
第56回「コンプライアンス業務の外部委託における委託者側の疑問点」
日本資産運用基盤グループのJAMPフィナンシャル・ソリューションズ株式会社は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに当局の動向などをまとめ、発信しています。
今回は、コンプライアンス業務の外部委託における委託者側の疑問点について、ご説明します。疑問点は以下の3つです。
【疑問点】
1.「投資運用業」と「投資助言・代理業」の両方を登録する金融商品取引業者も多い中、当該金商業者は、「投資運用業」だけではなく、「投資助言・代理業」も含めた両方のコンプライアンス業務を、投資運用関係業務受託業者に外部委託出来るのか?
その場合にも、人的要件の緩和措置(コンプライアンス担当者の設置不要)を受けることが出来るのか?
2.具体的には、どのようなコンプライアンス業務を、投資運用関係業務受託業者に外部委託出来るのか?
例えば、投資運用業者のコンプライアンス部所管である通常の業務は、全て委託できるのか?
仮に、コンプライアンス業務の内の一部業務の委託であっても、人的要件の緩和を受けられるのか?
3.本来は、自社で知識・経験を持つコンプライアンス担当者を設置したいが、その採用が非常に困難なので、コンプライアンス業務の外部委託を考えざるを得ない。
その場合にも、当該委託業務の監督を適切に行う能力を有する「監督者」を確保する必要があるが、具体的にどのような知識・経験が必要なのか?
その「監督者」は、役員又は使用人とのことだが、その責任範囲が不明確で、どちらを選任すべきかがが解らない。
【説明】
1.この疑問は、弊社がパブリックコメントに提出・質問したもので、2025年3月28日に公表された「金融庁の考え方」要旨は以下のとおりです。
**********************************
投資運用関係業務受託業は、金商法第2条第43項に規定する『投資運用業等』に関する制度であるため、今回の改正により、投資助言・代理業において求められる人的構成要件に係る審査の運用が変更されるものではない。
なお、投資助言・代理業におけるコンプライアンス業務の外部委託の可否については、 個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられるが、当局や当該業者への連絡体制などが構築できる場合等には、コンプライアンス業務を外部委託することが認められる場合もあるものと考えられる。
**********************************
このように真正面からの回答では無いのですが、投資助言・代理業におけるコンプライアンス業務の外部委託の可否が金商法に明記されていない中で、「認められる場合もある」との考え方が示されたことは大きな成果です。
おそらく、委託者側の監督者が投資運用業だけでなく投資助言・代理業の委託業務の監督も適切に行う能力を有し、監督指針などに定められる委託者側の体制を的確に整備できる場合には、両方のコンプライアンス業務を委託し、かつ人的要件の緩和を受けることは十分可能であると考えられます。
2.今般の金商法改正にあたっては、金融庁が複数の金商業者に事前ヒアリングを行いましたが、弊社からは特に「外部委託できるコンプライアンス業務の範囲の特定」が重要であることをお伝えしました。
その結果、投資運用関係業務の一つである「法令等を遵守させるための指導に関する業務」(いわゆるコンプライアンス業務)は、以下の3業務と規定されました。
(1)法令等遵守の観点から定期的な業務実態の把握、課題の指摘及び対応策の検討その他これに関連する業務
(2)コンプライアンスに関する社内規則その他マニュアル等の案文作成・管理
(3)コンプライアンス研修の定期的な企画・実施 その他コンプライアンスに関する 情報の提供
つまり、「投資運用業者における、コンプライアンス部門(担当者)は、この3業務を統括する役割を果たすもの」というのが、当局の考え方です。
そして重要な注意点は、この3業務全てを投資運用関係業務受託業者に委託しない限り、従前のとおり、自社でコンプライアンス部門(担当者)を設置する必要があることです。
一部業務のみを外部委託することも可能ですが、その場合には「委託する範囲」でのみ、人的要件緩和を受けることできます。
