2023.10.20インタビュー

対談連載【金融ビジネス/これからの「顧客本位の業務運営」 No.22】景気探検家・エコノミスト 宅森昭吉氏「マーケットエコノミストが情報を伝える時に最も大切にしていること」

宅森昭吉氏(景気探検家・エコノミスト)
聞き手:長澤敏夫(株式会社日本資産運用基盤グループ 主任研究員)

現在、景気探検家・エコノミストの肩書で活動されている宅森昭吉さんは、都市銀行初のマーケットエコノミストとして活躍。現在も「ESPフォーキャスト調査委員会委員」や「内閣府地域別支出総合指数作成・分析委員会委員」といった要職を務められています。宅森さんといえば、「巨人の勝敗で景気を見る」、「相撲の懸賞金の本数で景気を判断する」といった、ユニークな景気の見方でも知られています。今回は内閣府が発表している景気ウォッチャー調査発足時の話や、日本経済の読み解き方などについて伺いたいと思います。

日本発のマーケットエコノミストとして

長澤  宅森さんは都市銀行、今のメガバンクで初のマーケットエコノミストとして活躍されました。まずはマーケットエコノミストになられたきっかけからお話しいただけますか。

宅森  銀行員といっても、現場の経験は1店舗だけで、その後、経済の勉強をして来いということで日本経済研究センターに派遣されました。そして再び銀行に戻されて調査部に配属されたのですが、当時の三井銀行で証券の流通市場を担当する市場営業部が創設されたため、ディーリングルームで仕事をするマーケットエコノミストになりました。

ちょうどこの時期、他の銀行でも、三井銀行の市場営業部のような証券部門を立ち上げて、若手行員を中心にその部署に配属したのですが、なぜそのような部門が出来たのかというと、私が市場営業部に配属される前年に、債券先物市場が創設され、債券のディーリングが、銀行にとって重要な業務になってきたからです。

従来のように、預金でお金を集めて貸し出すということだけでなく、債券市場で債券を売買して利益を上げることも重要な業務になってきたのです。その意味では、銀行業務が大きく変わるなかでの配属だったのだと思います。

マーケットエコノミストの仕事は、金利や為替、株価の先行きを予測するのがミッションです。ただ、当時はまだマーケットの見通しを立てるためのノウハウが決定的に欠けていました。調査部にはエコノミストがいたものの、そこで行っていたのは年度のGDP予測くらいのもので、目先の材料からマーケット動向を読むことはしていなかったのです。

これは余談ですが、当時は市場営業部といっても全く通用しませんでした。当時、原油相場が大きく動いていたので、石油会社に原油価格のデータをいただきに行ったのですが、三井銀行市場営業部の名刺を差し出したところ、第一声は「いったい、どんな仕事をされるのですか」というものでした。いちばと、しじょうの読み方からして分かってもらえず、「青果市場などを調べるのですか」などとも言われたのですが、実際、物価などを調べるのに野菜や果物の価格動向も調べていたので、あながち間違いではありませんでしたが、そのくらい市場営業部という部署の認知度は低かったのです。

長澤  市場営業部ではどのような活動をしていたのですか。

宅森  当時の債券市場は、ファンダメンタルズで動いていました。今はイールドカーブ・コントロールなどと言って、日銀の金融政策に支配されている感の強い債券市場ですが、その頃は経済指標によって動いていたのです。

なかでも米国の経済指標が、日本の債券市場の値動きに大きな影響を与えていました。当時の米国はインフレに悩まされていたこともあり、マネーサプライの動向や、あとは日米貿易摩擦が激しかったこともあり、貿易統計の数字も注目されました。

それ以外だと雇用統計ですね。雇用統計は月の初めに公表されるので、それを参考にして、その月に発表される他の経済指標を類推したりしたものです。

ただ、日本の債券市場に影響を及ぼす経済指標を見るのに、なぜ日本の経済指標ではないのかという疑問もあって、徐々に日本の経済指標を分析するようになりました。

また他行だと、毎月の経済指標予測のように、明日には正式な数字が出て、合っているか間違っているかがすぐに分かってしまうような予測をしても仕方がないという考えのところもあったのですが、三井銀行はそれも自由にやらせてくれた点が良かったところです。お蔭様で、私は月次の経済指標予測でパイオニアになることができました。

