note

第72回 金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案について(第4回「スタートアップ企業への資金供給の促進」)

 「日本資産運用基盤株式会社」を親会社に持つ「JAMPフィナンシャル・ソリューションズ株式会社」は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。

 全5回シリーズを予定し、2026年4月10日付で第221回国会に提出された「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」といいます)をテーマに取り上げており、以下のテーマにて本改正案を掘り下げています。本改正案は7月15日に国会で可決・成立されていますが、今回は、「スタートアップ企業への資金供給の促進」を取り上げます。

第1回「改正案の全体像と位置付け」
第2回「暗号資産に係る規制の見直し」
第3回「企業のサステナビリティ情報の開示・保証」
第4回「スタートアップ企業への資金供給の促進」(今回)
第5回「有価証券に関する不公正取引規制等の見直し」(予定)

1.非上場企業の資金調達コストの引下げ

 スタートアップ企業への資金供給を拡大する上で、資金調達に伴う開示コストの負担軽減は重要な課題の一つです。特に非上場企業にとっては、有価証券届出書の作成や関係書類の整備に係るコストが小さくなく、調達金額によっては制度対応負担が資金調達の障壁となる場合もあります。今回の法律改正にあたっての当局資料においても、スタートアップ・成長企業への資金供給を促進する観点から、投資者保護に留意しつつ、開示負担にも配慮した制度整備の必要性が示されています。

 こうした課題を踏まえ、本改正では、有価証券届出書の提出が免除となる「少額免除」の基準が現行の1億円未満から5億円未満へと引き上げられます。これにより、従来は有価証券届出書の提出が必要であった1億円以上5億円未満の資金調達についても、原則として届出書の提出が不要となります。

 また、「少額募集」の対象範囲についても見直しが行われます。現行制度では1億円以上5億円未満が「少額募集」とされ、簡易様式の有価証券届出書を利用することが可能でしたが、本改正後は5億円以上10億円未満が「少額募集」の対象となります。これにより、5億円以上10億円未満の資金調達については、10億円以上の通常の募集に比べて簡素な開示による資金調達が可能となります。

 もっとも、本改正は開示規制を単純に緩和するものではありません。調達規模に応じて求められる開示水準を段階的に設定することで、投資者保護と資金調達の円滑化との両立を図る制度設計となっており、スタートアップ企業の資本市場へのアクセスを促進しつつ、一般投資家に必要な情報提供は確保するという政策的な考え方に基づく制度改正だと言えるでしょう。

2.特定投資家私募の活用促進

 本改正の中でも実務上注目されるのが、特定投資家私募における勧誘対象者の範囲拡大です。特定投資家私募は、特定投資家を相手方として資金調達を行う場合に、有価証券届出書の提出を不要とし、簡易な情報提供による勧誘を可能とする制度です。一方で、その対象者は特定投資家に限定されていることもあり、制度の利用は必ずしも広がっていませんでした。

 そこで本改正では、特定投資家としての要件を満たし、高い情報分析能力等を有するものの、一般投資家としての保護を受けることを希望し、特定投資家への移行手続を行っていない者を「潜在的特定投資家」と位置付け、特定投資家私募の勧誘対象に追加します。これにより、スタートアップ企業にとっては資金調達先の候補が拡大し、特定投資家私募の活用促進が期待されています。

 もっとも、ここで重要なのは、本改正が開示規制と行為規制を切り分けている点です。すなわち、潜在的特定投資家は特定投資家私募の相手方となることができるため、開示規制上は特定投資家と同様に取り扱われますが、行為規制上は引き続き一般投資家として扱われます。したがって、仲介する証券会社には適合性原則や説明義務等が従来どおり適用される点には留意が必要です。

3.企業成長を支える株式報酬制度の活用促進

 スタートアップ企業においては、限られた資金の中で優秀な人材を確保し、企業成長を支える人的基盤を強化していくことが重要な経営課題となります。そのため、現金による報酬だけでなく、株式や新株予約権を活用した株式報酬制度は、人材確保やインセンティブ設計の観点から重要な役割を果たしています。

 この点、本改正では、企業が自社及び子会社の役員・従業員に対して株式や新株予約権証券を交付する際の勧誘について、上場会社・非上場会社を問わず「募集」から除外し、有価証券届出書の提出を不要とする見直しが行われます。これにより、株式報酬制度を導入する際の事務負担やコストの軽減が期待されます。

 ストックオプションをはじめとする株式報酬制度は、企業価値の向上と役職員の利益を一致させる仕組みとして、近年スタートアップ企業を中心に広く活用されてきました。今回の改正は、こうした制度の活用を後押しすることで、優秀な人材の獲得・維持や役職員のインセンティブ向上を通じて、企業成長を支える基盤の強化に資するものと考えられます。

(JAMPコメント)

 今回の改正は、スタートアップ企業による資金調達を円滑化するとともに、人材確保や投資家層の拡大を通じて成長を支援するものと評価できます。もっとも、本改正の出発点として「非上場株式の発行・流通の活性化が喫緊の政策課題」が掲げられていることを踏まえると、やや物足りなさも残ります。

 スタートアップ企業への資金供給を促進するという観点からは、その本丸とも言える非上場株式の流通環境の整備も重要となります。その意味では、非上場株式のセカンダリーマーケットの整備や私設取引システム(ATS)の活用拡大、さらにはトークン化株式(ST)等の新たな技術を活用した流通市場の発展は、今後の重要な検討課題であることは論を待たないでしょう。


 当社は、国際金融都市を目指している東京都に協力して、金融商品取引業に関する登録申請手続き及び金融商品取引業者等の内部管理体制強化等に関する国内外の方々のご相談に対応させていただいております。初回の無料相談等につきましても、遠慮なく当社までお問合せください。