「JAMPの視線」No.322(2026年3月1日配信)地域金融の再設計
JAMP 大原啓一の視点 2026年3月1日
昨日は5歳の次男の幼稚園の音楽発表会でした。次男が通っているのは音楽大学付属の幼稚園なのでこのような発表会は定期的にあるのですが、今月でいよいよ卒園となるため、今回の発表会が最後となります。4月からは小学生になるということで、最近はランドセルや制帽を用意したりと、新生活の準備を楽しんでいますが、もう幼稚園生活が終わってしまうと思うと、少し寂しい気持ちもします。小学校5年生の長男も同じ幼稚園にお世話になりましたが、ふたりとも良い先生方や友達にも恵まれ、本当に良いご縁だったなと振り返っています。
デット中心モデルの終焉とエクイティへの必然的移行
さて、事業承継の潮流が加速するなか、地域金融機関に対する期待と役割はこれまでとは大きく変わりつつあります。これまで多くの地域金融機関の主要な役割は、「デット(融資)を通じた資金提供」でした。しかし、全国的に後継者不在企業が増え、特に地方では承継ニーズが顕在化している現在、従来型の融資主体の資金提供モデルだけでは構造的に解決できないという局面に入りつつあります。
先日報じられたように、野村ホールディングス(HD)や伊藤忠商事、三井住友信託銀行等が立ち上げた事業承継ファンドは、株式を段階的に従業員に移していく仕組みを提供するという新しい資金提供モデルを提示しました。これは単なる承継支援にとどまらず、「資金提供の形」を再定義する試みであると解釈できます。企業の後継者となる従業員への株式移転を長期的に支援することで、企業の一体性や経営の継承性を保ちながら、事業承継を実現するという設計は、これからの日本経済の持続的発展にとって極めて重要なインフラになり得ます。
では、このような資金提供モデルの変化は、地域金融機関や資産運用業界にとってどのような意味を持つのでしょうか。
まず、資金提供のフォーカスが変わりつつあるという点が重要と考えます。従来、地域金融機関は融資先企業の経営状況や成長ポテンシャルを評価し、適切な金利等の条件で資金を提供し、金利を得る存在でした。しかし、事業承継の文脈では、単に貸し出すだけでは後継者の資金需要を満たすことができません。後継者はしばしば自己資金が不足しており、親族外承継や従業員承継といった選択肢を選ぶ際に、エクイティを通じた支援が不可欠になるからです。エクイティの本質は、単に資金を提供するだけでなく、経営リスクと利益の両方を共有することにあります。これは金融機関にとってこれまで馴染みの薄い領域かもしれませんが、事業承継という現実を前にすると、もはや選択肢ではなく必然です。
また、そのようなエクイティ提供は、従来の金融機関本体が自己勘定で直接行うのではなく、VCやPEのような組合形式のビークルを通じて行われる可能性が高いと私は考えています。組合形式のビークルは、投資家から資金を集め、中長期で企業価値を創出することを目的としますが、その構造はリスク分散と資金回収の柔軟性を同時に実現できます。特に事業承継のように数年〜数十年という長い時間軸が必要なケースにおいては、このようなビークルを介した資本提供は自然な選択肢になるでしょう。
価値創造レイヤーと「基盤」の再設計
一方、付加価値創造という観点では、ビークルそのものの運営管理、つまりミドルバックオフィスの基盤がどう設計されるかという点も重要になってきます。ミドルバックオフィスの役割は、単なる事務処理ではありません。組合員の会計処理、投資先の評価、リスク管理、法的コンプライアンス、分配の仕組み設計など、多岐にわたる高度な機能を担います。これらは対企業の事業承継や成長支援というコアバリューそのものではなく、むしろ支援プロセスを支える基盤的な機能です。だからこそ、金融機関がこれらを自前で担うのではなく、専門的な外部基盤を活用することが、効率性と専門性の両面で合理的だと考えます。すなわち、金融機関はミドルバックオフィス業務の構築よりも、企業と投資家をいかに価値創造のために結びつけるかにリソースを集中すべきです。
加えて、野村HDや伊藤忠商事、三井住友信託銀行の事例にあるように、設計段階での「ストックオプション付与」「段階的な株式移転」といった仕組み自体が付加価値となり得る点も見逃せません。事業承継は、財務的な問題だけでなく、経営者の意思決定や組織文化の継続性にも強く関わります。そのため、エクイティ設計そのものが事業承継の価値創出モデルと直結するという視点が不可欠です。これは単に「資金を提供する」だけの関係ではなく、経営と価値創造の両面で持続可能な関与を実現する設計です。
