
「JAMPの視線」No.284(2025年6月8日配信)
次世代の、挑戦する金融へ
日本資産運用基盤グループ メールマガジン【JAMPの視線】
目次
①JAMP 大原啓一の視点
②JAMPメンバーの採用情報
③NewsPicks ダイジェスト
- 代表取締役 大原啓一
- 主任研究員 長澤敏夫
④お知らせ・ニュースリリース
⑤メディア掲載情報
⑥インフォメーション
JAMP 大原啓一の視点 2025年6月8日
昨日の夜は生まれて初めて草野球の対外試合に出場しました。小学校5年生の長男が所属する野球チームの大人の部が週末の夜に野球の練習をしているのに時たま参加させて頂いているのですが、他のチームとの練習試合というのはやはり普段とは雰囲気も異なり、なかなか緊張しますね。野球経験者の皆さんの足を引っ張らないように頑張るのが精一杯でしたが、その後のお好み焼き屋での夜中までの打ち上げも含め、かなり楽しかったです。借り物ではない自分のグローブを買おうかどうか迷い中です。
さて、先週金曜日にプレスリリースを公表しましたが、弊社グループ会社であるJAMPファンド・マネジメントがファンド・マネジメント・カンパニー(FMC)ソリューションを活用したETF(上場投資信託)事業参入・運営支援、すなわち「ETFホワイトレーベルサービス」の提供を開始します。このサービスを利用することで、東京証券取引所へ上場する国内籍ETFの開発・提供を企図する資産運用会社は、自ら投資運用業(投資信託委託業)のライセンス登録をしたり、事業運営に必要な専門人材や機材等の確保をしたりすることなく、最小限の負担でETF事業を運営することが可能となり、ETF事業参入へのハードルが大きく引き下がることが期待されます。
背景としての問題意識やサービスの利用方法などについては、弊社プレスリリースに加え、同日に連携して公表された東京証券取引所のプレスリリースをご参照頂きたいと思いますが、本日のメールマガジンでは、今後の国内ETF市場の発展可能性とそこでのETFホワイトレーベルサービスの役割について補足をさせて頂きたいと思います。
日本のETF市場は、米国や欧州の市場に比べ、日本銀行によるETF商品の保有を除けば規模がまだまだ小さく、その成長可能性は限定的なのではないかと懸念する意見もしばしば耳にします。ただ、実際には、東京証券取引所による商品、流動性、営業、マーケティングといった観点での継続的な改善の取組みが奏功し、少しずつではありますが、市場規模は拡大してきています。特に、これまで主要だった国内機関投資家に加え、足もとでは海外投資家や国内個人投資家によるETF商品投資も急速に拡大していると耳にします。
私は、東京証券取引所のETF上場基準の緩和等による海外資産運用会社の日本市場への関心の高まりと、ETF事業に取り組む国内金融機関の多様化という2つの要因を受け、日本のETF市場の拡大はこれからさらに加速していくと予想しています。
まず、ひとつめについてですが、先月末に東京証券取引所のETF上場基準の更なる緩和により、デリバティブを積極的に活用するアクティブETFの上場が認められることになりました。それ以外にも、銘柄保有に関する基準の緩和等もあり、これまで東京証券取引所での上場が認められなかった海外の人気ETF商品についても、これからは門戸が大きく開かれることになります。また、これは上場基準の緩和に直接関係するものではありませんが、特に米国上場ETFをETF of ETFsの形で国内籍ETFとして東京証券取引所に上場しようとする際に問題になっていた米国1940年投資会社法に定めるいわゆる「3%ルール」の制約についても、東京証券取引所の働きかけにより、この制約を回避するための整理が大きく進んだということを聞いています。
海外大手資産運用会社は、自らの主要戦場である欧米市場でのETF事業の拡大を受け、「資産運用立国」で盛り上がる日本市場でもETF事業が展開できないかということに強い関心を持っていると耳にします。上記のような上場基準緩和等の環境変化を受け、海外市場で上場する自社のアクティブETF商品を日本市場で上場しようとする動きがこれから大きくなるということは自然な流れだと思います。実際、先週半ばに開催された「S&P ETFカンファレンス」に出席したところ、展示ブースを出す海外資産運用会社の数がかなり増えていることに驚きましたが、海外からの関心が高まっていることを実感しました。
私自身は、既に投資信託の形でも十分な種類の投資/資産運用「商品」が提供されているなか、新たな投資運用戦略を採用する「商品」が加わったとして、それがどれだけ機関投資家・個人投資家の効用を増大させるのだろうかということは少なからず懐疑的ではありますが、日本でこれまで提供されてこなかった海外の人気ETF商品が日本でも利用できるようになると、これまでETFに関心のなかった投資家の需要を刺激し、市場拡大を後押しするということは可能性として十分に考えられます。
次に、私個人として短中期的にはこちらの動きにより期待していますが、これまでETF事業に取り組んでこなかった国内金融機関が新たに参入し、担い手が多様化することによるETF市場の拡大の効果も大きいと考えます。具体的には、独立系投信運用会社やIFA(金融商品仲介事業者)による参入です。
プロダクトガバナンス規制の強化のため、多くの販売金融機関が取り扱う投信商品の数の絞り込みを進める流れにあり、独立系投信運用会社が自社の商品を販売金融機関に採用してもらうというのはこれまで以上に難しくなることが予想されます。事業環境の変化は、特に直販を主軸とする独立系投信運用会社にとってはより深刻です。個人のお客様と直接関係を持つことにより、自社の理念をより正確に伝えることを重視する独立系投信運用会社が直販を事業モデルの中心に据えるというのはあり得る選択肢ですし、その理念に対しては私も強い尊敬の念を持つものですが、1人の個人がひとつの金融機関でしか口座を持てないというNISA制度を前提とする現状、もはやその事業モデルはほぼ機能しないと言わざるを得ません。
