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「JAMPの視線」No.277(2025年4月20日配信)

次世代の、挑戦する金融へ
日本資産運用基盤グループ メールマガジン【JAMPの視線】


 目次
①JAMP 大原啓一の視点
②JAMPメンバーの採用情報
③NewsPicks ダイジェスト
- 代表取締役 大原啓一
- 主任研究員 長澤敏夫
④インフォメーション


JAMP 大原啓一の視点 2025年4月20日


 赴任先の英国で退職し、最初の起業のために帰国したのは2015年4月でしたので、今月でちょうど10年になります。直前に予定日より4か月も早く超未熟児で生まれた長男と妻をロンドンの病院の集中治療病棟に残してひとりで先に帰国したのですが、空港の入国審査の際に「職業:無職」と記入した時の暗澹たる気持ちはいまも忘れることはありません。お蔭さまで金融業界内外の様々な方々のご支援に恵まれ、当時よりも少し高い目線で頑張れているような気がします。感謝の気持ちを忘れず、起業家人生の11年目も全力で走り続けたいと思います。

 さて、先週の各種メディアの報道で個人の資産形成・運用をサポートする新しい施策として、毎月分配型投信も投資対象と認める「プラチナNISA」という高齢者向けの新たなNISA制度を追加的に設けるという案が報じられていました。まだ案としてメディアに報じられただけですので、あくまで仮の話としての所感でしかありませんが、端的にいって愚策だと思います。少し前に「『読売333』指数をつみたてNISAの対象指数に加えるべき」とする資産運用立国議員連盟の意見を聞いた時のような不快感を感じています。

 まず、これまで毎月分配型投信を親の仇のように毛嫌いし、批判を続けてきた当局がその考えを見直し、資産活用フェーズに入った高齢者を中心に生活者のニーズが存在することや、製造・販売工程で適切なガバナンスが発揮されるのであれば、長期の資産運用に有益であると評価をすることになったのであれば、それは前向きなことだと感じます。

 毎月分配型投信については、分配金利回り競争が激化するあまり、販売の現場で分配の原資や毎月分配のデメリット等を含めた商品性の説明が疎かになってしまったこと、製造を担う資産運用会社の側では分配金をより多く払い出すためにデリバティブを活用した複雑な運用手法や構造の商品を開発することに傾斜し、結果的にお客様への説明が困難になったり、手数料が高くなってしまったり等、マイナス面が多く存在したことは事実だと思います。私も日系資産運用会社の英国現地法人に赴任していた当時、2007年夏の金融危機勃発後あたりから毎月分配型投信商品の開発競争が激化し、ルクセンブルクやケイマン籍の外国籍投信も活用しながら、「こんなのは自分では買わないようなあ」と感じつつ、2階建て・3階建ての投信商品の開発に懸命になっていたことを反省の気持ちも強く感じつつ、思い出します。

 一方、弊社・主任研究員の長澤がNewsPicksや各所で発信しているように、上記のようなマイナス面が存在するからといって、毎月分配型投信という商品コンセプトそのものが悪いわけではないことは、私たちはしっかり主張したいと思います。資産運用は長期的に行われるべきものであることはその通りですが、その内容としては単に資産形成のみならず、形成した資産を効率的・合理的に取り崩す資産活用も含まれるものであり、その手段のひとつとして分配頻度を多くした投資信託を利用するという生活者のニーズが存在することは否定できないと思います。

 こうしたメリット(ニーズ)・デメリット(弊害)の整理や対応策の合理性等の検証も行わないまま、「毎月分配型投信はすべからく悪である」とのレッテルを貼り、新NISAの対象から除外するという政策当局の魔女狩り的な姿勢がそもそも間違っていると私は考えます。つみたてNISAの指定インデックスを当局が選定し、それ以外は認めないという建付けも意味不明と感じますが、資産運用サービス・ビジネスの現場から最も遠いところにいる政治家や政策当局担当者が自分たちの考えや価値観がさも正しいかのような前提で制度運用のルールを策定することの愚かさへの自覚はないのだろうかと疑問に感じます。

 「顧客本位の業務運営に関する原則」をプリンシプルベースで運用するということが基本的な考えかたなのであれば、どのような投信等商品をNISAの対象とし、お客様向けに開発・提案(販売)するのかは民間金融機関に委ね、新しく導入されたプロダクトガバナンスに関する補充原則を含む「顧客本位の業務運営に関する原則」で不適切な開発・販売行為を抑制し、お客様の最善の利益に沿うような資産運用サービス・ビジネスの運営への流れを整えるのが行政の役割ではないでしょうか。その意味で、毎月分配型投信に対する魔女狩り的な取り締まりへの反省があるのであれば、「プラチナNISA」等といった意味不明な枠組みを新設するのではなく、既存のNISA制度で毎月分配型投信も対象と認めるという風に運用ルールを変更すれば良いと考えます。

 また、政治家や政策当局担当者におかれては、NISA制度を毎年のように変更・追加することへの対応コストの大きさにも注意を払ってもらいたいと思います。自分たちが良かれと思って?やろうとしていることが、「資産運用立国」の実現を阻害するリスクを孕むものであるという認識が欠如しているとしか思えません。

