note

第66回 「AI法と投資運用業の今後(4)」

 「日本資産運用基盤株式会社」を親会社に持つ「JAMPフィナンシャル・ソリューションズ株式会社」は、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。

 今回は「AI法と投資運用業の今後」4回シリーズの最終回として、「投資運用業界の近未来予想図」をお届けします。なお、第1回は「AI法の概要」と「AIを巡る我が国の金融当局の動き」、第2回は「最近の投資運用業界におけるAIの利用」と「AI利用にともなう諸問題」、第3回は「AIファンドと顧客本位の業務運営」を主題として論考を重ねて参りました。

 今回は、近い将来にAIが更なる進化を遂げるという前提の下、投資運用業においてどのような役割を果たすことになるのかを考察して参ります。

1.まず、現状の投資運用業界におけるAIの活用状況ですが、様々な部署や業務においてAIが活用されているものの、運用業務としての投資判断を担うまでには至っていないという状況です。

(1)ミドル・バック業務

 たとえば、目論見書や販売用資料等の文書作成、運用報告書や月次レポート等のコメント作成など、ディスクロージャーに係る領域ではAIの利用が進んでいます。一方、法務部などが金融商品取引法の解釈などを試していますが、まだ実務レベルには達していないという評価です。

(2)アナリスト業務

 市場動向や企業情報のデータ収集・分析・レポート作成といったアナリスト業務において大幅な工数削減がなされています。たとえば、ESG関連文書の分析では、時間が大幅に短縮されただけでは無く、アナリストによる発行体への質問内容の精度が非常に向上したという報告もされています。

(3)運用(投資判断)業務

 運用業務の一部として、AIに個別企業の収益予測を行わせるという研究も行われていますが、現状では過去の収益率を線形に伸ばしたような予測しか行えないという状況のようです。また、情報漏洩リスク・説明責任・顧客本位の業務運営への対応なども要検討事項とされています。

2.次に、現在の生成AIがどのように生まれてどのような特性を持っているのかを踏まえた上で、近い将来に予想される進化形を確認し、特に運用業務を行えるようになるのかどうか考えてみます。

(1)従来型AIから、現在の生成AIへの進化

 既存のデータを分析・分類する「従来型AI」とは全く異なり、新しい内容を生成する「生成AI」としてChatGPTが公開されたのは2022年11月ですが、その2カ月後にはユーザー数が1億人に達するなど世界中に衝撃をもたらしました。二つのAIの大きな相違点は、従来型AIの学習対象が主に「ラベル付きデータ(機械学習モデルが学習するために画像やテキストなどの生データに意味や情報を付与したデータ)」であったのに対し、生成AIの学習対象が「大量の未整理データ」であることと、生成AIは「要約」や「推論」を行えることです。

(2)生成AI自体の進化

 生成AIが世界中で利用されている主な理由は「自然な対話能力」「汎用性の高さ」「誰でも使える手軽さ」の3つにありますが、今では特にビジネスや業務効率化に定評のあるCopilotやGeminiなど、目的ごとに様々な特性を持った生成AIが次々に誕生し、そのどれもが驚くべきスピードで進化を続けています。

(3)今後の進化の方向性

 今後のAIの進化方向としては、大きく以下の5つが考えられています。

①マルチモーダルAI:文章・画像・音声・動画など複数の情報を同時に理解するAI

②エージェント型AI:情報収集・ソフトウェア操作など、自律的にタスクを実行するAI

③専門AI(ドメイン特化AI):法律・研究・医療など、専門知識を持つAI

④人間との協働AI:人間から置き換えるのではなく、人間の能力を拡張する方向のAI

⑤汎用人工知能(AGI):人間と同等レベルの知能を持つ最終的な目標

 既に現時点でAIの処理能力は約7カ月ごとに倍増しているとの研究結果も有ることから、ここ数年の間にAIの能力が更に急速に拡張し、「生成するAI」から「実際に仕事を行うAI」へと進化することが予想されます。その場合には、AIが運用業務の一部(決算書・IR資料等の分析、収益予測、企業比較、将来の株価予測など)を担うことも不可能では無いように思われます。

3.では、「進化型AI」が運用業務を担うことが可能になった時点で、株式市場、運用手法、及びファンドマネージャーの役割等はどのように変化していくのでしょうか。

(1)株式市場

 個別銘柄に関する様々な情報(決算、ニュース、マクロデータ、SNS情報など)を、AIがごく短時間で収集・分析することによって、市場価格がほぼ全ての情報を織込むという「効率的市場」がより現実化していく可能性が高くなります。しかしながら、市場に存在する「地政学リスク」「政治・規制動向」「市場心理」などのノイズ(影響要因)が完全に消えることはないのではないでしょうか。

(2)運用手法

 AIにより情報収集・分析能力の差が縮小すれば、ファンダメンタルズ分析によってアルファを取りに行くアクティブ運用手法は今よりも一層難しくなり、パッシブ運用の比率が更に増加するように思われます。一方で市場にノイズがある限り人間の解釈は必要であり、ファンドマネージャーが独自に構築した「投資仮説」(※)に基づいて最終投資判断を実施するというようなアクティブ運用手法は残るのではないでしょうか。

(※)「投資仮説」とは特定の投資案件における収益を生み出すための論理的根拠を体系化したもの

(3)ファンドマネージャーの役割

 AIが銘柄分析・銘柄選択・売買タイミングの決定などを行うことになれば、ファンドマネージャーの役割は従来の「分析・投資判断者」から「AIの監督・最終意思決定者」に変わっていくと思われます。ただし、運用結果に責任を持つことと顧客報告という役割は、顧客の要望によりいつまでも残るのではないでしょうか。

(JAMPコメント)

 以前、優れた実績を持つファンドマネージャーから「投資仮説の構築が最も難しい。私は面談して感じ取った経営者の資質等も重要な判断材料にしていた」旨を聞いたことがあります。では仮に、人間に近い感覚を持つAIが完成し、経営者の資質等も判断材料に含めて投資仮説の構築を行い、人間と同等レベルの知能を持って運用業務を行うと市場はどのようになるのでしょうか?

 想定されるのは、運用会社の多くが似たようなAIモデルで運用し、同じ判断や同じポジションが増え、アルファがより小さくなって利益を得られにくい市場です。ただし、AI運用者が同じ方向を向いている時は、大宗のAIとは異なる判断を行う人間ファンドマネージャーが大きな利益を得るチャンスとなる可能性があります。そうだとすると、その時代に求められる人間ファンドマネージャーの能力は、もはや「AIを使いこなす能力」ではなく、「AIに勝てる能力」になっているかも知れません。

 近い将来、仮にAIが運用業務の大半を担っているとしても、人間ならではの独創的な発想や柔軟な思考を持つ超プロフェッショナルな、例えば『投資運用業界のブラックジャック』と呼ばれるようなファンドマネージャーが、時々はAIの鼻を明かしてくれることを、筆者は個人的に期待いたします。



 当社は、国際金融都市を目指している東京都に協力して、金融商品取引業に関する登録申請手続き及び金融商品取引業者等の内部管理体制強化等に関する国内外の方々のご相談に対応させていただいております。初回の無料相談等につきましても、遠慮なく当社までお問合せください。