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「JAMPの視線」No.336(2026年6月7日配信)ETF市場の次の成長に必要なもの

JAMP 大原啓一の視点 2026年6月7日 

 先日、日経新聞で「楽器練習」が高齢者の認知機能の維持に良い影響があるという記事を読みました。私も今年の初めにひょんなきっかけでクラリネットを習い始めましたが、思い通りに音が出ず四苦八苦しながらも、少しずつできることが増えていく感覚は、確かに心身に良い刺激になっているように感じます。40代半ばにもなると、なんだかんだそれなりにこなせることが増えてきますが、音を出すという基本的なことすら思い通りにできない経験は、悔しくもあり新鮮でもあります。個別指導をお願いしている先生からはなかなか厳しく指導され、ときどきしょげていますが、そんなことも含めて楽しく続けています。

熱気が実需を伴い始めた

 さて、先週前半、S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスが主催する第18回ETFコンファレンスに登壇する機会をいただきました。同コンファレンスは、国内外の政策・経済・市場環境が大きく変わる中で、ETFやインデックスの役割を多面的に議論する、国内でも有数の資産運用ビジネス関連イベントです。今年も金融機関、資産運用会社、証券会社、取引所関係者など、多くの市場関係者が集まり、会場には非常に強い熱気がありました。

 私自身は、2016年の第8回コンファレンスに、当時注目を集めていたロボアドバイザーサービス企業の経営者としてパネルディスカッションへ登壇させていただいて以来、毎年のように参加・登壇の機会をいただいています。以前は、半ば冗談のように「日本のETF市場よりもS&P ETFコンファレンスの方が盛り上がっている」と言われることもありました。しかし最近は、その状況も変わりつつあるように感じます。

 日本のETF市場では、新規上場銘柄が増え、アクティブETFや海外運用会社による参入、金融機関による資金運用ツールとしての利用拡大など、具体的な動きが出てきています。ETFが単なる指数連動商品の一類型ではなく、資産運用会社にとっての新しい商品提供チャネルとして、また投資家にとってのポートフォリオ構築ツールとして、改めて注目される局面に入っているのではないでしょうか。

 今回、私は「国内外におけるETFアクセシビリティ向上に向けて」というテーマのパネルディスカッションに登壇し、日本市場で投資家がより活発にETFへアクセスし、利用するための可能性と課題についてお話しさせていただきました。

課題のセンターピンはインセンティブ設計

 日本のETF市場について議論するとき、しばしば成長のボトルネックとして指摘されるのが税制の問題です。米国ではETFに税務上のメリットがある一方、日本では公募投信と比べて明確な税制優位性がないため、個人投資家にETFを選ぶ強い動機が生まれにくいという指摘です。これは重要な論点です。

 ただ、私はそれだけで日本のETF市場の課題を説明するのは、やや単純化しすぎではないかと考えています。より本質的には、ETF市場を支えるエコシステム全体のインセンティブ設計が十分に整っていないことこそが問題ではないでしょうか。

 米国では、個人投資家がETFを利用する税務上のメリットがあり、個人投資家に対してサービスを提供するアドバイザー等の金融機関側にも、ETFを用いたポートフォリオサービスを提供する経済合理性があります。投資家、アドバイザー、運用会社、証券会社、マーケットメイカー、取引所が、それぞれの立場でETF市場に関与する理由を持っていることが、市場の厚みを生んでいます。

 一方、日本では、ETFには公募投信のような販売会社向けの代行手数料がありません。そのため、販売金融機関から見ると、ETFを用いたサービスを積極的に開発・提供する理由が生まれにくい。個人投資家にとって税制面の強い優位性がなく、販売金融機関にとっても収益化しにくいのであれば、ETFの利用が自然に広がりにくいのは当然です。

 ただし、ここで「日本でも米国のように中立的なアドバイザーが投資助言フィーを個人投資家から受け取り、ETFポートフォリオを提案すればよい」と考えるのも現実的ではありません。米国のRIA(Registered Investment Adviser)であっても、付加価値提供の多くは投資一任型のストラクチャーを通じて行われています。日本で、純粋な投資助言モデルを前提にETF普及を目指すのは、少なくとも短中期的にはかなり難しいと思います。私たち日本資産運用基盤がゴールベース型資産運用ビジネス支援サービスで構築してきたモデルも、投資一任ストラクチャーを前提に、顧客、アドバイザー機関、プラットフォーム金融機関、運用会社それぞれにインセンティブが働くよう設計したものです。ETF市場の拡大においても、同じように「誰が、なぜ、その商品をお客様に届けるのか」という事業構造の設計が不可欠です。

