
「JAMPの視線」No.271(2025年3月9日配信)
次世代の、挑戦する金融へ
日本資産運用基盤グループ メールマガジン【JAMPの視線】
目次
①JAMP 大原啓一の視点
②JAMPメンバーの採用情報
③NewsPicks ダイジェスト
- 代表取締役 大原啓一
- 主任研究員 長澤敏夫
④メディア掲載情報
⑤インフォメーション
JAMP 大原啓一の視点 2025年3月9日
来月から新年度を迎えるに際し、我が家はいま長男・次男の新年度の習い事や学習塾通いをどうするのかという家族会議で大忙しです。やりたいことは何でもやらせてあげたいという親の気持ちに加え、周囲の友達がやっていることは自分もやりたいという子供の希望もあり、ともすると平日は習い事等で予定がほとんど埋まってしまいそうになるのが困りものです。本当に子供のことを考えるのであれば、詰め込まずにのんびりする時間を大切にしてあげなければいけないという考えもあり、ほんと何が正解なのか悩んでいるうちにまた週末が終わります。
さて、先週のNewsPicksでも触れさせて頂きましたが、みずほフィナンシャルグループがグローバル・カストディ業務を中心とする海外の資産管理事業を大手米系金融機関であるステート・ストリートに売却することが発表をしました。本件については、経営判断としては仕方ないだろうなという考えもありつつ、「資産運用立国」の文脈で日本がこれから資産運用事業領域に注力し、国富の増大を目指そうとしているなか、残念だなあという気持ちも正直あります。
資産運用事業領域における事業というと、まず思い浮かぶのが資産運用会社による投資判断(アセットマネジメント)レイヤーでの付加価値創造であり、政府が進める「資産運用立国」の実現プランにおける金融事業者側に対する取り組みもまずここが重点であるかのように見受けられます。ただ、資産運用事業領域には、その投資判断(アセットマネジメント)レイヤーのみならず、それを支えるファンドマネジメントやファンドアドミニストレーション、カストディ等、資産管理事業と総称される様々な基盤レイヤーが存在します。
私が日本資産運用基盤という会社を立ち上げ、日本の資産運用業界の発展に貢献したいという思いでこれらのうちファンドマネジメント及びファンドアドミニストレーションレイヤーでの事業支援ソリューションに取り組んでいるのは、私自身が20代半ばから30代半ばにかけて英国にみずほ系資産運用会社の駐在員として赴任していたとき、まさにみずほ系のみずほ信託ルクセンブルグや米国みずほ信託銀行(現・米国みずほ銀行)と連携し、様々な資産運用事業開発に携わらせて頂いたこと等により、欧米の資産管理事業レイヤーの厚みとそれらを基礎とする資産運用業界の拡張性・柔軟性等に感銘を受けたという経験に基づいています。
これら資産管理事業レイヤーの事業モデルはいまや国境を越えて稼働する装置産業化しており、欧米金融機関のようにグローバル市場にまたがって活動し、年間で数千億円規模のシステム等投資もいとわないプレイヤーが寡占する状況を鑑みると、日本市場を主戦場とし、システム等投資も限定的な日本勢が太刀打ちできないというのは否定できない現実です。特に、資産管理事業のなかでも、ファンドマネジメントやファンドアドミニストレーション以上にグローバル・カストディの事業については、特にその傾向が強いように思われます。その意味で、今回のみずほの売却対象は、公表ベースではグローバル・カストディ関連事業とされており、みずほが欧米で営むファンドマネジメント及びファンドアドミニストレーションといったカストディ以外の事業レイヤーが含まれているかどうかまでは詳細はわかりませんが、経営として事業撤退を判断するというのは仕方ないとは思います。
ただ、「資産運用立国」の旗印の下で日本が資産運用事業領域に国全体で取り組もうとし、巨額の家計金融資産を資産運用に動かそうとするなか、裏側の基盤である資産管理事業レイヤーを日本勢が撤退する流れというのは本当にそれで良いのだろうかという問題意識を持っています。別の事業レイヤーである指数レイヤーの話ではありますが、例えば、まさにいま三菱UFJアセットのeMAXISシリーズが家計から支持され、資産運用残高が巨額になっていることが注目されているものの、事業主体である肝心の三菱UFJアセット自身がまったく儲かっておらず、裏側でS&PやMSCI等の欧米指数プロバイダーにライセンス利用料の名目で家計金融資産からの利益が吸い上げられている状況にあると聞きます。これは、いわゆる「デジタル赤字」と同じ構図であり、日本の資産運用業界の長期的なあり方としてそれで良いのでしょうか。
日本勢による資産管理事業レイヤーへの取り組みについては、みずほが事業撤退を決定した一方、三菱UFJ信託銀行は数年前から積極的に海外金融機関の買収を続け、2030年にはファンド・アドミ事業で100兆円の目標を掲げていたり、野村ホールディングスが新しく「バンキング」部門を設立し、グローバルでの資産管理事業への注力を宣言したりする等、金融機関によって様々な動きになってきています。それであれば、今回の案件でみずほは単にステート・ストリートに事業を売却するだけではなく、バーターで事業果実を得るという情報も耳にしますが、日本の資産運用業界の長期的な戦略の一環として、三菱UFJ信託銀行や野村ホールディングスに事業売却を行うという選択肢はなかったのだろうかという妄想についふけってしまいます。
他の業界では、例えば経済産業省が主催する「半導体・デジタル産業戦略検討会議」のように、日本のデジタル・半導体産業はどうあるべきか等、政府も関与する形で産業設計を国家戦略的に検討するという動きもありますが(それが本当にうまくいっているかは疑問ですが)、金融・資産運用事業についても、同じように国家戦略として日本勢がどのようにグローバルプレイヤーに伍していくのかという視点で官民が連携して議論を行うことも重要であるように考えます。
News Picks ダイジェスト(代表取締役 大原啓一)
【「ATMのお墓みたい」 想像力をかき立てる“ATM跡地”が270万表示、「バイオハザード」連想する人も】
大原のコメント→
キャッシュレスが進展しても、やはり地方や一定の状況下においては現金決済の需要は強く残っていくと思われますし、電子マネーのチャージ等のキャッシュレス決済手段のメンテナンス接点としても、今後もATMに対する需要は強く推移するのではないかと考えています。
一方、金融機関にとってはATM施策は競争力や差別化の源泉ではあり得ず、現在のように自前のATMを年数億円もの赤字(少し古いデータですが、地域金融機関のATM事業の赤字は年間約2億円とも言われています)を計上して運営することは見直さざるを得ません。
その代表的な代替取組みがコンビニATMの活用ですが、複数の金融機関によるATM共同化等の動きも非競争領域での事業効率化の文脈では有用な選択肢であると思われ、いずれにせよATM事業の見直しは今後さらに加速度的に進んでいくように予想します。
News Picks ダイジェスト(主任研究員 長澤敏夫)
【富国生命、円建て一時払い保険の販売再開 9年ぶり - 日本経済新聞】
長澤のコメント→
別のニュースでは、3月募集の個人向け国債「固定5年債」の利率が17年ぶりに1%を超え年1.03%となるというのもありましたが、ここにきて、円金利商品が復活の兆しを見せてきています。以前のゼロ金利、マイナス金利の時期においては、個人投資家のニーズとして、せめて1%でも金利が付けばいいのだがという声をよく聞きましたが、無理に為替リスクを取らずに済む商品が出てきて、選択肢が広がるのはいいことかと思います。