資産運用相談業務に関しては、当時からファイナンシャルプランナーという仕事がありました。そちらを選ばずに、IFAを選んだ理由は何だったのですか。

中桐   ファイナンシャルプランナーは、ファイナンシャルアドバイスのみですが、私としては実行支援も含めて長期的にお客様とお付き合いさせていただくのが良いと考えてIFAを選びました。それに将来的には、実行支援をしたお客様の資産を預かり、そこからフィーを頂戴して収益化するフィービジネスのモデルを考えていたので、私にとってはファイナンシャルプランナーを選ぶ理由が無かったのです。

大原   中桐さんがGAIAを立ち上げた2006年当時と今とでは、IFAに対する認知度はどう変わってきましたか。

中桐   う~ん、あまり変わっていないと思いますよ。確かに、金融業界の中では段々、IFAに対する興味というか、関心が高まりつつあるのは事実だと思います。それは、IFAとして独立したいので相談に乗って下さいと言ってくる若い人が増えていることからも、確かにそうなのでしょう。昔だったら、金融業界で営業経験を積んだ人が次のステップとして選ぶのは、ソニー生命やプルデンシャル生命のような保険業界というのが良くあるパターンでしたが、IFAもその選択肢に入りつつあります。そのくらい金融業界におけるIFAの認知度は、この数年で広まったのではないでしょうか。ですが、金融業界外の人は、IFAといっても何のことかほとんど知りません。世間一般での認知度はまだまだですね。そこをどうするかが、これからの大きな課題であると考えています。

お客様の信用を得ることが第一

大原   米国の状況について伺いたいと思います。中桐さんが米国に留学されていた当時、つまり15年前と今とでは何か大きく変わったことがありますか。あと、資産運用に関する認識などについて、米国と日本の差はどの程度あるものなのでしょうか。

中桐   米国では2000年あたりから長期分散投資の大切さが認識されるようになり、私が留学をしていた2003年頃にはフィーベースの収益構造を持つIFAが現れてきました。GAIAで米国視察をスタートしたのは2009年だったのですが、リーマンショックの直後だったので、長期分散投資は本当に大丈夫なのかといった論調も目立ちましたね。単純に分散投資のポートフォリオを提示するのではなく、お客様の価値観も探ったうえでプランニングする必要があるという意見もありました。いろいろ模索する局面で、そこから徐々にマーケットが回復したことから結局、長期分散投資の有効性が認められて現在に至っています。また、それと同時にコミッションからフィーへの転換が進み、フィデューシャリーデューティーが言われるようになりました。今は運用だけでは差別化が出来ないので、相続関係の相談や介護施設案内など、ファミリーの問題を解決するサービスも含めて、付加価値を提供するところが増えています。対して、日本のIFA業界はまだまだ黎明期ですね。ようやくIFA人口が増えてきたという段階で、「これがIFAなんだ」という定義もはっきりしていません。これからさまざまなツールやラップサービスなどが登場してきて、徐々に米国にキャッチアップしていくというところですね。スタートラインに立ったばかりだと思います。

大原   GAIAは二世代プライベートFPを提唱しています。その真意は何ですか。

中桐   長期的なお付き合いを重視していくということですね。そこはこれからも一切変わりません。ただ、サービスは進化させていきますよ。現に、当初は運用サービスから始まりましたが、今は他士業や提携先との連携も生かして保険や不動産、相続等、といったお客様の多様なニーズにも応える体制を整えています。運用サービスも、かつてはセレクトファンドという形で弊社がお勧めできる投資信託を選び、ポートフォリオを組んでリバランスを行ってきましたが、現在はラップサービスを導入して、より長期的なお付き合いをするためのサービス強化に努めています。

大原   この15年間を振り返って、どんな苦労がありましたか。

中桐   スタートアップ段階は苦労しますね。何しろお客様の大事な資産を預かる仕事なので、信用が何よりも求められます。私たちが信用できるかどうかは、やはり3年、5年という期間でお付き合いしていただかないと分からないので、お客様からの信用を得るまでは苦労します。当然、新しいお客様に来ていただけるようマーケティングもしっかり行う必要がありますし、社員を採用して育成することも大事です。人材育成には時間が掛かりますし、その間も売上を維持していかなければなりません。

独立は30代のうちに

大原   これから新たにIFAビジネスに関わろうと考えている方に何かアドバイスはありませんか。

中桐   そうですね。業務委託型にするのか社員型にするのか、そのどちらを選ぶかが、まず大きな岐路になります。私は社員型を選んだのですが、業務委託型だと単なる場所貸しと変わらず、最終的には業務委託先を確保するためにバック率の競争になりますし、そこに大手資本が参入すると競争環境が一気に厳しくなります。ですので、社員型できちんと人を採用し、育成する方が長続きすると思います。それから、米国では大手金融機関で自分のお客様との信頼関係を築いてからIFAになるケースが多く、年齢的には40代、50代からスタートするのが普通ですが、日本の場合、大手金融機関だと転勤が多いので、自分のお客様との信頼関係を築く前に、他の場所に転勤を命じられてしまいます。だから、むしろ体力のあるうち、たとえば30代くらいからのスタートでも良いと思います。失敗したとしても、まだやり直しも十分に可能ですから。

大原   資産管理のアプローチ方法として、ゴールベース・アプローチを取り入れていらっしゃいます。個人の夢や目標を設定して、その実現から逆算して資産管理をしていこうというアプローチですが、これを取り入れている理由は何ですか。

中桐   これもお客様のニーズを重視したいからなのですが、メリルリンチでもこのアプローチを使っていたのです。金融機関の営業で嫌なのは、手数料を稼ぐために、お客様のニーズを無視してどんどん売買させることです。そうではなく、まずお客様がなぜ資産運用をしたいのかを伺い、対話を重ねるなかで徐々に潜在的な動機を聞き出して、その目的を実現するためにはこうしたら良いのではないかといった提案が出来れば、楽しいじゃないですか。

大原   潜在的な動機を聞き出すのって、かなり難しいと思うのですが、それは経験がものを言うのでしょうか。

中桐   これは、まさに保険代理店がお客様に対して行っているのと同じアプローチなのです。保険は万が一のことを考えて入るものですから、お客様とのやりとりをするうえで、お客様にとって嫌なことも聞き出さなければなりません。ですからファクトファンディングとかゴールベース・アプローチといったコンサルティング能力に長けているのです。実際、うちで活躍してもらっている女性アドバイザーは保険会社出身です。長期的なお付き合いのなかで、お客様が何を不安に思っていらっしゃるのかをすくいあげて話をどんどん引き出せるのは、証券会社よりも保険の営業担当者の方が優れていると思います。

大原   IFA業界のリーダーとして、今、考えている問題意識、ビジョン、ファイナンシャル・アドバイザー協会を通じて行っていきたいことを教えて下さい。

中桐   これまでなかなか日本にはIFAのロールモデルがありませんでしたから、それを示したいと考えています。それによってIFAの認知度を上げ、かつ新しく入ってくる人たちに、お客様のライフステージに合わせたライフプランニングや、総合的な運用アドバイスが出来るようになるための教育も行っていきたいと思います。

大原   私たちは日本のTAMPになるべく、さまざまな展開を行っているのですが、IFA業界においてこの手のプラットフォームはどういう存在意義を持つと考えますか。

中桐   必要だと思います。やはりIFAとして新規参入する時、TAMPのようなプラットフォーマーがいて、新規事業者を支援してくれるのはとても心強いと思います。今、日本にはTAMPのような会社がないので、その意味でもJAMPには期待しています。

大原   ありがとうございました。

 

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