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「JAMPの視線」No.348(2026年9月2日配信)投資商品のマーケティングは、誰の仕事か

JAMP 大原啓一の視点 2026年9月2日 

 つい先日、身近な親族を亡くしました。気づけば私も47歳になり、これからは親族や友人等との別れを経験することが少しずつ増えていく年齢なのかもしれません。これまで幸いにも身近な人との死別をほとんど経験せずにきたこともあり、私自身、思っていた以上に動揺しました。小学校6年生の長男と1年生の次男にとっては、なおさら受け止め方の分からない出来事だと思います。まだ答えはありませんが、家族でしっかり話しながら、一緒に受け止めていければと思っています。

「買える」と「届く」の間

 さて、今週、JAMPグループは、個人投資家向けの体験型投資学習アプリ等を展開し、金融分野のデジタルコミュニケーションに知見を持つグリーンモンスター社との協業を発表しました。投資信託やETF等の商品設定後の投資家コミュニケーションやウェブマーケティングを支援する取り組みです。支援メニューの拡充といえばその通りですが、背景には、そもそも投資商品のマーケティングは誰の仕事なのだろうか、という問題意識があります。ETFはこの問題を考えるうえで分かりやすい商品です。取引所に上場されれば、投資家は証券口座から株式と同じように売買でき、販売会社に商品を採用してもらい、営業員が顧客に勧める従来型の公募投信とは流通構造が大きく異なります。

 ただ、商品を「買える」状態にすることと、投資家に存在を知ってもらい、何のための商品か理解してもらうことは別です。マーケットメイカーが売買のしやすさを支えても、認知や理解までは自動的に生まれません。特にアクティブ型やテーマ型、戦略型ETFでは、「何に投資するか」だけでなく、「どのような局面で、ポートフォリオの何の役に立つか」まで説明して初めて商品価値が伝わります。東証のマーケットメイク制度も、基本的には気配提示によって売買環境と流動性を改善する仕組みであり、商品認知を生み出す機能とは別です。

販売に内包されてきた「需要形成」

 従来の公募投信では、運用会社が商品をつくり、販売会社が採用し、営業員が顧客へ説明し、購入後もフォローする流れがありました。商品認知、顧客への提案、商品説明といった機能の多くが「販売」の中に含まれ、販売手数料や信託報酬の販売会社取り分などが、こうした販売・顧客対応を支える収益構造の一部となってきました。ETFではこの一体性が大きく弱まります。取引所と証券会社が「買える場所」を提供しても、個別商品の認知や理解まで誰かが当然に担うわけではありません。ETFがほどくのは販売会社そのものというより、販売会社の営業プロセスに内包されてきた「投資家に見つけてもらい、理解してもらい、選択肢に入るまでの機能」なのだと思います。ここでいう「需要形成」は、個別の勧誘というより、認知・理解・比較可能性を高め、投資家自身の選択肢に入るまでの機能を指しています。

 しかも、この変化はETFだけのものではありません。公募投信でも投資家自身が検索・比較して選ぶ場面が増えれば、営業員による積極的な勧誘だけに依存するモデルは相対的に薄くなります。オンライン証券も商品ページや特集、ランキング等を通じて情報流通や需要形成を担いますが、商品数が増えるほど、「棚に置かれること」と「投資家の選択肢に入ること」の距離は広がります。

需要形成のコストは誰が負担するのか

 「運用会社もマーケティングを強化すべきだ」と言えば簡単です。しかし、コンテンツ制作、ウェブ、動画、SNS、広告、メディア対応には人も費用もかかります。販売会社側の営業インセンティブが薄れる一方で、その機能が必要なのであれば、そのコストは誰が負担するのでしょうか。特にETFは低コスト競争が進みやすく、マーケティング費用を回収するために信託報酬を高くすれば商品の競争力を損ないかねません。逆にすべてを運用会社の固定費として抱えれば、十分な残高を獲得するまでの負担は重くなります。ブランドや販売網を持つ大手と、新興・専門型・海外の運用会社では、その負担能力も違います。

 つまり、これは単なる「宣伝」の問題ではありません。販売構造の変化によって、販売の中に内包されていた需要形成機能と、その費用負担をどこへ再配置するかという事業モデルの問題です。多様な運用戦略が市場に参入できる環境をつくるのであれば、巨大な営業・マーケティング組織を自前で抱えなくても、必要な機能を利用できる構造にも意味があるでしょう。もちろん、商品自体の投資価値や競争力をマーケティングが代替できるわけではなく、その前提があって初めて意味を持つ機能です。

