2021.10.12インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達 No.22】 衆議院議員 小倉 將信氏 「政策立案の最前線で描く金融のグランドデザイン」

小倉 將信氏(衆議院議員)
聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)

今回は、この「金融ビジネス/最前線の変革者たち」企画で、初めて国会議員の方にご登場いただきます。日本銀行出身で、現在は自由民主党所属の衆議院議員として、同党の金融調査会の事務局長も務められている小倉將信氏です。政治の世界から見える金融業界の問題点、政策面で必要なことは何なのかなどを伺いました。

国会議員を3期務めて

大原  小倉先生は以前、日本銀行に勤めておられ、9年前に自由民主党から立候補して衆議院議員になって、今は3期9年目ですね。毎回、選挙では圧勝という印象を受けるのですが。

小倉  そうでもありませんよ。小選挙区制ですから、選挙の時は本当に最後の最後まで気が抜けません。選挙の度に獲得票数のアップダウンも激しいですし、緊張しますし、疲弊します。

大原  昨年11月にはご著書も出されました。「EBPM(エビデンスに基づく政策立案)とは何か 令和の新たな政策形成 」というものですが、恥ずかしながら、この本で初めてEBPMという考え方を知りました。

小倉  エビデンスの定義は人によって違うのですが、私の場合は、その政策の因果関係を示したうえで、正確に因果関係を証明していくことを重視しています。

役所は時々、「業界ヒアリング」と称して専門家から話を聞いたうえで、「専門家がこのように言っているのだから間違いないだろう」という結論を下すことが往々にしてあるのですが、実はEBPMの世界では、この手の定性情報は階層の低いエビデンスであり、定量分析や、RCT(ランダム化比較試験)と言われている自然科学の実験に近いものを用いて因果関係が立証されたエビデンスが最上とされています。

もちろん政策に関しては完全な自然科学ではないので、どこまでRCTを追求できるのかという問題はあるのですが、出来る限りにおいて、エビデンスを積み上げたうえで政策を進めましょうというのが、この本の骨子になります。

大原  なるほど。私の領域である金融においても、よく有識者ヒアリングが行われていますが、あれもバイアスがかかっている可能性はありそうですね。

小倉  人によっては、非常に面白い内容ではあるのですが、「それって本当なの?」と、思わず首を傾げたくなるような話を平気でされる方もいらっしゃいます。

ただ、私が所属している自由民主党は部会や調査会が頻繁に行われていて、その場で最先端の話をさまざまな方からお伺いする機会をいただけていますので、恐らく話の内容の真贋を見極める目は、普通の生活をされている方たちに比べれば持っていると思います。

日銀を辞めて政治の世界に

大原  まず、今までのキャリアを教えていただけますか。

小倉  日本銀行には7年半おりました。入行して最初の1年間は鹿児島支店です。その後、国際局に配属されて、G7やG20といった国際会議の仕事に携わった後、イギリスのオックスフォード大学大学院に留学したのですが、ちょうどその前後にリーマンショックが起こり、国際金融の枠組みが大きく変わっていく様をつぶさに見ることが出来ました。具体的に申し上げますと、国際金融の枠組みがG7からG20へとシフトしていったのです。

留学から戻ってきて金融機構局に配属され、ここでは日本国内で活動している金融機関のリスク管理・モニタリングの業務に関わりました。この部署はとにかく学ばなければならないことがたくさんあって、なかなか大変な思いをさせられたのと同時に、日本に現地法人を置いている外資系金融機関のリスク管理・モニタリングがいかに難しいかということを実感させられました。

現地法人といっても、本国法人が経営危機に陥れば、日本の金融市場に影響が及びますし、だから本国法人がどのようなリスクを抱えているのかを把握しようにも、情報開示が全く進まない状態でしたから、現地法人が持つリスクの管理・モニタリングは困難を極めたのです。

このように日本銀行ではさまざまな経験を積ませていただいたのですが、もう少し手触り感があり、かつ公共に関わる仕事をしてみたいという気持ちが強くなり、それなら政治も面白いのではないかと考えて2011年、日本銀行を退職して、自民党東京都連の公募に申し込み、2012年12月の衆議院議員総選挙で初当選させていただきました。

大原  自民党の議員は、もちろん大勢いらっしゃいますが、金融分野になるとあまり深く関わっておられる議員が少ないように思えます。これはなぜなのでしょうか。

小倉  金融業界出身の議員は結構いらっしゃるのですよ。ただ、金融ってあまり政治活動に関わることがないのですね。

たとえば農業関係であれば農作物の輸出入問題があり、厚労関係であれば医療や介護の問題、国交関係であれば地元に橋を造ってくれとかトンネルを掘ってくれというように、絶えず政治と密接に絡んでいるからこそ、政治家としては有権者に訴えられる部分があるのですが、金融って有権者にいろいろ話をしても、有権者の皆さん自身も、本当は自分の生活に密接な関係はあるのですが、なかなか自分事として捉えにくい面があるのだと思います。

