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「JAMPの視線」No.334(2026年5月24日配信)国際金融都市・札幌の可能性

JAMP 大原啓一の視点 2026年5月24日 

 小学校1年生の次男が、名探偵コナンの影響なのか、シャーロック・ホームズの絵本にはまっています。家族内の交換日記で、「もりあーてぃきょうじゅがぽりをおいかけてるところがおもしろかた(モリアーティ教授がポリを追いかけているところが面白かった)」と書いていたので、警察官のことを「ポリ」だなんて、どこでそんな言葉を覚えたんだ・・・と思っていたら、絵本に登場する「ポリー」という女の子のことでした。じゃんじゃん!

東京の代替ではない札幌

 さて、先週後半、札幌で開催された札幌市と平和不動産が主催する国際金融都市関連のイベントにパネリストとして登壇する機会をいただきました。そこでの議論を通じて改めて感じたのは、「国際金融都市・札幌」という構想を、東京と同じ土俵で評価してはいけないということです。

 日本の金融機能は、長く東京に一極集中してきました。そのため、札幌が国際金融都市を目指すと聞くと、「現実的ではない」「金融機関の本社機能は東京から動かない」という見方も出てきます。たしかに、東京に代わる金融センターを札幌につくるという発想であれば、ハードルは極めて高いでしょう。

 しかし、国際金融都市は各国・地域にひとつである必要はありません。欧州を見ても、ロンドンが最大の金融都市である一方、フランクフルト、パリ、ルクセンブルク、ダブリン、アムステルダム、エディンバラなどが、それぞれ異なる機能や専門性を持って金融都市として存在しています。資産運用、ファンド組成、保険、決済、グリーンファイナンス、取引所機能など、金融都市には多様な役割があります。

 札幌が目指すべきは、東京の縮小版ではなく、北海道の産業特性と結びついた金融都市ではないでしょうか。実際、金融庁は2024年6月4日に、北海道・札幌市を東京都、大阪府・大阪市、福岡県・福岡市とともに「金融・資産運用特区」の対象地域に決定しています。さらに北海道・札幌では、GX産業集積と金融機能の強化を両輪で進める構想が掲げられています。

 金融庁の特設ページでも、北海道・札幌市は、今後10年間で150兆円を超えると見込まれるGX官民投資の一部を北海道に呼び込み、再生可能エネルギー供給・利活用拠点、そしてGXに関する資金・人材・情報が集積する金融センターを目指すと説明されています。ここに、札幌が東京と異なる金融都市として成立する可能性があると思います。

金融都市を育てるコミュニティ

 金融都市をつくるうえで、税制や規制緩和は重要です。しかし、それだけで金融都市が生まれるわけではありません。金融都市とは、資産運用会社を含む金融機関、スタートアップ、法律・会計・監査、行政、大学、投資家、取引所などのプレイヤーが集まり、日常的に情報と人材が交差する場所です。

 その意味で、平和不動産がFinGATE SAPPOROを札幌市内に開設することの意義は非常に大きいと思います。発表によれば、FinGATE SAPPOROは2026年7月1日に開業予定で、独立系資産運用会社や金融系スタートアップ、北海道のプロジェクトに関心を持つ関連事業者の活動・交流拠点として運営される予定です。また、東京のFinGATEで培ってきた金融拠点運営の経験を活用し、札幌と東京を結ぶ「ヒト・情報・資金」の交流を促進するとされています。

 私自身、日本資産運用基盤の創業直後から昨年春まで東京のFinGATEに入居させていただいていましたが、そこで感じたのは、金融都市の本質はオフィス等のリアルな場そのものではなく、そこに生まれるコミュニティにあるということです。金融プレイヤー同士が日常的に顔を合わせ、行政や専門家との距離が近くなり、情報が自然に集まる。そのような機能があることで、起業や事業開発のスピードは大きく変わります。札幌にFinGATEを中核のひとつとする金融コミュニティが生まれることは、制度としての特区を、実際に動く金融都市へ変えていくための重要な起点になるはずです。

