「JAMPの視線」No.324(2026年3月15日配信)市場設計という競争
JAMP 大原啓一の視点 2026年3月15日
昨年末から一念発起して習い始めたクラリネットですが、週末をメインとしつつ、コツコツと練習を続けています。最初は音を出すのもひと苦労でしたが、高音域にはまだ苦労はするものの、ひと通りちゃんと音を出すことができるようになり、簡単な曲の演奏ができるようになってきました。また、個人レッスンを受けている先生のアドバイスをいただきながら、マウスピースとリガチャー(リードの留め具)を新しくしたり、自宅レッスン用の楽譜台を購入したり、なんとか初心者ながら環境も整ってきました。息子たちも、長男がピアノを、次男がバイオリンを習い始めたこともあり、数年後に家族みんなで演奏できるようになることを目標に、引き続きコツコツと頑張りたいと思います。
変貌する証券取引所ビジネス
さて、先日の日経新聞で、東京証券取引所が株式売買手数料への依存から脱却し、「データ経営」へシフトすることを目指し、新社長にシステム畑出身の横山隆介氏を起用するという記事が掲載されていました。
現代の取引所ビジネスは、もはや単なる市場運営ではありません。取引システム、マーケットデータ、指数、デリバティブなどを組み合わせた巨大な金融インフラビジネスへと進化しています。実際、世界の主要取引所はシステム企業やデータ企業を買収し、金融インフラ企業へと変貌しつつあります。その意味で、株式売買手数料に依存した収益構造から脱却し、データビジネスを強化するという方向性自体は極めて合理的です。取引所ビジネスが「巨大ITビジネスになっている」という日本取引所グループの山道CEOの認識も、世界の潮流を見る限り、まさにその通りだと感じます。
ただ、この議論を見ていて私が強く感じるのは、日本の金融市場には「市場を設計する」という発想が決定的に欠けているのではないかということです。
指数という市場OS
世界の主要取引所グループは、金融商品市場を戦略的に設計しています。そして、その中心にあるのが指数事業だと私は考えています。例えばロンドン証券取引所グループはFTSE Russellという指数事業を持ち、そこからETF、デリバティブ、データ販売まで含めた立体的なビジネスを構築しています。指数は単なる投資運用のためのベンチマークではなく、資本市場の「OS」のような存在です。指数が確立されると、その指数に連動するETFが組成されます。そこにデリバティブ市場が生まれ、指数データが投資家の分析基盤となり、運用資産が積み上がっていく。指数は単なる情報ではなく、資本の流れを生み出すインフラなのです。
この観点から見ると、日本の金融商品市場の設計には、思想や戦略性が十分に存在しているとは言い難いように感じます。東京証券取引所が算出するTOPIXや、日本経済新聞社が算出する日経平均株価は国内では広く利用されていますが、グローバル機関投資家の資産配分モデルの中核指数として利用されているとは言い難い状況です。私自身、欧州で資産運用ビジネスに関わっていた経験がありますが、海外の機関投資家がグローバルポートフォリオの基軸指数のひとつとしてTOPIXや日経平均を用いている場面を見ることはほとんどありませんでした。日本株市場は世界でも有数の規模を持ちながら、日本発の指数はグローバルな市場OSになっていない。この状況は、もっと真剣に考えるべき問題だと思います。
思想に基づく市場設計
取引所間競争というと、取引システムの高速化やM&Aといったテーマが注目されがちですが、本質はそこではないように思います。どの指数を軸に資本を集めるのか、どのデータを市場の標準にするのか、どのデリバティブを中心に流動性を束ねるのか等、金融商品市場をどのような思想に基づいて設計するのかが重要であり、それ以外は枝葉であるとさえ感じます。
グローバルに流れる巨額の資本を引き寄せるのは取引システムではなく、市場の根幹にある思想です。指数は、その思想を具体的な形にする装置の代表例のひとつだと私は考えています。東京証券取引所が「データ経営」へシフトするのであれば、単にデータ販売やAIサービスを強化するだけではなく、日本市場の指数体系をどのようにグローバル金融市場と接続していくのかという問いにも踏み込む必要があるのではないでしょうか。これは東京証券取引所という単体企業だけの問題ではなく、日本の金融・資産運用業界全体で考えるべきものです。
これまでの日本の金融・資産運用業界は、制度や商品を議論することはあっても、市場そのものを戦略的に設計するという視点はそれほど強く持っていなかったように思われます。しかし、これからのグローバル金融市場における競争は、まさに「市場設計」を巡る思想の競争です。日本の金融・資産運用業界が次のステージへ進むためには、そのような視点を持つことが不可欠なのではないかと思います。
JAMPメンバーの採用情報
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News Picks ダイジェスト