ジンクスで日本経済を読み解く

長澤  宅森さんといえば、他のマーケットエコノミストが予測に用いている指標だけでなく、かなりユニークなデータを予測に用いることで有名です。例えば巨人の勝率で株価を予測するといったものがありますが、このようなデータを景気予測などに使うようになったきっかけは何だったのですか。

宅森  マーケットエコノミストは、長期金利が今後、どう動くのかを一足先に読むのが仕事ですが、先読みするのに使える材料は幅広く使えばいいと考えているからです。理屈で証明されなくても、かなりの確率で当たるのであれば、それは良しとします。

昔は公定歩合が政策金利として使われていたのですが、一番の関心事は、それがいつ発表されるのか、ということでした。今のように、金融政策決定会合という事前にスケジュールが決められた会合で発表されるのではなく、平成に入ってからはそれまでの1日前にアナウンスがあって変更されていたのと変わって、臨時金融政策決定会合が行われた日が政策金利の変更日となりました。臨時金融政策決定会合は突然行われるので、それがいつかを予測することが重要だったのです。日銀総裁のスケジュールを丹念にチェックしました。また政策変更日に何か共通点はないのかを調べていったのですが、分かったのは仏滅には変更しないということでした。

政策金利などと言っても、所詮は人間がやっていることですから、やはり縁起を担ぐこともあったのでしょうし、嫌な日には何もしないということもあるでしょう。そんなことがきっかけになって、他にも人間の活動や心理が景気に影響を及ぼすものがあるのではないかと考えるようになり、身近な情報、データから景気を読み解くヒントを探すようになったのです。

もうひとつのきっかけは、当時の銀行の役員が、お昼にスピーチをするので原稿を書いて欲しいという依頼を受けたことです。その役員が当時、巨人を応援する燦燦会のメンバーだったので、何か巨人に絡めたスピーチにしようと考えて、巨人軍の勝敗と株価の関係や、仏滅と政策金利の関係などに絡めた原稿を書いたのです。それが結構ウケたらしく、講演後に広報が記者クラブにリリースを入れ、全国紙の経済面に掲載されたのです。その後様々な身近なデータ的な話題をメディアが取り上げるようになり、さらに「ジンクスで読む日本経済」という本を1998年に出版しました。

時々、その内容を検証する人が出てくるのですが、本が出て四半世紀が経過したのに、結構外れていないのが、密かな自慢でもあります。

長澤  日本経済研究センターではESPフォーキャスト調査を行っていて、年度ごとに予測精度の高かった人を選出・公表しています。宅森さんは過去5回にわたって表彰されていますが、この手のユニークなデータは、ESPフォーキャスト調査でも役に立ちましたか。

宅森  ESPフォーキャスト調査はGDP中心なので、もう少し真面目な経済統計を使った話になるのですが、目先の景況感、足元の景気判断を固めるうえでは役にたちます。

なかには先を読むためのデータもあります。たとえば日本が海外で開催されたオリンピックで取った金メダルの数が10個以上の年は大会期間中の日経平均株価が上昇するとか、米国大統領が民主党か共和党かによる選挙年と景気、あるいは十二支と株価の関係とか、ある程度、その年の景気や株価動向を判断するうえで役立つ判断材料があるので、それを組み合わせ、真面目な経済指標も見ながら、その年の景気動向を判断するということはあります。

景気ウォッチャー調査の特色

長澤  2000年から発表が始まった景気ウォッチャー調査は、宅森さんが定点観測されている身近な経済データ的な視点も入っているようですが、立ち上げ時から関与されていらっしゃいます。調査の内容、狙いはどういうものなのですか。

宅森  この調査は当初から「街角景気」などというニックネームで呼ばれることも多いのですが、街角景気は内閣府が付けたものではなく、タクシー運転手やコンビニの店長といった方たちにもお聞きしているので、自然とそう呼ばれているというのが実際のところです。