このような動きは、地域金融機関の役割の変化という意味でも、それを基盤として支える資産運用業界の機能の拡張という意味でも、単なるアセットクラスの広がりに留まらず、地域企業への資金の供給を通じた価値創造のレイヤーを再構築する構造変化であるととらえるべきと考えます。その際、個別の案件ごとに仕組みを設計するのではなく、この新たな価値創造のレイヤーをどのように再構築するのかという意思をもったデザインが必要となります。
弊社・日本資産運用基盤がこれから新たに取り組みたいのはこの領域です。事業承継という大きな社会課題に対し、地域金融機関が最前線でその役割を変化させ、価値創造に注力するための最適な仕組みをデザインする「基盤」の構築・運営を通じ、日本の金融・資産運用業界の新たな領域での事業モデルの最適化を実現したいと考えています。
JAMPメンバーの採用情報
日本資産運用基盤グループでは、事業拡大に伴い一緒に働くメンバーを募集しています。
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まずはお話だけでも、という方も大歓迎です!
代表の大原とのカジュアル面談でもいいかな、という方ももっとウェルカムです!!
News Picks ダイジェスト
代表取締役 大原啓一 のコメント
【三菱UFJ信託銀、運用・管理事業の成長加速 高度人材に最大報酬6000万円】
大原のコメント→
この記事で紹介されている動きは、人材投資の是非ではなく、資産運用産業の重心がどこへ移るかのシグナルに見えます。投資運用業務(フロント)だけでなく、管理・制度対応・プロダクト組成・データ・ガバナンスといった「中核インフラ」が改めて競争優位の源泉になっていく局面の表れのように思われます。
一方、日本の資産運用業界の弱点は、才能の不足というより「才能が報われる設計が薄い」ことです。報酬を上げるなら同時に、成果指標も「市場」から「顧客」側へ寄せる、つまり、単に市場内でのパフォーマンスの優劣を競うだけでなく、お客様の将来設計にどのように貢献するかというゴールベース型資産運用の視点が組み込まなければ、優秀さが資産運用産業全体の生産性に翻訳されません。高報酬化=産業設計の更新まで踏み込めるかが本質だと思います。
https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16102461
【松井証券、アクティブ投信拡大 ポイント効果で比率3割】
大原のコメント→
松井証券でアクティブ型投信の残高が拡大しているという内容の記事ですが、本質は「アクティブ投信商品の復権の兆し」という類の話ではない思われます。
ポイント還元によって販売会社取り分を実質ゼロにし、顧客接点を株式取引など他の収益源につなげるというモデルは、投信を「単体で収益を上げる商品」ではなく、「顧客関係を構築する装置として位置付け直したものです。
これはアクティブ対インデックスの優劣論ではなく、「金融機関は資産運用ビジネスにおいてどこで収益を取るのか」という構造の再設計の問題だと考えます。
インデックス投信の低コスト競争が進む中、販売会社も運用会社も収益確保に苦しんでいます。そこで信託報酬を削る代わりに、顧客基盤全体でマネタイズするモデルへ転換する動きが出てきています。
資産運用ビジネスの持続性は、商品の手数料水準ではなく、「誰が、どのレイヤーで、どの価値を取るのか」という構造の設計にかかっています。今回の動きは、アクティブ投信の復権というより、販売モデルの重心移動の兆しとして読むべきではないでしょうか。
https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16102763
【NISA買い付け額、25年末は36%増の71兆円 金融庁】
大原のコメント→
NISA制度を通じた投信等の買付額の増加は、市場への資金流入という点でポジティブな材料ですが、ここで問うべきは「残高が増えた先の構造」です。NISA制度を通じて積み立てられた資金は単に増えるだけではなく、どこで価値を生んでいるのかを問う必要があります。
現在の資産運用立国議論は、「残高の規模」や「制度の利用率」のような表層的な指標を重視しがちです。しかし、重要なのは以下のような構造的な問いだと考えます。
