2023.08.25インタビュー

【金融ビジネス:対談連載】これからの「顧客本位の業務運営」 No.21 地域経済を活性化するために求められる地域金融機関の役割

柴田聡氏(株式会社地域経済活性化支援機構 常務取締役)
聞き手:長澤敏夫(株式会社日本資産運用基盤グループ 主任研究員)

財務省や金融庁で、バブル経済崩壊後の金融危機や地域金融に対峙してきた、柴田聡さん。今は株式会社地域経済活性化支援機構の常務取締役として、地方経済の活性化に尽力されています。これからの地方経済にとって必要なこととは何か、そのなかで何をなさろうとしているのかなどについて、お話しを伺いました。

足利銀行国有化の経験を通じて地域金融機関の大切さを実感

長澤  柴田さんは大蔵省(現財務省)に入省後、金融行政の他、主計局や在中国大使館を経験されたのち、金融庁監督局銀行第二課長となり、その後、総合政策局総務課長、中国財務局長などの要職を経て、2022年6月から地域経済活性化支援機構の常務取締役としてご活躍されています。これまでのご経歴のなかで印象的だったことなどをお話しいただけますか。

柴田  まず2003年から2004年にかけて、まだ日本の金融危機が終わっていない時ですが、金融庁監督局で、金融システム、とりわけ地域金融機関の監督を担当しました。当時、不良債権を処理するために金融再生プログラムが発動され、その策定にも関与しました。主要行については不良債権の直接償却の促進をはかる一方、地域金融機関については、リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラムを策定し、直接償却一辺倒ということではなく、地域顧客との関係性を重視しながら、経営基盤の持続可能性を高めていく方向性を示しました。こうした金融行政の歴史的な出来事に直接関与できたのは、非常に光栄なことだったと思っています。

また2004年には銀行第二課の総括課長補佐になり、そこで最も印象に残っているのは足利銀行の国有化です。この時、もちろん初めての経験でしたが、地域銀行の経営破綻処理に直接携わり、当事者の足利銀行はもちろんのこと、融資を受けている地元企業の方々、預金者の方々をはじめ、地域経済にとっていかに地域銀行の存在が重要なものであるかを、身を持って体験しました。あれから20年近い歳月が経過するなかで、日本の金融危機の記憶も過去のことになりつつありますが、改めて地域金融システムの安定、信用秩序の確保の重要性を思い起こします。

その後、中国駐在などを経た後、金融庁に12年ぶりに戻り、銀行第二課長を拝命したのですが、その時はちょうど地銀の再編・統合が大きく進んだ時でもありました。任期中には、長崎県(旧十八銀行と旧親和銀行)、新潟県(旧第四銀行と旧北越銀行)、三重県(旧三重銀行と旧第三銀行)などの経営統合が公表されました。振り返ると、同一県内の地域銀行同士が集約する動きが始まった時期でした。当時は、競争政策の観点から様々な議論もありましたが、地方の人口が減少傾向をたどっている中で、地方の経済を長期安定的に支えるためにも、地域金融機関の経営基盤を強化する必要がありました。

課長時代のもうひとつの印象的な仕事としては、まさに今、地域経済活性化支援機構での取組にも関連することですが、銀行業の規制緩和です。伝統的な預貸金業務中心のビジネスモデルからの転換を図り、取引先への事業者支援や課題解決ビジネスを強化するため、地域銀行を念頭に有料人材紹介の解禁を図りました。あれから7年が経過するなかで、徐々にではありますが、地域銀行による人材マッチングが全国各地で着実に普及拡大しつつあるように見ています。

地域金融機関との連携を通じて地域経済を活性化させる

長澤  現在、常務取締役を務めておられる地域経済活性化支援機構(REVIC)では、どのような業務に注力しているのですか。

柴田  地域経済活性化支援機構の前身は、2009年に設立された企業再生支援機構です。その後2013年に、地域金融機関が取り組む地域経済の活性化の取組みを、ソリューションの提供、実行支援の面からサポートする地域経済活性化支援機構として改組され、現在のREVICが誕生しました。

具体的には、子会社を通じた地域活性化ファンドの運営・出資、事業再生支援、転廃業支援に加え、 2021年からは地域の中堅・中小企業による経営人材の確保を支援するための人材プラットフォーム「REVICareer(レビキャリ)」の管理・運営を行っています。

