2021.12.24インタビュー

対談連載【金融ビジネス/これからの「顧客本位の業務運営」 No.5】一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会 理事長 中桐啓貴氏「研修活動と広報活動でファイナンシャル・アドバイザーの専門性や認知度の向上を目指す」

中桐啓貴氏(一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会 理事長)
聞き手:長澤敏夫(株式会社日本資産運用基盤グループ 主任研究員)

(写真撮影の時だけマスクを外させて頂いています)

2022年1月で設立から2年が経つ一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会。ファイナンシャル・アドバイザー(FA)の認知度向上だけでなく、会員の専門性向上のため、ゴールベースアプローチを主軸にした研修活動も展開しています。銀行や証券会社といった既存の金融機関に対して、FAはどこに差別化を求めるのか、今どういう課題を抱えているのかなどを、同協会理事長の中桐啓貴氏に伺いました。

FA同士のつながりを強め、認知度を上げる

長澤  今回は金融商品仲介業者を中心としたFAのための組織である一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会にフォーカスしたいと思います。IFA法人であるGAIA株式会社の代表取締役社長を務める傍ら、有志と共に同協会を設立し、初代理事長に就任された中桐啓貴氏に、協会設立からほぼ2年が経過しての想いを語っていただきます。

まず、ファイナンシャル・アドバイザー協会設立の経緯から教えて下さい。

中桐  ここ数年でFAの数が増えてきましたが、現実には多くのFAが小さな規模で経営しており、横のつながりが希薄で、一般の方々の認知度も低い状況にあります。

そこで、FA同士の連携を強めるほか、情報を共有する、あるいはお客様に寄り添ったアドバイザーを育成するための研修を提供したいと考えたのが、協会設立のきっかけです。

私は、米国のFAがどういう活動を行っているのか何度も視察に行き、彼らの倫理観や営業スキル等を学び、自らの業務に活かしてきました。私が得たこうした知識や経験も含め、多くの方々と幅広く情報を共有し、お客様に寄り添うアドバイザーを増やしていきたいと思っております。併せて、資産形成や資産運用を考えている一般の方々に対して認知を広げ、FAがどういう存在なのか、どのようなサービスを提供しているのかを知って頂いたうえで、積極的な活用に繋げて頂けたらと思っております。

長澤  設立からほぼ2年が経過して、次第に協会の活動が本格化してきた感を受けています。具体的にどのような活動を行っているのですか。

中桐  設立1年目は基盤づくりに注力しました。規程類を整備するほか、理事会や各種分科会、審査委員会など会議体の運営を軌道に乗せました。また、セミナーやカンファレンス開催にも挑戦しました。新型コロナウイルスの感染が続いたため、ほとんどの活動でオンライン対応を余儀なくされましたが、会員の皆様や関係する方々の多大なるご協力・ご支援の下、相応に実績を残すことが出来たと思っております。

2年目に入った今年には、1年目の活動を発展させる形で、研修委員会と認知度向上委員会を立ち上げました。

研修委員会は、会員の専門性向上やビジネス・プラクティスの強化につながる知見やノウハウの獲得を支援する研修コンテンツやイベントの企画立案・実行・推進を目的としています。

第1弾として、会員向け「ゴールベース・プランニング基礎スキル研修」プログラムを外部ベンダーと共同で設定しました。「お客様ごとの『ゴールベースの資産管理』を永続的に実施していくためには、まずは『ゴール』(人生設計における目標や課題や深い悩み等の総称)をヒアリングし、お客様と共有できる関係を創りにいく必要がある。お客様やその家族の人生に伴走していく起点として、お客様の多様な要望をヒアリングする(聞く、聴く、訊く)能力が求められる」との考えに基づき、今回の研修では、特にこの「ヒアリング」に焦点を当てました。日本の資産運用業務に関わっている人向けにヒアリングにフォーカスした研修は初めての試みであり、顧客本位を掲げる協会の象徴となる取組みと位置付けております。

