「JAMPの視線」No.323(2026年3月8日配信)地銀系運用会社の転換点
JAMP 大原啓一の視点 2026年3月8日
弊社が提供するETFホワイトレーベルサービスが、東京都主催の「東京金融賞2025『金融イノベーション部門』」で第3位を受賞し、先週月曜日に授賞式に出席してまいりました。同賞には今回は世界中から157事業者の応募があったと聞いています。これまでの受賞サービスは分かりやすいフロントのツールが中心で、私たちのような資産運用事業の裏側にあるインフラの取り組みが評価されたことには正直驚きました。資産運用立国や国際金融都市・東京の実現は、新しい商品やサービスだけではなく、業界を支える基盤の設計にも大きく依存していると考えています。今後も日本の資産運用業界の構造を支えるインフラづくりに取り組んでいきたいと思います。

地銀系運用会社モデルの転換点
さて、横浜銀行などが出資していた地銀系運用会社スカイオーシャン・アセットマネジメントが事業終了を決定し、運用している投資信託の償還や移管を進める方針が公表されました。地域金融グループが設立した資産運用会社の事業見直しの動きは、徐々に広がりつつあります。私はこの動きを個別企業の問題として捉えるべきではないと考えています。むしろ、地銀系運用会社という事業モデルの構造的な限界が顕在化してきている現象として理解する必要があります。
これまで地域銀行が資産運用会社を設立する背景には、「グループ内で投資信託をつくり、グループ地銀・地銀系証券で優先販売する」という事業モデルがありました。マイナス金利環境のもとで融資収益が伸び悩むなか、この事業モデルは新たな収益源として一定の合理性があると受け止められてきました。しかし、顧客本位の業務運営の徹底という流れのなかで、遅ればせながらこの事業モデルの限界が徐々に顕わになってきています。グループ運用会社の投信商品を系列だからという理由のみで優先的に販売することは、顧客本位とはかけ離れているからです。
中小運用会社が直面する「規模の壁」
もう一つの重要な変化は、中小規模の運用会社が自前で投信委託業を維持することの難易度が急速に高まっている点です。資産運用業界では信託報酬の低下が続く一方で、コンプライアンス対応やリスク管理、システム投資などの固定コストは増え続けています。さらに販売チャネル側でも取扱い投信商品の選別が進み、一定規模に達しない運用会社は残高を積み上げることが難しくなっています。この環境では、投信委託業を自前で維持するためには相当規模の運用資産が必要になります。結果として、中小規模の運用会社は事業として成立しにくくなり、事業見直しや撤退が今後加速度的に進むことが予想されます。
スカイオーシャン・アセットマネジメントのように出資者である大手金融グループの資産運用会社に投信商品が移管されるケースは、むしろ秩序ある移行と言えるかもしれません。一方で、バックアップのない地銀系運用会社の場合、引き取り手を見つけることができず、受益者に負担を残す形でのハードランディングに至るリスクも否定できないと考えています。
地域金融グループの資産運用機能をどう再設計するか
では、地域金融グループは自社グループ内に保有する資産運用事業をどのように再設計すべきなのでしょうか。
私は、地銀系運用会社の本来の役割は「自社ブランドの投資信託を製造すること」ではないと考えています。むしろ重要なのは、グループ銀行の有価証券運用の高度化や、運用人材の育成・確保、さらには地域の資金循環をどう設計するかという点にあります。その観点から見れば、投信委託業という製造機能を自前で抱え続けることが必ずしも合理的とは限りません。製造機能は外部の専門基盤に移管しつつ、金融グループとしての付加価値を再定義するという方向が現実的な選択肢になるでしょう。
重要なのは、撤退そのものではなく「どのように移行するか」です。投資信託を秩序立って移管し、受益者保護を徹底しながら事業モデルを転換する。そのためには、アセットマネジメント(投資運用)機能を自社に残しつつ、ファンドマネジメント(製造)機能を分離・統合できる基盤の存在が不可欠になります。弊社・日本資産運用基盤は、日本版ファンドマネジメントカンパニー機能の提供を通じ、投資信託の製造機能を外部基盤として引き受けることで、このような地銀系運用会社の事業転換と資産運用機能の高度化・効率化を支える役割を担っていきたいと考えています。
地銀系運用会社の事業見直しは、これから本格化すると見ています。その際に問われるのは、地域金融グループ全体として資産運用機能をどのように再設計するのかという視点ではないでしょうか。
