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「JAMPの視線」No.349(2026年9月9日配信)ETFの「輸入」を支える機能は誰が担うのか

JAMP 大原啓一の視点 2026年9月9日 

 先週前半は台湾・台北に出張し、台湾証券取引所、東京証券取引所及び大和証券 が開催した「Taiwan-Japan ETF Forum」に参加してきました。今回はかなり慌ただしいスケジュールでしたが、親戚が台湾に在住していることもあり、空港とカンファレンス会場や運用会社のオフィスとの移動を助けてもらい、ビジネス面談の合間には、親戚とのクイックランチも楽しむことができました。今後台湾での仕事が増えることで、親戚との交流もまた増えていけばいいなと思っています。

台湾と日本では、ETFの「意味」が少し違う

 さて、今回の出張では台湾ETF市場の熱気を改めて実感すると同時に、日本と台湾の資産運用会社がこれだけ活発に交流するなかで、その熱量をどうすればさらに多くのクロスボーダービジネスへつなげられるのか、ということを考えさせられました。

 台湾ではETFが個人投資家の資産形成にかなり深く入り込んでおり、資産運用会社にとっても重要な成長事業になっています。背景には相場環境や高配当商品への人気など複数の要因がありますが、現地で話を聞いていて印象的だったのは、従来型の公募投信との費用差を含め、ETFを選ぶメリットが個人投資家に比較的分かりやすく、その情報がYouTubeやSNS、金融系インフルエンサー等を通じて広く流通していることでした。商品の経済的な特徴と、それを投資家に理解してもらう仕組みが比較的うまくつながっているように感じます。

 日本では事情が少し異なります。ETF自体にも低コスト商品は多いものの、eMAXIS Slimに代表される低コストの非上場インデックス投信が非常に発達しており、パッシブ運用では個人投資家にとって「ETFにすれば明確に安くなる」というメリットが小さい状況にあります。積立や自動再投資まで考えれば、非上場投信を選ぶことには十分な合理性があります。したがって、日本でETF市場をさらに広げるには、パッシブ商品の価格競争だけではなく、アクティブ型やデリバティブ活用型などを含め、ETFという器を通じてどのような新しい投資価値を提供できるかが重要になるのでしょう。東証でもアクティブETFの上場や商品設計の柔軟化が進んでいますが、制度を整えれば自動的に市場が育つわけではなく、投資運用戦略、商品化、投資家への認知・理解、そして事業採算までを一つにつなぐ必要があります。

交流の熱量を、どう実ビジネスにつなげるか

 今回のForumには日本と台湾の多くの運用会社が参加し、双方とも海外市場への関心は非常に高いように感じました。実際、日台間ではすでにクロスボーダーETFの具体例が生まれており、これは両市場をつなぐ重要な前進だと思います。そのうえで、自社の投資運用戦略を持たない「基盤」ソリューションプロバイダーという少し特殊な立場から会場を眺めていると、こうした連携をさらに点から面へ広げる際の構造的な難しさも見えてきました。

 多くの会話から感じたのは、日本の運用会社には自社の投資運用戦略を台湾へ「輸出」したいニーズがあり、台湾の運用会社にも自社の投資運用戦略を日本へ「輸出」したい強いニーズがある一方、相手方の投資運用戦略を自国へ「輸入」する側に回ると、経済合理性が大きく変わるということです。他社戦略を自社商品として採用すれば、自社商品との競合、相手方のデューデリジェンス、商品組成・ガバナンス、マーケティング費用、さらに残高が育たなかった場合の事業リスクまで引き受けることになります。これは連携意欲の問題ではなく、それぞれの運用会社が自社のP/Lと顧客への説明責任を負っている以上、当然の判断でもあります。

 特にETFを展開する日本の資産運用会社の多くは大手で、自前で相当幅広い商品を作る能力を持っています。そうであれば、あえて海外運用会社の戦略を採用するには、「自社では作れない」「日本の投資家に明確な需要がある」といった相応の理由が必要です。台湾株のように現地運用会社が明確な比較優位を持つ資産クラスであっても、その商品が日本市場で十分な残高を集められるかは別の問題です。

