
「JAMPの視線」No.270(2025年3月2日配信)
次世代の、挑戦する金融へ
日本資産運用基盤グループ メールマガジン【JAMPの視線】
目次
①JAMP 大原啓一の視点
②JAMPメンバーの採用情報
③NewsPicks ダイジェスト
- 代表取締役 大原啓一
- 主任研究員 長澤敏夫
④インフォメーション
JAMP 大原啓一の視点 2025年3月2日
今日は我が家の次男の5歳の誕生日です。我が家は2月中旬から3月上旬にかけて長男と次男、妻の誕生日が集中していますので、最近はほぼ毎週末に誕生日のお祝いをしているように感じます。以前もお話したことがありますが、次男が生まれたのは私が日本資産運用基盤の最初の資金調達で苦しんでいた時であり、投資家との面談を優先したために出産に立ち会えなかったという申し訳ない出来事を毎年この季節になると思い出します。来年の今ごろは小学校に入学する準備で忙しくしているでしょうか。1年1年を大切に過ごしたいと思います。
さて、少し前になりますが、自民党の資産運用立国議員連盟が金融庁に対し、読売新聞社が今春から新しく算出・公表を開始する株価指数「読売333」を新NISAの「つみたて投資枠」の対象指数に追加することを検討するよう要請するということが報じられていました。この資産運用立国議員連盟の動きに対しては、「つみたて投資枠」を利用する一般生活者の選択肢を増やすことにつながるとして好意的にとらえる意見もあるように見受けられますが、私は正直なところ資産運用立国の高邁なビジョンを損なう品の無い動きであると残念に感じました。
(ご参考)「『読売333、NISAの対象指数に』…岸田前首相が金融庁に検討を要請する考え」
このメールマガジンでも以前から何回かお話させて頂いている通り、私は日本で普及している金融商品指数の大半は海外勢プロバイダーが提供するものであり、国内勢プロバイダーの存在感が少ないため、新NISA制度の後押しを受けて日本の家計金融資産が投資信託等で運用される残高が増えるに伴い、そこから指数プロバイダーに支払われる指数ライセンス料の形式で海外に資金が流出してしまうことを強く懸念しています。そのため、読売新聞社が新しく「読売333」を算出・公表する事業を開始するということに対しては、その挑戦の姿勢や可能性の大きさ等を高く評価しており、応援しています。
また、新NISAの「つみたて投資枠」の対象指数が代表的なものに限定されており、その選定基準や追加可能性等が明確でないことについては、せっかくの良い制度の利便性を損なうものであると同時に、金融商品指数間の競争を阻害するものであると懸念しており、対象指数を柔軟に拡大するべきであると考えています。その意味で、新NISAの利便性を高めるために「つみたて投資枠」の対象指数を増やすことを検討すること自体は必要なことであり、議員連盟の要請についても拡大すべきという点については私も否定するものではありません(より正確に申し上げると、恣意的に設計された対象指数の制限は撤廃すべきと私は考えています)。
ただ、なぜその対象指数の拡大を要請する時に、まだ算出も利用も開始されていない「読売333」のみを名指しし、対象指数に追加することを要請する必要があるのでしょうか。利便性を高めるために対象指数の拡大が必要ということであれば、他にも検討の対象となるべき指数は存在するにも関わらず。このような要請がなされた背景についての詳細は存じませんし、報道によるとその要請の意向が明らかにされたのと同じ会合で読売新聞社による「読売333」の取り組みの説明があったようですので、もしかするとその説明を受けたという流れがあったために単なる例示として言及がされたということなのかもしれません。とはいえ、資産運用立国を通じて日本全体を豊かにしようという高邁なビジョンがあり、そのための施策のひとつとして新NISA制度がある以上、その設計・運用は公平・公正であるべきであり、誤解が生じるような言動は避けるべきではないでしょうか。「読売333」という特定の新興指数を後押しするような特別な意図があるように外形的に思われることは品が無いと眉をひそめられても仕方ないと思いますし、残念に感じます。
