
「JAMPの視線」No.278(2025年4月27日配信)
次世代の、挑戦する金融へ
日本資産運用基盤グループ メールマガジン【JAMPの視線】
目次
①JAMP 大原啓一の視点
②JAMPメンバーの採用情報
③NewsPicks ダイジェスト
- 代表取締役 大原啓一
- 主任研究員 長澤敏夫
④メディア掲載情報
⑤インフォメーション
JAMP 大原啓一の視点 2025年4月27日
今年の春から幼稚園の年長になった5歳の次男と散髪に行ってきたのですが、髪を切ってもらった後の仕上がりに満足がいかないようで、「前髪が変だ、もとにもどして!」とずっと大泣きされて閉口しました。まだ5歳なのに自分の外見に気を使うなんておませだな、女の子の比率が高い幼稚園に通っているせいかなあと困りつつも妙な発見があって面白かったです。ちなみに泣き疲れたあと、「泣いているうちに髪がのびていい感じになった」と自分で納得してニコニコになっていました。
さて、先週半ばに自民党の資産運用立国実現連盟が「資産運用立国2.0に向けた提言」と題する新たな提言を政府に提出しました。そこで盛り込まれた諸施策のひとつひとつについてコメントすることはしませんが(ただ、先週のメルマガで述べさせて頂いた通り、「プラチナNISA」等のNISA制度の拡充施策については愚策だと思います)、岸田政権が退陣したあとも引き続き政治家の皆さまが「資産運用立国」の旗印のもとで資産運用業界の高度化やインベストメントチェーンの活性化を通じた日本経済の成長の後押しに注力されていることはとても心強く感じます。
ただ、一昨年末に公表された「資産運用立国実現プラン」や今回の提言においても、「2050年/2100年の我が国の資産運用業界はどうあるべきか、どのように日本経済に貢献しているべきか」という具体的なビジョンが示されていないことは残念に感じており、これから内閣官房が主導して取りまとめられるとされる「資産運用立国実現プラン2.0」ではそのような具体的なビジョンがまず示され、そこに到達するための手段として諸施策が講じられるというあり方を目指して頂きたいと考えています。インベストメントチェーンを活性化することによって日本経済を活性化するというのはわかるのですが、その際に各領域の主体がどのような役割を果たしているのか、どのような状態にあるのか、現時点では何も見えてきません。
「資産運用立国」が射程とするのは私たち資産運用業界のみならず、運用資金の投資対象となる発行体企業や家計等も含まれており、資産運用業界がどうあるべきかだけが主眼ではないというのはもちろんです。ただ、資産運用業界が果たす役割は非常に重要なコアな部分であることもまた事実であり、「資産運用立国」という表現で語られる日本経済の将来像における資産運用業界の役割や貢献のあり方というのはあいまいなまま進めるべきものではないと考えます。
私は、日本の「資産運用立国」やそこでの資産運用業界のあり方というのは、資産運用業が日本経済の成長の新たなエンジンとして、日本のGDPを増大させ、雇用を生み、税収を増加させるという視点で考えられるべきものだと考えています。資産運用によって家計の富を増やすというのももちろん重要なのですが、欧州でいうと英国やルクセンブルグ、アイルランド、アジアでいうとシンガポールや香港のように、資産運用業そのものが国富の創出の手段として直接に経済成長に貢献するという役割を担ってこその「資産運用立国」だと考えます*。
しかしながら、現在の「資産運用立国」を取り巻く議論や金融行政を見ていると、資産運用業に対してそのような視点での議論はほとんど無いように思われます。一般生活者にとっての費用負担をいかにさげるか、顧客保護の観点でどのような規制強化が必要か等、もちろんそのような議論は一丁目一番地で重要なことは私も否定しませんが、そこでは金融機関や資産運用業界がどのように富み、成長するかという議論は聞こえてきません。「顧客本位」「最善の顧客利益」というパワーワードの前には、金融機関がいかに儲けるかということは論じることすら許されない、そんな魔女狩り的な雰囲気すら感じます。
日本経済新聞が先日連載していた「金融庁四半世紀」という記事のなかでも紹介されていましたが、日本の金融業は他の金融諸国に比べて稼ぐ力が非常に弱く、直近の金融業に係るサービス収支は約2兆5,000億円の赤字と過去最大規模まで膨れ上がっているとのことです。三菱UFJアセットのeMaxis Slimのような低報酬投信を「顧客本位」と官民総出で礼賛し、その裏側でMSCIやS&Pのような外資系インデックスベンダーに利益を吸い上げられている構図を憂いている立場からすると特に驚きはありませんが、「資産運用立国」構想に携わられている政治家や官僚の皆さまはこのような状況をどこまで正確に把握され、真剣に対応されようとしているのか不安に感じます。