例えば、(1)の業務のみを外部委託する場合には、当該業務についてはコンプライアンス担当者の設置が不要となり、監督者の確保で足りますが、(2)と(3)の業務については、自社内に当該2業務を担当するコンプライアンス担当者の設置が必要になります。
なお、この3業務以外の一般にコンプライアンス部所管業務とされているものを外部委託することも可能です。
ただし、各投資運用業者のコンプライアンス部所管業務の種類・範囲は、各社の規模や組織体制等によって大きく異なりますので、どのような業務を委託できるのかは、委託元会社と受託会社との間の個別折衝マターになるものと思われます。
3.監督者の要件については、前述のパブコメでも質問があり、「金融庁の考え方」要旨は以下のとおりです。
**********************************
投資運用関係業務受託業者に委託する投資運用関係業務の監督を適切に行う能力を有する役員又は使用人については、「当該投資運用関係業務を直接遂行するにあたって必要な知識・経験、及び、過去に投資運用業に関する業務に従事していた経験は問わない」。
一方で、「投資運用関係業務受託業者に委託する投資運用関係業務の内容を理解し把握するとともに、当該投資運用関係業務受託業者に対して適確に指示を行う能力がある」ことは求めております。
**********************************
これは、現行のコンプライアンス担当者に求められている水準に比べると相当緩和されていますが、後段で記載されている能力については、監督者の職務経歴などによって、その保有を合理的に説明できることが必要と考えます。
なお、人的要件の緩和を受けたとしても、顧客(投資家)に対する責任は、投資運用業者(委託元)が負うことに留意が必要です。
即ち、当該人的要件緩和を受けるか否かにかかわらず、コンプライアンスに関する十分な知識・経験(コンプラに関する意思決定を適切に行うことができる知識・経験)を有する常務役員が必要であることは、今までと同様です。
また、当該常務役員とコンプライアンス担当者(要件緩和を受ける場合は監督者)の兼任は可能ですので、監督者の選任の際にはその点も考慮いただけます。
(JAMPコメント)
今回の法改正は、コンプライアンスオフィサーの確保に悩む投資運用業者にとっては朗報であると思われますが、コンプライアンス業務を外部委託したところで、投資運用業者の顧客(投資家)に対する責任の所在や、経営陣に求められる資質等は変わりませんし、委託元にも以下3つの体制整備等が求められています。
(1)委託先に対し、委託したコンプライアンス業務の遂行に関して必要な情報を適時に提供する体制を整備すること
(2)委託先から受けた指摘等を適切に反映する体制を整備すること
(3)委託者で確保する監督者が、委託先に委託した投資運用関係業務を適切に監督し、委託先に必要に応じて 適切な指示等を行うことができる体制を整備すること
一方受託業者には、継続的・能動的に委託元のコンプライアンスに関与する必要があるとされています。具体的には、チェックリスト的なスタンスで委託元から問い合わせを受けたら答えるのでは駄目であって、委託元運用会社の重要な会議体に出席するなどして、定期的な業務実態の把握、課題の指摘、対応策の検討に能動的に動くことが求められています。これは現在の投資運用会社の2線にいるコンプライアンスオフィサーが行っているのと同等の役割です。
即ち、コンプライアンス業務の外部委託に関しては、委託元と委託先の強固な信頼関係が不可欠ですので、もし仮にコンプライアンスオフィサーのコスト削減のみが主な理由であれば、この外部委託を行うことはあまりお薦め出来ません。本制度の真価はコスト削減ではなく、コンプライアンス水準の底上げが期待できるところである、と当社は考えています。
ではどのような受託業者を選定すべきかという点ですが、例えば委託元の本来業務である資産運用業務等において、何らかの業務提携関係にある投資運用関係業務受託業者であれば、お互いに業務内容を理解し信頼関係が構築されているため、コンプライアンス業務の外部委託先としても相応しいのではないかと考えます。
当社は、国際金融都市を目指している東京都とも協力し、金融商品取引業に関する登録申請手続き、及び金融商品取引業者等の内部管理体制強化に関する様々なご相談に対応しています。ご不明な点等ございましたら、是非当社までお問合せ下さい。