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第61回「コンプライアンス業務の『外部委託』と『外部支援』について」

 「日本資産運用基盤株式会社」を親会社に持つ「JAMPフィナンシャル・ソリューションズ株式会社」は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。

 2025年5月に施行された改正金商法によって、資産運用業の高度化及び参入障壁の引下げなどを目的として、運用権限の全部委託及びアドミ業務(コンプライアンス業務や計理業務)の外部委託等が可能とされた訳ですが、今回は、投資運用業者による「コンプライアンス業務の外部委託」と、以前から広く利用されている「コンプライアンス業務の外部支援」について、利用する場合の留意点等を整理しました。どちらが自社にとってより良い選択なのか?検討される際の一助になれば幸いです。

1.コンプライアンス業務の「外部委託」と「外部支援」の概要

(1)外部委託

 適格投資家向け投資運用業者に関しては以前から認められていましたが、今般の法改正によって一般の投資運用業者もコンプライアンス業務を外部の登録を受けた投資運用関係業務受託業者に外部委託することが可能となることが明記されました。なお、適格投資家向け投資運用業者についても、従来どおりにコンプライアンス業務の外部委託が認められています。

(2)外部支援

 コンプライアンス担当者を設置している投資運用業者が、コンプライアンス機能の更なる強化を図るために、外部の専門家等からコンプライアンス業務に対する「外部支援」を受けるものです。支援内容は委託元会社のニーズに応じて様々ですが、一例としては当局届出書のドラフトチェック、社内規程等の案文作成、コンプラ研修の実施、コンプライアンス関連情報(法令諸規則の改定など)の提供、業務過誤発生時の対応策検討、その他日々発生するコンプライアンス業務に係る様々な相談への対応などがあります。

2.コンプライアンス業務の「外部委託」と「外部支援」の主なメリット

(1)外部委託

 外部委託先が、内閣総理大臣の登録を受けた投資運用関係業務受託業者である場合には、委託元である投資運用業者はコンプライアンス担当者の設置が不要となり、当該外部委託業務の監督者の設置で足りると言う人的構成要件の緩和を受けることが出来ます。これは、資産運用業界でのコンプライアンス業務経験者数が少なく、その採用が困難な現状において、非常に大きなメリットと言えます。

また、自社でコンプライアンス担当者を設置する場合には退職などの人的リスクがありますが、外部委託する場合には長期的に安定したコンプライアンス管理態勢の構築と同様のメリットを享受することが可能と言えます。

(2)外部支援

 既存の投資運用会社であっても、コンプライアンス業務の外部支援を受けることによって、コンプライアンス態勢の更なる強化を図ることが出来ます。例えば、登録申請時点には想定していなかった未経験の新たな業(投資一任、投資信託、投資法人、ファンド運用など)に参入する場合に、ピンポイントでタイムリーに外部支援を利用することにより、コンプライアンス面での懸念を極小化することが可能となります。

このように、外部支援を受ける業務内容を本当に必要な部分に限定することが可能ですので、外部委託に比べると費用面の目算が立てやすいと言え、外部支援も1つの選択肢になると思われます。

3.コンプライアンス業務の「外部委託」と「外部支援」の主なデメリット

(1)外部委託

 当局の定めるコンプライアンス業務は、

①法令等遵守の観点から定期的な業務実態の把握、課題の指摘及び対応策の検討その他これに関連する業務。

②コンプライアンスに関する社内規則その他マニュアル等の案文作成・管理。

③コンプライアンス研修の定期的な企画・実施その他コンプライアンスに関する情報の提供。

の3つですが、これら全てを外部委託しない場合は、一部業務についてにしか人的構成要件の緩和を受けられません。例えば、②と③の業務を外部委託したとしても、①の業務を自社で行う場合には、①の業務に係るコンプライアンス担当者を自社に設置する必要があります。また、①②③のすべてを外部委託して自社にコンプライアンス担当者を設置しない場合であっても、外部委託契約の内容によっては、当局届出・自己取引・贈答供応管理業務などを行う実務担当者(必ずしもコンプライアンス担当者ではなくても可)が必要となる場合があります。

(2)外部支援

 まず、外部支援を受ける場合であっても自社コンプライアンス担当者の設置は必要ですので、その採用が困難であると言う状況は基本的には変わりません。コンプライアンス管理に係る費用と言う単純計算では、費用負担が増加することになります。


4.コンプライアンス業務の「外部委託」と「外部支援」の主な留意点

(1)外部委託
 まず、委託元には次の6項目の義務が発生します。

①委託する自社のコンプライアンス業務の内容を理解・把握し、受託業者に対して適確に指示を行う能力を持つ監督者の設置が求められること。

②外部委託したとしても、顧客(投資家)に対する責任は、委託元である投資運用業者自身が負うこと。

③従来と同様に、コンプライアンスに関する意思決定を適切に行うことが出来る知識・経験を有する常務に従事する役員(監督者と同一人であっても可)が必要であること。

④委託先に対し、委託したコンプライアンス業務の遂行に関して、必要な情報を適時に提供する体制を整備すること。

⑤委託先から受けた指摘等を適切に反映する体制を整備すること。

⑥委託元の監督者が、委託したコンプライアンス業務を適切に監督し、委託先に必要に応じて適切な指示等を行うことができる体制を整備すること。

 これらは当局から委託元に対する、「コンプライアンス業務の外部委託を行う場合には、外部委託先を社外の第三者ではなく自社の第2線担当者と認識し、強固な信頼関係の下で情報共有も密に行い、相互協力して適正なコンプライアンス態勢を構築してください」とのメッセージであることに留意が必要です。

(2)外部支援

 投資運用会社がコンプライアンス業務の外部支援を受ける理由は様々ですが、基本的には委託元が自社の現状のコンプライアンス態勢に関する実態把握やリスクアセスメントを行った結果、一部の業務について更なる強化が必要と判断し、当該業務に関する外部支援を受けるものです。即ち、実務上は委託元のコンプライアンス担当者と受託会社の担当者とが協働する形態になりますので、当該業務に係る指揮命令系統が明確でなければ、コンプライアンス業務そのものが企図したとおりに機能しないと言うリスクがあることに留意が必要です。

5.JAMP所見

 今般の金商法改正で投資運用業者にコンプライアンス業務の外部委託が認められましたが、これは投資運用立国を目指す国家政策の一環として投資運用業者の新規参入を促すことが本来の目的であり、既存の投資運用会社のコスト削減などを企図したものでは無いと言う事には注意が必要です。
 そしてこの背景には、現在の金融商品取引業界には十分な法令知識を持ったコンプライアンス経験者が少ないと言う状況があり、それにも関わらず投資運用業の登録申請における当局の人的構成要件が非常に厳格であると言う現実があります。
 このハードルを飛び越えるために用意されたツールが、今般の法改正で投資運用業者に対して認められたコンプライアンス業務の外部委託と、従前から利用されている専門家等からの外部支援です。
 しかしながら、役職員の方々からすると、実際に自社に法令知識や経験の豊富な専任のコンプライアンス責任者がいることの安心感は、他の手段では代えられないのではないでしょうか?
 従って、外部委託と外部支援のどちらを利用するにしても、並行して自社の生え抜きのコンプライアンス担当者を育てることが最も重要であると考えます。
 上記を勘案すると、投資運用業者の登録申請における人的構成要件の審査において、コンプライアンス業務に関して外部の専門家等から外部支援を受けると言うストラクチャーなのであれば(もちろん人的構成要件が損なわれない範囲内でと言う条件付きですが)、コンプライアンス担当者に係る当局の審査基準がもう少し柔軟であっても良いように感じています。



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