このような独立系投信会社が新たな展開として検討すべきは、自社の戦略資産を活かしたETF事業への参入だと私は考えます。自社の戦略資産とは、すなわち直接の密なコミュニケーションに基づく安定した顧客基盤とこれまで培ったプロモーション戦略です。公募投信とは異なり、ETF商品であれば、東京証券取引所へ上場されさえすれば、その日から全国の証券会社等で個人のお客様にご利用いただくことが可能になります。販売金融機関の開拓や対応等の負担から解放されるとともに、直販モデルに込めた自社の理念も両立しつつ、これまで培った強みを最大限活用できるETF事業は、独立系運用会社にとって最善の選択肢と言えるのではないでしょうか。
また、IFA事業者の動きも見逃せません。IFA事業者とひとことで言っても、金融商品仲介業登録をしている金融機関は様々ですので一様には言えませんが、大手のIFA事業者は個人のお客様への対面の資産運用アドバイスを通じ、数百億円から数千億円の仲介預かり資産を有するまでになっています。このような大手IFA事業者は、単に株式や投信等の金融商品の提供を行うだけではなく、最近では大手資産運用会社から投資運用担当者を引き抜き、自社内に投資運用チームを持ち、ポートフォリオマネジメントに関するより踏み込んだアドバイスやサービスの提供を行うところも少なくありません。
こうした動きのなか、オリジナルブランドの公募投信商品の開発・提供を検討するIFA事業者も現れつつあり、実際、弊社・日本資産運用基盤にも以前よりそのようなご相談が多く寄せられつつあります。この点、公募投信ではなく、ETF商品の開発であれば、販売金融機関(≒所属金融商品取引業者)との関係性の観点でも、IFA事業者にとってより事業上の利便性が高いと思われます。大手IFA事業者は、単一の金融商品取引業者に所属するのではなく、複数の金融商品取引業者に所属するところが少なくなく、そのような全ての所属金融取引業者にオリジナルブランドの公募投信を取り扱ってもらうよう働きかける労力を考えると、上場したその日から全ての金融商品取引業者で取り扱いが可能なETF商品の方が有利なのは上述の独立系投信運用会社と同様です。
ETF市場の拡大という観点では、このような独立系投信運用会社やIFA事業者が参入することは、それら金融機関が既に有する安定した顧客基盤の金融資産がETF市場に流入することを意味します。ETF商品については、販売金融機関の取り扱いメリットが小さく、それが残高増加を阻害する要因だと指摘されることが多いですが、顧客基盤とプロモーション手段を持つ独立系投信運用会社やIFA事業者にとっては、その懸念はあてはまりません。このような担い手の多様化は、市場活性化に直結することが期待されます。
ひとつめとふたつめのいずれの場合においても、海外資産運用会社や独立系投信会社、IFA事業者がゼロベースでETF事業に参入し、運営することは容易ではありません。弊社のETFホワイトレーベルサービスはこれらの新たな金融機関の参入を全面的にご支援することを目的とするものです。日本でも前例のない新たな取り組みですが、東京証券取引所とも連携しつつ、ETF市場の活性化に貢献できるよう、全力を尽くしたいと思います。
News Picks ダイジェスト(代表取締役 大原啓一)
【日本資産運用基盤、ETF組成事業に参入 運営管理も - 日本経済新聞】
大原のコメント→
東京証券取引所のアクティブETFの上場基準が先月末に緩和され、デリバティブの活用等が認められたことにより、海外運用会社を中心に多様なアクティブETFの東証上場の意欲が高まることが期待されます。
また、公募投信の販売金融機関が商品数を絞りこむ傾向にあることや、NISA口座が1人1金融機関しか認められていないこと等を背景に、資産運用会社が販売金融機関への売り込みを省略できるETFを選好する動きが強まることも予想されます。
このような動きを背景に、海外資産運用会社を含む様々な金融機関がETF事業によりスムーズに参入・運営できるよう、日本資産運用基盤は米国で主流のETFホワイトレーベルサービスの提供を決定しました。
日本のETF市場の活性化を通じ、資産運用業界の高度化や投資家の選択肢の多様化に貢献できるよう、微力を尽くしてまいりたいと思います。
News Picks ダイジェスト(主任研究員 長澤敏夫)
【地域銀、「金融・保険業」融資増加 背景に仕組み貸出か】
長澤のコメント→
金利のある世界となり、預貸金スプレッドの拡大を見込んで預金獲得に注力している銀行が多いと聞きますが、こうして集めた資金を仕組み貸出に回しても、金融庁としては「本質的な金融仲介とは異なる」として銀行の本業とは認識していないため、ますます地域銀行に対する視線が厳しくなっていくのではないかと思われます。
【新NISA2年目、主戦場 ネットから対面へ 未利用層に相談ニーズ】
長澤のコメント→
25年3月末のNISA口座数は2646万口座となり、記事にあるように資産運用に興味を持ち、能動的に動く人の口座開設は一巡したと思われ、更なる資産運用の裾野の拡がりには、対面でのアドバイスなどにより背中を押す必要があるというのには同感です。
こうした中、金利のある世界となり預金獲得に動く中、資産運用ビジネスの優先順位を下げている金融機関があるとも聞きます。ただし預金は高金利を提示するネット銀行などに移されやすく粘着性がないといわれており、預金を獲得するには、NISAをはじめとした顧客と長期の関係性を深められる資産運用での付き合いも併せて必要かと思われ、「どちらもやる」というのが正解ではないでしょうか。