
「JAMPの視線」No.272(2025年3月16日配信)
次世代の、挑戦する金融へ
日本資産運用基盤グループ メールマガジン【JAMPの視線】
目次
①JAMP 大原啓一の視点
②JAMPメンバーの採用情報
③NewsPicks ダイジェスト
- 代表取締役 大原啓一
- 主任研究員 長澤敏夫
④インフォメーション
JAMP 大原啓一の視点 2025年3月16日
今週末は帰省も兼ねて2泊3日で大阪に旅行し、生まれて初めてのユニバーサルスタジオジャパンを家族みんなで楽しんできました。あいにくの悪天候のなかを歩き回ったのでかなりくたくたになりましたが、ディズニーランドとは違うテーマパーク感を堪能することができました。実家が関西だとなかなか旅行の行き先の候補にもならないし、帰省する時は実家でのんびりすることが多いので、なかなか観光地には出歩かないんですよね。これって地元あるあるでしょうか。
さて、ここ何ヶ月かで東京以外の地方都市の国際金融都市構想についてご相談を頂いたり、意見交換をさせて頂いたりする機会が増えているように感じます。以前から弊社・日本資産運用基盤が東京をはじめとする主要都市の国際金融都市構想についてご支援や意見交換をさせて頂いていたということもあるかと思いますが、やはり昨年夏に「金融・資産運用特区実現パッケージ」が取りまとめられ、東京都や北海道・札幌市、大阪府・大阪市、福岡県・福岡市が対象地域に選定されたということも大いに関係している気がします。
東京以外の主要都市の国際金融都市構想については、将来的な関東地域での大規模震災のリスクや独自色を持った国際金融都市が複数あることによるシナジー可能性、金融・資産運用業による地方経済活性化等を考えると、複数の国際金融都市の実現の必要性や重要性は十分に認識しているものの、正直なところ現在の延長線上においてはその実現可能性は非常に低いと言わざるを得ないように感じます。国際金融「都市」というためには、それを担う金融機関や周辺企業、そこで就業する金融専門人材等の集積が不可欠ですが、現時点では日本に居住・就業するそれら主体は東京のみに偏在しており、経済面で存在感が大きいとはいえ、その他の主要都市がその差を埋めることはイメージすることすら難しいのが正直なところです。
主要都市の国際金融都市構想の骨子を拝見すると、その主要施策には金融商品取引業等の登録プロセスの迅速化や高度専門性を有する海外人材が心地よく居住するためのインターナショナルスクールの充実等が掲げられていますが、あまり実効的なものではないと感じます。これは弊社が創業してからお手伝いさせて頂いている東京都の皆さまにもずっとお話させて頂いていることなのですが、結局はそこで儲かる事業機会があれば、世界中から金融機関は集まってくることは間違いありません。日本の商社が南アフリカや南米などの危険地域に駐在員をコストをかけて派遣しているのは何故かというと、現地に「儲け」があるからに他なりません。その意味で、英語が通じなかろうと、外国人にとってご飯が美味しくなかろうと、「儲け」さえ見込めるのであれば、それらの要素はまったく関係ないと思います。
ただ、世界における日本を考える以上に、日本における東京以外の主要都市を考えた場合、この「儲け」の独自性を創造することは容易ではありません。資産運用事業領域における事業機会は主には年金基金や金融機関等の機関投資家や個人投資家等との取引に紐づいていますが、特に日本の機関投資家はやはり東京を中心とする首都圏に集積しているため、この切り口で東京以外の主要都市が「儲け」の独自性を見出すことは現実的ではありません。こつこつと金融機関の誘致をしたところで、まずはそこに「儲け」がない以上は本格的な集積にはなり得ないのは容易にご理解頂けるものと思います。
この状況から脱却する施策としてまず短期的にあり得るのは、「税優遇」と「取引所機能の活用による上場金融商品の多様化」ではないか、そんな風に最近は個人的に考えています。
まず、前者の「税優遇」については、単に地方税を優遇するだけでは不十分であり、「金融・資産運用特区」の枠組みを(現行想定以上に)最大限活用し、「アジアにおけるケイマン」を新しく生み出すことができれば、アジアを中心に世界中の投資資金やそれを目当てとする金融機関を呼び寄せることができるのではないでしょうか。この施策は日本のメインの金融都市である東京では実現できないものであり、まさに東京以外の主要都市こそが挑戦するべきものだと思います。金融商品取引業の登録簡素化やインターナショナルスクールの整備等のあまり実効性がない施策にエネルギーを割いている余裕があるのであれば、「アジアにおけるケイマン」の実現に政治力を集中すべきというのが私の考えです。