だから金融出身でも、議員になるともっと有権者に訴えられる分野で専門性を磨くようになるのでしょうね。

令和のビッグバン

大原  日銀出身の議員として、どこにご自身の付加価値を築きますか。

小倉  この3年間、金融調査会の事務局長を務めさせてもらっているのですが、金融庁という官庁を考えた時、いくつか特色があって、まず規制官庁であることが非常に大きいと思います。

バブル経済が崩壊して金融危機が訪れ、金融監督庁から金融庁に模様替えした時の最初の使命が、銀行の不良債権処理でした。だから、どうしても金融システムに問題が生じないようにするため、金融機関を規制する官庁という役割が強く求められたのは事実です。

経産省や国交省などは規制官庁であるのと同時に、所管業界を振興させる役割・機能も持っていますが、金融庁の場合、どうしてもそこが弱い。そのため、銀行の規制緩和やデジタル化、金融のアンバンドリングにより生まれるフィンテックなど、新しい金融の形を再構築していく時期ではありますが、そこまで金融庁の手が回らないのが現実です。だからこそ政治家が、業界関係者に納得していただける形でグランドデザインを描き、制度整備を進める必要があり、そこに私自身の付加価値もあると考えています。

大原  そういう意味では、金融庁とのコンビネーションを強められた3年間とも言えそうですね。

小倉  そうですね。アドバイスさせて頂くこともあれば教えていただくこともありました。金融庁のスタッフは皆さん優秀ですし、何よりも政府官庁のなかでは先進的な気風を持っていて、改革していこうというマインドを強く持っていらっしゃいます。

大原  金融業界のダイナミズムにもつながっていきますね。

小倉  2015年くらいでしょうか。たまたま私がフィンテックについて発信したところ、記者の方が取材に見えられて「永田町でもフィンテックという言葉が出始めた」という趣旨の記事になりました。それがたったの6年前で、この間にフィンテックが当たり前になって、それをより普及させるための法改正も行われました。

一方で、フィンテック企業と競合関係にある既存金融機関に対しても、これまで動かなかった規制改革をどうするかという議論が出始めるなど、この間の環境変化は「令和のビッグバン」と言うのに相応しいものと考えています。

大原  特に、その6年のうち直近3年の金融業界の変化には瞠目するものがあります。

小倉  規制改革に関する私たちの基本認識は、公平、公正な競争をすることによって、消費者利便につながる政策が望ましいと考えます。

そのなかで、多くのフィンテック企業はベンチャー企業であり、経営体力が脆弱なところも少なくないので、そこは公的にサポートして差し上げる。

反面、巨大IT企業が金融分野に参入する動きが活発化するなか、既存金融機関を規制でがんじがらめにしておくと、対等な競争が出来なくなるので、そこは規制改革を進める。それらを粛々と進めてきた3年間が功を奏して、今の金融のダイナミズムにつながっているのだと思います。

地域金融機関 これからのあるべき姿

大原  自民党の成長戦略を拝見すると、金融セクターに関連したものが多く見られるような気がするのですが、国の成長を考えた時の金融の位置づけとはどういうものでしょうか。

小倉  やはり金融が活性化しないと経済が成長しないのは間違いのないところですが、米国などに比べると、日本はまだまだ上場前の成長企業に対する金融の流れが小さいという、大きな問題を抱えています

また大企業についても、創業からの期間は非常に長いものの、どんどん収益力が低下していく傾向が顕著ですから、やはり金融の力を使って経営戦略を大きく転換させ、収益力を回復させるような手立てが必要です。

さらに言えば、日本経済を支えている中小企業はこれから大事業承継時代を迎えますが、資金面でのサポートを手厚くしていかないと事業承継、事業再生が上手く行かず、廃業に追い込まれるところが増えてしまうリスクに直面しています。

このように企業が抱えている課題はたくさんあるわけですが、問題は金融機関の側に、そうした課題を解決しながら伴走できる人材がまだあまり育っておらず、また資金を供給する手立てが少ないので、それを何とかしていきたいと思います。

大原  大事業承継時代を迎えたなかで、地域金融機関の果たすべき役割は非常に大きく、私としては大きな成長期待を持っているのですが、どちらかというと斜陽産業とみられている印象を受けます。地域金融機関の未来についてはどのように考えていらっしゃいますか。