もともと堺屋太一さんが経済企画庁の長官だった1998年、日本の景気が非常に悪い時ですね。その当時、サービス関連の経済指標が無くて、景気動向を少しでも早く捉えようということになって、最初は地域景気モニター的な経済指標を作れないかという話になり、それが発展して今の景気ウォッチャー調査になりました。

ひとつの切り口が地域の視点で、全国2050人の景気ウォッチャーを選び、地域ごとに人数を割り当てていきます。当然、経済活動の規模が大きい関東や東海、近畿は人数を多めに割り当てますし、沖縄や北陸は少な目です。

もうひとつの切り口が分野・業種で、家計動向と企業動向、雇用など経済活動項目の動向を敏感に反映すると考えられている業種において、たとえば商店街代表者や家電量販店経営者・従業員、レストラン経営者、乗用車販売店経営者・従業員、電気機械器具製造者、人材派遣会社などから選ばれます。民間の経済活動の縮図になるようにしています。

とてもシンプルで、回答は景気の現状水準の判断と、現状の方向性の判断、その理由の注目項目、その理由、景気の先行き判断、その理由の6点を聞くだけです。景気の現状が良いか悪いかという聞き方だと、人によって景気の水準の実感はバラバラだし、調査員が変わると受け止め方も違ってきてしまうので、現状に関しては水準と方向性を同時に聞くようにしています。つまり、良いか、悪いかと合わせて、良くなっているのか、悪くなっているのかを聞くようにしています。かつ、どういう理由で良くなっているのか、悪くなっているのかを聞くので、それを使ってDIを作成することもできます。

たとえば新型コロナウイルスの感染拡大を景気の良し悪しの判断理由に挙げてきた人が出てきたら、「新型コロナウイルス」という言葉を使ってコメントした回答だけでDIを作成します。あるいは最近だと「インバウンド関連」とか「処理水」などがあります。

こうして作成された指標は、結構、景気の動きをいち早くキャッチできるものになっています。たとえば米国の同時多発テロが9月に起こった2001年末、多くのエコノミストが「来年の景気は悪くなる」と言っていたのですが、景気ウォッチャーの数字を見ると、実は2001年末時点で底を打つ数字が出ていました。

請売りの情報は伝えない

長澤  マーケットエコノミストとして長年、大勢の人の前でお話をしてこられたと思うのですが、最も意識されたのはどういうことですか。

宅森  やはり難しい言葉を分かりやすく伝えることです。また、他人からの請売り情報ではなく、ちゃんと自分で調べることです。そして、自分で判断できる情報だけを伝えるようにすること。経済予測を語るに際しても、金融機関に勤めている方は会社のビューをベースにしていると思うのですが、それで本当に良いのか、ということを改めて考える必要があります。

たとえばESPフォーキャスト調査の総平均予測は非常に精度の高い予測ですので、それを用いて、かつ自分の勤務先である金融機関が出しているハウスビューを合わせてお客様に説明しても良いでしょう。「ESPフォーキャスト調査の予測総平均はこうですが、対してうちはこういうビューを出しています」というように比較して伝えれば、お客様への説明責任も果たせたことになるでしょう。一番やってはいけないのは、自分の頭で何も考えず、請売りの情報を流すだけということです。

長澤  宅森さんは金融業界で43年間勤めて来られましたが、金融の現場で働いている人たちにメッセージをお願いできますか。

宅森  金融ビジネスは、自分の事業を社会に広めようとしている人たちの資金調達を支援したり、何かの目的を持って自分の資産を増やそうとしている人たちの資産運用をサポートしたりする仕事です。いずれも、人々の夢をサポートする仕事であり、長い目で見て社会に貢献できる仕事です。そこをしっかり見据えて取り組めば、充実した気持ちで金融の仕事を全うできると思います。

長澤  ありがとうございました。

(*)日本資産運用基盤の対談連載【金融ビジネス/これからの「顧客本位の業務運営」】の全てのバックナンバーはこちらからお読み頂けます。