「JAMPの視線」No.332(2026年5月10日配信)低コスト投信競争の次の焦点
JAMP 大原啓一の視点 2026年5月10日
今年のゴールデンウィークは旅行や帰省などはせず、東京の自宅で過ごしていました。積み重なっていた仕事への対応に追われる時間も多かったのですが、その合間に、長男が最近はまっている名探偵コナンの映画を観に行ったり、家族で等々力渓谷を散策したり、クラリネットの新しい課題曲を練習したりと、少しは身体と心を休める時間を持てたように思います。「ワーク・イズ・ライフ」的な生き方が染みついてしまっていますが、経営者として心身を万全に整えることも重要だと最近は痛感しており、少し落ち着いたらまとまった休みを取ろうかなと考えています。
「売れるが儲からない」低コスト投信の構造
さて、SBIホールディングスが、世界最大級のインデックス運用会社であるステート・ストリート・インベストメント・マネジメントと、低コストインデックス運用の合弁会社設立に関する基本合意を発表しました。報道では「オルカン対抗」という文脈でも語られていますが、この動きは単なる新商品の開発ではなく、オンライン証券会社が直面している収益構造上の課題への対応として見るべきだと考えます。
新NISAの拡大以降、個人投資家の資金は、eMAXIS Slim 全世界株式、いわゆるオルカンや、S&P500連動型の低コストインデックス投信に大きく流入しています。これらの商品は、長期・分散・低コストという資産形成の基本に沿っており、投資家にとって非常に分かりやすい選択肢です。一方、販売会社にとっては、信託報酬が極めて低い商品では自社に残る収益も限定的であるという頭の痛い問題があります。つまり、顧客の資金は大量に流入するものの、販売会社としては十分な収益を得にくい。低コスト投信の普及は、個人投資家にとって望ましい一方で、販売チャネルの収益構造を揺さぶっているとも言えます。
今回のSBIグループの動きは、この構造に対し、単に他社商品を販売するのではなく、自ら商品開発・運営・管理に関与することで、バリューチェーン上の収益配分を再設計しようとする試みのように思われます。
低コストを支えるバリューチェーンの設計
低コスト投信の本質は、単に信託報酬を下げることではありません。運用、カストディ、指数利用料、システム、ファンド管理など、商品を成立させるためのコスト構造全体をどう設計するかが重要になります。今回の合弁相手であるステート・ストリートは、グローバルに運用・管理機能を展開する金融インフラプレイヤーでもあります。SBIが同社と組むことの狙いは、運用力の取り込みだけではなく、低コスト商品を継続的に供給するためのノウハウを含む事業運営基盤を外部から取り込む点にもあるように思います。
さらに注目すべきは、指数選定です。オルカンやS&P500連動型ファンドでは、MSCIやS&Pといった指数プロバイダーへのライセンス利用料の負担が重いという指摘があります。信託報酬が極限まで低下するほど、こうした外部コストの重さは相対的に大きくなります。SBIが新たに低コストインデックス投信を開発するのであれば、どの指数を採用するのか、あるいはどのような指数設計を行うのかが重要になります。既存の有名指数をそのまま使うだけでは、コスト構造の限界に直面しやすい。一方で、指数設計やライセンスコストまで含めて最適化できれば、単なる手数料競争とは異なる形で、持続可能な低コスト商品を作る余地が生まれます。
手数料競争の先に求められる付加価値
一方、今回の動きは資産運用業界全体にとって新たな圧力にもなります。SBIのような巨大な販売力を持つプレイヤーが、世界的な運用会社と組んで低コスト商品を本格展開すれば、信託報酬の引き下げ競争はさらに激しくなる可能性があります。投資家にとってコスト低下は基本的に望ましいことです。しかし、業界全体が過度な低コスト競争に入ると、運用会社の収益性は低下し、商品開発、運用体制、リスク管理、システム投資に十分な資源を投じにくくなる懸念もあります。特に中小規模の運用会社にとっては、正面からこの競争に巻き込まれることは厳しい環境になるでしょう。
今後問われるのは、低コスト商品を提供することそのものではなく、その上にどのような付加価値を設計するかです。資産形成の継続支援、投資一任、ゴールベース型のアドバイス、退職後資金や相続を含むライフプラン設計など、低コスト商品を顧客価値につなげるサービス設計が重要になります。低コストインデックス投信は、一般生活者の資産形成にとって重要なインフラです。しかし、それだけで金融サービス全体が完結するわけではありません。今回のSBIグループの動きは、低コスト投信競争の新たな一手であると同時に、販売・運用・指数・管理といった資産運用ビジネスのバリューチェーンを再設計する動きでもあります。
私たち日本資産運用基盤も、この資産運用ビジネスのバリューチェーンをどう再設計するかという問題意識に向き合っています。運用、商品組成、管理、販売、顧客接点をすべて一社で抱えるのではなく、それぞれの機能をどのように分担し、どのような基盤の上でつなげるのか。低コスト化が進む時代だからこそ、単に報酬を下げるだけではなく、持続可能な収益構造と顧客価値を両立させる設計が求められます。今回の動きは、その問いがいよいよ業界全体の中心課題になりつつあることを示しているように感じます。
JAMPメンバーの採用情報
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News Picks ダイジェスト
代表取締役 大原啓一 のコメント
【金融庁がAI開発、地銀に無償提供へ 独自サービス提供促す】
大原のコメント→
人口減少が進む中で、地域銀行は行員数の減少や採用難に直面しながら、店舗・電話・アプリ・本部事務など幅広い顧客接点と業務品質を維持しなければなりません。この制約に対して、デジタル化やAI活用はもはや選択肢ではなく、地域金融を持続させるための前提条件になりつつあります。
一方、生成AIの開発・運用には、データ管理、セキュリティ、法務、モデル検証、行内業務との接続など高度な体制が必要です。これを各地銀が単独で整備するのは現実的ではありません。その意味で、金融庁や業界団体が共通モデルや指針を整備し、各行がその上に独自サービスを載せられるようにする今回の取り組みは、非常に合理的な方向だと思います。
但し、共通基盤があるだけでは差別化にはなりません。重要なのは、そのAIを自行の顧客理解や地域情報、営業プロセス、事業支援にどう組み込むかです。AIを単なる問い合わせ対応の代替にとどめるのか、それとも顧客との接点を再設計する基盤にできるのかで、成果は大きく変わります。
今後の地域金融機関に問われるのは、AIを「導入すること」ではなく、人が担うべき価値とAIに委ねるべき機能をどう分業設計するかです。今回の取り組みは、そのための共通インフラとして重要な一歩になるのではないでしょうか。
https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16610283
主任研究員 長澤 敏夫 のコメント
【株高に沸く韓国、子どもや軍人に投資熱 広がる金融教育】
長澤のコメント→
他国の状況はよくわかりませんが、本来金融リテラシー教育は、アナリストのような投資知識を身に着ける以前に、人生の様々なライフイベント(結婚、子育て、教育、住宅、老後)に向けた生涯の生活設計と、そのための資産運用を結び付けて考え、単に資産を増やすことだけが目的とならないようなリテラシーを身に着けられる内容であるべきではないかと思われます。さらには、日本でも新NISAが始まったことによる投資への関心の高まりを受け、中には怪しいセミナーなども見受けられるそうで、そういったものに近づかない、騙されない行動ができるような教育がまずあるべきかと思われます。
https://newspicks.com/user/6551307/?ref=user_6551307&sidepeek=news_16620536
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