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「JAMPの視線」No.268(2025年2月16日配信)

次世代の、挑戦する金融へ
日本資産運用基盤グループ メールマガジン【JAMPの視線】


JAMP 大原啓一の視点 2025年2月16日

 今日は我が家の長男の10歳の誕生日です。長男は私が英国駐在中に1回目の起業のために現地で退職をしたタイミングで生まれたのですが、妻が私の突然の退職→無職化に強いショックを受けたこともあり、予定よりも4か月早い865グラムという超未熟児での誕生でした。「この子は普通には育たないのではないか」と悲嘆に暮れた当時のことを思い出すと今でも涙が出そうになりますが、元未熟児の片鱗も感じさせないほどに大きく、わんぱくに育ち、今日を迎えたことを本当に嬉しく感じます。10年間ってあっという間ですね。

 さて、日本銀行が金融政策を転換し、「金利のある世界」が復活して以降、地域銀行にとって金利ビジネスが再び最重要事業となり、預金集めの優先度が大きく上昇する一方、個人向け資産運用サービス事業の優先度が下がっているという見解をよく耳にします。でも、本当にそうなのでしょうか?確かに金利収益の原材料となる預金を集めることの重要度が高まっていることはその通りだと思いますが、それは即ち個人向け資産運用サービス事業を軽視して良いということに直結するのでしょうか。私はそうは考えていません。

 大前提として忘れてはならないのは、金利というのはそもそもコモディティ以外の何ものでもないということです。私が以前からずっとコモディティ化の流れを指摘している株式等のブローカレッジ業務やポートフォリオマネジメント業務については、かつては非コモディティの付加価値業務であったものが、インターネットの登場・普及等の情報革命の結果、コモディティ化が進んでいるというものですが、金利は本来的にそもそもコモディティなのです。決済機能と一体不可分な普通預金については、普通預金金利の高い低いで預け先を変えるという行動にはつながりにくいという点で金利のコモディティ性そのものが見えにくいかもしれませんが、金利サービスのなかでも、決済機能という「不純物」の混在が小さい定期預金、もっと分かり易い例でいうと住宅ローンについては、当然ながら金利が有利な金融機関が選ばれるという傾向がより明確になります。

 また、「金利のある世界」が常態だった約30年前と現在の最も大きな違いはやはり情報通信手段の発達です。当時は存在しなかったスマートフォンやそれを基盤とする各種サービスによって、現在ではほとんど全ての金融機関の定期預金金利や住宅ローン金利等を瞬時に比較することができるだけではなく、これまでは取引のない金融機関であってもその場で簡単に金融取引を申込み、実行することが可能です。このような状況においては、金利のコモディティ性が暴力的に発揮され、金利戦略で競争力のない地域金融機関等からメガバンクやオンライン銀行へ資金が流出するというのは火を見るよりも明らかです。

 事実、金融機関ごとの金利戦略の差がより明確になりつつある過去1年間の動きをみると、住宅ローンの利用はより一層にオンライン銀行やメガバンクへの偏りが強くなっていますし、トップダウンで預金集めに懸命になっているにも関わらず預金残高を減らしている地域銀行は少なくありません。「地銀の雄」である横浜銀行ですら、過去1年間で定期預金残高が約1,000億円も減ってしまっている、このような状況は私にとってはそれほど驚きではありません。もっと言うと、現時点でまだこの程度で踏みとどまっているのは、金融機関間での金利戦略の差がまだそこまで明確にならない程度の低金利環境であり、個人のお客様の具体的な行動にまでまだつながっていないためであると思われ、このまま何の手立ても講じないままで放置していると、金利の更なる上昇が見込まれる数年後には目も当てられない状況に陥る地域金融機関が続出してもおかしくないと考えています。

