2020.11.27インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達 No.14】 株式会社だいとく投資ビレッジ 代表取締役社長 山田明弘氏 「選択と集中と追求で地域密着型の金融機関を目指す」

山田明弘氏(株式会社だいとく投資ビレッジ 代表取締役社長)

聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)

IFA(金融商品仲介業)事業者は、証券会社から独立した営業担当者が会社を設立するケースが殆ど全てといっても過言ではありません。でも、今回取り上げさせて頂いた「だいとく投資ビレッジ」は、名古屋の地場証券会社であった大徳証券を業態転換させ、金融商品仲介業をスタートさせました。なぜ業態転換を図る経営判断に至ったのか、どういう会社を目指しているのかなどについて、代表取締役社長の山田明弘氏にお話を伺いました。

地場証券会社から金融商品仲介業者へ

大原  御社はもともと大徳証券という名古屋の地場証券会社から金融商品仲介業者へと業態転換を図って今に至っていますが、そもそもなぜ業態転換をしようと思ったのですか。

山田  2013年に「大徳証券」という証券会社から、「だいとく投資ビレッジ」という金融商品仲介業者に業態転換したのですが、直接的なきっかけは収益の悪化です。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災によって、営業収益がピーク時の半分にまで落ち込みました。

ただ、それらは単なるきっかけに過ぎません。本音のところでは、私は以前から証券会社という金融機関の在り方に対して、違和感を覚えていて、その違和感を払拭するためにはどうすべきかを考え続けていました。

ですから、リーマンショックや東日本大震災の影響で収益が半減したことが、かねてから証券業界に対して抱いていた違和感を払拭する行動を起すために、背中を押してくれたようなものです。

大原  証券会社の在り方について違和感を覚えたということですが、具体的にどういう点についてそう思ったのですか。

山田  証券会社の業務は、お客様の口座管理と預かり資産の管理、業務や財産の健全性を確保するために自己資本規制比率の維持などを図る「バックオフィス」、市場仲介機能として金融商品の組成、流通、振替、決済を行う「ミドルオフィス」、お客様へのアドバイスや金融商品の売買を行う「フロントオフィス」に大別されます。

この「バックオフィス」から「フロントオフィス」を一貫遂行して初めて証券会社の看板を掲げられるのですが、専門性の高い人員の確保や潤沢な資金が必要になります。

しかし、残念ながら当時の大徳証券は、人員の確保がままならず、潤沢な資金も無かったので、バックオフィスやミドルオフィスを維持するのに必要な高コストを賄うため、営業担当者にノルマを負わせるしか方法がありませんでした。

これでは、お客様に喜んでもらえるサービスなんて生まれる訳がありません。自らの高コスト体質をカバーするためにお客様に犠牲を強いるようなビジネスモデルがまかり通っている現状に違和感を抱いていたのです。

地域に密着した「金融機関」を目指す

大原  なぜ金融商品仲介業という業態を選んだのですか。

山田  私たちの人生は、さまざまな場面で金融との付き合いが生じます。子供の頃、お小遣いを貯めるために銀行口座を開き、社会人になって資産形成に関心の高い人は証券会社と付き合うかも知れませんし、結婚したら家族に対する責任で生命保険に加入するでしょうし、家を買おうとしたら銀行で住宅ローンを組みます。

でも、証券会社で住宅ローンを組むことは出来ません。サービスを提供するお客様は、人生のさまざまな場面で、さまざまな金融のニーズを持っているにも関わらず、私たちが証券会社の立場でお客様に対してご提供できるのは、あくまでも有価証券の売買仲介や有価証券投資のアドバイスだけでした。

これではお客様が抱えているお金の悩みに100%応えることはできません。よくよく考えてみると、証券会社、銀行、保険というように分かれているのは金融行政の都合によるものであり、なぜ民間である私たちが、それに合わせてそれぞれ別個に金融サービスを提供しなければならないのか、ということを突き詰めて考えていった時、金融商品仲介業なら工夫次第でお客様により寄り添った幅広いサービスを取り扱うことができるのではないかと思うに至ったのです。

大原  金融商品仲介業であれば、保険代理店等を兼営する等して、その問題を解決できると考えたのですね。

山田  そうです。ただし、単に金融取引を仲介するだけの存在ではなく、お客様に密着してその金融ニーズを汲み取るのと同時に、弊社とお付き合いいただければ、銀行に普通預金口座を持つだけで、それ以外の金融サービス、たとえば資産運用、積立投資、生命保険、損害保険、ペット保険、住宅ローン、iDeCo(個人型確定拠出年金)、企業型確定拠出年金、事業承継におけるプラットフォーマーの紹介に至るまでのトータルアドバイスとワンストップサービスを受けられるようにしています。