REVICは根拠法上、支援・出資決定期限が定められており、当初は5年間の予定でしたが、2018年に3年間延長され、コロナ感染拡大を受け、更に5年間延長されて、現在に至っています。

この組織は、地域金融機関と連携して、地域経済を活性化させるのが最大のミッションです。したがって、公的機関として、地域金融機関の皆さまとの信頼関係や連携を強化して、REVICの機能を十分に活用していただくことが重要だと思っております。

こうした考えから、私自身は、地域金融機関の皆様とのリレーション強化を大きなテーマとしており、全国の地域金融機関を回らせて頂き、地域経済の課題やニーズ、REVICとの連携強化について意見交換を重ねています。

長澤  昨年6月に着任され、1年ちょっと経過したところですが、どのくらい回られたのですか。

柴田  役員就任からの約1年間で31都道府県、66金融機関の経営者の方々とお会いしました。地域活性化ファンドや事業再生と共に、地域企業の経営人材確保に向けた人材マッチングの取組みについて、REVICとの連携強化をお願いしつつ、地域経済活性化に向けた課題について直接対話させて頂いております。

長澤  現地まで足を運ばれて、各地域でリーダーシップを発揮されている地域金融機関の経営者と会われているわけですが、実際にお会いになられてどのような印象を受けましたか。

柴田  今までは金融庁の会議室や各協会の建物で、経営者の皆様にお越しいただいて、いろいろなお話を伺うことが多かったのですが、逆に先方の地元を訪問させて頂きますと、アットホームでリラックスした雰囲気の中で率直なお話ができる気がします。また、各地域における各行のプレゼンス、行内の雰囲気なども直接感じることができます。改めて、各地域を実際に訪問することの重要性を強く認識させられています。

足を使って地方を見て回る

長澤  具体的に、地方に行ってどのようなことを見て来られるのですか。

柴田  これはもう実にさまざまです。鉄道や空港などの交通体系、駅前や中心市街地の街並みや再開発の状況、各地域金融機関の店構えや最新の取組みなど、限られた時間ですが、最大限の景色を見て吸収するよう務めています。特に、各金融機関の本店ビルには興味が惹かれますね。最新のビルに入っているところがあれば、歴史的な建造物に入っているところもありますが、ロケーションや店構えなど、各行さんとも地元と共に長年歩んできた歴史を感じさせます。その土地土地ならではの場の空気を感じながら、これまで地元経済にどのように貢献してきたのか、これから先、どのように貢献していこうと考えておられるのかなど、経営者の方々の率直な思いを伺うのがとても楽しみです。

あとは弊社REVICの投融資先やサポート先の現場視察ですね。

先日も、地震の被害を受けた熊本県にある馬肉生産加工企業を視察させて頂いたり、岩手県遠野市や福井県小浜市などの観光活性化事業も手掛けておりますので、道の駅や地域商社、観光振興がどのように活動しているのかなども見て回りました。やはり百聞は一見にしかず、だと思います。

長澤  アフターコロナになり、インバウンド観光客も大分戻ってきました。それによって観光業などはかなり元気になりつつあると思うのですが、実際に回られてどのような印象を受けましたか。

柴田  パンデミックが治まったことで元気を取り戻した観光地もありますが、以前から構造的な問題を抱えているところは少なくありません。現在REVICは、青森県浅虫温泉の面的活性化を手掛けているのですが、観光産業や地域交通、病院など、地域経済に無くてはならないものを、どうやって再生・活性化につなげていくか。また、それ以外にも事業承継の問題や、面的魅力の向上など、課題は山積しています。

地域経済活性化支援機構ができること

長澤  事業再生支援や人材マッチングなど、地域経済活性化支援機構ができることはたくさんあると思いますが、やはり地域金融機関が主体的に動かなければ、本当の意味での地域再生は困難だと思います。その点で、地域金融機関に期待することは何ですか。

柴田  中国財務局長の任に当たっていた時にも実感したことですが、地域金融機関は地域経済ネットワークの中核を担っています。地域経済を活性化するためには、まず地域金融機関が積極的に動かなければなりません。地域金融機関が長年かけて積み上げてきた地域住民からの信頼は、現在でも非常に高いものがあり、それ自体が大変貴重な経営資源だと思います。そうした地域金融機関ならではの地域との関係性を有効に活用して、新しい取り組み、人材マッチングや事業再生支援、資産運用なども含めて、地域活性化に寄与してもらえたらと思います。

