第64回 「AI法と投資運用業の今後(2)」
「日本資産運用基盤株式会社」を親会社に持つ「JAMPフィナンシャル・ソリューションズ株式会社」は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。
前回から「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下、「AI法」)と投資運用業界を取り巻く今後を検証しており、今回が2回目となります。なお、当初3回シリーズと想定していましたが、4回シリーズとしてお届けすることとします。
1. AI法の概要(前回)
2. AIを巡る我が国の金融当局の動き(前回)
3. 最近の投資運用業界におけるAIの利用(今回)
4. AI利用にともなう諸問題(今回)
5. AIファンドと顧客本位の業務運営(次回)
6. 投資運用業界の近未来予想図(次々回)
前回のメルマガでは、AI法を概説しつつ、当面、金融当局としては、事業者の⾃主的な努力による対応が期待できないものに限定して法令による規制を講じる動きとなることが想定されるとし、それ故に、事業者による早急かつ⾃主的な努力が望まれると考察しています。以下では、投資運用業界でのAI利用の現状を整理し、今後の課題や問題を、次回以降のメルマガに繋げることも意識しながら、考察してみたいと思います。
1.最近の投資運用業界におけるAIの利用
今回のテーマにあやかり、AIに「投資信託や年金基金の運用を行う投資運用業者の生成AI利用状況について」聞いてみました。以下はその生成された回答と筆者の考察です。
まず、「利用が進んでいる領域」として、目論見書や販売用資料等の文書作成、運用報告書や月次レポートのコメント作成、ESG関連データの集約・要約などディスクロージャーに係る領域でAIの利用が進んでいることに加え、社内問い合わせ対応としてAIチャットボットが活用される事例が回答されました。
投資運用業において、工数が多く、かつ、高度に属人化されたミドル・バックにおける業務効率化やナレッジの共有の領域でAIの本格導入が始まっているのは必然的な流れだと感じます。加えて、市場動向や企業情報のデータ収集・分析・レポート作成といった、運用フロントにおけるアナリスト業務でも大幅な工数削減を生む可能性が示されており、示唆に富む、興味深い動きだと感じます。
次に、「検討中・研究フェーズの領域」として、投資戦略の策定、AIによるシナリオ分析を始めとするリスク管理の高度化、投資判断の説明可能性の検証、アセットオーナーによる運用受託機関の評価・モニタリング(レポートの整合性の検証)にAIが利用されているものの、いずれも試験的な利用にとどまっているとの回答が生成されました。
このことから、「投資判断」や「リスク管理」の領域でのAIの活用については、依然として慎重な姿勢が取られていることが窺えます。その背景には、誤情報(ハルシネーション)への懸念に加え、コンプライアンス・説明責任、投資判断の根拠開示、ESG・市場データの品質、さらには外部AIモデルへの依存に伴うサードパーティリスクなどの課題が存在すると考えられます。
2.AI利用にともなう諸問題
投資信託や年金基金等の運用においては、運用成果のみならず、投資判断に対する説明責任までもが求められることからすると、投資判断の領域へのAI導入に慎重になるのは当然とも言えます。そこで、投資運用業の中核業務のひとつである投資判断におけるAI利用の可能性について、AIに尋ねたところ、「生成AIは過去のデータを基に学習しているため、将来の構造変化を内生的に予測し続けることは原理的に困難である」との回答が生成されました。
それでも、投資判断の領域の一歩手前、投資判断を導くまでの過程においては、AIを利用する余地は大きいと考えるべきではないでしょうか。私事ですが、AIなど世に存在しなかった頃、ある運用担当者から、カメラで美しい写真を撮ろうと思うなら光を上手くマネージせよ、アセット・マネジメントにおいて良い成績を残そうと思うなら飛び交う情報を上手くマネージせよ、との格言めいた話を聞かされたことがあります。市場の非効率性に投資機会を見出し、非連続の構造変化を洞察することで超過収益を得ようと最善の投資判断を追求するアクティブ・マネージャーにとって、優れた情報収集力と分析力が不可欠だと言いたかったのだと思っています。
もっとも、既製の生成AIをそのまま利用しただけでは、必ずしも自社のプロダクトやサービスにフィットする結果が生成されるとは限らないことは容易に想像されます。また、その場合には、生成結果の説明可能性を担保することも困難になると考えられます。
では、より投資判断に近い領域で、説明可能性を担保しつつAIを利用するには、どのような点に留意すれば良いのでしょうか。ヒントになると思われる興味深いレポートをご紹介します。日銀が2025年9月にまとめた金融機関における生成AIの利用状況等に関するアンケートに基づくレポートにおいて、AI利用に関するルール整備は進んでいるものの、利用状況のモニタリング・利用ルールの見直しに改善の余地があると指摘しています。
この「改善の余地」とは何を示唆するのでしょうか。既製のAIエンジンを活用しつつも、AIが自社に相応しい結果を生成できるようカスタマイズを図ること、さらに、そのカスタマイズされたAIの利用状況を継続的にモニタリングし、適切な結果を生成しているかを確認したうえで、必要に応じて再調整を行うことが重要だと考えられます。こうした取り組みを通じて、AIが常に自社に相応しい結果を生み出し続ける状態を実現できれば、その生成結果に対する説明可能性を担保することにもつながるのではないでしょうか。つまり、AIを適切にガバナンスすることが投資運用業者に求められていることに他ならないのではないでしょうか。
紙幅の都合もありますので、本稿では一つの仮説としてその方向性をご紹介するにとどめたいと思います。
(JAMPコメント)
ここまでお読みいただき、投資運用業者がAIを適切に利用し、必要に応じて再調整を図ることと、資産運用会社が運用権限の全部を外部委託するにあたっても、最終責任は自社が負うことと、ほぼ同義であると気づいていただけたと思います。
上記で触れたように、AIを利用するかしないかと考える時期はとうに過ぎ、投資運用会社の独自性、競争優位性、長期の安定運用を担保する収益性の維持・向上には、AIの利用が欠かせない状況になっています。場合によっては、AIの活用を検討しない姿勢自体が、忠実義務やお客様本位の業務運営の観点から看過できない論点になり得るのではないでしょうか。
少なくとも、AI利用による各社間の競争は既に始まっています。もちろん、投資判断はAIが踏み入れることができない領域と位置付け、それに磨きをかけることも引き続き重要なテーマですが、あいにくこの点は結果を見通すことが難しいのも事実です。
一方、ミドル・バック業務の効率化や運用フロントにおける投資判断を導くまでの過程における情報収集・分析、運用戦略の仮説検証などにAIを利用することによる成果を予めロジカルに計算しておくことは十分可能と思われます。
AIをいかに活用するのか、AIを利用することで得た経営資源をいつ、どのビジネス領域に再配分するのか、それとも信託報酬率の引き下げを通じて投資家に還元するのか。今、各社の専門性と創造性、社会課題の改善に立ち向かう矜持が試されているように思います。
当社は、国際金融都市を目指している東京都に協力して、金融商品取引業に関する登録申請手続き及び金融商品取引業者等の内部管理体制強化等に関する国内外の方々のご相談に対応させていただいております。初回の無料相談等につきましても、遠慮なく当社までお問合せください。