預金や融資、決済は銀行で、資産運用は証券会社で、保険は保険会社で、というように、金融取引の種類に応じて異なる金融機関に口座を開き、アドバイスを受けたりすると、一貫性が無くなりますし、顧客の利便性も低下します。それを解決するためには、保険代理店も営む金融商品仲介業が一番だと考えたのです。我々が目指すのは、本当の意味で地域に密着した金融機関です。

大原  最近は地場証券会社で金融商品仲介業への業態転換を検討しているところが増えています。でも、その大半はダウンサイジングを余儀なくされていると受け止めているように思えますが、御社の場合はどちらかというと拡大方向への意識が強いようにも思えるのですが、いかがでしょうか。

山田  当社はお客様と幸せになり、幸せを分かち合うことを理念とするべく、「共生共幸」を掲げています。この理念を遂行するため、お客様やその家族、あるいはその一族とのお付き合いを尊重したいと考えています。

また富裕層や若年層など、保有資産の規模や年齢などでターゲットを絞るのではなく、当社の営業拠点がある街の皆さまと共存するコンセプトで、地域密着型の金融機関を目指しています。

それを実現するうえで、月並みではありますが、選択と集中を実行してきました。といっても、不採算部門などをどんどん切り捨てて特定の業務に集約するということではありません。

本当の意味でお客様のためになる金融機関の在り方を徹底的に考え、それを実現させるうえで必要な機能に経営資源を集中させるのと同時に、お客様に提供するサービスを拡大して、顧客満足度の向上を徹底的に追及します。その意味では、選択と集中と追求、ということになりますね。

そして、その追求するところとして、私たちは地元密着型の金融機関というコンセプトをどんどん発展させていきたいと考えています。

業態転換で苦労したこと

大原  大徳証券という証券会社から金融商品仲介業者であるだいとく投資ビレッジへの業態転換は、スムーズにいきましたか。

山田  大徳証券は私の祖父が設立した証券会社です。それを父が引き継いだわけですが、創業から60年以上が過ぎて、今後あるべき証券会社の像を思い描いた時、やはりバックオフィス、ミドルオフィスのような重いところを抱えたまま、お客様にサービスを提供し続けるのは非常に難しいという考えに至りました。

当時、私は大徳証券の取締役でしたが、この考えをもとにして金融商品仲介業に業態転換するしかないと決断するまで、約半年くらいかかりましたね。当時、社長だった父からすれば、証券会社の看板を下ろすことについて相当勇気が必要だったと思いますが、最終的には金融商品仲介業に業態転換することを認めてくれました。

こうして取締役会に諮り、業態転換させることを決議して半年後には、金融商品仲介業としてスタートしました。

財務局との折衝も、途中でなかなか前に進まない場面もありましたが、最終的には前向きに考えていただけましたし、日本証券業協会も証券外務員登録について、2012年末までは大徳証券で登録された証券外務員、2013年1月からはだいとく投資ビレッジで登録された証券外務員ということで、シームレスに外務員業務が出来るように取り計らって下さいました。当時はまだ証券会社から金融商品仲介業への業態転換は先例が無かったのですが、その割には周りの皆さまのサポートもあって、スムーズに進んだと思います。

大原  業態転換についてお客様や大徳証券の社員だった営業担当者の皆さんはどう反応されましたか。

山田  営業担当者はかなり戸惑ったと思います。そもそもIFAの存在自体を知りませんでしたから、これから自分たちがどうなるのか不安だったと思います。ですから定期的に勉強会を開いて、IFAがどういうものなのか、今度だいとく投資ビレッジとしてどういう方向を目指すのかということを必死に話しました。

お客様にも業態転換をすることを伝えましたが、意外なことにお付き合いの長いお客様ほどすぐに理解していただけました。担当者が変わらないことの安心感も大きかったのではないでしょうか。

大原  ただ、株式や投資信託などの証券投資はともかく、それに生損保、ペット保険、住宅ローン、事業承継なども含めて横断的に、幅広く対応するとなると、アドバイザーの皆さんの研鑽も非常に大変ではありませんか。

山田  これは本当に大変だと思います。一番苦労するところですね。現在は月1、2回の社内勉強会に加えて、業務委託契約先となっている各証券会社が企画してくれている勉強会にも積極的に参加するように言っています。

