第69回 金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案について (第1回「改正案の全体像と位置付け」)
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今回は、2026年4月10日付で第221回国会に提出された「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」といいます)をテーマに取り上げます。
本改正案は、日本の資本市場及び金融ビジネスを取巻く環境変化に対応するため、複数の重要テーマに関する制度の見直しを行う包括的な改正であり、金融実務及びコンプライアンス体制に広範な影響を及ぼすものと考えます。
そこで全5回シリーズを予定し、以下のテーマにて本改正案を掘り下げていきます。
第1回「改正案の全体像と位置付け」(今回)
第2回「暗号資産に係る規制の見直し」(予定)
第3回「企業のサステナビリティ情報の開示・保証」(予定)
第4回「スタートアップ企業への資金供給の促進」(予定)
第5回「有価証券に関する不公正取引規制等の見直し」(予定)
1.改正案の全体像と位置付け
本改正案が今国会で可決・成立した場合には今夏頃に公布され、その後改正内容に応じて段階的に施行される見込みです。例えば、「企業のサステナビリティ情報の開示・保証」に関する制度は2027年4月の施行が想定されています。
本改正案は上記各テーマのとおり、複数の制度領域にまたがる改正であり、これらは個別の制度対応にとどまらず、日本の金融・資本市場を投資市場として一段と高度化させることを目的とした一体的な政策パッケージと言えます。
2.暗号資産に係る規制の見直し
まず「暗号資産に係る規制の見直し」の核心は、暗号資産の規制を「資金決済法」から「金融商品取引法」に移管し、これまで決済手段として位置づけられてきた仮想通貨を「金融商品」として明確に再定義し、株式や債券と同じ金商法の規制対象に組み込む点にあります。
これにより暗号資産の売買・媒介・管理などの業務は「暗号資産取引業」として金融商品取引業の体系に組み込まれ、登録規制・行為規制・情報開示規制などの包括的な規律が適用されることになります。
この変更は、暗号資産を投資対象として制度的に正面から捉える政策転換を意味しており、当該分野に関連する事業者のみならず、投資助言業や投資運用業など既存の金融商品取引業者にとっても、いよいよ既存の業務や規制対応の在り方について具体的な検討を迫られる局面に差し掛かっています。
3.企業のサステナビリティ情報の開示・保証
次に、「企業のサステナビリティ情報の開示・保証」に関する改正では、有価証券報告書等においてサステナビリティ情報の開示を義務付けるだけでなく、その内容について第三者による保証を求める制度が導入されます。
さらに企業の積極的な情報開示を促す観点から、一定の場合に将来情報等の虚偽記載に対する民事責任や行政責任(課徴金等)を負わないとするセーフハーバー・ルールも整備されます。
これにより、企業は単に情報を開示するだけでなく、その情報の信頼性を確保する内部統制体制やデータ管理体制の構築が求められることになります。特に財務情報とは異なる非財務情報を対象とする点において、実務上の対応範囲は従来よりも広範に及ぶものと考えられます。
4.スタートアップ企業への資金供給の促進
さらに、「スタートアップ企業への資金供給の促進」に関する改正では、当該企業による資金調達を円滑化するための措置が講じられます。具体的には、有価証券届出書の提出免除基準の引上げや、少額募集制度の拡充、特定投資家私募における勧誘対象範囲の拡大などが含まれています。
これらの措置は、スタートアップ企業に対する資金供給を拡大することを目的としていますが、同時に、投資者保護とのバランスをどのように確保するかが重要な論点となります。金融商品取引業者等においては、顧客の属性に応じた適合性判断や情報提供の在り方について、これまで以上に慎重な対応が求められるでしょう。
5.有価証券に関する不公正取引規制等の見直し
最後に、「有価証券に関する不公正取引規制等の見直し」においては、インサイダー取引規制の対象者の範囲拡大、課徴金制度の見直し(算定方法や水準の引上げ)、調査権限の強化などが盛り込まれています。
特に、公開買付けに関連するインサイダー取引規制については、対象企業側の関係者の範囲が拡大されるなど、従来の規制対象として必ずしも捕捉しきれていなかった行為にも対応する制度設計となっています。また、課徴金水準の引上げにより、違反行為に対する経済的抑止力を強化する狙いが明確です。
6.本改正案の主なポイント(横串での整理)
本改正案を横串で捉えると、規制対象の拡張、投資判断の前提となる情報の多様化及びエンフォースメントの強化という形で、金融商品取引業者を取り巻く規制環境が多面的に高度化された構造となっています。主な論点は以下のとおりです。
第一に、規制対象となる業務範囲の拡張です。暗号資産関連業務のように、従来は直接的な規制対象ではなかった分野が金融商品取引法の枠組みに取込まれることで、自社の既存業務が新たに規制対象となる可能性があります。
第二に、投資判断に用いる情報の範囲の拡張への対応です。サステナビリティ情報の開示・保証の進展により、投資判断の前提となる情報が非財務領域に拡張される中で、これらの情報をどのように評価し投資判断や顧客説明に反映するかが、今後の重要な論点となります。
第三に、違反行為に対するエンフォースメントの強化です。不公正取引規制の見直しにより、違反リスクが顕在化するとともに、そのコストも大きく高まることになります。
(JAMPコメント)
本改正案に通底するのは、「市場の信頼性確保」と「投資者保護の高度化」という基本理念です。本改正案では、単に形式的な規制を追加するのではなく、実効性のある規制を通じて市場の健全性を確保することが強く意識されています。
したがって、各金融機関及び関連事業者においては、単に条文レベルの理解にとどまらず、自社のビジネスモデル、顧客との関係、情報管理体制、内部統制の在り方を含めた包括的な見直しが求められる段階にあると考えられます。
次回は「暗号資産に係る規制の見直し」について、金融商品取引法への移管の意義、業規制・情報開示規制の具体的内容及び実務上の留意点を中心に解説します。
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