 もちろん、相互の商品採用を前提とした連携も一つの方法です。ただ、その場合には企業間の関係性と、「その商品が本当に自国の投資家にとって必要なのか」という商品判断を丁寧に分ける必要があります。ここまで考えると、クロスボーダー資産運用ビジネスのボトルネックは、魅力的な投資運用戦略の不足というより、海外の投資運用戦略を国内商品へ変換する機能と、そのための固定費や事業リスクを誰のP/Lに置くのかという事業構造そのものにあるように思います。

「会社同士の提携」から「機能同士の連携」へ 

 そう考えると、次の一手は必ずしも日本と台湾の資産運用会社を1対1で結び付けることだけではありません。むしろ、従来は単一の資産運用会社の中に垂直統合されてきた機能をいったん分け、それぞれを比較優位のある主体へ配置することで、これまで採算が合わなかった連携を事業化できる可能性があります。

 例えば、台湾の運用会社が投資運用戦略や商品コンセプトを担い、日本の資産運用会社の台湾や香港等のアジア拠点が、現地で築いてきたネットワークを生かして案件ソーシング、初期的な事業性評価やパートナーのデューデリジェンス、継続的なリレーションマネジメントを担う。一方、日本籍ETFや投資信託としての商品組成、法令対応、商品ガバナンス、ファンド運営については、中立的なFMC/ManCo型の基盤が担う。さらに日本の投資家へのコミュニケーションについても、海外運用会社のブランド戦略を尊重しながら、必要に応じて専門的なマーケティング機能を組み合わせることができます。

 この役割分担であれば、日本の資産運用会社は海外運用会社との関係を深めるためだけに、自らその戦略を自社商品として引き受け、商品立ち上げの固定費や残高形成リスクをすべて負担する必要がありません。海外拠点に持ち込まれても、自社商品との競合や採算性から従来は商品化に至らなかった案件を中立的な製造基盤へつなぐことで、ソーシング、デューデリジェンス、リレーションマネジメントという海外拠点の強みを実ビジネスへ転換する余地も生まれます。海外の運用会社にとっても、日本で投資信託委託会社として必要な組織やシステムをゼロから構築することなく、自社の投資戦略を日本の投資家へ届けられる可能性が広がります。

 ここで、中立的な基盤の意味は単に「業務を外注できる」ことだけではないと思います。自ら競合する投資運用商品を持たず、機能提供そのものを事業とする主体であれば、他社の投資戦略を商品化するかどうかを、自社商品の販売戦略やカニバリゼーションとは切り離して判断しやすい。つまりホワイトレーベル型の基盤には、共通機能の固定費を下げるだけでなく、これまで単一の会社の中で混在していた商品製造機能と事業上の利害を構造的に分けるという意味もあります。

 もちろん、機能を分けることと責任を分散させることは全く別です。商品としての妥当性、投資運用状況の監督、情報開示、投資家保護などについては、国内で商品製造・ガバナンスを担う主体が明確に責任を負わなければなりません。水平分業の価値は責任を薄めることではなく、機能、経済的インセンティブ、責任をそれぞれ最も合理的な場所へ配置することにあります。

 日本資産運用基盤グループが提供しているETF等のホワイトレーベルサービスも、その一つの実装例です。今回、台湾証券取引所の方々からもこの仕組みについて多くの質問をいただきました。台湾ではこうした中立的なホワイトレーベル基盤はまだ一般的ではないようですが、今回の意見交換を通じて、投資運用戦略とローカルの商品製造機能を切り離すという考え方自体には相応の関心があるように感じました。

相互上場の先に、「市場接続」をどうつくるか

 そして、海外の投資運用戦略を日本籍商品へ変換できればクロスボーダービジネスが完成するわけでもありません。海外の運用会社は通常、日本で投資家との接点やマーケティング組織を持っていません。先週の「JAMPの視線 No.348」で書いた通り、商品が「買える」ことと、認知され、理解され、投資家の選択肢に入ることは別です。実際、Forum翌日に台湾の大手運用会社のCEOと日本市場への進出について意見交換した際にも、商品組成だけでなく、日本で投資家コミュニケーションをどう構築するかに強い関心が寄せられました。