ゴールベースアプローチを学ぶ

長澤  FAになっている方々の大半は証券会社、銀行などに勤務した経験があり、営業経験も持ち合わせていると思うのですが、改めてゴールベースアプローチの勉強をしたことで、参加者の方からはどういう感想が聞こえてきましたか。

中桐  ご指摘の通り、FAの出身は証券会社であったり、銀行や保険会社だったりするため、各人のバックグラウンドによって受けてきた研修の内容は違っており、個々の金融商品や保険商品を提案することには長けていても、提案の前にお客様のニーズを聞き出すヒアリングは苦手という方が結構いらっしゃいます。それは多くの金融機関が、お客様のニーズを聞き出すことよりも、商品を販売することに力を入れてきたからではないかと思います。

今回、本研修を受けた方々から話を聞くと、ベテランの域に達している人たちでも、非常に新鮮だったという声が多いですね。

長澤  それ以外にはどのような研修を考えているのですか。

中桐  ゴールベースアプローチ研修については、出来れば今後も定着させていきたいと考えています。このほか、当協会の法人賛助会員(資産運用会社や生命保険会社、情報ベンダー、その他の法人において、当協会の目的に賛同し、当協会の活動を後援して頂ける方々)も、FA向けにさまざまな研修プログラムを持っているので、それを協会でとりまとめて整理し、協会員のFAが自分たちのレベルに合わせて体系的に学べるような仕組みも構築していこうと思っております。

コンプライアンスへの真摯な取り組みを重視

長澤  FAは小規模経営のところが多く、たとえばコンプライアンスなどが行き届かないところがあるのではないかと懸念する声もあります。そういう声に対して、協会としてどのような対応を考えていますか。

中桐  FAは、複数の委託証券会社(金融商品取引業者)から、個別株や投資信託、仕組債などの商品提供を受けている乗り合い業者が少なくありません。こうした中、委託証券会社によってFAに対して求めるコンプライアンスの水準が異なっています。

FAの中には、自らの収益追求のため、コンプライアンスの水準が緩い金融商品取引業者と業務委託契約を結びたがるところも残念ながらあります。また、委託証券会社側にも、各社が独自にコンプライアンス体制を構築する中で、結果として、コンプライアンス水準が相対的に緩くなっているところがあるようです。協会としては、「この業界のコンプライアンスは緩い」という印象を持たれることは避けたいと考えています。

金融商品仲介業の信頼性向上のためには、委託証券会社間で所属金融商品仲介業者に対するコンプライアンスの目線を合わせることが必要と考え、FA協会が音頭を取り、今年7月より協会に加入する委託証券会社8社が定期的に集まり、毎回特定の項目について、各社持ち回りで足元の管理状況を開示し、それを踏まえて、求められる目線について意見交換を行うこととしました。

既に、所属する金融商品仲介業者の自己勘定取引や高齢者取引、通話録音、乗換取引、監査手法などにつき、各社の管理状況を確認し、求められる目線の整理を行っており、今後、顧客苦情対応などについても検討を行うつもりです。

現時点では、実態把握・情報共有に留めておりますが、将来的には、FA協会としての共通ガイドライン・ルール化に繋げていければと思っております。FAの中には、真摯にコンプライアンスに取り組んでいる方々も数多くいらっしゃいます。協会としては、そういう方々が正しく評価されるように、環境整備に努めていきたいと思います。

長澤  もうひとつの認知度向上委員会は、どういう活動を行っているのですか。

中桐  協会設立直後の1年目は、相応に影響力のある協会活動を行う上で、一人でも多くの会員を増やすことが重要と考え、事務局が中心となって金融業界向けの情報発信に注力しました。併せて、金融業界内外の信頼性を高めるうえで、金融当局や金融行政に精通した国会議員の先生などに対しても、協会の存在や活動を知って頂きご支援を仰ぐべく、情報提供を続けて参りました。こうした中、当局幹部の皆様には、協会主催のセミナーへご登壇頂くなど、目に見える形でご支援を頂いております。

