「JAMPの視線」No.321(2026年2月22日配信)資産運用会社の役割の再定義
JAMP 大原啓一の視点 2026年2月22日
私が20代後半から30代半ばまでの約7年半、英国ロンドンに駐在していた頃にお仕えしていた元上司と、先週半ばに久しぶりにディナーをご一緒しました。元上司も現在は日本に帰国され、某外資系資産運用会社の社長を務めておられますが、お会いするといつも当時に戻ったような気持ちになり、話が尽きることがありません。赴任当初、「ここで何年か働けば、資産運用会社の経営全般が見通せるようになるよ」と言われたことをよく覚えています。当時は少し大げさではないかと感じていましたが、その言葉は決して誇張ではありませんでした。駐在中は、機関投資家営業や商品開発にとどまらず、ミドル・バックオフィス業務まで、文字通りあらゆる業務に携わる機会をいただきました。欧州での経験の一つひとつが、いまの私自身の視座を形づくり、日本資産運用基盤の取り組みの土台になっていると、改めて実感しています。
「市場」から「人生」へ ― 評価軸の転換という構造問題
さて、ゴールベース型資産運用サービス事業モデルへの転換を金融機関の皆さまに提案すると、「それはこれまでの資産運用事業モデルを否定するものではないか」という腰の引けた反応をいただくことがあります。とりわけ、長年にわたってアルファ創出や商品設計に携わってこられた資産運用会社の方々ほど、強い違和感や抵抗感を示されることが少なくありません。しかし、これは単なる事業モデルや施策の優劣の問題ではないと私は考えています。より構造的なテーマです。

これまでの日本の資産運用業界は、「投資運用こそが付加価値の源泉である」という前提の上に組み立てられてきました。ベンチマーク対比、ランキング、パフォーマンスの相対優位といった評価軸は常に「市場」にあり、資産運用会社の専門性もそこに集中してきました。一方、ゴールベース型資産運用サービスは、評価軸を「お客様」側に移します。お客様の人生目標に対して、どの程度の確率で到達可能か。市場に勝ったかどうかではなく、お客様が途中でサービスの利用をやめなかったか、資産運用計画を継続できたかが問われます。ここに、強い心理的摩擦が生まれます。それは、投資運用が不要になるからではありません。投資運用の「意味」が変わるからです。
専門性は否定ではなく「再配置」される
アルファ創出者としての自己像から、人生設計を成立させる「確率を扱う専門家」へと、主役の座を奪われるというよりも、役割の中心が移動するということです。専門性が否定されるのではなく、再配置されるのです。この転換を「否定」と感じるのか、「昇格」と捉えるのかで、資産運用会社をはじめとする金融機関の皆さまの受け止め方は大きく変わるように思います。
実際、日本の資産運用業界が抱える構造的課題は、投資運用能力の不足ではないと私は思っています。優れた投資運用プロフェッショナルは多く存在します。しかし、その専門性がお客様の人生設計と十分に接続されていない。営業現場では商品が分解され、お客様のゴールとは切り離された状態で提示されることも少なくありません。資産運用会社の努力と、お客様の安心感との間に断絶があるのです。ゴールベース型資産運用サービスが問いかけているのは、「これまでの投資運用は無意味だったのか」という道徳的批判ではありません。「投資運用の専門性を、お客様の人生にどう接続するのか」という構造設計の問題です。
「資産運用立国」を支える産業設計とは何か
もし日本が本気で「資産運用立国」を掲げるのであれば、個々の商品や手数料水準の議論にとどまらず、この構造に向き合う必要があると考えます。資産運用会社、販売会社、そしてお客様の三者が、それぞれの専門性を持ち寄り、役割を再定義する。その翻訳作業こそが、これからの資産運用に係る産業設計の核心だと考えています。
ゴールベース型資産運用サービスは、誰かを否定する思想ではありません。投資運用の付加価値を、より広い文脈に引き上げる試みです。投資運用が主役でなくなるのではなく、主役の舞台が、市場からお客様の人生へと広がるのです。この転換を業界にとっての脅威ととらえるのか、機会ととらえるのか。日本の資産運用業界が次のステージに進むためには、この視点が不可欠なのではないかと私は考えています。
JAMPメンバーの採用情報
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News Picks ダイジェスト
代表取締役 大原啓一 のコメント
【しんきんAM投信、債券ファンド第2弾準備 テーマ型の開発も】
大原のコメント→
ここで紹介されている債券ファンド等の新しい投信商品開発は、投資家の多様なニーズに応える動きだと考えます。ただ、本件に限らず、新商品・サービスの開発において、お客様のゴールと商品価値を結びつける設計がまだ限定的である点は気になります。今後は単なる新商品の追加ではなく、ゴールベースアプローチの考え方に基づく付加価値提供との整合性が問われるフェーズに入ってきているのではないでしょうか。
https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16064323
【金融庁、顧客接点で生成AI活用後押し 地銀などと実証実験】
大原のコメント→