確かに、横断的に幅広い商品・サービスを扱いますから、勉強も大変だとは思うのですが、たとえば生前贈与で悩んでいるお客様に対して、単なる贈与税の法的説明と贈与支援で終わるのではなく、みなし相続財産を利用した生命保険の活用や、受贈者側に対しては、納税資金確保を目的とした資産運用のアドバイス、更には会社を承継する意向があるならばそのサポートなど、お客様へのサービスをトータルでアドバイスし、かつ実行支援まで提案できるのが、だいとく投資ビレッジとして目指すところです。

ですので、当社のアドバイザーには苦労をかけますが、地域密着型の金融機関としてあるべき姿を追求するために、努力してもらっています。

現場の声を聞き顧客ニーズに柔軟に対応する

大原  金融商品仲介業や保険代理店といった業態が今後増えていくなかで、業務委託契約先となる証券会社、銀行、保険会社などとの連携も、これからは増えていくのでしょうか。

山田  これは増えていくと思います。ただ、証券会社、銀行、保険会社などとの連携といっても、以前とは形が変わったものになるはずです。

以前は証券会社や銀行、保険会社が金融商品を組成して、それを仲介業者、代理店に卸して、「はい、それでは売って下さい」ということでしたが、これからは現場で投資家や消費者、契約者と密につながっている仲介業者や代理店が顧客ニーズをすくい上げて、その情報を証券会社や銀行、保険会社に流すことによって、より顧客ニーズを反映した商品やサービスを組成してもらうという流れになると思います。

これは家電販売の世界と同じです。昔は日立、松下、東芝の販売店があって、メーカーはそこに商品を卸し、販売店がその商品を売るという流れで、価格決定権はメーカーが握っていましたが、今は量販店が全国規模に広がり、オープン価格ということで価格決定権を握るようになりました。

それと同じことが今後は金融の世界でも起こります。証券会社や保険会社は、現場の声に耳を傾けて商品開発を進めるようにしないと、いずれ立ち行かなくなるでしょう。また、私たち金融商品仲介業者もお客様から選ばれる立場ですので、お客様の声を聞き、顧客ニーズに対して柔軟に対応できるようにならないと、お客様が離れていってしまいます。

いずれにしても、現場やお客様が力を持ってくるなかで、金融商品仲介業者と証券会社、保険代理店と保険会社の力関係は大きく変わっていくと思います。

大原  コミッションのすべてが悪だとは思っていませんが、実際のところフィーベースとコミッションベースのどちらが良いのでしょうか。

山田  お客様とウインウインの関係を構築していくうえでもフィーベースが良いと思いますが、コミッションベースが悪である考えはありません。

と言いますのも、当社でお客様のご意向に背いた回転売買を発生させていないからです。むしろ、お客様からの取引要望について危険性を感じたり、手数料を考慮していないご意向があったりした場合は、お客様に「待った」をかけることもあるくらいです。特に、投資信託において短期で乗り換える事例は、お客様からのご意向以外はありません。

しかし、護送船団方式から続く手数料体系を、大半の対面型証券会社で採用していることについては違和感があります。お客様が受けたサービスに対する満足感、納得感を、果たしてあの手数料体系は表現できているのかという点は疑問ですね。ネット証券の躍進は、対面型証券会社の手数料改革の怠りも要因ではないかと思われます。

弊社では新たな収益の創造として、お客様に十分な付加価値のあるライフプランの設計をサービス化したい考えがあります。そのため投資助言・代理業務の登録を視野に入れることも必要だと考えており、その収益においては、サブスクリプションや預かり資産フィーの導入を意識しています。いずれにしても、お客様にとって分かり易く、納得できる料金体系が理想です。

大原  地域密着型にこだわっていらっしゃるように見受けられるのですが、営業拠点の拡大などは考えていらっしゃいますか。

山田  現在、本社は名古屋市およびその近郊がテリトリーで、あと岐阜県の関市に支店がありますが、この支店は中濃地区に限定しております。遠方のお客様もいらっしゃるのですが、あまり遠方になると私たちのサービスを十分にお伝えできない部分があるので、今後さらにエリアを拡大するのであれば、新しい店舗をつくっていくことになるでしょう。お客様だけでなく、その家族、あるいは一族を含めてお付き合いしていくのが理想ですので、そのためには地域密着型でなければなりませんし、それを可能にするには、お客様が住んでいる地域で一緒に同じ空気を吸って、ああでもない、こうでもないとさまざまな提案をしながら、プランを組み立てていくことが大事だと思っています。

大原  ありがとうございました。

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