大学・取引所・産業との接続

 もう一つ重要なのは、人材供給と資金循環の仕組みです。金融都市が継続的に発展するためには、金融機関の誘致だけでは足りません。そこに人材を供給する大学、資金を集める市場機能、そしてその資金を受け止める投資対象としての地域産業が必要です。

 この点で、札幌には北海道大学という大きな人材供給基盤があります。旧帝国大学の流れをくむ総合大学が存在することは、金融都市として極めて重要です。現状では、優秀な学生の多くが道外に就職していると聞きますが、札幌に資産運用会社、金融スタートアップ、GX関連ファンド、データセンター、再エネ関連企業が集積していけば、北海道に残る選択肢も増えていくはずです。欧州の金融都市でも、ロッテルダムにおけるエラスムス大学、エディンバラにおけるエディンバラ大学、ダブリンにおけるトリニティ・カレッジ・ダブリンやユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのように、金融都市の背後には人材供給源となる大学が存在します。

 こうした人材供給基盤に加え、北海道にはGXという明確な産業テーマがあります。再生可能エネルギー、次世代半導体、データセンター、水素関連産業などは、金融都市・札幌が東京とは異なる専門性を持つうえで重要な投資対象になり得ます。さらに、こうした地域産業に投資家資金をつなぐ市場機能として、札幌証券取引所の活用余地も大きいと思います。

 金融都市としての札幌を考えるうえで、資産運用会社を誘致するだけでは不十分です。運用会社が成長するためには、投資家資金にアクセスできる仕組みが必要です。例えば、2026年3月には「スパークス札幌・北海道GXファンド」の運用が開始されました。同ファンドは、Team Sapporo-Hokkaidoが掲げる洋上風力、次世代半導体、データセンター、水素、SAF、蓄電池、海底直流送電などの重点GX領域や再生可能エネルギー関連の北海道内プロジェクトを投資対象としています。札幌市も、このファンドがGX事業の集積・発展に資する金融機能の強化と金融都市としてのプレゼンス向上につながるものとして参画しています。

 現時点では、こうしたファンドは主に機関投資家資金を前提としたものですが、将来的に取引所機能や上場商品化の仕組みと接続できれば、より広範な投資家資金を北海道の成長分野に呼び込む可能性が広がります。もちろん、流動性、開示、投資家保護、評価、規制対応などの論点は慎重に設計する必要があります。しかし、地域の成長産業と投資家資金をつなぐ市場機能を持てるかどうかは、札幌が単なる政策都市ではなく、金融都市として自走できるかを左右する重要なポイントになると思います。

 国際金融都市・札幌の可能性は、東京の金融機能を移すことにあるのではありません。北海道のGX産業、大学を中心とする人材供給基盤、取引所、行政、金融機関、そしてFinGATEのようなコミュニティをどう接続するかにあります。制度、場、人材、投資対象、資金調達機能がつながり始めたとき、札幌は東京とは異なる文脈で、日本の金融・資産運用業界に新しい役割を果たし得るのではないでしょうか。


JAMPメンバーの採用情報

 日本資産運用基盤グループでは、事業拡大に伴い一緒に働くメンバーを募集しています。弊社にご興味のある方、ぜひ働きたいという方はこちらからお申し込みください。
まずはお話だけでも、という方も大歓迎です!

