2021.07.26インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達 No.20】 ファンズ株式会社 代表取締役 藤田雄一郎氏 「フィンコミュニティで新しい金融の価値を創造する」

藤田雄一郎氏(ファンズ株式会社 代表取締役)
聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)

年々、市場が拡大しているクラウドファンディング。今までにない金融のスキームとして注目を集めています。企業にとっては銀行借り入れでもない、債券発行でもない新しい資金調達手段であり、投資家にとっては株式や預金の間を埋める運用手段ですが、発展途上のマーケットということもあり、大きな可能性とともに様々な課題があるのも事実です。そこでコンプライアンス・ファーストを掲げ、新しい付加価値を提供しているのが、今回お伺いしたファンズ株式会社です。その代表取締役である藤田雄一郎氏に話をお聞きしました。

ファンベース的な資金調達スキームを提供

大原  この度、福岡銀行を借り手とする「アゴーラ福岡山の上ホテルファンド#1」というこれまでにない新しいお取り組みを発表されました。おめでとうございます。

藤田  ありがとうございます。

大原  一般的に銀行が行う融資は預貯金を通じて集めた資金を企業などに貸し出すのですが、このファンドのスキームはクラウドファンディングで集めた資金を福岡銀行に貸出し、福岡銀行はその調達した資金をアゴーラ福岡山の上ホテル&スパの運営会社への融資資金に利用するという、非常にユニークなものですが、これは御社から福岡銀行に提案したものなのですか。

藤田  そうです。結構、奇想天外なスキームだったせいか、方々で注目されたみたいですね。準備に1年くらいかけて福岡銀行様にご提案差し上げました。こういう新しいスキームも取り入れていただけたところに、福岡銀行様の懐の深さというか、新しいものにチャレンジしていく新しい金融機関像を見た気がします。

大原  御社のホームページには、新しい資金調達ということで、「ファンも作れる資金調達を始めませんか?」とあります。このファンベース的な資金調達スキームを考え付いたのは、どういう経緯だったのですか。

藤田  いろいろとサービスを拡大していくなかで試行錯誤を繰り返して、生まれてきたのがファンベースの考え方でした。どうやら投資をすると、その企業のことが好きになるらしいということは何となく分かっていたので、これを上手くファイナンスと結び付けられないだろうかと思ったのが発端ですね。

実際、アンケートを取ってみたのですが、「Fundsで投資対象企業を知りました」という方を対象にして、さらにいろいろ聞いていくと、その投資対象企業について「好感が持てる」、「応援したくなる」という人が8割とか9割いらっしゃいました。そして、6割くらいの方が「実際にサービスや商品を購入したくなる」、2割くらいの方が「株式を持ちたくなる」という結果があって、これは結構面白いぞと興味を惹かれました。

当然といえば当然なのですが、皆さん、自分の身銭を切って投資するわけですから、投資対象企業のことをよく調べますよね。そのなかで、普段ならあまり知ることもないような情報を、投資判断を下すという意志決定プロセスのなかで知ることになるわけですが、その方が新聞や雑誌、テレビなどマスメディアの広告などよりも、はるかに意識の中に入りやすくなるのではないかと考えたのです。

そんな時、たまたま何かの記事に、カゴメが「ファン株主」という概念を立ち上げられていて、株主になると消費量が10倍くらいに増えるということが書かれていました。それを見て、私たちが扱っているのは株式ではありませんが、これをレンディングに応用できるのではないかと思いつきました。そうすることで、これまでは資金調達という側面からしか企業にアプローチできなかったのが、ファンづくりという新しい側面でのアプローチが可能になり、同時に投資家の皆さんにも、これまでとは違う魅力を持った案件としてご案内できるということで、電通さんたちとコンセプトを練り、「FinCommunity Marketing(フィンコミュニティマーケティング)」という、従来の金融とは違ったロジックを考え出したのです。

