第65回 「AI法と投資運用業の今後(3)」
「日本資産運用基盤株式会社」を親会社に持つ「JAMPフィナンシャル・ソリューションズ株式会社」は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。
前々回から「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下、「AI法」)と投資運用業界を取り巻く今後を検証しており、今回が3回目となります。なお、当初3回シリーズと想定していましたが、4回シリーズとしてお届けすることとします。
AI法の概要(前々回)
AIを巡る我が国の金融当局の動き(前々回)
最近の投資運用業界におけるAIの利用(前回)
AI利用にともなう諸問題(前回)
AIファンドと顧客本位の業務運営(今回)
投資運用業界の近未来予想図(次回)
前回のメルマガでは、最近の投資運用業界におけるAIの利用について、ミドル・バックにおける業務効率化やナレッジの共有の領域においてAIの本格導入が始まっている一方で、「投資判断」や「リスク管理」の領域でのAIの利用についてはまだ慎重であること、AIの利用について自社に相応しい結果を生成できるよう必要に応じて再調整を行うことが必要等考察いたしました。
今回は、敢えてAIファンドに踏み込み、AIファンドが、金融庁の「顧客本位の業務運営の関する原則」に準拠するためには、どのような点に留意が必要かなどを考えてみたいと思います。
1.AIファンドのメリット・デメリット
初めに、今回のテーマを考察するに当たり、AIを使ったからといって、受託者責任(フィデュ―シャリー・デューティー)が免除されるわけではない」という大前提に立ち、その上で、AIファンドのメリットとデメリットを考えてみたいと思います。なお、今回考察するAIファンドとは、AI(人工知能)技術に関連する企業に投資する投資信託等の金融商品(以下「投資信託等」といいます。)ではなく、AIを用いて運用判断を行う投資信託等のことを指します。
まず、AIファンドのメリットとしては、
- 膨大なデータを高速処理し、短時間で運用を行うことが可能なこと
- ヒューマンエラーを減らし、感情に左右されない運用を行うことができること
- プログラミングすることで顧客のリスク許容度や目標に沿った運用がしやすいこと
等が挙げられます。
一方でデメリットとしては、
- AIの意思決定プロセス等に係る説明責任を果たすことが難しいこと
- 過去データ依存によるモデルリスク、つまり、予測不能なイベントに対する脆弱性があること
- 顧客が大切な資産運用をAIに任せていいのかという心理的抵抗感や不安感があること
- AIに投資判断を行わせること自体についての、説明等に係るコスト
等があると考えられます。
なお、デメリットの最初に挙げた、AIの意思決定プロセス等に係る説明責任を果たすことが難しい点については、自社に相応しい結果を生成できるよう必要に応じて再調整を行うことで、自社の運用方針や独自の価値判断をAIにビルトインすることは可能で、その旨説明することで説明責任を果たすことは可能と思われます。
2.「顧客本位の業務運営に関する原則」への対応
次に、上記のメリット・デメリットを踏まえたうえで、「顧客本位の業務運営の関する原則」の受け入れを表明している投資運用業者がAIファンドを設定する際に、当原則の理念に沿った運用を行うために取るべき対応や注意点について考察します。
AIファンドにおける「顧客本位の業務運営に関する原則」への対応には、次のようなものが考えられます。
- AIファンドの設定は、顧客の最善の利益の追求のために必要だと判断した場合にのみ選択し、それを顧客に開示すべきこと
- プロダクトガバナンスの実効性を確保するために、AIファンドに係る組成・提供のプロセスにおける品質管理を適切に行い、そのモニタリング体制を整備すること(この体制整備は投資信託等の金融商品すべてに求められているものです。しかしながら、例えばAIの判断プロセスが不透明になりやすいため、学習データ・モデル仕様・検証結果等を適切に記録し、定期的に性能検証を行う体制を整備することや、AIファンドでは外部ベンダーのAIエンジンを利用するケースが多く、外部提供モデルの改修・アップデートが運用に影響する可能性があるため、契約内容・変更管理・セキュリティ体制を含むベンダーリスク管理を強化することなど、AIファンド特有の品質管理に留意する必要があると思われます。)
- 重要な情報の分かりやすい提供の観点から、AIファンドが所与の運用方針に基づきどのように運用するのかを、動画や図解を利用してホームページに掲載するなど、AIファンドの運用の仕組みを分かりやすく解説すること
- 利益相反管理のため、AIファンドにおいて外部ベンダー等を利用する場合は、その契約条件や外部ベンダーを利用する際のリスクを開示すること
以上のような対応が必要だと考えられます。
3.AIファンドに関する注意すべきポイント
AIファンドの運用に関しては、高度なアルゴリズムを用いる場合があるため、「顧客本位の業務運営の関する原則」に沿った運用を実現するためには、いくつかの注意点があると考えます。
説明責任(透明性):AIの意思決定は、外から見えずブラックボックスになりやすいため、顧客に対して、「どのようなデータを使い、どのようなロジックで運用しているか」を分かりやすく説明する必要があると思われますし、AI利用の限界(例えば、過去データ依存による予測不能イベントに対する脆弱性など)も明確に伝える必要があるのではないでしょうか。
利益相反管理:AIが投資判断を行い、それに基づいた取引行為も行う場合、アルゴリズムの設計やパラメータ設定において、運用会社の利益を優先するようなバイアスが入らないように配慮すべきと思われます。また、外部ベンダーのAIを利用する場合は、その契約条件や利益相反管理に関する開示を行う必要もあるのではないでしょうか。
顧客の理解度に応じた情報提供: AIによる運用は仕組みが複雑で理解が困難なものもあるでしょうから、顧客の知識レベルに応じて説明資料を分ける(例えば一般顧客向けとプロ向けなど)必要があるのかもしれません。前述したように、一般顧客向けには動画や図解を利用して分かりやすい説明資料を作成し提供するのも一案だと思います。またホームページや販売資料等の記載は、「AIによる運用だから比較的安全で、かつ高収益が期待できる」などの誤解を招きかねない表現を使用せず、想定されうるリスクを適切に記載する必要があると思われます。
(JAMPコメント)
これまでにもお伝えしたように、資産運用会社がAIを利用するかしないかと考える時期は過ぎ、今や投資運用会社の業務運営にAIが利用されている状況になっています。
一方で、AIを運用(投資銘柄選定や投資判断等)に利用する場合は特に、前述のようなお客様本位の業務運営の観点における、解決すべき課題等が多く残っています。
しかしながら、お客様本位の業務運営に関する方針を受入れるか否かに関わらず、資産運用会社がAIファンドを設定・運用するに当たっては、そもそも真に顧客のためになる「資産運用手法」とは何かを突き詰める必要があり、それこそが今後の重要な課題になるように考えています。
当社は、国際金融都市を目指している東京都に協力して、金融商品取引業に関する登録申請手続き及び金融商品取引業者等の内部管理体制強化等に関する国内外の方々のご相談に対応させていただいております。初回の無料相談等につきましても、遠慮なく当社までお問合せください。