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第62回「運用権限の全部委託とスタートアップ投資の拡大について ~投資運用業者の競争力の源泉も多様化へ~」

 「日本資産運用基盤株式会社」を親会社に持つ「JAMPフィナンシャル・ソリューションズ株式会社」は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。 

 2025年にかけて運用の外部委託に関する制度整備が大きく進展しました。また、政府の後押しもあり、スタートアップ/ベンチャー投資も拡大しています。この2つが交わることで、「運用を外部委託するかたちで非上場株式に投資する機会を提供する」ことが一気に現実的になりました。
 制度が整った一方、運用の委託元と委託先の関係性はどうあるべきなのでしょうか。特に非上場株式投資の場合、情報の非対称性が大きくなりかねず、委託元が状況を確実に把握していないと管理不能という事態にもなりかねません。
 本稿では、運用の外部委託に関する制度整備、新興運用業者の参入規制の緩和措置、スタートアップ投資の促進策を踏まえ、外部委託により非上場株式への投資を行う際の留意点を概説し、最後に、投資運用業者はいかに競争力の源泉を見出すべきなのかという点について触れてみたいと思います。

1.運用権限の全部委託に当たっての確認事項

(1)運用権限の全部を委託するその範囲とは

 従前の金商法において、投資運用業者は、すべての運用財産について、その運用権限の全部を委託することが禁止されていましたが、2025年の改正施行後の金商法により、運用権限の全部委託が可能となること、当該委託を受ける者に対して、運用の対象及び方針を示すべきことが規定されました。同金商法改正に当たってのパブコメにおいて、「これは『運用の対象及び方針』を定める権限は投資運用業の中核的な業務として、委託してはならないことを明確化したもの」と回答されており、運用権限の外部委託を行うに当たっては、関係法令等の確認に加え、この金融庁の考え方を十分に理解しておくことが重要です。

(2)運用権限の全部を委託する際に講ずべき措置とは

 また、全部委託を行うに際し、講ずるべき措置は金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業等府令」)で規定され、運用状況の管理その他の当該委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置を講じる義務を負うものとされています。その投資運用業者が講ずべき措置については、改正業等府令並びに改正金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(以下「監督指針」)において、以下のとおり明記されています。

委託先の選定基準及び委託先との連絡体制の整備
②委託先の業務遂行能力及び委託契約の遵守状況を継続的に確認するための体制の整備
③委託先が当該委託に係る業務を適正に遂行することができないと認められる場合の対応策の整備(具体的には業務改善の指導、委託の解消等が考えられる)

 ここで確認しておきたいのは、上記①②③は金商法改正前においても、監督指針に規定されていたのですが、運用の全部委託を解禁する金商法改正にあわせて、業等府令にあらためて規定されたことの意図を理解することが重要だということです。 

(3)運用権限の全部委託を行う投資運用業者の責任

 上述するまでもなく、運用権限の全部委託が可能となり、それにより多様な運用ニーズを満たすことが可能になったものの、投資運用業者にとっての責任は決して軽減されてはおらず、外部委託先を十分に管理・監督することが求められることは何ら変わっていません。むしろ、外部委託先をいかに管理・指導するか、場合によっては外部委託先を入れ替えることを想定しておくべきことが法令で明確に定められたのです。
 加えて、以下に述べる新たな投資機会が増大することを考えると、運用の外部委託を行う際に求められる投資運用業者の責務は、益々高まって来ると考えておくべきではないでしょうか。

2.投資運用業者の参入規制見直し

(1)投資運用関係業務受託業の創設

 2025年の改正施行後の金商法におけるもうひとつの柱として、投資運用業者からコンプライアンスや計理等のミドル・バックオフィス業務を受託する投資運用関係業務受託業者の登録制度が新設されるとともに、投資運用関係業務受託業者に当該業務を委託する投資運用業者には新規参入に当たっての登録要件を緩和する措置が講じられました。

(2)投資運用業者の登録要件の緩和

 これまで、投資運用業者の登録を受けるには、対象となる業務について、必要となる十分な知識や経験を有する役職員を確保するよう求められていました。これに対して改正施行後の金商法では、登録を受けた投資運用関係業務受託業者に当該業務を委託する場合は、委託業務を適切に監督する役職員を確保することで足りることとなりました。つまり、登録を受けた投資運用関係業務受託業者にミドル・バックオフィス業務を委託することにより、当該業務の知識・経験を有する役職員を配置しなくても投資運用業に参入できることとなりました。