大原  フィンコミュニティマーケティングというのは。

藤田  私たちの造語なのですが、「フィナンシャル(金融)」と「ファンコミュニティマーケティング」の掛け合わせです。投資でも融資でも、お金を出すと人は応援したくなるので、単なる資金調達手段だけではなく、ファンド組成を通じて自分たち企業を知ってもらい、投資期間中にさまざまなコミュニケーションを投資家と取っていただきながら、最終的にはファンやお客様になってもらうという、企業と個人の出会いの場をつくることに狙いがあります。

資金調達手段としての機能が高まる

大原  このスキームは、確かに投資家にとっては今までと違う、ちょっと面白い仕組みの投資手段になると思うのですが、一方で資金調達をする企業側にはどういうメリットがあるのでしょうか。御社はコンプライアンスを重視しているため、基本的に上場企業を借り手としたスキームということでしたが、上場企業にはさまざまな資金調達手段があるので、敢えてこのスキームを活用するメリットがどこにあるのかを教えて下さい。

藤田  Fundsを使って資金調達をして下さっている企業の半分はマーケティングを加味した資金調達です。でも、残りの半分は純粋な資金調達でご利用いただいております。弊社が徐々に成長してきたことのひとつの証のようなものです。

以前は弊社の信用力が低かったこともあり、どうしても調達金利が3%、4%というように上がってしまい、信用力のある企業にとっては弊社 サービスを使う意味は無かったのですが、この2年くらいで調達金利が下がってきました。結果、上場企業のなかでも、たくさんの資金を調達したいところからすると、新株発行や社債、銀行借入れなどいくつかの資金調達手段があるなかで、それらを補完するものとして、弊社サービスであるFundsを見ていただけるようになりつつあります。

たとえば10億円の不動産を購入する場合、7億円を銀行からの借入で賄えるものの、3億円については自己資金を集めなければならないという時に、Fundsを利用していただくというイメージですね。

大原  以前は投資家の方々からすれば利回りの高さが魅力になっていて、新しいファンドが立ち上がると応募が殺到し、すぐに満額成立してしまう状態が続いていましたが、利回りが少し下がった今はどうですか。

藤田  相変わらず投資家の皆さんからはご支持いただいていますが、Fundsで資金調達する際の資金規模が徐々に大きくなってきているので、以前に比べて応募しやすくなっていると思います。

それに加えて、Fundsを資金調達ルートとして見て下さる企業が増えてきているので、その分だけ投資家の皆さんにご案内できる案件がどんどん出てきています。ですから、以前に比べれば投資しやすくなっています。

コンプライアンス・ファーストを心がける

大原  プラットフォームの成長という点について伺いたいのですが、もともと御社はクラウドポートという社名でスタートして、当初はクラウドファンディングの比較サイトからスタートされましたが、その当時から段階的に、いつかは自社の信用で今のような事業を行おうと思っていたのですか。

藤田  はい。ゆくゆくはマーケットプレイスの事業に乗り出していこうと思っていたのですが、今の弊社が行っている事業を行うためには、第二種金融商品取引業登録が必要になります。それを取得するのに結構時間がかかるので、まずはメディアから立ち上げて、個人の方々との接点をつくり、認知度を高めていったのです。

一貫して申し上げてきたのは、投資家が比較検討しながら投資しやすい環境を整備することによって、一人でも多くの人が資産運用の世界に入って来られるようにしたいと思っていました。そのコンセプトはクラウドポートの時代も、今の弊社で行っている融資型クラウドファンディング事業も同じです。

当時は個人投資家がクラウドファンディングに投資したいと思っても、比較検討するサイトが無かったので、その課題を解決するためにクラウドポートがありました。

大原  御社の最大の特徴として、コンプライアンスやリスク管理にかける想いが非常にしっかりしているという印象を受けるのですが、それは藤田さんの問題意識のようなものがあったからですか。

藤田  そうですね。この業界に携わるようになって、かれこれ10年が経つのですが、企業に資金を供給し、投資家には利回りを提供するというこのビジネスには、非常に高い可能性を感じていました。

