第73回 金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案について(第5回「有価証券に関する不公正取引規制等の見直し」)
「日本資産運用基盤株式会社」を親会社に持つ「JAMPフィナンシャル・ソリューションズ株式会社」は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。
全5回シリーズを予定し、2026年4月10日付で第221回国会に提出された「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」といいます)をテーマに取り上げており、以下のテーマにて本改正案を掘り下げています。本改正案は7月15日に国会で可決・成立されていますが、今回は、「有価証券に関する不公正取引規制等の見直し」を取り上げます。
第1回「改正案の全体像と位置付け」
第2回「暗号資産に係る規制の見直し」
第3回「企業のサステナビリティ情報の開示・保証」
第4回「スタートアップ企業への資金供給の促進」
第5回「有価証券に関する不公正取引規制等の見直し」(今回)
1.インサイダー取引規制の対象者の範囲拡大
公開買付けを伴うM&A取引では、法務・財務アドバイザーなど多くの外部関係者が関与し、重要情報に接する者の範囲も広がっています。しかし、現行制度では対象会社側の関係者については役職員等に規制対象が限定されていました。
そこで今回の改正では、対象会社との間で契約を締結している者や契約締結に向けた交渉を行う者についても規制対象に追加され、対象会社のアドバイザー等が業務上知り得た重要事実を利用して売買を行った場合にも、インサイダー取引規制が適用されます。
今回の改正は、こうした実務の変化を踏まえ、規制の空白を解消するとともに、市場の公正性をより一層確保しようとするものといえるでしょう。
2.課徴金制度の見直し(算定方法の見直し)
課徴金制度は、不公正取引に対する重要なエンフォースメント手段ですが、近年は市場環境や取引手法の変化により、現行の算定方法や課徴金水準では十分な抑止効果を期待できないとの指摘がなされていました。
そこで今回の改正では、公開買付けに係るインサイダー取引について、「公表前価格の50%増し」又は「公表後2週間の最高値」のいずれか高い価格を基準として課徴金額を算定する方式に見直されます。さらに、大量保有報告制度違反に対する課徴金についても大幅な引上げが行われます。課徴金水準は現行の70倍となり、時価総額3,000億円の株式について不提出や虚偽記載があった場合には、課徴金額は約300万円から約2億1,000万円へ増加すると試算されます。
今回の見直しは、不公正取引や不適切な開示に対する抑止力を高め、市場の公正性と透明性の確保を図るものといえるでしょう。
3.課徴金制度の見直し(対象の拡大等)
今回の改正では、不公正取引を実行した者だけでなく、その実現に協力した者にも責任を問うことができるよう、課徴金制度の対象範囲が拡大されます。
近年の不公正取引事案では、他人名義の口座を利用した取引や、第三者による口座提供など、不正行為を容易にする事例もみられています。そこで今回の改正では、他人名義口座を利用した不公正取引に係る課徴金を通常の1.5倍とするほか、口座提供などにより不公正取引に協力した者に対しても新たに課徴金を課すことが可能となります。
また、従来は調査開始前の自主申告のみを対象としていた課徴金減算制度についても、調査開始後の協力度合いに応じて減算できる仕組みが導入されます。今回の見直しは、違反行為の実行者だけでなく協力者にも責任を求めるとともに、違反行為の全容解明を促進し、市場監視の実効性向上を図るものといえるでしょう。
4.調査権限等の拡充
近年は取引のデジタル化やクロスボーダー化が進み、不公正取引の態様も複雑化しています。このため、市場監視の実効性を高めるための制度整備が求められています。
これを踏まえ、今回の改正では、無登録業者に対する罰則が引き上げられるほか、証券取引等監視委員会には無登録業者に対する犯則調査権限が新たに付与されます。また、外国規制当局との連携強化に向け、協力要請に基づく調査において出頭を求めることができるようになります。
5.その他の論点
このほか、犯則調査手続のデジタル化や、金融商品取引業者に対する管理人制度の創設など、制度運営の実効性向上に向けた見直しも行われます。
犯則調査手続については電子化が進められるほか、金融商品取引業者の登録取消し等の際に、顧客財産の返還を円滑に進めるための管理人を選任できる制度が創設されます。いずれも制度運営の効率化や投資者保護の充実を図るための措置と位置付けられるものです。
(JAMPコメント)
今回の改正からは、不公正取引に対して従来以上に実効的な抑止力を確保しようとする金融当局の強い姿勢を読み取ることができます。単に違反行為者への制裁を強化するだけでなく、規制対象者の範囲拡大、課徴金制度の見直し、調査権限の強化を通じて、市場監視の実効性向上を図る内容となっています。 近年は、M&A取引の複雑化や高速取引の普及、クロスボーダー取引の拡大などにより、市場を取り巻く環境は大きく変化しています。今回の改正は、こうした市場構造の変化に制度を適合させるものであり、市場参加者には従来以上に適切な情報管理や法令等遵守態勢の整備が求められるものと考えられます。
これまで全5回にわたり、暗号資産、サステナビリティ開示、スタートアップ支援、不公正取引規制などの法改正を取り上げてきましたが、あらためて全体を振り返ってみると、その根底には「資本市場の機能の向上」と「投資者保護の充実」を両立し、我が国資本市場の競争力と信頼性を高めようとする一貫した考え方が流れているように感じます。
今後も市場環境や投資家ニーズの変化に応じた制度見直しが続くことが想定されますが、引き続きその動向や実務への影響について取り上げていきたいと思います。
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