(3)任意での登録制度の意義

 ここでいう登録を受けた投資運用関係業務受託業者に対しては、忠実義務や誠実義務、善管注意義務などの行為規制が課せられ、法令違反行為を行った場合には業務改善命令や業務停止命令を受けることとなります。登録を受けることは、金融庁による監督に服することを自ら選択することに他ならず、当該受託業者の覚悟がうかがえるのではないでしょうか。
 受託業者へ当該業務の委託を行う投資運用業者の立場からは、上記の登録を受けた受託業者に委託することが、効率的な業務運営を実現する上では欠かせないポイントです。加えて、実効性のある投資運用関係業務の委託を企図するのであれば、自社の経営方針や運用戦略に相応しい受託業者を選定することが大切になります。運用権限の委託同様、投資運用関係業務も委託して終わりではありません。登録を受ける受託業者に業務委託することを検討する際には、候補となる受託業者との綿密な協議を踏まえ、自社にとって適切なコミュニケーションが出来るかどうか、さらに、受託業者にとっても十分なコミュニケーションができているかどうか、双方で能動的な対応を行う関係性が築けるかどうかが契約締結に当たっての大切なポイントの1つとなるものと考えています。

3.スタートアップ投資の促進

(1)進む制度整備

 政府の「スタートアップ育成5か年計画」において、スタートアップ企業等は「社会的課題を成長のエンジンに転換して、持続可能な経済社会を実現する、まさに『新しい資本主義』の考え方を体現するもの」として位置付けられ、さまざまな取り組みが行われています。
 法令上、投資信託への非上場株式の組入れは従来においても禁止されてはいませんでしたが、組入比率や非上場株式の評価方法が明確でなく、結果としては実施されていませんでした。そこで、投資信託協会は、2023年12月に「投資信託等の運用に関する規則」の改正を公表しました。この改正により、あらためて15%という組入比率の上限が明記された上で、流動性確保の措置や目論見書等で必要な措置を講じた場合は15%超の組み入れも可能となりました。
 また、東証の上場ベンチャーファンドについても、2025年2⽉から新制度がスタートしており、組み入れ制限や投資制限の一部が緩和されるなどしています。今後の上場ベンチャーファンドの増加が期待されるところです。

(2)新興運用業者促進プログラム(日本版EMP)の取り組み

 金融業界及びアセットオーナーが、新興運用業者による運用成果を通じて、顧客並びに加入者のより最善の利益を実現する環境を整備するため、官民挙げての取組みが行われています。詳細は割愛しますが、2023年に「資産運用立国実現プラン」が策定されて以降、資産運用ビジネスへの新規参入を促進するために実施されている取り組みの1つに資産運用ビジネスを始めやすくする環境整備があります。ミドル・バックオフィス業務の外部委託や運用権限の全部委託を可能とする規制緩和など、各種制度改正が行われていることは上述したとおりです。

4.運用の外部委託 × スタートアップ投資における競争力とは

 非上場株式への投資に当たっては、その発行体と投資運用業者との間に「情報の非対称性」が生じやすいことが想定されます。加えて、投資運用業者がその運用権限を他の投資運用業者に外部委託する場合、その状況次第では、「情報の非対称性」が拡大しかねません。その結果、委託元の投資運用業者による外部委託先の管理・モニタリングが行き届かない事態となれば、その運用プロダクトがガバナンス不全に陥る危険さえあります。
 運用の外部委託 × スタートアップ投資は、投資家にとっての新たな投資フロンティアを提供する契機になり得るものであり、企業にとってその競争力を高める資金供給モデルでもあります。ここで委託元の投資運用業者に求められるものとして、運用に関する「専門性」はもちろんですが、外部委託先の管理・モニタリングにおける、「情報の非対称性」を埋める「スキル」が重要になって来るのではないでしょうか。外部委託する投資運用業者が優秀だから大丈夫という発想ではなく、なぜその投資運用業者に委託するのか、何を見て判断するのか、どうモニタリングするのか、ここで言う「スキル」とは、運用品質を維持・向上するための委託元と委託者の間での対話力と言ってもよいかもしれません。それが、今後の競争力を左右することになるように思われます。

5.JAMP所見

 上記のように資産運用立国の実現に向けた動きがより本格化する中、投資運用業者はその中核的な役割を果たすことが期待されています。一口に「投資運用業」と言っても、独自の運用手法等を有する新興運用業者の台頭、その運用をプロダクトに落とし込むストラクチャーの多様化、そして、ミドル・バック業務の整備方法の選択肢も広がっており、投資運用業者が取り得るアプローチは少なくとも以下の5つが想定されるのではないでしょうか。

①投資運用業者がオールインで自己運用を含むすべての機能を担う方法
②投資運用業者は自己運用に特化、ミドル・バックオフィス業務を外部委託する方法
③投資運用業者が自社の運用エンジンを他の投資運用業者に提供する方法
④投資運用業者が運用を外部委託する若しくは助言を受け、ミドル・バックオフィス業務を自社で構築する方法
⑤投資運用業者が運用を外部委託する若しくは助言を受け、ミドル・バックオフィス業務も外部委託する方法

 この中で自社の強みや特徴を活かし、競争力を発揮できるアプローチはどれか、投資運用業者としてのスキルと矜持が試されることになるのではないでしょうか。




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