2024.01.18インタビュー

対談連載【金融ビジネス/これからの「顧客本位の業務運営」 No.23】株式会社龍崎 代表取締役 齋藤 健氏「その場限りでなく、次の世代につなげる仕事をする」

齋藤健氏(株式会社龍崎 代表取締役)
聞き手:長澤敏夫(株式会社日本資産運用基盤グループ 主任研究員)

127年という、日本で最も古い歴史を持つ保険代理店があります。中央区新川に本社を置く株式会社龍崎です。この長い歴史を支えてきたものは何なのか、保険代理店としてお客様とどのような付き合い方をされてきたのか、興味は尽きません。龍崎4代目の代表取締役である齋藤健さんにお話を伺いました。

龍崎の第1号社員として入社

長澤  127年という非常に長い歴史を持っていらっしゃいますが、これだけ長い時間、会社が続いてきたということは、しっかりした顧客本位の営業に加え、社員の満足度も高い証拠だと思います。まずこれまでの歴史を含めてお話いただけますか。

齋藤  初代の龍崎美助氏は神奈川県出身で、横須賀に土地を購入して質商と特定郵便局を営んでいましたが1896年(明治29年)に上京し保険業を創めました。同年は日清戦争終結の翌年にあたり、近代国家としての産業政策や金融制度が形成されつつあった時代でもありました。地域の人々の信頼のうえに営む質商と特定郵便局における実績と経験は保険業の礎ともなり、保険業への進出の好機となりました。

以て、順調に社業を伸ばしていたのですが、交通事故が原因で初代が引退されると、明治大学を卒業して間もない龍崎恒助氏が1931年(昭和6年)、2代目としてその跡を継ぐこととなりました。そして、戦中戦後の激動の昭和期において、家業を社業へと高める組織づくりによって時代の荒波を乗りきってまいりました。

そのなかで私が1968年(昭和44年)に龍崎に入社しました。当時の龍崎は、まさに家業で、社長一人、事務員一人、生保営業一人体制であり、新潟の高校を卒業して上京し、実質的に龍崎の第1号社員となりました。

研修制度も何もなく、恒助社長のかばん持ちをしながらその後姿を見て学びました。今振り返って思えば、営業におけるお客様対応だけでなく、実践に裏づけされた経営哲学を知らず知らずに身に着けていくことが出来、その時の経験が今に生きています。

恒助社長が亡くなられた後は奥様、龍崎妙子氏に3代目社長を務めていただき、私は専務としてサポートをさせて頂きました。そして、2006年(平成18年)に、妙子社長の跡を継いで4代目として事業を継承し現在に至っております。

保険以外の相談に応じられてこそ一人前

長澤  どのようなことを学ばれたのですか。

齋藤  社長のかばん持ちですから当然、お客様のところにも同行することになります。その時、社長は一切、保険の話をしないのです。お客様に保険のお勧めに行っているにも関わらず、です。私は不思議に思って、「どうして保険の話をしないのですか?」と聞きました。すると社長は、「僕が行けば、何の話かわかるから」とおっしゃいました。

社長とお客様の間に「信用」という目に見えない絆がしっかりと築かれていたのです。

「とにかく龍崎さんに任せるから、よろしく」とお客様に言わせてしまう、信用の力を目の当たりにしました。信用は一朝一夕で得られるものではなく長きにわたり積み重ねて得られる大切な財産(会社としての無形資産)であることを学びました。

今の龍崎を支えて下さっているのは、当時の社長が龍崎の経営基盤になる、素晴らしい信用という原石を残して下さったからです。そして、私たち社員が時間をかけて、その原石を磨き上げて今があるのです。これが127年もの間、龍崎が続いている一番の理由です。

長澤  商品を売らない営業で気を付けている点があれば教えていただけますか。

齋藤  そうですね、これも先代から受け継いでいるお客様とのスタンスに関する教えですが「代理店は、いざというときに表に出て、お客様の精神的また物理的な安心感を与えるのが仕事」であるということです。お客様との距離感が大切です。

例えば、お客様が自動車事故を起こしてしまった時、常にお客様の立場に立って寄り添い人事を尽くして対応していくことです。不幸にして死亡事故を起こしてしまったお客様もいらっしゃいましたが、その時は被害者の葬儀にも一緒に伺いました。私どもが同行すれば、被害者の家族から浴びせられる厳しい視線を少しだけでもお客様から私どもの方に向けていただくこともできます。お客様の傍にいるだけで、ほんの少しかも知れませんが、お客様に安心感を持ってもらえるでしょう。

また、保険代理店ですから、保険の相談に応じられるのは当たり前で、本当に大事なのは、保険以外の相談にも応じられるかどうかだという考えで、お客様に接しています。

この仕事を通じて、弁護士や司法書士、公認会計士、税理士、社会保険労務士といった、さまざまな士業の方々と知り合いになれますから、お客様から保険以外の相談を受けた時でも、自分の知り合いの士業の方々にすぐ、おつなぎすることができます。たとえばお客様から相続に関する相談を受けたら、内容次第ですが、弁護士を紹介した方がいいのか、それとも税理士を紹介した方がいいのかを適切に判断して、お客様にご紹介するのと同時に、面会の時には私どもが同席させてもらいます。そうすれば保険代理人としての立場で助言もできますし、何よりもお客様に安心感を持っていただくことができます。余談ですが、士業の方々からは、紹介して頂いたので謝礼をお支払いしたいと言われますが、私どもは一切、受け取りません。その代わり、私どものお客様の相談事には、しっかり対応してもらっています。