 このような状況を回避し、金利ビジネスを銀行事業の中心として復興するためには、コモディティである金利の非コモディティ化の施策以外にはありません。先ほど私は普通預金のことを「決済機能という『不純物』が混在している」と表現しましたが、「不純物」、すなわち金利そのもの以外の付加価値をお客様にどのように提供するか(混在させるか)ということが、普通預金や定期預金、住宅ローン等の金利サービスに「粘着性」を持たせることにつながると考えます。

 ここでカギになるのが、足もと優先度を下げるべきという間違った考えを持たれている個人向け資産運用サービスです。ただし、既にコモディティ化している株式等売買委託業務やポートフォリオ付加価値提供に過ぎない投資信託の販売等は意味がありません。コモディティにコモディティを混ぜたところで付加価値のないコモディティには変わりないからです。しっかりとお客様の人生に寄り添うマネープランを策定し、その実行を継続的にご支援するゴールベース型資産運用サービスこそが、お客様に対してその地域に所在する地域金融機関ならではの付加価値の提供を通じ、お客様との信頼関係を強固なものにし、「●●銀行でなければ」というエンゲージメントを強化する施策として有効なものなのです。

 弊社・日本資産運用基盤は、創業当初から地域金融機関がその最も重要な資産であるお客様との関係を強化するための施策としてゴールベース型資産運用サービスの重要性を主張していますが、「金利のある世界」が復活して以降、さらにこの重要性は高まっているという確信を強くしています。これからも地域金融機関のパーパスの実現と事業性・収益性の持続的成長の両立を実現するお手伝いをさせて頂けるよう、微力ながら全力をつくしてまいります。


News Picks ダイジェスト(代表取締役 大原啓一)

【PayPay証券を連結子会社に PayPay、出資比率75%へ】
大原のコメント→
 総合金融アプリを目指す意気込みは理解できるものの、主要金融機能のうち「資金移転(決済・送金)」機能やスマートフォンという接点の機能横展開としては、「資産運用」や「リスク移転(保険)」というよりも「資金供与(融資)」であり、正直なところ決済サービスのPayPayの利用者がシームレスにPayPay証券の資産形成・運用サービスの利用も行うというのはハードルは高いと考えます(ポイント運用は将来の実需(消費)を念頭においた資産形成・運用とは意味合いが違うものなので、まだ親和性は高い)。
 また、従来型証券売買手数料の無料化や投資信託運用報酬の引き下げ競争等もあり、非対面証券会社の資産運用サービス事業の収益性は非常に厳しくなっており、口座数がここから大きく増加したとしても安定的な黒字化を実現するのはそうは容易ではないように思います。


News Picks ダイジェスト(主任研究員 長澤敏夫)

【NISA口座、新制度で2割増 開始から1年で―金融庁調査】
長澤のコメント→
 資産所得倍増プランでは、口座数は22年6月末の1,700万から5年間で倍の3,400万へ、買付額を同月末の28兆円から5年間で同じく倍の56兆円を目標にするとしています。
 24年12月末はほぼ中間時点となるわけですが、買付額については、売却額を考慮しない累計買付額でみることの意味がどの程度あるのかという気もしますが、とりあえず24年末で52.7兆円ということなので大幅前倒し達成となると思われます。
 また、口座数2560万についてはほぼ半分を達成したところですが、様々なメディアで取り上げられ周知は十分されていると思われ、資産運用に興味を持ち、能動的に動く人の口座開設は一巡したのではとの見方もあります。更なる資産運用の裾野の拡がりには、対面でのアドバイスなどにより背中を押す必要があると思われます。
 こうした中、金利のある世界となり預金獲得に動く中、資産運用ビジネスの優先順位を下げている金融機関があるとも聞きます。ただし預金は高金利を提示するネット銀行などに移されやすく粘着性がないといわれており、預金を獲得するには、NISAをはじめとした顧客と長期の関係性を深められる資産運用での付き合いも併せて必要かと思われ、「どちらもやる」というのが正解ではないでしょうか。