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「JAMPの視線」No.331(2026年5月3日配信)証券会社はなぜ銀行を欲しがるのか

JAMP 大原啓一の視点 2026年5月3日 

 昨年の夏に登場し、関東圏のご家庭の話題をさらった「ぎょうざの満洲」の夏の目玉商品である「スヒヤシ」が今年はゴールデンウィーク前からフェアメニューとして登場しています。石油由来原料(トレー・包材等)の不足により、満洲も冷蔵生ぎょうざの販売を休止せざるを得なくなり、不安を感じられるご家庭も多かったと思われますが、「スヒヤシ」の早期登板により、こうした不安も一掃されることは間違いありません。昨日はお昼に「スヒヤシ」を食べたあと、晩ご飯にも満洲に行こうとしたら、さすがに家族から止められましたが・・・。 

「ぎょうざの満洲」の5月のフェアメニューはこちらです!

証券会社が銀行機能を取り込み始めた理由

 さて、大和証券グループによるオリックス銀行の買収が、金融業界の構造変化を象徴する動きとして注目されています。大和ネクスト銀行を通じてオリックス銀行を子会社化し、将来的には両行を統合するという今回の動きは、単なる銀行機能の補完にとどまらず、リテール金融事業の競争構造が変わりつつあることを象徴しているように思われます。 

 この動きは大和証券グループだけに限られません。野村ホールディングスもバンキング部門を強化する方針を明確にしていますし、SBIグループも自社グループ内に銀行機能を持ちながら、SMBCグループとの提携を通じて資産運用・銀行・カードを組み合わせたサービス展開を進めています。また、その他の例でいうと、松井証券も住信SBIネット銀行のBaaSプラットフォームを活用し、「MATSUI Bank」という銀行サービスを提供しています。 

 こうした一連の動きを見ると、証券会社が銀行機能を取り込む流れは一過性のものではなく、リテール金融事業の次の競争軸として定着しつつあるように思われます。背景にあるのは、金利のある世界への移行と、顧客の金融ニーズの総合化です。証券会社にとって、預金・融資・信託といった銀行機能は、これまでの金融商品販売だけでは捉えきれない顧客ニーズに応えるための不可欠な構成要素になっています。  

狙いは「預かる・運用する・貸す」の一体化

 証券会社にとって銀行機能を持つメリットは、単に預金を集められることではありません。本質は、顧客の資産サイドと負債サイドを一体で捉えられるようになる点にあると考えられます。従来の証券会社は、顧客の金融資産の運用に関わることを主な役割としてきました。一方で、住宅ローン、不動産投資ローン、証券担保ローン、相続・事業承継に伴う信託サービスなどは、銀行や信託銀行の領域として切り分けられてきました。しかし、顧客から見れば、預金、投資信託、株式、不動産、借入、相続は別々のものではなく、自身の人生設計や事業運営等の経済活動を支える一つの金融資産・負債の構造です。 

 その意味で、証券会社が銀行機能を取り込むことは、「商品ラインアップの拡充」ではなく、顧客のバランスシート全体を設計するための機能拡張と捉えるべきと思われます。大和証券グループによるオリックス銀行買収も、預金獲得力を持つ大和ネクスト銀行と、不動産ローンや信託機能に強みを持つオリックス銀行を組み合わせることで、「預かる・運用する・貸す」を一体化する狙いがあると見ることができます。 

 ただし、銀行機能を持てば直ちに競争優位が生まれるわけではありません。預金、融資、信託、証券を単に横に並べるだけでは、顧客にとっての付加価値は限定的です。重要なのは、それらの機能を顧客の人生設計や事業運営等の経済活動のプロセスにどう組み込み、継続的に伴走するサービスとして設計できるかです。  

既存プレイヤーに問われる役割の再定義

 この動きは、既存の証券会社、資産運用会社、地域銀行にそれぞれ異なる問いを投げかけていると思われます。 

 まず、証券会社にとっては、銀行機能の保有や提携はゴールではなく、顧客の総資産に対する設計力を高めるための手段です。今後は、預金獲得力や融資残高だけでなく、それらを資産運用アドバイスとどのように接続できるかが問われます。ここに失敗すれば、単に銀行機能を抱えた重い金融グループになるだけです。 

 また、資産運用会社にとっても影響は小さくありません。証券会社が銀行機能を取り込み、顧客の資産全体を把握するようになると、投資信託や投資一任サービスは、単体の商品ではなく、より総合的な金融サービスの一部として位置付けられるようになります。運用会社は、商品を供給するだけでなく、顧客のゴールやキャッシュフロー設計にどう組み込まれるかを意識した商品・サービス設計が求められるでしょう。 

 地域銀行にとっては、より本質的な競争圧力になります。これまで地域銀行は、預金・融資・相続相談などを通じて顧客の生活や事業に近い位置にいました。しかし、証券会社が銀行機能を備え、デジタルチャネルと資産運用サービスを組み合わせてくると、地域銀行が従来持っていた接点の優位性は相対化されます。一方で、地域銀行には依然として大きな可能性があります。地域に根差した顧客理解、長期的な関係性、生活や事業の変化を把握できる接点は、総合的な資産設計において本来強みとなるはずです。問われているのは、預金や融資の提供者にとどまるのか、それとも顧客の人生や事業に伴走する金融サービスの設計主体へ進化できるのかという点です。  