金融庁の生成AI活用後押しのリリースは、単なる効率化では終わらないはずです。資産運用・販売の現場では、テクノロジーと顧客価値がどのように結びつくのかという設計論が求められる段階にきています。AIは「意思決定の補助」ではなく、ゴールに向かうお客様の行動変容をどう支えるかという視点で評価されるべきだと思います。
https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16064362
【NISA買い付け額、25年末は36%増の71兆円 金融庁】
大原のコメント→
NISA制度を通じた投信等の買付額の増加は、市場への資金流入という点でポジティブな材料ですが、ここで問うべきは「残高が増えた先の構造」です。NISA制度を通じて積み立てられた資金は単に増えるだけではなく、どこで価値を生んでいるのかを問う必要があります。
現在の資産運用立国議論は、「残高の規模」や「制度の利用率」のような表層的な指標を重視しがちです。しかし、重要なのは以下のような構造的な問いだと考えます
・投資額の増加が国内の収益構造にどのように落ちているのか
・その資金が運用会社・販売会社・顧客の人生設計の接続点にどう影響しているのか
残高を拡大するだけであれば、海外プレイヤーに付加価値を還流させるだけになりかねません。制度設計や販売戦略は、“誰がどのレイヤーで価値を掴み、どのように国内の豊かさに変換するのか”という産業設計の視点が不可欠です。今起きていることは、単発の資金流入ではなく、構造の再編を促す契機として読み解くべきだと考えています。
https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16096700
【野村HD・伊藤忠が事業承継ファンド 中小の社長候補の株式取得を支援】
大原のコメント→
野村HDと伊藤忠が立ち上げる事業承継ファンドは、単なる承継支援スキームではなく、日本の資本供給構造を変える可能性を秘めていると感じました。記事にもある通り、後継者不在企業は50%を超え、内部昇格ニーズが高まっている一方、後継者が株式取得資金を持たないという構造的課題がありました。
今回のスキームは、ファンドが一時的に株式を保有し、10年以上かけて自社株買い・SO付与を通じて従業員に経営権を移す設計です。これは「M&Aか廃業か」という二択から、「時間をかけて内部に資本を移す」という第三の選択肢を提示しています。
私が注目しているのはここからです。
今後の資産運用ビジネスの主戦場は、上場株式市場ではなく、こうした非公開企業の資本再設計領域に移ると考えています。特に地域銀行にとっては、事業承継ニーズに対して従来のデット提供だけでは限界があります。エクイティで関与し、長期的に伴走するビークル設計が求められるはずです。
これは単なるファンド設立のニュースではなく、「地域経済に対するリスクマネーの供給主体は誰か」という産業設計の問いだと考えます。プライベートアセットの領域で、誰が構造を握るのか。ここに今後10年の資産運用ビジネスの核心があるように思います。
https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16101718
主任研究員 長澤 敏夫 のコメント
【預金囲い込み広がる ATM手数料など値下げ 利益削り合いも】
長澤のコメント→
個人的には最近は現金の使用頻度も減り、銀行店舗に行くどころかATMの使用頻度さえ減っているので、ATM手数料の引き下げによる顧客の囲い込みの効果がどの程度あるのか興味があるところです。
「金利ある世界」になり地域金融機関の営業現場に預金獲得の要請が強まり、リテール業務において人的リソースを投資信託等の預り資産ビジネスから預金獲得にシフトしている金融機関があると聞きます。
しかし、相続による(都市部への預金)流出への対策が喫緊の課題となる中、「預金金利の引き上げ」「ATM手数料の引き下げ」以外にもさまざまなカードを持っておく必要があると思われ、その一つとして顧客との関係を強化し、金利・手数料競争に陥ることなく預金の粘着性を高めるためには、地域金融機関の強みである長年の取引を通じて熟知している顧客のライフプランを踏まえた資産運用に、将来の相続人たる家族を巻き込んだアドバイスができるかが重要になってくると思われます。
https://newspicks.com/user/6551307/?ref=user_6551307&sidepeek=news_16072749
【JPモルガン、160支店新設・1万人採用 顧客集めは「ネットより店」 - 日本経済新聞】
長澤のコメント→
米銀がリテール向け店舗網を拡大という記事ですが、「ネットバンキングが進む中でも、口座の新設や金融商品の販売といった業務は店舗が有効との判断」というのは理解できます。日常の決済などは利便性の高いデジタルチャネルを使っても、まとまった金額の資産運用や老後に向けたマネープランの相談などはやはり対面チャネルでというような使い分けをする人は多いのだと思います。
https://newspicks.com/user/6551307/?id=6551307&ref=user_6551307&sidepeek=news_16081132
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