 昨年スタートした新NISA制度が良いところは、口座開設期間の恒久化・非課税保有期間の無期限化等の内容の充実のみならず、制度そのものが生活者にとってわかりやすくなったこともあると思います。そのような魅力もあって好調なスタートを切った新NISAを早々にまた複雑化することは、生活者の資産運用への意欲を損なうことになりかねません。

 加えて、政策当局担当者はともかく、その背後にいる政治家の皆さまがどこまで認識されているのか疑問なところですが、資産運用サービスの普及を現場で担う金融機関のコスト負担への配慮も重要だと考えています。新NISA制度への移行やプロダクトガバナンスに関する補充原則への対応等、新しい施策が講じられるたびに、金融機関の現場では新しい施策に対応するためのシステム改修や業務フローの策定等、多大な費用が発生します。例えば、新NISAへの移行については、投信窓販システムや証券総合口座システムの改修や運用に伴う金融システムベンダーへの支払いが大きくなり、「金融システムベンダーを儲けさせるためにやっているかのようだ」という悲鳴が地域金融機関から多く聞かれます。「金利のある世界」の復活によって資産運用ビジネスの位置づけを再考しようとする地域銀行等が出てきているなか、今回の意味不明なNISAの枠組み新設に対応するシステム改修等の費用負担を嫌がり、そもそも資産運用ビジネスから撤退する/縮小するという動きに拍車をかけることになってもおかしくありません。

 「資産運用立国」の旗印のもと、生活者の資産運用サービスの利用を促進し、金融機関の資産運用ビジネスの発展を目指すのであれば、その目指す方向に逆行するような意味不明な愚策は控えて頂きたいと強く感じます。

 (ご参考)「読売333」をつみたてNISAの対象指数に加えるべきという議員連盟の意見に感じる不快感

「JAMPの視線」No.270(2025年3月2日配信)|日本資産運用基盤株式会社 コーポレート



News Picks ダイジェスト(代表取締役 大原啓一)


【高齢者向けNISA創設を検討 金融庁、毎月分配型解禁へ】
大原のコメント→
 せっかく内容充実とともに分かり易くなった新NISA制度をまた複雑にする意味がよくわかりません。以前から申し上げている通り、毎月分配型投信であってもお客様のニーズがあるのであればそれを行政側が恣意的に排除するのではなく、既存の新NISA制度でも対象に加えるということで良いように思います。
 また、別の視点でいうと、ただでさえ投資信託の低報酬化が進み、預かり資産事業からの撤退も検討し始めている地域金融機関にとって、さらに高齢者向けNISA制度への対応でシステム対応費用等を負担するということは受け入れ困難であると思われ、この機会にやはり事業撤退をすると決断する金融機関も出てきかねません(その選択はなかなか無いとは思いますが)。
 国民の資産運用のためということを目指しながら、実際にはどんどん不便に、逆向きになるというのは、あくまでこの報道が本当であればという前提ですが、実務を知らない政治家や政策担当者の机上の空論だなという印象を持たざるを得ません。




News Picks ダイジェスト(主任研究員 長澤敏夫)


【投信の「製販」情報連携、1000本が対象に】
長澤のコメント→
 金融庁が金融商品の品質向上を目指し、組成会社と販売会社が連携して取り組むよう求めたわけですが、例えば家電製品や自動車等を考えた場合、他の業界ではメーカーや販売会社は当たり前にやってきたことだと思いますので、なぜこんなことを監督官庁に言われなければならないのか不思議に思われるのではないかと思います。
 金融業界でも組成会社と販売会社の連携は行われてきたかと思いますが、連携の中身が売りやすい商品、収益性の高い商品といった販売者の論理が先行し、顧客視点に欠ける金融商品開発が行われてきたことへの金融庁の問題意識の現れかと思います。
 ちなみに対象銘柄のうち8割強が毎月分配型ということから、銀行を中心とした複雑な商品を扱っていない金融機関においては、将来に向け資産形成を行っている若年層に対して毎月分配型は販売していないということを示すことによって、現在NISAの対象から外れている毎月分配型もその対象とする動きとなっていくのではないかと思われます。

【高齢者向けNISA創設を検討 金融庁、毎月分配型を追加】
長澤のコメント→
 先日別の記事に対するコメントで、プロダクトガバナンス強化の取組みの中で、将来に向け資産形成を行っている若年層には毎月分配型は販売していないということを示すことができれば、毎月分配型もNISAの対象とする動きとなっていくのではないかと述べた直後に、このニュースが出てきました。
 高齢者向けの少額投資非課税制度(NISA)を創設(プラチナNISA?)するとのことですが、制度が複雑になりますし、また、販売会社にとっては再びシステム対応の負担が生じることになりますので、単純に既存の新NISAの中で制度上は年齢関係なく毎月分配型は認める、その代わり、上記のプロダクトガバナンスの枠組みの中で想定顧客層に販売するよう徹底して下さい、というのではだめなのでしょうか。
 毎月分配型投信はすべてが悪いわけではなく、分配利回り競争になることで通貨選択型等仕組みが複雑になり、それに伴い商品説明の負荷が高いという理由で販売手数料が高くなる、一方、投信保有者はタコ足配当となっていることをよく理解できずにいたということが一番の問題だったかと思います。このような歴史を繰り返さないよう、業界としてしっかりプロダクトガバナンスを強化するというのが、毎月分配型投信に限らない商品・サービスに共通する(イタチごっことならない)あるべき姿なのではないかと思われます。