
第51回「コンプライアンス業務の外部委託」について
株式会社日本資産運用基盤グループのJAMPビジネス・イノベーション株式会社は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに当局の動向などをまとめて、発信しています。
今回は、2024年5月15日に成立し同月22日に公布された「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」の、主要項目の一つである「コンプライアンス業務の外部委託」についてご説明します。
なおここで言う「コンプライアンス業務の外部委託」とは、金融商品取引業者が必ずしもコンプライアンス担当者を設置しなくとも、当該外部委託を行うことによって金融商品取引法等で求められる人的構成要件を満たすことが出来ると言うものです。
まず現行の金融商品取引法には、「コンプライアンス業務の外部委託」に関する規定はありませんが、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」によって、「適格投資家向け投資運用業」については、「グループ法人」や「弁護士又は弁護士法人その他これに準ずる者」で一定の要件等を満たした者に、コンプライアンス業務を外部委託することが明示的に認められています。
なお、「第一種金融商品取引業」と「第二種金融商品取引業」については不可ですが、「みなし第二種金融商品取引業」と「投資助言・代理業」については過去の「金融庁パブコメ回答」等によって一定の条件を満たせば可能とされており、「適格投資家向け以外の投資運用業」についても法令上は不可とはされていません。ただし「みなし第二種金融商品取引業」と「投資助言・代理業」についても実際には、知識・経験が不足するコンプライアンス担当者を補佐する場合やコンプライアンス担当者が急に退職した場合に、一時的にコンプライアンス業務の外部委託が認められる程度のようです。
そして令和6年改正金商法では、「適格投資家向け投資運用業」以外の「投資運用業」についても「コンプライアンス業務の外部委託」を行えることが明示されることになりました。
具体的には、投資運用業者の参入促進を目的として、投資運用業の登録拒否要件の緩和につながる「投資運用関係業務受託業の登録制度」が導入されました。
この「投資運用関係業務」は、「ミドル・バックオフィス業務」(投資運用業の『計理』及び『コンプライアンス業務』)と定義され、投資運用業者の委託を受けて「計理」及び「コンプライアンス業務」のいずれかを業として行うことを「投資運用関係業務受託業」と定義されています。
そして投資運用業者は、登録を受けた「投資運用関係業務受託業者」に「投資運用関係業務」を委託する場合は、当該委託業務を適切に監督する能力を有する役員または使用人を確保していれば、人的構成は充足することとされました。
すなわち例えばですが、「投資運用関係業務受託業者」にコンプライアンス業務を委託する場合は、コンプライアンス業務の知識・経験を有する担当者がいなくても投資運用業を行うことが可能となります。
なお、令和6年改正金商法の規定に基づいて内閣総理大臣の登録を受ける「投資運用関係業務受託業者」は、金融庁の監督下におかれて忠実義務・誠実義務・善管注意義務等の行為規制が課されることになり、法令に抵触した場合には業務改善命令などを受ける可能性もあります。
ただしこの登録は、「受けることができる」と定められており、あくまで任意的な登録制度ですので、現在投資運用業の「ミドル・バックオフィス業務」を受託している全ての事業者が新たに登録を受ける必要がある訳ではありません。
一方、投資運用業者からすれば、登録を受けた投資運用関係業務受託業者にミドル・バックオフィス業務を委託する場合にのみ、ミドル・バックオフィス業務の知識・経験を有する役員・使用人が不要という規制緩和措置を受けられると言う事になりますので留意が必要です。
(JAMPコメント)
資産運用業界におけるコンプライアンス人材は常に不足している状況ですので、投資運用業への新規参入を目指される方にとって、今回の法改正は朗報と思われます。
一方で、コンプライアンス業務が金融商品取引業者にとってとても重要であることは言うまでもなく、何か問題が発生した時の機動的な対応力などを勘案すると、知識・経験の豊富なコンプライアンス担当者を社内に置くことのメリットは計り知れないものがあると考えます。
実際には各社の業務内容や業容等に基づいて、そのメリデメを詳細に検討いただくことを推奨致します。
なお「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」の施行期日は「公布日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされていますので2025年5月頃と想定されます。
関連する政令・内閣府令案等が発出されましたら、詳細な規定内容等についてもご説明できると思いますので宜しくお願い申し上げます。
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