なお、FAの普及促進のためには、お客様である一般の方々に対する情報発信にも注力する必要があるとして、2年目に認知度向上委員会を設置しました。

具体的な施策としまして、例えば、協会のホームページに、一般の方々向けに読みやすくアレンジした会員紹介欄を設けるほか、資産運用などに関連したさまざまなテーマについて、一般誌などで活躍するコラムニストと協会の会員とが対談を行い、それを分かりやすくコンテンツ化するといったことも考えています。例えば、女性で資産運用に関心を持っている方々が増えているので、女性に向けた資産運用の情報発信を行っても良いですし、あるいは「FIRE」など最近注目を集めているテーマなども取り上げてみたいと思っています。

学校教育など草の根活動を展開

長澤  協会の会員になるためには審査があるということですが、その基準はどうなっているのですか。

中桐  正会員以外の会員種別の場合は、コンプライアンスチェックがメインになります。正会員に対しては、さらに定性面と定量面の審査に加え、審査委員による経営者との面談があります。審査委員の間で正会員になって頂くのが適切かどうかを判断したうえで、理事会に諮り、最終的に理事会で入会の判断を下します。

定性面では経営基盤、経営理念、専門性、内部管理体制、社員の報酬、業務委託か正社員か、営業の適切性の担保、マーケティング体制などをチェックします。また定量面では、顧客数や預かり資産残高に加え、資産収益率(収益を預かり資産残高で除した比率)を確認しています。これを見ることで、お客様に対し過度な回転売買を行っていないかチェックするようにしています。

長澤  最近は対面型の証券会社や銀行などでも、ゴールベースアプローチを導入する、あるいは、フィーベースへビジネスモデルの転換を図ろうとする動きがあります。こうした既存の金融機関の営業に対して、FAとしてどのような強み、特色を打ち出していこうと考えていらっしゃいますか。また、それを協会としてどのようにサポートしていくのでしょうか。

中桐  今、FAとして活躍している人たちの多くは、以前、金融機関に所属してお客様対応をしていた方々です。そういう人たちが、かつて所属していた金融機関と差別化を図る一番のポイントは、徹底的に顧客本位を貫くということに尽きます。「真の顧客ニーズを把握したうえで、専門家とも協働しながら、多岐に渡る金融商品・サービスの中より最善のものを提案し、提案後もゴール達成までしっかりとフォローを行う」という営業をしたいからこそ、FAとして独立した方々が大半だと思います。対面型の金融機関において、こうした顧客本位の業務運営が定着するまでには時間がかかるのではないかと思います。よって当面は、FAを目指す動きが続くものと思っております。

新たに資産形成・資産運用に取り組むお客様が増える中、総合的なアドバイスを提供し、適切にアフターフォローを行っていくFAのニーズはこれからも高まっていくものと思います。協会としては、そうしたFAを一人でも多く増やし、彼らが活動の幅を広げられるように、引き続き、会員の専門性や認知度の向上に努めて参りたいと思います。

長澤  FAの認知向上を図り、個人のお客様に浸透させていくためにはどうすれば良いのでしょうか。

中桐  FAの認知度向上や、一般個人の間にFAの存在を浸透させていくためには、草の根的な活動が重要になってくると思います。学校での金銭教育などは、その代表的な例でしょう。

日本FP協会を始めいくつかの協会が、既にその辺りをサポートしていらっしゃいますが、FA協会としても、何らかのサポートが出来るのではないかと思っています。なお、学校教育においては、生徒や学生を対象にするほか、彼らに投資教育を行う教師の方々を対象にすることも考えていく必要があるでしょう。

そうした草の根的な活動を行っていくためにも、まずは、関係者に対し、FAの存在を正しく理解して頂くための活動を行っていきたいと思います。

長澤  ありがとうございました。

(*)日本資産運用基盤の対談連載【金融ビジネス/これからの「顧客本位の業務運営」】の全てのバックナンバーはこちらからお読み頂けます。