2020.04.17インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者たち】 フューチャーベンチャーキャピタル株式会社代表取締役社長 松本直人氏 「地元企業の成長に寄与する金融を構築する」

松本直人氏(フューチャーベンチャーキャピタル株式会社 代表取締役社長)

聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)

フューチャーベンチャーキャピタル株式会社(以下FVC)は、京都に拠点を構えているベンチャーキャピタルです。今回の対談相手である松本直人代表取締役社長は、創業者から数えて3人目の社長として、新しい金融のモデルを構築しつつあります。これからFVCが目指す金融ビジネスとは何なのか。話を伺ってみました。

(新型コロナ肺炎感染拡大の影響に鑑み、今回の対談はオンラインでの開催となりました)

失敗から学び思いついたビジネスモデル

大原   まず、御社の会社概要から教えていただけますか。

松本   1998年に川分陽二さんによって創業されたベンチャーキャピタルです。当時、ベンチャーキャピタルといえば金融機関系と相場が決まっていましたが、FVCは完全な独立系です。ベンチャーキャピタル業界のベンチャー企業という位置づけで、2001年に当時のナスダック・ジャパンに株式を上場しました。ハンズオン型のベンチャーキャピタルなので、アーリーステージの企業に投資し、その企業の経営のお手伝いをしながら企業価値を上げていくという投資スタイルを取っています。また2001年以降は地方に目を向けるようになり、地方から上場企業を生み出すための地方創生ファンドを運営するようにもなりました。

大原   地方創生ファンドを始めたきっかけは何だったのですか。

松本   当時、石川県の谷本知事が地元企業を上場させるためのベンチャーキャピタルを誘致しようと考えていて、FVCに白羽の矢が立ったのです。地方銀行と地元企業、中小企業基盤整備機構の出資を受けて15億円のファンドを組成しました。その後、岩手県や三重県、青森県など、2008年までに全部で9つのファンドを立ち上げたのですが、結果的にはリターンをあげる事ができませんでした。

大原   9本ものファンドを立ち上げられたこと自体は成功事例だと思うのですが、どういう点でうまくいかなかったのですか。

松本   投資対象を地方に限定したファンドの特徴的な事例として、ある地方銀行と一緒に二人組合のスキームで組成したベンチャーファンドを例に説明します。総額5億円の出資金で、県内企業11社に投資して、何とそのうち6社が上場に漕ぎ着けました。全国的に見ても、地方に限定したベンチャーファンドのうち、上場企業数は最多だったといえ、大成功といっても良いくらいでしょう。

ただ、問題は資金回収です。5億円の出資総額に対して回収できた総額は2億5000万円程度でした。 資金回収がうまくいかなかった理由は2つありまして、ひとつはリーマンショックの影響をモロに受けてしまったことです。株価がほとんど付きませんでした。

もう一つの理由は、地方の優良企業が株式を上場して、それに高い株価が付くかというと、決してそうではない現実を目の当たりにしました。たとえば環境機器の会社やメガフランチャイジー、飲食店などが上場しても、IPO市場での注目度が低く、公募価格も低くなります。そもそもIPO市場は投機性の強い投資家が大勢いますから、バイオやIT、AIなど旬のテーマに乗った企業が注目されます。 もちろん、私たちは地方で優良な企業を育ててきた自負はありましたが、それがリターンに直結しないことに気付いたのです。

ベンチャーキャピタルが抱える根深い問題点

大原   私が経営者だったら、その失敗から学んで地方よりも中央に軸足を置こうとしますが、FVCはその後も引き続き地方重視ですよね。それはなぜですか。

松本   それがFVCの存在意義だからです。必要なところに必要なお金を融通するという金融の本質を貫くことがFVC創業の思いです。地方には良い会社がたくさんあります。そういう企業にリスクマネーを供給し、一緒になって事業を育てていくことがベンチャーキャピタリストとしての使命だと思っていますから、他のベンチャーキャピタルと同じように中央で、かつ旬のテーマに沿った企業にばかり投資するようになったら、FVCではなくなってしまいます。だから地方企業に拘っているのです。ただ、やり方を変えなければ駄目だということも分かっていたので、そこを一所懸命に考えました。