小倉  地域金融機関の役割は大きくなっていると思います。ただ、金融業界の悪癖と言いますか、良くない点に「あるべき論」が先に来るというのがあります。そのため、目の前のお客様に対してどのようなサービスを提供すれば喜ばれるのか、あるいは収益力を高めるためにはどうすれば良いのかといったことが、後回しにされている感はありますね。

ですから、地域金融機関としてのあるべき姿といったことに囚われず、自分たちの強みをどんどん活かしていけば良いと思います。従前のように地域経済の活性化を重視して、地元の零細事業者と向き合っていく地域金融機関もあれば、DX化を進めるところ、住宅に強いところ、あるいはメガバンクに匹敵する事業規模を持つところなど、さまざまな地域金融機関の形があっても良いのではないでしょうか。

大原  グローバルな観点からの日本の金融についてもお聞きしたいのですが、日本の成長戦略を考えていくなかで、国際金融都市構想の重要性については、どのように考えていらっしゃいますか。

小倉  国際金融センターと呼ばれている都市はいくつかありますが、そのうちロンドンはブレクジット、香港は対中国でそれぞれ問題を抱えています。

日本は長らく国際金融センターのひとつになるべきだということを言ってはきたものの、なかなかそれを実現できないまま今に至っているわけですが、こうした外的要因を考慮すると、今こそ国際金融都市構想を推進していく絶好の機会であると考えています。

実際、政府も東京等を国際金融都市にしていこうという目標を共有していて、外資系金融機関を日本に呼び込むうえで必要な税制改正をはじめ、行政の体制整備や在留資格の緩和など、多くの規制改革を実現できたのではないかと思います。

経済成長無くして国民の安心な生活はありえない

大原  スタートアップ企業に対する金融支援という観点では、どのような問題意識をお持ちですか。

小倉  非上場株式を組み入れたファンドなど、特定投資家と言われている、知識と資産を持っている個人が、上場前企業に対して投資するためのツールをつくるのは大事ですし、単純に資金提供だけでなく、経営アドバイスも出来るような体制を構築することも必要だと思います。

それと、これは私自身の問題意識でもあるのですが、東証マザーズのように世界でも稀な上場しやすい市場がある反面、上場すること自体が目的化している「上場ゴール企業」も少なくなく、そういう企業は上場してから先、継続的に事業規模を拡大できないという問題もあり、ここは何とかしなければと考えています。

大原  仮に株式を上場できたとしても、40億円、50億円の時価総額では機関投資家の投資対象になり得ず、そこから資本市場を活用した事業のスケールが難しいですし、この状態で企業経営者にある種の「あがり」感を持たせてしまう点は、東証マザーズの問題点のひとつかも知れません。

小倉  ベンチャーキャピタルが資金を出し、短期的なイグジットを求めるだけでなく、スタートアップ企業により長期目線での成長支援を金融面、経営面で提供することで、経営基盤をもっとしっかりさせるといった工夫は必要です。東証マザーズは参加している投資家も個人がメインですから、どうしても投資の時間軸が短期になりがちですし、メンターになれる人もいません。上場してから先の成長材料に乏しいのは問題だと思います。

大原  金融の規制改革や国際金融都市構想、スタートアップ支援の重要性などについて話を伺いましたが、それ以外にはどのような問題意識を金融業界に対してお持ちですか。

小倉  とにかく無駄を減らして、筋肉質の金融機関をつくりたいですね。たとえば日銀考査と金融庁検査の一本化は、そのひとつだと思っています。これを一本化することによって、金融機関がコンプライアンスにかけている無駄なコストを半減できます。

あとは、特に銀行業界の場合、ペーパーワークが多いので、ペーパーレス化は必須です。そうすることによってコストだけでなく、無駄な人手を省けるため、余剰人員を他のもっと必要とされるところに再配置できます。

大原  衆議院議員として次は4期目を迎えられるわけですが、今後は長期的に、どのようなビジョンを打ち出していかれますか。

小倉  私が掲げる一番のビジョンは、経済成長無くして国民の安心な生活はありえないというものです。

経済政策というと、どうしてもデマンドサイドばかりが注目され、分配にばかり目がいきがちです。確かに格差の是正は大事ですが、それをしっかり行うためには、日本企業が成長して一人でも多くの従業員を雇用し、納税していただくことが必須です。そうしなければ分配するための原資も確保できません。だから、企業の成長はとても大事なことです。それを一人でも多くの国民の方々にご理解いただき、企業が成長できる環境整備を行うのが、私の仕事と認識しています。

大原  ありがとうございました。

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