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「JAMPの視線」No.327(2026年4月5日配信)日本の金融はどう市場を設計するのか

JAMP 大原啓一の視点 2026年4月5日 

 我が家の長男もいよいよ小学校6年生になり、来年2月の中学校受験に向けてカウントダウンが始まりました。これまでは学習塾の先生にお任せしっぱなしだったのですが、2か月ほど前から、中学受験のバイブルである「下剋上受験」等を参考に、平日夜や週末に算数の問題集を一緒に解いたり、春期講習中のいまは毎朝5分ほど昨日の振り返りと今日の勉強計画の確認をしたり、私も「親塾」を頑張るようにしています。頭の回転がついていかなくて大変ですが、可能な限りのサポートができるよう、仕事にも全力投球しつつ、しっかり伴走したいと思います。

市場設計という視点

 さて、東京証券取引所の事業モデル転換の方向性を考察したことをきっかけに、先週のメールマガジンまで3週間連続で、「市場設計」という視点から日本の金融・資産運用業界の課題を考えてきました。「市場設計」に係る課題の具体例として、先々週と先週のメールマガジンでは、日本では指数が市場を設計する装置として扱われてこなかった結果、グローバルな指数ビジネスで存在感を持つことができなかったのではないかという私見や、ETFが指数と資本を接続する装置として機能し、結果として市場構造そのものを形成していくというビジョンをお話させて頂きました。

 これらの議論を通じてお伝えしたかったのは、グローバル金融市場における競争が単なる金融商品の競争ではなく、「市場構造をどう設計するのか」という思想面での競争になりつつあるということです。指数が投資のルールを定義し、ETFが資本を接続し、デリバティブやマーケットデータが市場のエコシステムを形成する。こうした要素が組み合わさることで市場の構造が作られていきます。金融市場は自然に形成されるものではなく、明確な思想に基づいて設計されるべきものなのです。

日本の金融業界が抱える構造的要因

 なぜ日本ではこのような市場設計の発想がこれまであまり強くなかったのでしょうか。私はその背景には、日本の金融ビジネスの構造があるのではないかと考えています。日本の金融機関は長い間、金融商品の「販売」を中心にビジネスを展開してきました。銀行や証券会社は金融商品を販売し、その販売手数料を収益源とするモデルが中心でした。この構造では、重要なのは「どの商品を販売するか」であり、「市場をどのように設計するか」という視点は必ずしも中心的なテーマにはなりません。

 さらに、日本の金融機関の多くは金融グループの一部として運営されてきました。銀行、証券、資産運用会社などが同じグループの中に位置付けられ、それぞれのビジネスがグループ戦略の中で運営されてきました。この構造は金融システムの安定性という観点では合理性を持っていましたが、市場インフラを独立したビジネスとして発展させるという点では必ずしも有利ではありませんでした。その結果、日本では指数会社やデータ企業のような「金融インフラ企業」が十分に育ってこなかったように思います。

 一方、欧米の金融市場では市場インフラをビジネスとして提供する企業が存在しています。MSCIやS&P Dow Jones、FTSE Russellといった指数会社は、単なる金融情報会社ではありません。指数を設計することで投資資金の流れを規定し、市場構造そのものに影響を与える存在になっています。また、BloombergやRefinitivのような金融データ企業も、マーケットデータを通じて金融市場のインフラを担っています。このような「金融インフラ企業」の存在感の大きさが、欧米の金融・資産運用業界の「市場設計」の強さにつながっていると私は考えています。

日本市場の次のステージ

 日本の金融市場は世界でも有数の規模を持っています。株式市場の規模、国内投資資金、企業数などを見ても、日本の金融市場が持つ潜在力は非常に大きいものがあります。しかし、インフラの設計という観点から見ると、まだ多くの可能性が残されているように思います。

 これからのグローバル金融市場における競争は、金融商品を巡る競争ではなく、市場構造を巡る競争です。そして、その競争はインフラをどのように設計するのかという問いと深く関わっています。資産運用立国という言葉が語られることも増えてきましたが、その本質は資産運用会社の数を増やすことではありません。金融・資産運用業界の発展を支えるインフラをどのように設計するのかという視点が不可欠なのではないかと考えます。

 金融市場は制度によって作られるものでもありますが、同時に思想によって形づくられるものでもあります。市場をどのように設計するのかという思想を持つプレーヤーが現れることが、日本の金融・資産運用業界が次のステージへ進むための条件なのではないかと考えます。


JAMPメンバーの採用情報

 日本資産運用基盤グループでは、事業拡大に伴い一緒に働くメンバーを募集しています。
弊社にご興味のある方、ぜひ働きたいという方はこちらからお申し込みください。
まずはお話だけでも、という方も大歓迎です!