長澤  地元企業と地域金融機関がお互いに寄り添い、ウインウインの関係を構築するなかで、地域経済活性化支援機構はそのサポート役を担うということですね。

柴田  そうですね。事業再生支援や地域活性化ファンドを用いた地域活性化事業には専門的なノウハウが必要ですし、何よりもそれらに必要な人材を、地域金融機関が自前で調達するのは、難しい場合もありますし、地元における複雑な利害調整も必要な場合もあります。ですので、REVICのような中立的かつ公的な立場の機関が間に入ることで、スムーズに事が進むことも多いと思いますので、その機能を十分にご活用頂きたいと思います。

長澤  往々にして金融機関は自前主義のところがありますから、調整役として間に入る第三者機関の存在は重要になりますね。

柴田  私どもはハンズオン支援を行うところに強みがあります。お金を出すだけでなく、その道の専門家を派遣させていただき、現地で一緒に悩みながら課題解決にあたっていきます。それを地道に、着実に行うことによって、真の意味でのさまざまなノウハウ、スキルを広めていければ良いと思います。

長澤  先ほども触れられていましたが、地域経済活性化支援機構では、大企業から地域の中堅・中小企業への新しい人の流れをつくるため、REVICareer(レビキャリ)という人材プラットフォームを運営していらっしゃいます。現状はいかがですか。

柴田  2021年からスタートした制度で、私が約1年前に就任した当時のマッチング実績はゼロでしたが、お陰様で、地域金融機関の皆さまの協力もあり、マッチングの成約件数が29件になりました。マッチング事例も全国的に広がりを見せていますし、ご登録いただいている方も2000名近くになり、求人票も1600件に迫っています。今後とも、地域金融機関の皆様のご協力を得ながら、さらに質、量ともに充実させていきたいと考えております。

現状では、地域企業に必要な経営人材をマッチングさせる機能が社会に十分ビルトインされていません。そこで、地域金融機関の人材マッチング機能を活用して、有能な経営人材を紹介・マッチングできる仕組みを構築できれば、地域の企業、ひいては地域経済の活性化につなげていけるのではないかと期待しています。

こうした人材の移動については、東京の大企業から地域の中小企業へ、という移動もありますが、同一の地域内における、大企業から中小企業への人材移動もあります。

大都市圏の若年層の転職サービスは大変発達している一方、地域のシニア層、とりわけ経営人材や管理人材のクラスはまだまだニッチな領域です。

地域の中小企業における人材マッチングは、大都市圏にある大手人材会社ではビジネスに乗りにくいこともあって、どうしても敬遠されがちです。だからこそ地域金融機関に本領を発揮してもらいたいと思います。

地域金融機関が世の中を変える

長澤  今、岸田内閣が「資産運用立国」というコンセプトを打ち出しています。この点において、地域金融機関が果たせる役割とは何でしょうか。

柴田  これはあくまでも個人的な見解ですが、やはり地域金融機関に対する、地元の人々の高い信頼感が出発点になると思います。金融事業者はさまざまなサービス、金融商品を提供していますが、大事なのは資産運用だけでなく、ローンも含めて多様化するファイナンシャルニーズを的確に把握し、地域の実情に合わせた提案をすることではないでしょうか。

子供の頃は地方で育ち、大学生や社会人になって東京など大都市圏に出ていく人がいる一方、地元で人生を歩んでいく人も大勢います。そういう人たちの長い人生におけるパートナーとして力を発揮していただければと思います。

長澤  金融機関の役職員の方たちにメッセージをいただけますか。

柴田  地域金融機関は構造不況業種で、未来がないといった誤ったイメージが、世の中に広まってしまった感があります。地域金融行政を長く担当していた人間として、このことは非常に残念に思います。

多くの地域が人口減少等の構造的課題に直面していることは事実ですが、日本各地で、新産業、脱炭素、DX、再開発、地域特産品のプロモーション、インバウンド観光振興など、独自の経済活性化に向けた様々なチャレンジが進められています。

その地方経済において中核となる地域金融機関の果たす役割には揺るぎないものがあります。人材や事業再生、地域活性化、資産運用など、さまざまな分野において、地域金融機関の持つノウハウを活用すれば、地域を変え、ひいては世の中を変えていくことができるはずです。一朝一夕には出来ないことですが、着実に歩みを進めていっていただきたいと思います。

長澤  ありがとうございました。

(本稿における意見に係る部分については、登壇者個人の見解に基づいており、登壇者の現在又は過去の所属先等の見解を示すものではない。)

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