IFAと海外運用会社という新しい担い手

 この観点で、最近特に可能性を感じているのが、IFA(Independent Financial Adviser/金融商品仲介業者)による自社ブランドETFの設定・提供を検討する動きの広がりです。IFAは、自社が継続的にサポートする顧客基盤を持っています。その顧客に対して、ポートフォリオ運用支援の手段として自社ブランドETFを活用することは、サービス付加価値としても、ビジネスモデルとしても合理性があります。公募投信でも似たことは可能ですが、その場合は証券会社ごとに取り扱いを依頼し、採用してもらう必要があります。また、販売会社を通じる以上、顧客負担となる代行手数料も発生します。ETFであれば、上場さえすれば、その日から幅広い証券会社を通じて取引可能になります。顧客がどの証券会社をメインで利用していても、その口座をそのまま活用できる。これは、独自の顧客基盤を持つIFAにとって非常に大きな意味があります。今後、IFAの自社ブランドETFは、日本のETF市場の成長を支える一つのドライバーになり得ると思います。

 もう一つの可能性は、海外運用会社による日本市場参入です。資産運用立国の流れやインフレの進行を背景に、日本の個人金融資産が投資・資産運用へ向かい始めていることは、海外運用会社にとって大きな事業機会です。しかし、海外上場ETFの持ち込みであれ、日本籍公募投信の設定であれ、通常は証券会社や販売会社を一社ずつ開拓する必要があります。これは時間もコストもかかります。その点、ETFは上場によって投資家へのアクセス可能性を一気に広げられる手段になり得ます。海外運用会社にとって、日本市場参入の有力な選択肢としてETFの重要性は高まっていくのではないでしょうか。

銘柄数の先にあるエコシステムづくり

 もっとも、ETFは上場すれば自動的に残高が積み上がる商品ではありません。むしろ今後の大きな課題は、プロモーション機能です。ETFには公募投信のような販売会社主導の営業インセンティブが働きにくいからこそ、投資家にどう認知され、理解され、継続的に利用されるかを設計する必要があります。日本のETF市場が本当に成長するためには、商品を作る機能だけでなく、商品を育てる機能が必要です。投資家向けの情報発信、IFAやアドバイザーへの教育、投資戦略の説明、指数や運用方針への理解促進、流動性やマーケットメイクに関する安心感の醸成。こうした機能がなければ、銘柄数は増えても市場の厚みにはつながりません。

 日本資産運用基盤では、ETFホワイトレーベルサービスの提供を通じて、国内外の運用会社や投資助言会社が日本のETF市場に参入しやすくなる基盤づくりに取り組んでいます。加えて、今後は中立性を保ちつつもより踏み込んだサポートができるよう、独立した金融商品プロモーションの専門会社とも連携し、ETF運用会社の個人投資家向けのプロモーション戦略の検討・実施をご支援する仕組みの整備も考えています。

 ETF市場の成長に必要なのは、銘柄数を増やすことでも、単に売買しやすくすることでもありません。商品をつくる人、届ける人、使う人のインセンティブをつなぎ直し、良質な商品が継続的に育つ市場構造を設計することです。日本のETF市場は、個別商品の上場を競う段階から、市場そのものを育てる仕組みを競う段階に入ったのだと思います。私たち日本資産運用基盤も、ETFホワイトレーベルサービスの提供にとどまらず、多様なプレイヤーをつなぎ、良質なETFが生まれ、届き、育つための基盤づくりに積極的に関与していきたいと考えています。


JAMPメンバーの採用情報

 日本資産運用基盤グループでは、事業拡大に伴い一緒に働くメンバーを募集しています。弊社にご興味のある方、ぜひ働きたいという方はこちらからお申し込みください。
まずはお話だけでも、という方も大歓迎です!