代表の大原とのカジュアル面談でもいいかな、という方ももっとウェルカムです!!

keiichi.ohara@jamplatform.com


News Picks ダイジェスト

代表取締役 大原啓一 のコメント

【九州FG、デジタル統合基盤を先行構築 勘定系は継続、再編備えた“開かれた基盤”】

大原のコメント→

 九州フィナンシャルグループ傘下の銀行×2行+証券子会社の証券系システムの統合の方針については以前から金融関連誌等でもちらほら見かけていましたが、正式な全体の構想図やスケジュール感等を拝見すると、感慨深いものがあります。

 肥後銀行・鹿児島銀行の投信窓販システムはNRIのBESTWAYを、九州FG証券の証券総合口座システムはNRIのSTARを使用していますが、この新しい銀行・証券子会社横断の証券基盤をNRI以外の他社が開発・提供するとなると、これまでの証券・資産運用領域でのNRIの寡占状況に大きな変化が生じる可能性もあり、ベンダー選定の結果が注目されます。

https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16347579

【New rule could fast-track SpaceX IPO for Nasdaq index inclusion】

大原のコメント→

 先週日曜日に配信した弊社メールマガジン「JAMPの視線」でも「ETFが市場を作る」というコラムでも書かせて頂きましたが、このあたり欧米は市場設計が上手だと感じます。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16350442

【JIA、個人向け投信に参入 投資家開拓へ日本資産運用基盤と連携】

大原のコメント→

 機関投資家から高く評価されているマイルストンアセットマネジメントの日本株中小型バリュー投資戦略を個人向けに提供するというジャパンインベストメントアドバイザーグループの新たな取り組みを弊社・日本資産運用基盤のファンドマネジメントカンパニー(日本版FMC)ソリューションでご支援をさせていただきます。

 今年2月に開催された「Tokyo Asset Management Forum 2026」で伊藤金融庁長官もお話されている通り、ファンドマネジメントカンパニーソリューションを用いることで、資産運用会社が投資運用業務に集中しながら、投資家からの需要が高い投資信託の組成・提供を行なうことができるという新たな事業モデルの創出が期待されます。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16377421

【資産運用会社、地域銀へGBAラップ 山口FG3行導入】

大原のコメント→

 証券・資産運用事業領域では、これまで主流だったポートフォリオマネジメント付加価値提供モデルから、より個人のお客様の人生に踏み込んでサポートするゴールベースアプローチの考えに基づいた資産運用アドバイス付加価値提供モデルへの移行が急速に進んでいます。

 お客様の視点でいうと、インフレや長寿化等の環境変化を受け、退職後の長い人生の生活資金の確保についての不安が大きくなっているなか、単に投資商品を購入するだけではその不安は解消されず、どのように備えるのか、どのように取り崩すのか等、より踏み込んだサポートが求められるようになってきています。

 一方、金融機関の視点でいうと、投信商品の飽和やそれに伴う手数料の低下傾向等により、従来のポートフォリオマネジメント付加価値提供モデルではまったく儲からなくなってきており、より高い付加価値を提供することにより、しっかりと手数料を頂戴する事業モデルへの移行が重要な経営課題になりつつあります。

 これら両方の立場の課題を満たすものとして足もと広がっているのがゴールベース型ファンドラップサービスであり、その担い手としてお客様の生活を密にサポートすることができる地域金融機関の存在感が大きくなっています。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16378083

【「資産運用業協会」、投信協と顧問業協の統合で発足 会員の運用資産1100超円規模に】

大原のコメント→

 これまで何度か統合の試みがあったにも関わらず全て断念してきた投信協会と投資顧問業協会の統合がようやく実現したという事実に「資産運用立国」の本格的な流れを感じます。

https://newspicks.com/user/121187/?id=121187&ref=user_121187&sidepeek=news_16378105

【仮想通貨が資産の5割超の企業、TOPIXに新規追加せず JPXが要領改定】

大原のコメント→

 今回の措置は単なる「指数の安定性確保」ではなく、指数がどのような市場を定義し、どのような資本の流れを許容するかという「市場設計」の意思表示と捉えるべきと考えます。

 指数は単なるベンチマークではなく、市場のルールを定義する「OS」のような存在です。どの企業を組み入れるかという判断は、投資資金の流れそのものを規定します。今回、暗号資産を主たる資産とする企業を除外するという判断は、TOPIXが表現しようとしている市場像を一定程度制約するものでもあります。

 一方で、重要なのは、この判断が「リスク排除」にとどまるのか、それとも「どのような市場を設計するのか」という思想に基づくものなのかという点です。グローバルでは指数を起点にETFやデリバティブを含めたエコシステムが設計されており、指数は資本を呼び込む装置として機能しています。

 その意味で、日本の指数が今後目指すべきは、単なる安定性の担保ではなく、どのような資本を引き寄せ、どのような市場構造を形成するのかという設計思想の明確化ではないでしょうか。今回の改定は、その問題意識を改めて提示しているように思われます。

https://newspicks.com/user/121187/?ref=user_121187&sidepeek=news_16382678


主任研究員 長澤 敏夫 のコメント

【ハニシング、キッズフリマ開催数最高 商業施設が金融教育の場に】

長澤のコメント→

 「キッズフリマ」を通じた金融教育というのは面白い取組みだと思いました。準備段階の品揃えや値付けの検討から事後の収支計算まで、親子で話し合う機会も出てくると思われ、家庭での金融教育のきっかけになると思われます。米国では子供たちがレモネードを庭先で販売したり、不要になったおもちゃを売ったりしている光景をよく目にしましたが、こういった金銭感覚というのは、やはり日頃の生活の中で身に着けるのが一番有効かと思います。

 自身の経験として、小学校の頃、父親が保有していた債券が、金利が高くなり損が出た話をしていたことがあり、その時理由を聞いたかどうかは忘れましたが、半世紀たった今でもその時のことは覚えています。金利と債券の価格の関係について、父親としては金融教育をしたつもりではないと思いますが、自然と耳に入ってきた知識は結構記憶に残るものだと思いました。

https://newspicks.com/user/6551307/?ref=user_6551307&sidepeek=news_16378037


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