代表取締役 大原啓一 のコメント
【「運用会社は誇り持て」投資顧問業協会・大場会長: NIKKEI Financial】
大原のコメント→
大場会長が指摘されている「運用会社は独立した誇りを持つべきだ」という点には強く共感します。運用会社は顧客資産を預かる受託者であり、金融グループの一部門として扱われるべき存在ではないという問題意識は、日本の資産運用業界が長く向き合ってきたテーマでもあります。
一方で、日本で独立系運用会社が育ちにくい背景は、単に企業文化や起業家精神の問題だけではなく、資産運用業の産業構造にも大きく関係しているように思います。日本では販売チャネルが金融機関に強く依存しているため、新しい運用会社が資産残高を積み上げ、損益分岐残高に到達するまでのハードルが非常に高い構造になっています。
大場会長が触れられている「分業制」は、この構造を変える一つの鍵だと思います。運用会社が投資判断や顧客との関係といった高付加価値領域に集中し、コンプライアンスや事務、ファンドマネジメントなどの機能を外部の専門基盤が担う分業構造が整えば、損益分岐残高を引き下げ、黒字化までの時間軸を大幅に短縮することにつながります。結果として、新しい運用会社が参入しやすい環境も生まれてくるのではないでしょうか。
「誇り」を持つことはもちろん重要ですが、それと同時に、運用会社が独立して存在できる産業構造をどう設計するのか。資産運用立国を本当に実現するためには、その視点も欠かせないと考えます。
https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16200864
【ラップ業務残高が26兆円突破、25年12月末 依然増勢続く】
大原のコメント→
ファンドラップの残高が過去最高を更新したこと自体は、非常に興味深い動きだと思います。ファンドラップ(投資一任サービス)は、販売手数料がないため回転売買のインセンティブも働きにくい一方で、生活者の資産残高が増えれば金融機関の収益も増えるという構造を持っています。つまり、生活者と金融機関の利害のベクトルが比較的自然に一致しやすいサービス特性を持っており、生活者の資産形成の手段として今後も広がっていく可能性は高いと感じています。
特に重要なのは、ファンドラップが「金融機関と生活者が直接契約を締結し、継続的な役務提供とその対価を明確に定義できる」サービスである点です。生活者の「将来に備える」を継続的に支援するというゴールベースアプローチの観点から見ると、この契約構造は非常に相性が良いものです。単なる金融商品の販売ではなく、生活者の長期的な資産形成を継続的に支援するサービスとして設計することができるからです。
一方、現時点のファンドラップの多くは、まだその段階には至っていないように思います。実際には「より効率的なポートフォリオを提供する」ことが主な付加価値となっているケースが多く、提供されている価値の種類としてはバランス型投資信託と大きく変わらない側面もあります。
ファンドラップが本当に生活者の長期資産形成の中核的な手段として定着するためには、単なるポートフォリオ提供サービスではなく、ゴールベースアプローチに基づき、生活者の「将来に備える」を継続的にサポートするサービスとして進化していくことが重要です。金融機関が生活者と長期的な契約関係を結び、その中で資産形成を伴走する――そのような形に進化したとき、ファンドラップの本当の価値が発揮されるのだと考えています。
https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16222863
主任研究員 長澤 敏夫 のコメント
【ラップ業務残高が26兆円突破、25年12月末 依然増勢続く】
長澤のコメント→
金融庁はファンドラップについて、プロダクトガバナンスの観点から、顧客にコストに見合った十分なリターンが提供できているかの論点のほか、そもそも販売態勢として、利益確定などの短期解約など、そもそもの売り方として商品売りになっているのではないかの課題認識を示しています。一方、金融庁は23年6月の年次レポートで、投資信託とファンドラップを資産形成商品とよび、仕組み債などその他のリスク性金融商品とは扱いを分けました。 一般生活者向けの中長期的な資産形成・資産運用商品はこれらがコアとなると考えていると思います。ファンドラップは、販売手数料が無く回転売買の対象にならず、顧客の残高が増えると金融機関の収益も増えるという利害のベクトルが一致している、両者がWin-Winの関係になれるサービスであり、上記のような課題などを改善して、大切に育てていくことが資産運用立国の観点からも重要であると考えます。
https://newspicks.com/user/6551307/?ref=user_6551307&sidepeek=news_16186775
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