FVC代表取締役社長 松本直人氏

大原   どこを変えようと思ったのですか。

松本   ベンチャーキャピタルの問題は、リターンを確保できる回収手段がIPOしかないことです。また、ベンチャーキャピタルが投資する際には運営するファンドの期限内に回収しないといけないため、あらかじめ何年でIPOしてくださいという期限を決めているのですが、ファンドの期限まで残り1年になってもまだIPOの見込がないと、投資先企業に株式の買取りを要求します。投資先企業からすればいきなり梯子を外されるようなものです。

そこで今、私たちが組成しているベンチャーファンドは、地域金融機関と私どもの二人組合にして、両者の合意のもとに出資期間を延期出来るようにするのと同時に、IPOしなくてもリターンが得られる設計にしてあります。

大原   投資先企業が株式を上場しなくてもリターンが得られるということですが、その仕組みはどうなっているのですか。

松本   株主が投資先企業に対して自社株買いを請求できる権利が付いた種類株式を発行してもらいます。また自社株買いをしてもらう際には、投資した時の株価に対して、たとえばその1.5倍で買い取るといった条件も付与してもらいます。自社株買いの原資は利益剰余金からしか出せないルールになっているので、投資先企業が黒字にならない限り、自社株買いの請求は行われません。当然、私たちも自社株買いで回収させてもらう必要がありますから、投資先企業に対する支援にも力が入ります。

大原   地域金融機関と組んでベンチャーファンドを組成しているということですが、このスキームに対する地域金融機関の反応はいかがですか。

松本   2012年に盛岡信用金庫の出資で創業支援に特化した地方創生ファンドを立ち上げた後、今に至るまで全部で27本のファンドを立ち上げてきました。徐々に手応えのようなものを感じています。

これは一例ですが、創業期の企業に事業資金を融資の形で供給している地域金融機関の中では断トツの融資残高を誇るある地域金融機関が、その時は企業の創業支援は融資で十分対応できると考えていたようですが、FVCが運営する創業特化型の地方創生ファンドに出資者として参加してもらった時から、見方が大分変ったそうです。

創業融資だといくらリスクが高くてもせいぜい取れる金利は2%程度。しかも融資先企業が黒字になるように経営アドバイスなどを行って、実際に利益が出るようになると、メガバンクのような大きな金融機関に持っていかれてしまうというジレンマに苦しんでいたようなのです。FVCが運営する地方創生ファンドならこの問題を解決できるということで、創業支援は融資よりも投資だとおっしゃって下さっています。

創業支援から事業承継支援へ

大原   今は企業の創業支援のために地方創生ファンドを通じてエクイティに投資してきたわけですが、他にも応用できそうですか。

松本   実は今、創業支援だけでなく事業承継支援にもこのスキームが使えるのではないかと考えて、複数の事業承継ファンドを設立して投資を進めています。地方企業の大半はオーナー経営なのですが、現在の経営者が持っている株式を、その後を引き継ぐ親族外の経営者にうまくバトンタッチするソリューションが皆無といっても良い状態なのです。ただその問題も、エクイティを活用したスキームで解決できるので、それを今、地方の中小企業を中心にして広めていきたいと考えています。

大原   具体的に、どういう形で事業承継支援にファンドを活用するのですか。

松本   事業承継の三大問題は相続税、経営者の個人保証、株式の承継と考えています。このうち直系尊属分の相続税については、新しい相続税法によって手当されましたし、経営者の個人保証についても、中小企業庁を中心にして政策的に禁止の方向に進んでいるので、これもいずれ解決します。