 今回のForumでは、台湾証券取引所からも、すでに実現している商品相互上場をさらに「市場の相互接続」へ発展させていきたいという趣旨の問題提起がありました。私は、この「市場接続」を考えるとき、相互上場するETFの本数だけでなく、優れた投資運用戦略が生まれた場所から、それを必要とする投資家へ届くまでの摩擦をどこまで小さくできるかという視点も重要になると思います。商品製造、規制対応、ガバナンス、マーケティング、顧客接点を一社ですべて抱えれば、クロスボーダー展開は一部の巨大運用会社にしかできない重い事業になります。しかし、それぞれの機能に比較優位を持つ主体を組み合わせられれば、これまで経済合理性が合わずに商品化されなかった投資運用戦略にも国境を越える余地が生まれます。

 会社同士や商品同士を無理に「相互乗り入れ」させるのではなく、投資運用戦略、案件ソーシング、商品製造、ガバナンス、投資家コミュニケーションといった機能を「相互接続」する。資産運用市場の国際化を、商品が国境を越えた数だけではなく、投資運用戦略が投資家へ届くまでの摩擦の低さで考えてみる。Taiwan-Japan ETF Forumでさまざまな市場参加者の皆さまと議論するなかで、日台ETF市場の次の連携の可能性は、そうしたところにもあるのではないかと感じました。

今週の「JAMPの視線」

■ 台湾と日本では、ETF市場が成長する条件が異なる。
台湾では、ETFのメリットが個人投資家に分かりやすく伝わり、情報流通の仕組み
も発達しています。
一方、日本では低コストの非上場投信が普及しており、ETFには「安さ」だけでなく、
アクティブ型などを含む新しい投資価値が求められます。


 クロスボーダービジネスの壁は、投資戦略の不足ではなく「事業構造」にある。
海外の魅力的な投資戦略を国内商品にするには、デューデリジェンス、商品組成、
ガバナンス、マーケティングなどの費用と、残高が育たないリスクを誰かが引き
受ける必要があります。
「輸出したい」運用会社同士を結ぶだけでは、この問題は解消しません。


■ 「会社同士の提携」から「機能同士の接続」へ。
投資戦略、案件ソーシング、商品製造、ガバナンス、投資家コミュニケーションを、
それぞれ比較優位を持つ主体が担うことで、これまで採算が合わなかった連携にも
可能性が生まれます。
相互上場の本数ではなく、投資戦略が国境を越えて投資家へ届くまでの摩擦を下げる
ことが、日台ETF市場の次の「市場接続」につながります。


JAMPメンバーの採用情報

 日本資産運用基盤グループでは、事業拡大に伴い一緒に働くメンバーを募集しています。弊社にご興味のある方、ぜひ働きたいという方はこちらからお申し込みください。
まずはお話だけでも、という方も大歓迎です!

代表の大原とのカジュアル面談でもいいかな、という方ももっとウェルカムです!!

keiichi.ohara@jamplatform.com


News Picks ダイジェスト

代表取締役 大原啓一 のコメント

【金融庁、日本株レバ型ETFに警鐘 海外組成商品の販売「適当でない」 - 日本経済新聞】

大原のコメント→

 本件は商品規制であると同時に、市場構造の問題だと考えます。商品が海外籍でも、日々のリバランスに伴うヘッジ需要は日本株や関連デリバティブ市場へ波及し得ます。つまり、商品を買う人と、その外部性を負う人が必ずしも一致しない。

 金融商品の高度化が進むほど、「誰に売ってよいか」だけでなく、商品設計が原資産市場にどのような機械的フローを生むかまで含めて商品ガバナンスを考える必要があるのだと思います。

https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_17405998

【米バンガード、投資助言事業を強化-資産運用アルトゥルイスト買収】

大原のコメント→

 低コスト運用の象徴であるVanguardが、独立系アドバイザー向けのテクノロジーとカストディ基盤を買う点が興味深いです。表面的には投資助言事業の強化ですが、運用商品の製造コストが下がるほど、利益プールが「商品をつくる」側だけでなく、「投資家・アドバイザーの業務導線を握る」側へ移っている動きとも読めます。