・投資額の増加が国内の収益構造にどのように落ちているのか
・その資金が運用会社・販売会社・顧客の人生設計の接続点にどう影響しているのか
残高を拡大するだけであれば、海外プレイヤーに付加価値を還流させるだけになりかねません。制度設計や販売戦略は、“誰がどのレイヤーで価値を掴み、どのように国内の豊かさに変換するのか”という産業設計の視点が不可欠です。今起きていることは、単発の資金流入ではなく、構造の再編を促す契機として読み解くべきだと考えています。
https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16096700
【預金囲い込み広がる ATM手数料など値下げ 利益削り合いも】
大原のコメント→
値下げ競争は、「顧客本位」の取り組みであるかのように見えて、構造的には商品・サービス品質向上のための投資余力の蒸発を招きやすいことを懸念します。
我が国の資産運用業界として考えなければならないのは、手数料の水準そのものではなく、競争の土俵が「価格」に寄りすぎる設計になっていないかです。価格に寄るほど、差別化は顧客囲い込みとその手段としての広告活動等に帰結してしまい、最終的に業界全体の付加価値や利潤は薄くなってしまいます。
本記事で紹介されているATM利用料の値下げは現象に過ぎず、その背景にある問題は、「競争領域の設計」にある――という視点で議論すべきかと考えます。
https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16072749
【野村アセット社長に大越氏、外資でもまれたプロ登用 国際標準に一歩】
大原のコメント→
野村アセットの外部社長登用は、人事の話というより、日本の資産運用業の「統治構造」の転換点として読むべきニュースだと思います。
日本の大手運用会社では、長らく親会社出身者がトップに就く慣行が続いてきました。これは安定性という意味では合理的ですが、同時に「運用会社が独立したプロフェッショナル組織として自律しているのか」という問いを内包してきました。
今回の人事は、運用事業をグループの中核に据えるという意思表示であり、単なるガバナンス改善ではなく、「証券ビジネスの補完」から「独立した成長エンジン」への位置付け変更とも解釈できます。
https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16131493
主任研究員 長澤 敏夫 のコメント
【JPモルガン、160支店新設・1万人採用 顧客集めは「ネットより店」】
長澤のコメント→
米銀がリテール向け店舗網を拡大という記事ですが、「ネットバンキングが進む中でも、口座の新設や金融商品の販売といった業務は店舗が有効との判断」というのは理解できます。日常の決済などは利便性の高いデジタルチャネルを使っても、まとまった金額の資産運用や老後に向けたマネープランの相談などはやはり対面チャネルでというような使い分けをする人は多いのだと思います。
https://newspicks.com/user/6551307/?ref=user_6551307&sidepeek=news_16081132
【米市場で若い投資家増加 9年で6倍、高リスク商品好む 親世代より資産形成難しく】
長澤のコメント→
米国では、ゲーム感覚でレバレッジをかけた高リスクの金融商品を好む若い個人投資家が増えているとのことです。その理由として、物価高の下、親世代と比べて資産形成が難しいため高リスク商品に傾斜しているとの指摘があるようですが、金融経済教育や資産運用アドバイスを受ける機会に恵まれないと、一獲千金を狙う投資と豊かな生活を目指す中長期の資産運用の区別がつかなくなってしまうのかもしれません。日本でつみたてNISA等による資産形成・資産運用が若年層にも定着しつつありますが、ある程度の金額となった場合には、相場急落時の狼狽売りなど非合理的な行動を避ける意味でも資産運用アドバイスが必要になってくるものと思われます。
https://newspicks.com/user/6551307/?id=6551307&ref=user_6551307&sidepeek=news_16131771
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