岸田政権時代に始まった資産運用立国構想が現在も自民党の資産運用立国議員連盟等が担う形で引き続き推進されていることを心強く感じています。だからこそ細かなことかもしれませんが、その流れが変な方向に曲げられないことを祈念しています。
News Picks ダイジェスト(代表取締役 大原啓一)
【広島銀、給与前払いサービス提供 他行にシステム販売も検討】
大原のコメント→
現役世代の顧客からの一定程度のニーズは存在すると思われ、他の地域銀行への横展開を展望しているところも含め、良い企画だと感じますし、それ以上にこのようなサービスを提供することによって顧客の粘着性を高める効果は大きいと考えます。
「金利のある世界」の復活によって預金取扱い金融機関はアグレッシブな金利設定での顧客囲い込みに注力する傾向が見受けられますが、金利は本来的にコモディティであり、メガバンク等に比べて基礎体力がぜい弱な地域銀行がこの金利競争に参入するのは悪手だと感じます。
この記事で紹介されているような顧客のニーズに対応し、寄り添うサービスを預金口座と紐づけることにより、顧客との関係性を強化することが地域銀行が取るべきど真ん中の施策だと考えます。
【みずほ、海外の資産管理事業撤退 米ステートに売却】
大原のコメント→
私はみずほ系のDIAMアセット(現・アセットマネジメントOne)の英国法人に駐在していた2007年~2015年の約7年半にわたって今回売却されることになったルクセンブルグみずほ信託銀行や米国みずほ信託銀行(現・米国みずほ銀行)と連携し、数多くの海外籍投信商品の開発に携わらせて頂きました。
現在の日本資産運用基盤で資産運用会社向けに資産運用支援ソリューションを提供させて頂いているのも、その当時に欧米資産運用業界におけるファンドマネジメントカンパニーやファンドアドミ、カストディ等の資産運用管理事業の実務に関わらせて頂いた経験に基づくものであり、欧米と日本の資産運用業界の厚みの差の大きさを20‐30代の若い時代に目の当たりにすることができたことがいま活きていると感じます。
みずほが今回の決断のように海外における資産運用管理事業から撤退する一方、三菱UFJ信託銀行は投信アドミ支援事業で2030年に100兆円のAUAを目指したり、野村ホールディングスが「バンキング」部門を新設し、資産運用管理事業等の強化方針を明らかにする等、資産運用領域の取り組みも各社各様になってきたように思われます。
ファンドマネジメントカンパニーやファンドアドミ、グローバルカストディ等の資産運用管理事業においてはステートストリート等の欧米勢に一日の長があるのは残念ながら受け入れなければならない事実ではありますが、日本の巨額の家計資産運用を支えるそのインフラレイヤーを全て欧米勢に委ねることは、「デジタル赤字」類似のイメージで、本来は国内で得られるべき管理フィーが海外に流出することでもあり、何とか日本勢もあきらめずにキャッチアップして欲しいと強く祈念するところです。
その意味で今回のみずほの海外資産管理事業の売却についても、ステートストリートではなく、三菱UFJ信託銀行や野村信託銀行等の日本勢への売却があったのならばという妄想についついふけってしまいます。
News Picks ダイジェスト(主任研究員 長澤敏夫)
【銀行や証券、投信組成側にデータ還元 「毎月分配」など8類型】
長澤のコメント→
毎月分配型投信は、分配により複利効果が得られず資産形成には向かないとされ、こうした投信を資産形成層向けに販売していないかを牽制する意味で、情報連携の対象となったと理解しています。ただし、毎月分配型投信の残高は、10年前の2014年12月末には42.6兆円で国内公募追加型株式投信(除くETF)の66%を占めていましたが、24年12月末には22.2兆円で比率は16%まで下がっています(QUICK資産運用研究所調べ)。全体的には資産形成層の保有は少なくなっているのではないかと思われますが、販売金融機関によって差異がみられるのか、こういった点が今回の情報連携で炙り出されるのか興味があるところです。