 水平分業が進むからといって、何でも外部化すればよいわけではありません。汎用的な機能は共通化できても、顧客接点、行動データ、助言ワークフローのように学習が蓄積する機能には、自ら保有する合理性もある。

 資産運用会社の競争はAUMの規模だけでなく、「何を外に出し、どの接点を自ら持つか」という機能配置の競争になっているのではないでしょうか。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_17406015

【国債や株、即時決済 政府・日銀始動へ ブロックチェーン活用 - 日本経済新聞】

大原のコメント→

 ブロックチェーンで株・国債を即時決済できれば、決済リスクや事務負担が減る。これは大きなメリットだと思います。ただ、T+2やT+1の「時間」は単なる無駄ではなく、ネッティングや資金・担保調達を行う余地でもあります。

 即時・DvP化すれば信用リスクは小さくなる一方、設計次第では資金と証券を同時に用意する日中流動性の負担が強まります。つまり、短くなるのは決済期間ですが、金融仲介機能そのものが消えるわけではなく、信用から流動性へ姿を変える部分もある。

 重要なのはブロックチェーンを使うか以上に、中央銀行マネー、銀行預金、証券、担保をどう接続し、誰が最後の日中流動性を供給するのか。これは市場の「配管」とバランスシートの再設計でもあると思います。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_17406056

【LSEG plans tokenised UK shares, partners with Kraken-owner Payward】

大原のコメント→

 トークン化株式の議論は「24時間取引」「即時決済」に寄りがちですが、LSEの試みで本当に重要なのは、株主権・ガバナンス・資産管理までどう載せ替えるかだと思います。価格を参照するトークンを作るだけなら、新しいラッパーが一つ増えるだけです。

 重要な課題は、どの台帳を権利の正本とするのか、議決権・配当・コーポレートアクションを誰が担保し、CSD・証券会社・カストディアンの責任をどう再配置するのか。

 つまり競争は、「Blockchainか既存システムか」ではなく、権利と責任まで含む市場インフラを誰が再設計できるかということになり、日本のSTやトークン化投信にも同じ問いが返ってくると考えています。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_17440921

【金融庁、外国銀行の融資参入と生保セーフティネットを検証する会合を提案】

大原のコメント→

 外国銀行のシンジケートローン参加を「海外資金を呼び込む規制緩和」とだけ見るより、融資という業務をどこまで機能分解できるかという議論として見ると面白いと思います。

 単一の融資案件にも、案件発掘、審査、組成、資金供給、エージェント、モニタリング、回収等の機能/工程があります。もちろん信用リスクやAML等の責任まで消せるわけではありません。

 しかし、各機能/工程の担い手が異なるなら、規制も金融機関という法人単位ではなく、実際に担う機能と生じるリスクに対応させられないか。金融仲介の水平分業が進むほど、こうした「業態規制から機能規制へ」という問いは増えていくと思います。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_17441028


主任研究員 長澤 敏夫 のコメント

【キオクシアの株価変動も2倍に 「レバレッジ型ETF」のからくり - 日本経済新聞】

長澤のコメント→

 レバレッジ型・インバース型の投資信託やETFには、商品の設計上、相場が一定の範囲内で膠着状態にある場合、価格が下落する「減価」という特性がありますが、本記事はその仕組みをとても分かりやすく説明していると思います。

 ちなみに金融庁では、8月27日に「金融商品取引業等に関するQ&A」を改訂し、「海外で組成された日本株を対象とする個別株レバレッジ型ETFの販売については、国内市場に上場する株式の相場変動を増幅させ、我が国金融市場における価格形成に著しい影響を及ぼし得るものと考えられます」として、「海外で組成された日本株を対象とする個別株レバレッジ型ETFを金融商品取引業者等が取り扱うことは、公益上適当でない」としております。 

https://newspicks.com/user/6551307/?ref=user_6551307&sidepeek=news_17440729


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