代表の大原とのカジュアル面談でもいいかな、という方ももっとウェルカムです!!

keiichi.ohara@jamplatform.com


News Picks ダイジェスト

代表取締役 大原啓一 のコメント

【東証、ETF銘柄数が急増 新規参入相次ぐ】

大原のコメント→

 東証ETF市場の銘柄数増加は、単なる商品数の拡大ではなく、日本の資産運用ビジネスの構造変化として捉えるべきだと思います。

 これまで日本のETF市場は、主要指数に連動する低コスト商品が中心で、担い手も大手運用会社に限られがちでした。しかし、アクティブETFの解禁、海外運用会社の参入、NISAでの活用余地、金融機関による運用ツールとしての利用拡大などを背景に、ETFは「取引所に上場する投資信託」という枠を超え、資産運用会社にとって重要な商品提供チャネルになりつつあります。

 一方で、ETFビジネスに参入するには、商品企画、上場手続き対応、設定・交換を含む日々の運用管理、継続開示、マーケットメイク対応など、多くの専門機能が必要です。優れた運用戦略を持つ運用会社であっても、これらをすべて自前で整備することは容易ではありません。

 その意味で、弊社・日本資産運用基盤が提供するETFホワイトレーベルサービスのように、運用会社が投資判断や戦略設計に集中し、組成・上場・管理等の基盤機能を外部化できる仕組みは、日本のETF市場の厚みを増すうえで重要だと思います。国内外の運用会社がより参入しやすくなれば、投資家にとっても選択肢が広がります。

 もちろん、銘柄数が増えるだけでは市場の発展とは言えません。流動性、投資家への説明力、継続的な残高形成、商品品質の確保が伴って初めて、ETF市場は本当の意味で成長します。今後は、ETFを「作る」ことだけでなく、良質な商品を持続的に育てる基盤づくりが問われる段階に入るのではないでしょうか。

https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16819116

【PayPay、T&Dフィナンシャル生命を子会社化 生命保険に参入】

大原のコメント→

 PayPayが生命保険に本格参入すること自体は、総合金融プラットフォームを目指す流れとして理解できます。一方で、決済アプリの顧客接点と生命保険サービスの親和性については、少し慎重に見る必要があると思います。

 スマートフォンを基点とした金融サービスでは、決済・送金のような資金移転や、後払い・ローンのような資金供与は、利用タイミングが日常に近く、アプリ接点との相性が高い領域です。一方、生命保険や資産運用は、老後、相続、病気、死亡、長期のライフプランといった遠い将来の不確実性に関わるサービスであり、単にUI/UXを磨けば自然に利用が広がるものではありません。

 もちろん、短期・単純なイベントリスクに対応する組み込み型保険であれば、スマホ接点との親和性はあります。しかし、生命保険の本質は、顧客の家族構成、収入、資産、負債、将来の生活設計を踏まえた保障設計にあります。ここでは、デジタル上のスムーズな導線だけでなく、顧客が自分のリスクを理解し、適切に意思決定できる仕組みが必要です。

 また、銀行や証券と同様に、生命保険機能を持つことと、生命保険会社を所有することは別の話です。保険会社を傘下に持つ以上、商品開発、募集管理、資本規制、ALM、代理店チャネル、顧客保護など、かなり重い経営責任を負うことになります。

 PayPayの顧客基盤とデジタルUXが、T&Dフィナンシャル生命の保険機能とどう結びつくのかは非常に興味深い一方、単なる金融スーパーアプリ化ではなく、生命保険という長期・高関与型の商品を、スマホ接点の中でどう顧客本位に設計できるかが問われる案件だと思います

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16821842


主任研究員 長澤 敏夫 のコメント

【山梨中央銀、リモート営業体制を拡充 法個人へ「深いコンサル」】

長澤のコメント→

 コロナ禍で一気に広まったオンラインでの会議・面談ですが、個人向けの資産運用相談においても、銀行の店頭まで行くのは面倒だが、自宅に訪問されるのはもっと嫌だという顧客も多いと思われ、リモート営業は今後増々増えていくのではないかと思われます。

 一方で、投資信託等の「商品販売」は販売手数料の低下傾向が続くなど、従来型の事業モデルは成立し難くなっています。従って、地域金融機関においては、強固な顧客基盤という強みを活かし、顧客の人生に寄り添う形での「資産運用アドバイス」を提供付加価値とするなど、営業チャネルの多様化とビジネスモデルの変革を併行して進めていくのが望ましいのではないかと思われます。

https://newspicks.com/user/6551307/?ref=user_6551307&sidepeek=news_16819854



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