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第57回「最低資本金額引下げに関する投資運用業者側の疑問点」

日本資産運用基盤グループのJAMPフィナンシャル・ソリューションズ株式会社は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに当局の動向などをまとめ、発信しています。

今回は、最低資本金額引下げに関する投資運用業者側の疑問点と題して、今般の金商法改正によって、一部の条件を満たす投資運用業者に対して引下げられた最低資本金額について、利用する側の立場に立って、想定される疑問点への回答などを中心にご説明します。
 最低資本金額は、令和7年5月1日に施行された改正金融商品取引法によって、「金銭又は有価証券の預託を受けず、かつ、自己と密接な関係を有する者に顧客の金銭又は有価証券を預託させない」投資運用業者の資本金要件が、5,000万円から1,000万円に減額されました。
なお金商法に定める投資運用業者の純資産額要件も、同じ条件の下で1,000万円となります。

【疑問1:金銭又は有価証券の預託って何ですか?】
「金銭又は有価証券の預託」とは、例えば投資信託委託業者が、自社が設定・運用する投資信託の直接販売を行う際などに発生する可能性のある業務です。
なお金商法では上記のように、法律で定める一定の場合以外は「金銭又は有価証券の預託」は禁止行為(金商法第42条の5)とされていますので、投資一任業者では、自社が金銭・証券の預託を受けない旨を業務方法書に規定しているケースも多く見られます。

【疑問2:自己と密接な関係を有するって誰ですか?】
代表的な例としては、自社の「役員」「使用人」「親法人」等が該当します。
(金商法施行令第15条の4の2)

【疑問3:資本金が1,000万円でも投資運用業を行うことは可能ですか?】
投資信託委託業の場合には、基準価額の算出や、直販を行う場合の専用システムの導入、それら業務の担当者に係る人件費などなど相当の費用が見込まれるため、資本金1,000万円でそれらをまかなうためには、何らかのビジネスプランの工夫・検討が必要と思われます。

【疑問4:新規で投資運用業の登録申請を行う際の注意点は何ですか?】
投資運用業の登録申請書の記載事項に、金銭又は有価証券の預託を受けるか否かの項目があります。ここに預託を受けない旨を記載した場合には、資本金要件は最低額が1,000万円となります。
具体的には、登録申請書フォーマットの9番に、「投資運用業を行おうとする場合において、その行おうとする投資運用業に関して、顧客から金銭又は有価証券の預託を受けず、かつ、自己と密接な関係を有する者(令第15条の4の2に規定する者をいう。以下同じ。)に顧客の金銭又は有価証券を預託させないときにあっては、その旨」と言う項目が新設されていますので、「当社は、投資運用業に関して、顧客から金銭又は有価証券の預託を受けず、かつ、自己と密接な関係を有する者として政令で定める者に、顧客の金銭又は有価証券を預託させません。」などと記載することになります。

【疑問5:本改正に関して、既存の投資運用業者は、何らかの届出が必要ですか?】
既存の投資運用業者についても、変更登録申請書の届出が必要な場合が有ります。
その要否は、以下の4パターンに分類されます。
(1)現在、顧客から金銭等の預託を受けている者。
(2)現在は顧客から金銭等の預託を受けていないが、今後は受ける可能性がある者。
(3)顧客から金銭等の預託を受けず、かつ、資本金・純財産額要件の緩和を受けたい者。
(4)顧客から金銭等の預託を受けず、かつ、資本金・純財産額要件の緩和を受ける意思がない者。
上記のパターン毎の届出要否は以下のとおりです。
(1)現在、顧客から金銭等の預託を受けている場合は、変更登録申請書の届出は不要です。
(2)今後、金銭等の預託を受ける可能性がある場合は、変更登録申請書の届出は不要です。
(3)顧客から金銭等の預託を受けず、今後も預託を受ける意思が無く、かつ、資本金・純財産額要件の緩和を受けたい者については、施行日(2025年5月1日)から6月以内(2025年10月31日まで)に、変更登録申請書の提出(届出)が必要です。
(4)顧客から金銭等の預託を受けず、今後も預託を受ける意思が無く、かつ、資本金・純財産額要件の緩和を受ける意思がない者については、必ずしも6月以内(2025年10月31日まで)に、変更登録申請を行わなくても問題はなく、今後、他に変更登録の事項が生じた際に併せて申請すれば良いとされています。


(JAMPコメント)

一定の条件の下ではあるものの、資本金・純財産額要件が5,000万円から1,000万円に引き下げられたこと自体は、投資運用業者の参入促進策として、特に投資一任業に関しては一定の効果があるものと評価します。
しかしながら投資信託委託業の場合には、一者計算が徐々に浸透し計理業務の外部委託も可能とは言うものの、基準価額算出に係る様々な業務は残りますし、投信直販も行うのであれば高価な直販専用システムの導入費用が掛かります。更に、その関連人件費などで相当の費用が見込まれるため、仮に資本金1,000万円、純財産額2,000万円でそれらをまかなうためには、何らかのビジネスプランの工夫・検討が必要と思われます。
一方、投資一任業者となって投資信託委託会社から運用の委託を受け、実質的に投資信託の運用を行う事も可能ですし、投資助言・代理業の登録を行って、投資助言者として投資信託委託会社に投資信託の運用に係る投資助言を行う事も可能です。このストラクチャーであれば、自ら投資信託の設定・運用を行うことに比べれば格段に低いコストで投資信託の運用に関わることが可能です。
また今回の金商法改正によって投資運用関係業務受託業の任意登録制度が創設され、当該業者に計理業務やコンプライアンス業務を外部委託する場合には投資運用業者の人的要件が緩和されたことで、投資一任業を行うハードルはかなり低くなりましたし、何よりも大きいのは改正金商法で、投資運用業者がすべての運用財産につきその運用に係る権限の全部を委託しても良いとされたことではないでしょうか。これにより、例えば運用再委託を前提としたいわゆるFMC(ファンドマネジメントカンパニー)の存在が認められることになり、投資一任業者はもとより投資助言業者も投資信託の運用に関わることが、より容易になったと言えます。


当社は、国際金融都市を目指している東京都とも協力し、金融商品取引業に関する登録申請手続き、及び金融商品取引業者等の内部管理体制強化に関する様々なご相談に対応しています。ご不明な点等ございましたら、是非当社までお問合せ下さい。