私が大学を卒業して資産運用業界に飛び込んだ2004年頃に当時の上司に耳にタコができるほどに聞かされた「英国の小話」にこんなものがあります。
「英国では、頭が良くて、家柄が悪い人間は、証券会社に行く。頭が悪くて、家柄が良い人間は、保険会社に行く。頭が良くて、家柄も良い人間だけが資産運用会社に入れる」
言うまでもありませんが、この小話は、証券会社や保険会社の方々を悪くいうためのものではありません。資産運用業が英国でいかに尊敬されているかということを伝えるためのものであり、「日本でも資産運用業がそんな風に尊敬される、そんな業界にしよう」と、当時の私たちはそんな想いで資産運用業の発展に取り組もうとしていました。
あれから20年強が経ち、現在の資産運用業界は当時の私たちが目指していたところに近づいているのでしょうか。資産運用業に従事する就業者数はあまり増えておらず、GDPや税収への貢献もさほど変わったようには思えません。上述した通り、金融業に係るサービス収支は過去最大の赤字となっています。色々な地域銀行をまわっていると、「政府や金融システムベンダーのためにやっているようなものだ」「ほとんどボランティアですよ」という声をよく耳にしますが、そのような業界にこれから優秀な若者は入ってくるのでしょうか。
決してネガティブなことばかりではありません。金融庁に資産運用課が設置され、来年春にはいよいよ投資信託協会と投資顧問業協会が合併し、新しい資産運用業協会が発足する等、資産運用業界にとって前向きな動きも具体的になっています。これらはまさに政治主導の「資産運用立国」の取組みの成果だと思います。このような前向きな動きが進むなかだからこそ、今後の「資産運用立国実現プラン2.0」の策定に向けては、上述のような視点での議論も行われることを心より祈念しています。
(*)なお、GDPに占める金融業の割合は、日本は4%程度であるのに対し、英国は約9%、シンガポールは約14%、ルクセンブルグは約26%です。
News Picks ダイジェスト(代表取締役 大原啓一)
【地銀再編が加速 「金利のある世界」で競争激化-第四北越・群馬銀の経営統合】
大原のコメント→
「金利がある世界」の復活を受け、地域銀行の従来型金利ビジネスモデルを楽観視する見方も一部にはあるものの、実際には金利は本来的にコモディティであり、スマートフォンを起点に県境を越えて定期預金や住宅ローン等の金利サービスの申込みを行なうことが容易になっている現代においては、体力の脆弱な地域銀行の生き残りが更に厳しくなっているというのが実際のところだと思います。
足もと静岡銀行と八十二銀行、山梨中央銀行、千葉銀行と千葉興業銀行、そして今回の記事の第四北越FGと群馬銀行の連携等の動きが連続しているのもそのような状況の表れであると思われ、今年はこれらにとどまらずより広い範囲での再編の動きが進むことを予想しています。
News Picks ダイジェスト(主任研究員 長澤敏夫)
【高齢者向けNISA創設を検討 金融庁、毎月分配型を追加】
長澤のコメント→
先日別の記事に対するコメントで、プロダクトガバナンス強化の取組みの中で、将来に向け資産形成を行っている若年層には毎月分配型は販売していないということを示すことができれば、毎月分配型もNISAの対象とする動きとなっていくのではないかと述べた直後に、このニュースが出てきました。
高齢者向けの少額投資非課税制度(NISA)を創設(プラチナNISA?)するとのことですが、制度が複雑になりますし、また、販売会社にとっては再びシステム対応の負担が生じることになりますので、単純に既存の新NISAの中で制度上は年齢関係なく毎月分配型は認める、その代わり、上記のプロダクトガバナンスの枠組みの中で想定顧客層に販売するよう徹底して下さい、というのではだめなのでしょうか。
毎月分配型投信はすべてが悪いわけではなく、分配利回り競争になることで通貨選択型等仕組みが複雑になり、それに伴い商品説明の負荷が高いという理由で販売手数料が高くなる、一方、投信保有者はタコ足配当となっていることをよく理解できずにいたということが一番の問題だったかと思います。このような歴史を繰り返さないよう、業界としてしっかりプロダクトガバナンスを強化するというのが、毎月分配型投信に限らない商品・サービスに共通する(イタチごっことならない)あるべき姿なのではないかと思われます。