JAMPメンバーの採用情報
日本資産運用基盤グループでは、事業拡大に伴い一緒に働くメンバーを募集しています。
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News Picks ダイジェスト
代表取締役 大原啓一 のコメント
【金融庁、内部監査共同化を推進 年度内に調査取りまとめ】
大原のコメント→
地域金融機関の内部監査機能を共同化するという今回の取り組みについては、地域金融業界の生産性構造を見直す動きとして期待感を持って拝見しています。
マネロン対策やサイバーセキュリティーなど、内部監査の専門性は急速に高度化しています。一方で、地域金融機関の多くは組織規模の制約から、すべての専門領域に十分な人材を自前で抱えることが難しくなっています。こうした環境のなかで、各金融機関がすべての機能を自前で保有するというモデルは、徐々に現実的でなくなってきているように感じます。
金融業界全体の生産性を高めるためには、各金融機関がそれぞれの高付加価値領域に経営資源を集中させ、それ以外の領域については外部の専門基盤を活用するという構造的な取り組みが不可欠です。内部監査の共同化は、その方向性を示す一つの象徴的な事例と言えるのではないでしょうか。
重要なのは、単なるコスト削減として共同化を捉えるのではなく、金融機関の役割分担を再設計する取り組みとして位置付けることだと思います。専門機能は基盤として集約し、各金融機関は顧客・地域企業との関係構築や価値創造といった本来の役割に経営資源を集中する。そのような構造転換が進めば、地域金融の競争力そのものも高まっていくのではないでしょうか。
https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16166787
【運用会社も海外に事務委託、野村アセットがインドに 高速決済が契機】
大原のコメント→
今回のニュースは「事務の海外移管」という個別の取り組みに見えますが、背景にあるのは資産運用業(特に投資信託委託業)のオペレーション構造の変化だと思います。
株式決済のT+1化は、単なる制度変更ではなく、資産運用業の事務処理にリアルタイムに近い処理能力を求める構造変化です。時差のある市場を扱う日本の資産運用会社にとっては、従来の人手中心のオペレーションでは対応が難しくなる局面が増えていくでしょう。
日本でも、投信計理業務などをNRIプロセスイノベーションやマスタートラスト信託銀行にアウトソースする動きは以前から一般的です。ただ、それは個別業務の外注にとどまるケースが多く、資産運用業界全体として役割分担が整理された産業構造になっているとは言い難い面があります。
T+1が直接的に産業構造の分離や改革を促すわけではありません。しかし、処理スピードと専門性が求められるほど、オペレーション機能は集約され、外部の専門基盤が担う方向へと進んでいく可能性が高いと思います。
今回の動きは、単なるコスト削減ではなく、資産運用業のオペレーションをどこに集約し、どのような分業構造を作るのかという「産業設計」の問題として見るべきではないでしょうか。資産運用業のオペレーションは、もはや個々の会社の内部業務というより、「産業としてどこに配置される機能なのか」という設計の問題になりつつあるように感じます。
https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16191455
主任研究員 長澤 敏夫 のコメント
【資産運用の提案「AIで高品質」 大和Gの板屋執行役員】
長澤のコメント→
一般論にはなりますが、AIを使った資産運用のポートフォリオ提案は、顧客向けにはパーソナライズがキーワードとなるとすると、営業担当者においては、新人やベテランも一定水準の提案ができるという意味で「提案水準の平準化」が大きなメリットになるかと思われます。ただ、資産運用においては運用期間中のフォローアップが重要であるため、そこでもAIを活用することになるかとは思いますが、顧客の想いを汲み取りながら行う「人」によるアドバイス及びフォローアップは引き続き付加価値を持ち続けると思われ、またそうあって欲しいと思います。
https://newspicks.com/user/6551307/?ref=user_6551307&sidepeek=news_16186775
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