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第67回 資産運用業協会誕生の源流と自主規制の現在地及び近未来

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 本年4月1日、投資信託協会と日本投資顧問業協会(以下、「両協会」)が統合し、資産運用業協会(以下、「新協会」)が発足しました。関係者にとって、ある意味、当然の帰結と受け止められているようにも感じますが、両協会が統合することとなる源流は、2020年に両協会が「資産運用業宣言2020」(以下、「資産運用業宣言」)を共同で公表したことに遡ります。

 新協会が作成したパンフレットの見開きに、この資産運用業宣言が引用されていますが、「投資は未来を創るもの, Invest for a Brighter Future」とのメッセージは、新協会発足という現在の局面において、あらためて立ち返るべき出発点を示しているようにも思われます。

 読者の皆さまと一緒に、今後、資産運用業協会はどこに向かうことになるのか考えてみたいと思います。

1.新協会の現在地とその先

 両協会が統合し、新協会が発足しましたが、まずは、自主規制機関としてスムーズな業務継続が求められることから、2つの協会を足し合わせた状況と言え、各種自主規制ルールも基本的にはこれまでの両協会のルールが存続しています。統合前の両協会が中核としてきた主要ルールは、守ろうとしていた対象も、規律の思想も異なっていたことからすると自然な帰結と言えます。なお、気になる会員が負担する会費についても、従前のそれぞれの合計額と変わらないように配慮されているように窺えるのは、多くの方がご認識のとおりではないかと思います。

 ただし、新協会のパンフレットのことをご紹介しましたが、わが国の資産運用業の未来を指し示す資産運用業宣言を掲げたことは、新協会がその未来に向けて活動をしていくことを自らのミッションとして負うと言う意思表示と受け止めるのが自然でしょう。以下では、この点をもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

2.ファンドを守る規則、顧客を守る規範

 旧投資信託協会の「投資信託等の運用に関する規則」は、ファンドという集団投資スキームの健全性を守ることを第一義としていました。多数の受益者が存在し、個々の受益者の意思が運用に反映されないという前提のもとで、受益者間の公平性や市場価格形成の歪みを防ぐことが強く意識されています。その結果、ファンド間取引や利害関係人取引、最良の条件での売買執行など、「何をしてはいけないのか」「どういう手続きを踏むべきか」が具体的に定められた、行為規制色の強いルールとなっています。言い換えれば、これはファンドの内部で起こり得る問題を、事前に制度として封じるための規則でした。

 これに対して、旧投資顧問業協会の「投資一任・助言業務の運営にあたり留意すべき基準」は、ファンドではなく顧客との関係を起点に構成されています。投資一任・助言業務では、顧客は特定され、契約内容も個別的です。そのため、中心に置かれているのは、顧客のために忠実に行動すること、顧客属性を踏まえた適合性、利益相反への配慮といった原則です。こちらは、細かな禁止行為を列挙するというよりも、運用のプロとしての判断と行動を律する行動規範としての性格が強いと言えるでしょう。

 この二つの主要ルールを並べると、違いは明確です。旧投資信託協会の規則は「市場とファンドを守るためのルール」であり、旧投資顧問業協会の基準は「顧客との関係を守るためのルール」でした。そうだとすると、資産運用業協会が誕生したからといって、これらが直ちに一つの規則へと収れんしないのは、むしろ自然な帰結です。

3.統合・継承・新設―自主規制再設計の論点

 そのうえで、将来的に統合が望まれるルールはどこかといえば、業態を超えて共有できる価値判断の部分でしょう。顧客や受益者の最善の利益のために行動するという忠実義務の考え方、利益相反をどのように把握し、管理するかという基本フレーム、そしてそれらを支えるガバナンスや内部管理体制の思想は、投資信託の運用であっても投資一任運用・助言であっても、本質的には共通しています。

 その一方で、統合が難しい、あるいは統合を避けるべきルールも少なくありません。たとえば、ファンド間取引や受益者平等原則は、多数の受益者の利益を同時に預かる投資信託において、その公平性と信頼性を確保するために不可欠な基本原則です。また、顧客の属性や契約内容に応じて判断する適合性の考え方は、一対一の契約関係を前提とする投資一任・助言業務に固有の世界です。これらを無理に共通化することは、かえって制度趣旨を損ないかねません。

 さらに、統合協会だからこそ新設が望まれるルールも見えてきています。ファンド運用と投資一任を併営するケースにおけるクロス業態の利益相反、グループ内でファンド運用、投資一任、投資助言等の複数の運用形態を持つ場合における判断の恣意性を排し、一貫性と透明性を確保するための整理の軸、スチュワードシップ責任やESG、外部運用者やAIの活用といった新しい運用実務への対応などは、両協会いずれの規則にも完全には整理されていません。これらは、新協会となって本格的に取り組むべきテーマと言えるでしょう。

 この点は、政府・金融庁が掲げる「資産運用立国」という政策文脈とも重なります。資産運用業に対して、単なる規制遵守産業ではなく、家計金融資産の成長や企業価値向上を支える担い手としての役割が期待される中で、自主規制にも形式的なルールの積み上げ以上のものが求められています。資産運用業がどのような価値判断に基づき行動して行くのか――その軸を示すことこそが、これからの自主規制団体の重要な役割になっていくはずです。

(JAMPコメント)

 本稿で見てきたとおり、資産運用業協会の統合は、制度やルールを単純に足し合わせる作業ではありません。共通化・継承・新設という三つの視点から自主規制を見直し、業態をまたいだ実務運営の考え方を整理していくことが、新協会に求められる役割だと言えるでしょう。そうした取り組みの積み重ねの中で、資産運用業としての矜持が試されていく。その先にこそ、「Invest for a Brighter Future」という言葉が、理念ではなく実務として実感される未来があるのではないでしょうか。


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