また、後者の「取引所機能の活用による上場金融商品の多様化」についても、金融商品取引所を有する主要都市ならではの施策だと考えています(選定された「金融・資産運用特区」は全て金融商品取引所を有しています)。従来の金融商品取引所の上場金融商品は事業会社の発行株式でしたが、その商品性や上場審査基準がどの取引所においても変わり映えがしないのであれば、大変失礼ながら東京証券取引所以外の金融商品取引所の存在意義はあまりないように思います。例えば、プロ投資家向け市場である東京証券取引所のTOKYO PRO MARKETに追随するように類似のプロ投資家向け市場を他の金融商品取引所でも創設・運営をしていますが、そもそもそこに上場する金融商品である事業会社発行株式が商品性において差がないのであれば、その取引所、その都市の独自性は無いに等しいと思います。
逆に言うと、上場する金融商品に独自性を持たせることができるのであれば、その金融商品取引所、その都市ならではの独自性を出すことができます。私が特に大きな可能性を感じているのは、ETF(上場投資信託)です。日本のETFはもっぱら東京証券取引所の上場基準に基づいて同取引所に上場されていますが、他の主要都市の金融商品取引所において(金融商品取引法を遵守しつつも)より緩和した基準で東京証券取引所では上場が認められていない投資信託を上場させることが理論上は可能です。ここでも先ほどの「税優遇」と同じロジックで、日本のメインの金融商品取引所である東京証券取引所ではなかなか難しいことでも、他の取引所であれば「実験的に」挑戦することができる、ここがその取引所、その都市の独自性に結びつきますし、金融機関からすると「儲け」の機会になるのではないでしょうか。
冒頭に申し上げましたが、私は日本における複数の国際金融都市の実現の必要性・重要性は理解しており、その実現の困難を感じつつも、弊社・日本資産運用基盤として何らかお役に立ちたいという気持ちを強く持っています。今回のメルマガで申し上げたアイデアは中身がない方向性案にしか過ぎませんが、これまでの経験を活かし、諸都市の構想の実現に貢献できるよう私たちなりにこれからも微力を尽くしたいと思います。
News Picks ダイジェスト(代表取締役 大原啓一)
【KDDI・NTTドコモ、携帯電話各社がいま銀行業に注力する理由】
大原のコメント→
携帯電話キャリア各社がスマートフォン接点の顧客エンゲージメントを強化し、そこでの収益性を高めるために金融事業に注力しようとすることは理解できますし、そこでの選択領域としてスマートフォン接点と親和性の低い証券・資産運用ではなく、決済・融資等を重視し、銀行機能に関心を強めているのも合理性があると考えます。
ただ、銀行機能を持つことと銀行を所有することは全く別の話であり、本当に自前でグループ内に銀行を所有し、経営責任まで負う必要があるのかというと正直なところ疑問です。
携帯電話キャリアの存在感をもってすれば、既存の銀行からサービス開発の柔軟性や利用料金等において有利な条件を引き出すような交渉は十分に可能であり、それであれば銀行代理という形でBanking as a Serviceを利用するということが最も効率的・効果的な選択肢ではないかと個人的には考えています。
News Picks ダイジェスト(主任研究員 長澤敏夫)
【リターンはS&P500超え「未公開資産」の時代 投資信託が開く】
長澤のコメント→
投資信託への非上場株式等の組み入れは、資産運用立国実現プランの中の「オルタナティブ投資やサステナブル投資などを含めた運用対象の多様化」に沿った動きであり、こうした流れに水を差す気はありませんが、想定顧客層の特定とそれに適した顧客への販売というプロダクトガバナンスの徹底が、市場が持続的に拡大していけるかのカギとなると思われます。
現在投資信託協会等で指針案の検討が進んでいると聞きますが、仕組み債も当初は、知識経験のある富裕層向けに一定のまとまった金額で販売されていたのが、こうした層への販売が一巡すると次第に投資経験が十分でない顧客に対して退職金の運用対象として販売するなど、当初の想定顧客から逸脱してしまったところに問題があったと思われます。