代表の大原とのカジュアル面談でもいいかな、という方ももっとウェルカムです!!

keiichi.ohara@jamplatform.com


News Picks ダイジェスト

代表取締役 大原啓一 のコメント

【音楽教室シアーに公取委勧告、フリーランス法違反 1674講師に無償委託】

大原のコメント→

 私も今年頭からクラリネットを個別指導で習い始めていて、昨年末に体験レッスンを受講したうえで決めたのですが、あの時の体験レッスンの指導料は音楽教室から担当の先生に払われていたのかな・・・。

https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16702760

【三井住友銀と東芝、新たな株式指数を共同開発 量子技術由来の技術活用、日米2種類算出】

大原のコメント→

 本記事で紹介されている取り組みは、単なる「量子技術を使った新指数」という話にとどまらず、日本の指数ビジネスの可能性を考えるうえで非常に興味深い動きだと思います。

 低コストインデックス投信やETFが拡大する中で、運用会社にとってはMSCIやS&Pなど海外指数プロバイダーへのライセンス料負担が相対的に重くなっています。信託報酬の引き下げ競争が進むほど、指数利用料を含む外部コストをどう抑え、同時に投資家にとって納得感のある指数をどう設計するかが重要になります。

 その意味で、国内金融機関と国内テクノロジー企業が共同で指数を開発し、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが日次算出・公表を担うという座組は、日本発の指数ビジネスの一つの方向性を示しているように感じます。

 ただし、指数は「高度な計算技術を使っている」だけでは投資家に支持されません。重要なのは、その指数がどのような投資哲学に基づき、どのような市場局面で有効で、既存の時価総額加重型や低ボラティリティ型指数と比べて何が異なるのかを、シンプルかつ継続的に説明できるかです。

 日本の資産運用業界が海外指数に依存するだけでなく、独自の指数設計力を持つことは重要です。一方で、指数ビジネスは信頼性、透明性、再現性、運用商品化後の残高形成まで含めた総合力が問われます。今回の取り組みが、日本発の指数ビジネスの厚みを増すきっかけになることを期待したいです。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16734802


主任研究員 長澤 敏夫 のコメント

【銀行預金、首都圏に5割超集中 相続で地方から流出―日銀統計】

長澤のコメント→

 相続人にしてみると親の取引金融機関と特段のつながりがなければ、相続の手続きが済めば速やかに預金を自分の取引金融機関に移すのは自然な流れかと思います。預金流出対策として、「預金金利の引き上げ」もひとつの手段かもしれませんが、コスト面で持続性に制約もあり、顧客との関係を強化し、金利競争に陥ることなく預金の粘着性を高める必要があろうかと思われます。

 特に地域金融機関においては、その強みである長年の取引を通じて熟知している顧客のライフプランを踏まえた資産運用に、将来の相続人たる家族を巻き込んだアドバイスにより世代を跨ぐ取引関係を構築できるかが重要になってくると思われます。

https://newspicks.com/user/6551307/?ref=user_6551307&sidepeek=news_16707848

【残高11兆円…地銀8割が手を染める「仕組み貸し出し」、金融庁が警戒する“ある目的”】

長澤のコメント→

 金融庁のレポートでは、「仕組み貸し出し」の取組自体を否定するものではないとは言っているものの、記事にあるような「外形的な貸出残高の増加」や「時価評価の回避」が目的であれば、貸出を行う大義はなく、金融庁としてはリスク管理態勢の整備を表面上求めつつ、本音では止めて欲しいところかと思います。

 金融庁では「仕組み貸し出し」を2年以上前から問題視して、地域金融機関経営者との意見交換会などで話題に取り上げ、それでも貸出抑制につながらなかったことから、供給元の大手証券会社の蛇口を閉めることで販売を抑制した経緯にあります。但し、既存の残高については市場環境によっては長期間にわたり市場金利を大きく下回る運用となり将来に禍根を残す可能性を孕んでいることは変わりません。貸し出しといっても実需に基づく借入人がいるわけではないので、デリバティブの解約コストや担保となっている債券の売却損益を負担すれば解約は可能と思われるので、足元の預貸スプレッド改善に伴う好調な収益環境が続いているうちに残高を減らすというのも経営判断かと思われます。

https://newspicks.com/user/6551307/?id=6551307&ref=user_6551307&sidepeek=news_16725038


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