 リテール金融の競争は、「証券か銀行か」という業態間競争から、「誰が顧客のバランスシート全体を最適化する主体になるのか」という競争へ移りつつあります。今回の大和証券グループの動きは、その転換を象徴する事例のように見えます。


JAMPメンバーの採用情報

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News Picks ダイジェスト

代表取締役 大原啓一 のコメント

【毎月分配型投信、危うい活況 資金流入9年ぶり1兆円超え】

大原のコメント→

 毎月分配型投信については、元本取り崩しや複利効果の毀損といった観点から、長期の資産形成に必ずしも適さないという指摘があることはその通りだと思います。一方で、NISAの対象外であるなど制度的に不利な位置づけにあるにも関わらず、これだけ資金流入が続いているという事実は、「定期的なキャッシュフローを得たい」という明確な需要が存在していることの裏返しでもあります。

 ここで重要なのは、特定の商品カテゴリーを「望ましくない」として排除することではなく、なぜその需要が生まれているのかを構造的に捉えることではないかと感じます。資産形成という観点では合理性に欠ける部分があったとしても、生活設計や心理的な安心感という文脈では合理的な選択になり得ます。

 従って、本来あるべき方向は、商品を一律に否定することではなく、ゴールや用途に応じて適切に位置づける設計だと考えます。例えば、長期の資産形成とキャッシュフロー確保という異なる目的をどう組み合わせるのか、その中で毎月分配型のような商品をどう使うのかということです。

 金融機関に求められているのは、商品を売ることでも排除することでもなく、こうした目的の違いを踏まえた設計と伴走です。制度側もまた、個別商品の良し悪しで線引きをするのではなく、多様なニーズをどう全体として最適化するかという視点が必要なのではないでしょうか。

https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16526507

【大和証券グループ、オリックス銀行を買収 3700億円で完全子会社化】

大原のコメント→

 今回の大和証券グループによるオリックス銀行の買収は、「証券会社による銀行買収」という個別事案ではありますが、リテール金融の競争軸という視点で見ると、資産運用とバランスシート機能を統合し、顧客の金融資産を一体で設計するモデルへのシフトと捉えるべきではないでしょうか。

 大和ネクスト銀行は、証券顧客を基盤とした預金や外貨、資産運用との連携に強みを持つ一方で、貸出は主軸ではなく、結果としてバランスシートの活用には一定の非対称性があったように思われます。そこに不動産ローンや信託機能に強みを持つオリックス銀行を組み合わせることで、「預かる・運用する・貸し出す」を一体化するリテール金融の構造が初めて成立します。

 これは単なる機能の足し算ではなく、競争の前提が変わっていることを示していると私は考えます。顧客から見れば、預金・運用・借入は分断されたものではなく、資産全体の最適化の中で一体的に意思決定されるものです。その中で、資産サイド(運用)と負債サイド(貸出)の双方を設計できるプレイヤーが優位性を持ち始めています。

 一方、こうした統合がそのまま付加価値に直結するわけではないということには注意が必要と思われます。機能を揃えること自体は前提に過ぎず、本質はそれをどう顧客のライフプランに紐づく資産形成プロセスとして設計し、継続的に伴走できるかにあります。リテール金融の競争は、「証券か銀行か」ではなく、顧客の資産全体を設計する主体は誰かという競争に移りつつあります。

https://newspicks.com/user/%5Bid%5D/?ref=user_121187&sidepeek=news_16531012

【証券化商品の発行、「パリバショック」以来の高水準 高利回りに的】

大原のコメント→

 記事の内容とは直接関係ありませんが、私が20代半ばの2007年夏に日系資産運用会社のロンドン拠点に赴任したとき、着任数日後の8月9日(木)に遭遇したのがまさにこの記事のタイトルでも取り上げられている「パリバショック」でした。

 本当は1年間の研修生的な立場での赴任でしたが、そこから世界中が金融危機の嵐で大騒動になるなか、ひとりの研修生的な若者の処遇なんてどうでもよくなり(?)、結果的に7年半もロンドン拠点に駐在することになったという意味で、私の20代から30代にかけての欧州資産運用業界での経験は「パリバショック」に始まる金融危機のお蔭だったと言えるかもしれません。

 欧州資産運用業界での経験がいまの日本資産運用基盤の創業と日本の資産運用業界の変革の取り組みにつながるとは、あの頃は全く想像もしませんでした。本当に人生って面白いものですね。

https://newspicks.com/user/%5Bid%5D/?id=%5Bid%5D&ref=user_121187&sidepeek=news_16539603


主任研究員 長澤 敏夫 のコメント

【毎月分配型投信、危うい活況 資金流入9年ぶり1兆円超え】

長澤のコメント→

 高齢者の老後の資産取り崩しニーズに基づく購入とは違い、NISAの対象とはならない毎月分配型投信を若年層が一定数購入しているというのは、NISA枠を使い切っている人がそれほどいるとも思えず、理解し難いですね。プロダクトガバナンスの枠組みの中で資産運用会社と販売会社の間での販売実績の検証がスタートしたところですが、特定の販売会社で販売が多いようであれば、当該販売会社は分配の仕組みを理解させる努力が一層必要となってくるかと思われます。

https://newspicks.com/user/6551307/?ref=user_6551307&sidepeek=news_16526507



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