お客様のために何ができるのか、そして何をなすべきかを考えて人事を尽くすことでお客様との絆、信用を培っていくことになるのです。

お客様に尽くし、お客様に安心していただく

長澤  失礼ですが、会社をもっと大きくするつもりはないのですか。

齋藤  そうですね。127年経って、社員はまだ20名を少し超える程度であり、会社として大きいか小さいかの概念は難しいのですが、そこは無理をしません。大事なのは会社を大きくすることではなく、お客様に尽くし、お客様により安心していただける体制を構築していくことです。前の社長にも、「自分の力量に合った仕事をしなさい」と、よく言われたものです。お客様一人一人に寄り添う「ゆとり」を失ってはいけないということですね。

その「ゆとり」は働く社員の心身にとっても大切なことであり、先代の龍崎恒助社長は「仕事は人生において大事だけれども、何よりも大事なのは楽しく仕事をすることだ」という考えを徹底した方で、今言われている働き方改革の先駆けであったかもしれません。社長自ら、仲の良いお客様夫婦とスイス旅行なども楽しんでおられました。

私はお酒もゴルフも嗜みませんが、仕事だけというわけではなく、中学の時から親しんできた卓球に力を注いでいます。私の郷里である新潟・新発田に自費で体育館を建設し、卓球クラブ(新発田ジュニア)を創設しております。お陰様で設立25年を迎え、日本を代表して活躍する選手も輩出しています。今から6年ほど前には、私の自宅がある千葉県に卓球場をつくり、下は小学校1年生から上は87歳の方まで、老若男女、皆さんが一緒に卓球を楽しめる「健康卓球」を主宰しています。登録者数は現在260名になりました。卓球は私の健康の秘訣であり生きがいでもあります。

長澤  127年という歴史のなかでは、さまざまなご苦労もあったと思います。会社として大変だった時期をどのようにして乗り越えてきたのですか。

齋藤  モータリゼーションの進展により、世の中が交通戦争とまでいわれるほど、交通事故件数が多くなった時代、私どもが代理店をしていた保険会社が営業用自動車保険を引き受けられないという状況に直面したことがありました。そのため、自分のところで引き受け切れない自動車保険を、同業他社の保険会社に引き受けてもらうという時期もありました。保険会社の経営と代理店の経営は必ず一致するものではありませんが、お客様にとって何がベストかを常に考え実践してきました。

また、この27年で、1996年に64万店あった保険代理店数が16万店まで減っている一方で、保険募集人の数は約120万人から約180万人に増えています。代理店の生き残りをかけた競争が進むとともに、契約の獲得に向けた競争も激しくなってきています。そのため、お客様と保険代理店の間でのトラブルも増えています。だからこそ、先述した「自分の力量に合った仕事をする」、身の丈に合った経営を実践しています。

そして、社員がお客様に無理な営業(お願い営業)をすることがないよう、社員の処遇のあり方についても重視し、保険代理店では稀有なことですが、龍崎では営業成績による歩合給与ではなく固定給与体系をとっています。営業成績上の販売ノルマを課すことも致しません。お客様のことを考え、また社員に不必要な負荷をかけてはいけません。だから、私たちは少数精鋭の社員で、そして出来るだけ社員に会社利益を還元しようとしています。

次の世代につなげるような仕事をする

長澤  飛び込み営業もしないのですか。

齋藤  うちはすべてお客様からの紹介でお客様を増やしていきます。ただ、紹介をしていただくためには、とにかく丁寧に、誠実に仕事をすることが大事です。

先にもお話ししましたが、お客様との「信用」という目に見えない会社としての無形資産は、また新たなお客様もご紹介いただける信用の連鎖を生み出す大切な資産でもあります。従って、飛び込み営業はいたしません。

大事なことは、何事にも、お客様にご納得いただけるまで丁寧に対応することです。

率先垂範は私の信条ですが、本日もこの取材をうける前にお客様のお宅をお訪ねして、保険の更新時期にあたり保険料が大幅に上がってしてしまうことを対面にて丁寧にご説明をしてまいりました。ご納得を頂くまでには大変難しかったのですが、最後は、「龍崎さんにお任せすれば安心でしょ」という奥様の一言で、補償もさらに充実したものに更新して頂きました。お客様から頂いている信用を改めて強く感じたところです。

また、保険は契約ではなく事故が発生したときに見える化します。従いまして、私ども代理店は、契約して下さるお客様の代理人だという意識を強く持つことが重要です。保険契約を締結した後、そのお客様が事故を起こした時、保険会社に全面的に一任してしまう代理店も少なくありません。事故が起きた時こそ、私たちはあくまでもお客様の代理人として保険会社と対峙してお客様の立場に立って、保険会社へプロ代理店として適切な説明と交渉していくことが大切ですね。

長澤  金融業界で働いている方にメッセージをいただけますか。

齋藤  私は創業者ではなく、あくまでも次の世代に繋いでいくために、承継者としての役割を担って今に至っています。そのためには、次の世代のお客様にも喜んでいただけるような関係を構築するように心がけております。保険の仕事は、お客様と20年30年という長いお付き合いをさせていただくので、その場限りの仕事は絶対にしてはなりません。自分の代で成果を挙げようなどと考えるのではなく、次の世代につなげるような仕事をすること、これは、代々の社長が心がけてきたことで、龍崎は127年もの歴史を重ねることができました。私も4代目としてそのことを心がけ、次の世代に託していきたいと思います。

長澤  ありがとうございました。

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