ただ、問題が多かったのは事実です。投資家から集めた資金を、約束していたのとは全く違うことに流用したとか、借り手である企業があっさり倒産してしまったとか。いろいろなことがあったので、この領域で事業をやるとしたら、とにかく法令順守とガバナンスが大事だと思っていました。

だからこそ、経験と知識を兼ね備えた、しっかりした人物に入ってもらって、借り手を上場企業中心にして、投資家の皆さんに安心感を提供しています。

弊社には「コンプライアンス・ファースト」というバリューがあって、これはスタートアップ企業では非常に少ないと思います。スタートアップ企業は勢いが大事なので、多少、コンプライアンスに欠ける部分があったとしても、とにかく突っ走る傾向があるのですが、弊社はとにかくコンプライアンス・ファーストを掲げて、そこにかけるコストは惜しまないようにしていますし、朝礼やミーティングでも必ずこの点に触れて、社員全員に周知徹底を図っています。

スタートアップという言葉に甘えてはいけないと思っています。私たちの仕事は、お客様の大事なお金を預かることですから、そこをしっかり自覚しなければなりません。企業として成長を求められますが、成長を求めるあまり杜撰なことをしたりしないよう努めています。多少、成長が鈍化したとしても、コンプライアンス・ファーストの体制づくりをしっかりしていきたいと思います。

「まだない答え」を提供する

大原  将来的には株式型クラウドファンディングなどにも参入していくのですか。

藤田  私たちが投資家の皆さんにご提供できるバリューは、利回り型の金融商品で運用できる機会をご提供することにあります。株式や投資信託をはじめとして、価格変動型商品は幅広く提供されていますが、この超低金利で利回り型の金融商品はほとんど無くなりました。

でも、やはり投資家の中には利回り型の金融商品を求める人もいらっしゃいます。そのニーズに応えるのが、私たちのビジネスの付加価値と言っても良いでしょう。そこはぶれないようにしたいので、株式型は当面、提供する予定はありません。

大原  たとえば借り手をスタートアップ企業にまで広げるとか、プロジェクトの資金調達も行うなど多様化を進める可能性はありますか。

藤田  大前提として、投資家の皆さんが安心してお金を出せる、投資できるものを提供していきたいので、その条件さえクリアできるのであれば、プロジェクトでも未上場企業でも良いと考えています。

大原  冒頭でも触れましたが、「アゴーラ福岡山の上ホテルファンド#1」は非常にインパクトのあるスキームだと思いました。投資家が取るリスクはあくまでも借り手である福岡銀行ですから、投資家としても非常に安心感があります。このスキームに乗ってくる企業はどんどん増えるのでないでしょうか。

藤田  そうですね。投資家の皆さんが取るリスクはあくまでも福岡銀行の信用リスクになりますから、やはり安心感はあると思います。加えて、福岡銀行の貸出先であるアゴーラ福岡山の上ホテル&スパのクーポン券がもらえますし、それを投資家が使うことによって、アゴーラ福岡山の上ホテル&スパの知名度も上がります。それも単なる広告とは違う形で知名度を上げることが出来ますから、誰にとってもメリットのあるスキームだと思います。これからもこのスキームを展開していきたいですね。

大原  ファンづくり、マーケティング、そして地方創生にもつながっていくスキームですから、他の地域銀行からの問い合わせも増えるのではありませんか。

藤田  そうですね。すでに他の地域銀行とも話を進めています。「未来の不安にまだない答えを」というのが弊社のミッションなのですが、未来の不安というのは、やはりお金の不安ですよね。それを解決するために、「まだない答えを」ということなのですが、これは既存のソリューションであれば私たちがやる必要はないわけで、やはり私たちが手掛けるからには、スタートアップらしく、今までにないアイデアやテクノロジーを駆使して、皆さんをアッと驚かせるようなスキームを提供していければなと考えています。

大原  ありがとうございました。

 

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