マーケティングの担い手と事業責任を分ける

 ここで、もう一つ区別した方がよいことがあります。マーケティング機能を誰が実行するかと、その商品の事業成長に誰が責任を持ち、費用を負担するかは同じ問題ではありません。JAMPグループでは、複数の資産運用会社にホワイトレーベル基盤を提供する立場から、個別商品の需要形成を自らの事業として担い、その販促費を基盤側の共通P/Lで負担する役割設計は採っていません。誰の商品にどこまで投資するかという選別や、利用者間の費用負担の公平性が生じるためです。これはホワイトレーベル事業に唯一の正解という意味ではなく、当社が基盤提供者として中立性を保つために選択している機能配置です。

 一方、投信委託会社の役割を担う以上、商品を設定した後は知らない、というわけにはいきません。運用状況やリスクに関する継続的な情報提供、商品ガバナンス、情報の正確性には設定後も責任があります。ただ、それと、残高目標を置き、マーケティング投資を行い、商品事業そのものを成長させる責任とは別です。ホワイトレーベルサービスでは、商品戦略や対象投資家、事業計画を主導し、その商品事業の成長に第一義的な経済的利害を持つ主体は、基本的にはサービスを利用する資産運用会社だと私たちは整理しています。そうであれば、少なくとも当社のモデルでは、個別商品の成長に必要な投資もまずはその事業オーナーのP/Lで考えるのが自然でしょう。一方、JAMPファンド・マネジメントが投信委託会社として負う運用・商品ガバナンスや情報開示等の責任まで外部化できるわけではありません。

 今回のグリーンモンスター社との協業は、こうした役割分担を実装する一つの試みです。資産運用会社が商品戦略と事業成長を担い、JAMPグループが商品組成・運営基盤を提供し、投資家コミュニケーションの実行では専門会社の経験と知見を活用する。ただし、実行を外部化しても、投資家との接点から得られる学習まで外部化してはいけません。何が理解され、何が伝わらず、どのような投資家に必要とされているのかという情報は、商品戦略や事業判断へ戻される必要があります。

 投資家自身が商品を検索・比較して選ぶ場面が増えるほど、「誰が商品を見つけてもらい、その価値とリスクを理解してもらうのか」という機能の置き場所は変わります。そして同時に、その費用を誰が負担し、誰が事業成長を担い、誰が商品ガバナンスに責任を持つのかも改めて設計する必要があります。資産運用業界の次の競争は、運用成績や手数料だけでなく、こうした機能、経済性、責任、そして投資家から得られる学習をどこまで合理的に組み合わせられるかにも左右されるのではないでしょうか。

今週の「JAMPの視線」

■ 商品が「買える」ことと、投資家に「届く」ことは別である。
ネット取引やETFの普及によって商品の購入経路は広がりました。
一方、これまで販売会社が担ってきた「認知され、理解される」までの機能は、
誰が担うのかが曖昧になっています。


 外部化できるのは機能であって、成長責任ではない。
組成・ガバナンスなどの基盤機能は外部化できます。しかし、誰に届けるかを考え、
必要なマーケティング投資を行い、商品を育てる責任は商品オーナーに残ります。
JAMPが中立な基盤を担うほど、この役割分担を明確に設計する必要があります。


■ 外部の専門知見を使っても、「学習資産」は自社に残す。
マーケティング施策を専門会社に委ねても、何が伝わり、何に反応が生まれたのか
という投資家理解は、自社に蓄積されなければなりません。
今回のGreen Monster社との協業も、その学習を商品や事業の判断へ
還流させるための試みです。


JAMPメンバーの採用情報

 日本資産運用基盤グループでは、事業拡大に伴い一緒に働くメンバーを募集しています。弊社にご興味のある方、ぜひ働きたいという方はこちらからお申し込みください。
まずはお話だけでも、という方も大歓迎です!

代表の大原とのカジュアル面談でもいいかな、という方ももっとウェルカムです!!

keiichi.ohara@jamplatform.com


News Picks ダイジェスト

代表取締役 大原啓一 のコメント

【エヌビディア銀行の衝撃 GPUが埋め込む火種: NIKKEI Financial】

大原のコメント→

 「エヌビディアが銀行になる」という見出し以上に興味深いのは、AIという成長産業の資金需要が、既存の金融仲介の器そのものを作り変え始めていることだと思います。

 AI向けデータセンターやGPUへの投資はあまりに巨大で、ハイパースケーラーの自己資金や通常の社債・銀行融資だけでは吸収しきれなくなりつつあります。そこで、GPU、長期利用契約、SPV、残価保証等を組み合わせ、保険・年金、Private Credit、インフラファンド等が引き受けられる金融資産へと変換する。ここで起きているのは、単なる「新しい資金調達手法」の登場というより、事業リスクを細かく分解し、それぞれを最も保有しやすい主体へ再配置する金融仲介機能の再設計ではないでしょうか。