ただ、株式の承継についてはまだ何のソリューションもありません。きちんと利益を出している企業の株式には価値がありますが、それを後継者が引き継ごうとすれば、莫大な資金が必要になります。もちろん株式を承継せず現経営者がオーナーとして保有し続ける方法もありますが、それだと後継者はいつまで経っても経営のイニシアティブを取ることが出来ず、人がついて来なくなります。そのうち、後継者は経営者として成長することが出来ないまま歳を取ってしまう最悪の状態になってしまう恐れがあります。

そこで、後継者が一定期間、きちんと経営をして利益が出るようになったら、創業者が持っている株式を円滑に後継者へ移転できる仕組みを、ファンドを使って出来ないかと模索し、その投資手法を開発しました。その投資手法を用いて、現在3本の事業承継ファンドを設立しました。

大原   地域金融機関の存在価値は、地元企業の成長に寄与することによって、金融機関も共に成長できるところにあると思うのですが、その際に今、FVCが組成しているような地方創生ファンドを、地域金融機関のビジネスとして行う動きはないのでしょうか。

松本   本音を申し上げますと、もしFVCが行っている地方創生ファンドと同じスキームが地域金融機関単独で出来るなら、それはやっていただいても良いと思うのです。ただし、地域金融機関が直接企業の株式を保有する事は、銀行法という法律によって業務が限定されているため出来ないと思います。子会社でベンチャーキャピタルを立ち上げる動きもありますが、残念ながらリターン確保のために営業エリア外の都市部のスタートアップに投資している先がほとんどです。理想を申し上げますと、FVCと協働しなくても、地域金融機関が自立してこのスキームによる地元企業への資金供給が出来れば良いと思います。

大原   地域金融機関は、自分たちでは出来ない部分、あるいは他の金融機関と共有できる部分についてはどんどん外出しすれば良いと思います。日本資産運用基盤もそういう考えに基づいて、地域金融機関のミドルオフィス機能を外出しできる環境を整えつつあるのですが、FVCのビジネスもそれとかなり近いような気がします。外出し出来るものは外部委託に回し、地域金融機関は自分たちが強みを発揮できる分野に集中していけば良いのではないでしょうか。

松本   その通りだと思います。地域金融機関さんと共にファンドを運営して気づいたのですが、ファンド業務に関わった地域金融機関の職員さんの目の輝きが変わってくるのです。本来の地域金融機関の姿として、融資先を育てて、リターンを共有できるビジネスモデルを構築する必要があると思うのですが、残念ながら今の地域金融機関は金利競争に注力し、融資先が成長しようがしまいが関係なく、ただひたすら融資残高を伸ばすことだけを求められています。あれだけの職員数がいて、融資先のためになる作業に割く時間がほとんどない。思えばもったいない話です。そういう職員さんたちが私たちのビジネスに触れることによって、改めて地元企業と密な関係を築き、ともに成長していくというビジネスモデルが新鮮なのだと思います。私たちとしては、そういう人たちを1人でも多く増やしたいと考えています。そのためには地域金融機関の人材育成に関わるビジネスも検討していきたいと考えています。

地元企業の課題解決に寄与するプラットフォーマーへ

大原   FVCとしては今後、どういう方向を目指しているのですか。

松本   今、地域金融機関と組んで展開しているファンドは、言うなればフランチャイズに近いスタイルです。私たちが持っているファンド運営の機能や投資ノウハウを、地域金融機関に対して提供しているのですが、これからはスーパーバイザーとしての機能を強化しようと考えています。

ベンチャーキャピタルだけでなく、人材教育も含めて幅広く地域金融機関、地元企業の成長・発展につながるような機能を充実させたいですね。エクイティ投資が出来る人を、地域金融機関の中に1人でも多く増やしたいですし、地域金融機関が求めるスキルを持った人を派遣する人材派遣ビジネスにも興味があります。

そして最終的には、地元企業が持続的な成長をしていくために必要なさまざまなソリューションを提供できるプラットフォーマーになりたいと思います。

大原   ありがとうございました。