第70回 金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案について (第2回「暗号資産に係る規制の見直し」)
「日本資産運用基盤株式会社」を親会社に持つ「JAMPフィナンシャル・ソリューションズ株式会社」は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。
前回から、2026年4月10日付で第221回国会に提出された「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」といいます。)をテーマに取り上げており、全5回シリーズを予定し、以下のテーマにて本改正案を掘り下げています。本改正案は去る7月15日に国会で可決・成立されていますが、今回は、「暗号資産に係る規制の見直し」を取り上げます。
第1回「改正案の全体像と位置付け」
第2回「暗号資産に係る規制の見直し」(今回)
第3回「企業のサステナビリティ情報の開示・保証」(予定)
第4回「スタートアップ企業への資金供給の促進」(予定)
第5回「有価証券に関する不公正取引規制等の見直し」(予定)
1.暗号資産を「金融商品」として捉え直す
今回の改正案における特徴は、暗号資産に関する規制を資金決済法から金融商品取引法へ移管する点にあります。その中で、暗号資産の定義条文が資金決済法から削除され、金商法に移管されており、金融庁の「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」において、有価証券とは異なる金融商品として金商法に位置付ける旨が明記されています。
あわせて、暗号資産の位置づけを理解する参考として、金融審議会 暗号資産制度に関するワーキング・グループの報告の一部を以下に抜粋しておきます。
『金商法上の有価証券は、配当や利息といった形で収益分配等を受ける法的な「権利」を表章するものが対象となっており、この点、暗号資産は一般に何らかの法的な権利を表章するものではなく、また、収益の配当や残余財産の分配等は行われないなど、その性質は金商法上の有価証券とは異なるため、有価証券とは別の規制対象として金商法に位置付けることが適当である。』
また、暗号資産の位置づけを明確化する趣旨で、セキュリティトークンについてもごく簡単に触れておきたいと思います。セキュリティトークンについては、2020年の金融商品取引法改正において、既に制度整備が行われており、株式、社債、信託受益権、集団投資スキーム持分等の権利を電子的に表示するものとして、有価証券規制の対象に組み込まれています。
2.今、なぜ金商法なのか
今回の改正を一言で表現するならば、暗号資産を『自由な実験場』から『責任ある金融』の世界へ取り込む改正と整理できるのではないかと考えています。当初は決済手段として議論されていた暗号資産も、現在では多くの投資家が投資対象として保有しており、その市場規模や社会的影響力も決して無視できるものではありません。
このような状況のもとでは、「新しい技術だから」、「自己責任だから」という説明だけでは十分な投資者保護を図ることは困難です。そこで今回の改正では、以下のような業規制、情報開示規制等を整備し、利用者保護の実効性を高める方向性が示されています。
3.業規制見直しの概要
業規制の面では、暗号資産取引業を金融商品取引業の一類型として位置付ける点が挙げられます。暗号資産の売買や媒介だけでなく、暗号資産の管理やカストディ業務も規制対象とされており、利用者保護の観点から、誰が責任を負うのかを明確化しようとする当局の考え方が読み取れます。
また、投資運用業、投資助言・代理業との関係も重要です。たとえば、暗号資産を投資対象とするファンドの運用や、暗号資産に関する投資助言についても、既存の金融商品取引業の枠組みの中で整理されることとなり、従来の金融商品と同様の内部管理態勢やコンプライアンス態勢が求められることになります。
さらに象徴的なのは、これまで金融商品取引業は、第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業で構成されてきましたが、今回、暗号資産取引業が新たな金融商品取引業の類型として位置付けられます。言い換えれば、暗号資産は金融システムの周辺領域に存在する特殊な存在ではなく、金融商品取引法が規制対象とする金融市場の一部として扱われる段階に入ったと見ることができます。
4.情報開示規制見直しの概要
情報開示規制についても興味深い整理がなされています。発行者が存在する暗号資産については、発行者自身に情報開示義務を課すこととされています。いわゆるIEOトークン(企業等が発行する独自のデジタルコイン)等がその代表例ですが、広く資金調達を行う以上、発行者が投資者に対して説明責任を負うという考え方は、伝統的な金融商品と共通する発想といえるでしょう。
一方で、ビットコインのように特定の発行者を責任主体として捉えにくい暗号資産については、市場に持ち込む暗号資産取引業者に情報提供義務を課すことにより、投資者保護を図ろうとしています。この点にも、「誰が責任を負うのか」を明確化するという、今回の改正に共通する考え方が表れているように思います。
5.グローバル・アセット・マネージャーの動きが本格化
世界の動きに目を転じると、暗号資産市場によって実用性が検証されたブロックチェーン基盤を伝統的な金融業界が活用し始めており、特に注目されるのがグローバル・アセット・マネージャーの動きです。BlackRockやFranklin Templetonなどの大手運用会社は、近年、MMFや投資ファンド等の運用商品のトークン化に取り組んでおり、一部商品は運用資産額が5,000億円に迫っていることには注目しておきたいと思います。
(JAMPコメント)
仮想通貨をはじめとする暗号資産の歴史的価値は、ブロックチェーンという新しい技術が現実の経済システムの中で機能することを証明した点にあったのかもしれません。そして、そのブロックチェーン技術を活用した金融資産や有価証券のトークン化は既に始まっています。だとすれば、今後の論点は、トークン化商品のさらなる普及にとどまらず、現在の資本市場に対する信任がトークン化市場にまで広がるかどうかという点にあるのではないでしょうか。
その意味で、ひとつの仮説にはなりますが、次の焦点は、一般生活者から巨額の運用資金を付託されたGPIF、ノルウェー政府年金基金、GICといったグローバル・アセット・オーナーの動向になるように思われます。こうしたアセット・オーナーがトークン化市場に参画して初めて、我々の資産形成を担う資本市場そのもののオンチェーン化という構造変化が始まるのかもしれません。
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