 ただし、金融技術によってリスクを分解・移転できても、リスクそのものが消えるわけではありません。GPUの残存価値、データセンターの稼働率、オフテイカーの信用力、そしてAI需要そのものは、突き詰めればかなり同じ経済要因に依存しています。表面的には多数の投資家へ分散されても、原資産のリスクが高く相関していれば、経済的には集中したままです。2008年との類似を考えるなら、証券化という技術そのものより、「分散したように見えること」と「本当にリスクが分散していること」を混同する危険性の方が重要だと思います。

 この話は日本にとっても他人事ではありません。AI・半導体、GX、データセンター、エネルギー等の成長投資が巨大化すれば、次に問われるのは「リスクマネーをもっと増やすこと」だけではなく、巨大な事業案件を誰が投資可能な資産へ変換し、どのリスクを誰が持ち、案件の成熟に応じてどの資本へ受け渡していくかという金融仲介の設計です。

 とりわけ大型設備投資の多くは地域に立地します。地域企業やプロジェクトについて最も早く情報を持つ地域銀行が、すべてを自行のバランスシートで最後まで抱える必要はありません。案件形成や情報生産という強みを活かし、その後のリスクを資産運用会社、保険・年金、ファンド、資本市場等へつないでいく。成長投資時代に必要なのは、資金を増やす金融だけではなく、投資可能な資産をつくり、資本を適切な担い手へリレーする金融なのだと思います。

https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_17360612

【欧米で続々「眠らない取引所」、狙いはアジアマネー - 日本経済新聞】

大原のコメント→

 一般には「欧米取引所が24時間化し、アジアマネーを取りに来た」と読まれますし、それ自体はその通りだと思います。ただ、もう一段重要なのは、取引所が営業時間ではなく、「価格発見の時間帯」を奪い合い始めたことではないでしょうか。

 夜間取引はATS等が先行しており、取引所側の延長は、そこへ流れた注文フローや市場データを取り戻す動きでもあります。しかも板を開けるだけでは市場にはならず、データ、清算、証拠金、コーポレートアクション、売買停止・監視まで24/5で動いて初めて信頼できる価格形成が成立します。

 米国株がアジア時間にも本格的に値付けされるなら、東証の問いも「24時間化するか」ではなく、日本株やETFについて、どの時間帯の価格発見と流動性を東京が担うのかでしょう。時差という地域市場の自然な防波堤が薄れるほど、営業時間より「市場の中身」が問われると思います。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_17363341

【JAMP、運用会社のウェブ情報発信を支援 海外からの参入も後押し】

大原のコメント→

 資産運用会社にとって、商品を「つくる」だけでなく、投資家に正しく「理解してもらう」ことも重要です。グリーンモンスター社との提携を通じ、投資家コミュニケーションやWebマーケティングまで、資産運用ビジネスの成長支援を拡充していきます。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_17394173

【運用業界、業務標準化へ利害調整 協会・大手の動向が鍵】

大原のコメント→

 データ項目や接続仕様が会社ごとに異なると、その接続自体がスイッチングコストとなり、運用会社と信託銀行・BPO・システム会社との関係も固定化しやすくなります。標準化されれば、受託側は規模の経済を働かせやすくなり、委託側も価格や品質でサービスを比較・変更しやすくなる。利益プールも、個別対応からサービス品質や基盤の規模へ移り得ます。

 だからこそ大手運用会社のリーダーシップは不可欠ですが、標準そのものは中立で開かれていることが重要です。標準化は単なる効率化ではなく、運用業界の「乗り換え可能性」と競争のルールを作り直す作業なのだと思います。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_17394312

主任研究員 長澤 敏夫 のコメント

【金融庁、「検査企画室」新設へ 手法改善し人材育成強化】

長澤のコメント→

 「当局もこうした不正を見抜けなかった」との指摘がありますが、金融庁の検査(モニタリング)は、警察の捜査とは異なり、組織的な隠蔽を伴う個別の不正を直接摘発することを主目的としていません。検査の本来の役割は、預金者保護、信用秩序の維持、そして金融システムの安定にあります。そのために、金融機関のガバナンスやリスク管理態勢の有効性を検証し、不正を未然に防ぐ内部牽制の強化を促すことが中心となります。

 このようなアプローチは、ある意味で性善説に基づいていると言えます。しかし、だからこそ金融機関に「常に見られている」という健全な緊張感を抱かせることが極めて重要です。近年、金融庁の監督方針が、従来のオンサイト検査から対話中心のモニタリングへと移行する中で、この緊張感が薄れつつある可能性は否定できないのではないかと思われます。

 こうした中、今回の動きは、金融庁・財務局における人材育成の強化に加え、金融機関に対して改めて自律的なガバナンス改革を強く求める契機となるでしょう。当局による監督強化だけでなく、金融機関自身が経営陣のリーダーシップのもと、不正を許さない企業風土をいかに醸成していくか。その実効性が、これまで以上に厳しく問われることになるのではないかと思われます。 

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_17394312


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